勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

471 未来と過去をゆっくりと繋ぐ

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「あの、ミハルは自分のことをどの程度話したんですか?」

 仕方ないので奥さんに尋ねる。

「いえ、あまり詳しいことは聞いておりません。ただ、こちらとは全く文化が違うところから来たと言っていました。こちらの言葉は雰囲気があるから好きだととも言っていましたわ」
「そうですか。詳しい話は本人の了承を得てからになりますが、あの子もいろいろ大変な目に遭って来たんで、まだ気持ちが落ち着いてないんだと思うんです。きっと、家族になって欲しいという申し出自体は嫌ではないと思うんですが、まぁ俺もがさつな男なんでそういう部分はちょっと。……女の子の気持ちは難しいですね」
「全くだな。普段は元気に頑張ってるんであまりそういうことは考えてなかった」

 奥さんも道場主のボードンも特に気を使わずに接していたのだろう。
 まぁ弟子も養子も多いみたいだしな。
 ミハルとしてはそんな環境だからこそ、きっと辛かったことを忘れて、楽しく修行に打ち込んでいたに違いない。

 俺が余計な話を持って来たから昔の悲しい出来事と急に向き合う羽目になったんじゃないかと思うと可哀想な気もする。
 いや、清算しないで放置し続ければ、過去はやがて巨大な負担となってのしかかって来るものだ。
 人は若い内のほうが精神も肉体もタフで回復力がある。
 まだ若いからこそ、ミハルは今心の整理をつけておくべきなのかもしれない。
 とりあえずこの件は持ち帰ってみんなと相談だな。

「ああいう風に振る舞えるということは、ミハルがこの家で安心して暮らしているということだと思う。おそらく少し混乱しているだけだから、普段通りに接してやって欲しい」
「もちろんですわ。年越し祭の衣装を作るのに、何も娘である必要はありませんからね。事情がある弟子の子たちにも平等に作ってあげているのですよ。でも、女の子で騎士になろうという場合は普通貴族家の子ですから、作る機会がなかったのです。ふふっ、楽しみですわ」

 どうやら奥さんも気持ちを切り替えたらしい。
 騎士の奥さんらしい頼もしさだ。
 俺はせっかくなのでもてなしを受け、熊男のノロケを聞かされてから、戻り際にミハルの部屋を教えてもらって立ち寄った。

「俺は一度戻ってクルスと話して来るから、今はいろいろ考えずに祭を楽しみにしておくといい。そうだ。今度来るときは祭前の出店をみんなで回るか? 祭自体はまだ先だから来月ぐらいになりそうだが」
「わかりました。それまで、きちんと修行をして師匠に成長したところを見せられるようにしておきます」

 ミハルは先程の動揺からは立ち直っているように見える。
 だが、生き物は苦しいときほどそれを隠すものだ。
 ミハルも先程うっかりさらけ出したように、心の中に不安を抱えているのかもしれない。
 とりあえず今は養子の話については聞かないことにした。

 帰りの道すがら、改めてこの町を眺めながら歩く。
 大聖堂のお膝元ということもあって、この町の建物は全体的に教会と似た造りをしている。
 白い壁にタイルで描かれた花々がそれぞれ個性があって楽しい。

 家と家の間の中庭には、小さな花壇や鉢植えがある。
 今は季節的に何も植えられてなかったり、ただの草が生えているような状態だが、暖かくなればあちこちに花が咲き乱れるのだろう。

 結界に守られてあまり季節の厳しさを感じないとは言え、冬の寒さは確かにあって多くの人は家に閉じこもっているのだが、ところどころにひなたに座って手作業をしている老人や女性がいる。
 家のなかは暗いので外で作業するほうが捗るのだ。
 よくよく見ると、どうやら年越しの時期の厄除けの飾りを作っているようだ。

 そう言えば、去年の年越し祭の頃にメルリルとフォルテに厄除けの飾りを買ったっけな。
 フォルテはすぐにどこかに引っ掛けてなくしていたが。

 二人に今年の飾りを買って帰ろうかと思ったのだが、絶対むくれるやつがいるし、どうせなら出店回りのときに楽しみを取っておいたほうがいいだろう。
 それよりもミュリアの祝い年の贈り物を考えなければ。

 花飾りやベールは大聖堂で本格的な祝福済みのものをもらったほうが縁起がいい。
 ドレス……は、俺には選べないな。
 うーん。
 お、そうだ。
 祝いの酒と菓子を準備しよう!

 そう思い立って、俺は先程も世話になった酒屋と、そこで聞いて果物を扱っている店などを教えてもらった。

「お、旦那のところにも今年祝い年の子がいるんで?」
「いや、実は大事な祝い年の年越し祭の時期に旅の途上だったんで、今年の年越し前に身内で祝ってやろうと思って」
「あー、男親だとそういうことあるよな。あんまり気が利かないと嫌われちまうから気をつけなよ」
「はは、ありがとう」

 どうやら俺の子供のことだと思われたらしい。
 よくよく考えてみれば、俺もギリギリ祝い年の子供がいてもおかしくない年齢か。

 ふと、未来に産まれるであろう子供のことを考えると、なぜかフォルテや勇者の顔が脳裏に浮かんだ。
 
「いやいや、あんな子供願い下げだからな」

 俺はふるふると頭を振って、嫌な想像を振り払ったのだった。
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