勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

458 絶望的な戦い

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 俺が風舞う翼の代表として紹介されたとき、当然ながら居並ぶ各部族のお歴々からは非難が集中した。

「愚かな! なぜよそ者を神聖なお山に連れて来た!」
「風の翼も堕ちたものだな、その翼、腐れ果てたか?」

 なるほど。
 俺は抗議の声を上げる者たちを見回して理解した。
 事前に鷹のダックの不調は伝えてない。
 それなのに鷹のダックが来なかったことを不審に思っている者がほんのわずかしかいないのだ。
 鷹のダックはどうした? という、声があまりにも小さすぎる。

 鷹のダックは、十五のときから出場して、全ての大祭礼の戦いで勝利したという化物だった。
 年代的にまだまだ引退するはずもない。
 気にならないほうがおかしいのだ。

 気にならないということは、なぜ鷹のダックが来ないのか、その理由を知っているということだ。
 この大連合の民は、実際の戦いは得意でも狡猾な連中との丁々発止のやり合いには慣れていないのだろう。
 ごまかしが致命的に下手だ。

「よそ者が代表になってはならないという掟があったか?」

 俺が言い放つと文句を言っていた者たちが押し黙る。
 確認したがそんな掟はない。
 そもそもよそ者が代表になるなどということは想定されていないのだ。

「しかし、よそ者が聖地に足を踏み入れるなど!」
「ならぬと掟にあったか?」
「ぐぬぬ」

 聖地に対しての掟は、荒らさぬこと。
 それに尽きる。
 狩りや植物の採取には全て守り手の許可が必要だ。
 そういう意味では薬草を採取した俺たちは有罪なのだが、ここはしらばっくれさせてもらう。

「そういうことだ。鷹のダックと巫女のミャアが共に負傷した。その代わりとして彼らが名乗りを上げた。全てが精霊のお導きである。各長老、族長には受けていただくことを願う」
「ぬう……」

 風舞う翼の長老バル・ピーリスが厳かに告げた言葉に、ほかの部族の代表が迷いを浮かべた。

「何をグダグダやってやがる!」

 その緊張した空気を破ったのは、鷹のダックよりもやや背が低く、横幅はかなり分厚い男だ。
 鷹のダックよりも背が低いとは言え、俺よりもだいぶデカい。
 その男の顔から腕には獣の半身が描かれている。
 精霊紋という奴だな。
 そう言えば、鷹のダックの精霊紋はとうとう拝めなかったな。

「岩熊のホーライ、無礼であるぞ!」
「うるせえ! この大祭礼では戦いこそが神聖なんだろうが! ジジイどものグダグダはもうたくさんなんだよ! そいつは俺が殺ってやる。それで何の問題もねえだろうが!」
「うぬぬ……」
「奴の言うことも一理ある。確かにこの祭事では戦いこそが神聖。言葉を遊ばせる場ではない」

 部族の長達のなかでもいちだんと真っ白なヒゲが見事なじいさんが話をまとめた。
 凄い年寄りだな。
 うちの長屋の爺さんたちよりも年上なんじゃねえか?

 そのヒゲの見事なじいさんは俺にちらりと視線を向けると、一瞬だけ礼をするように目を閉じた。
 どうやらあのじいさんは状況から何かを察したらしい。

 しかし多いな。
 部族代表が何人来ているのかわからないが、戦士らしき者だけで五十人近くいるんじゃないか?
 そんなに多くの部族があるのか。

「この地に棲まう大精霊よ、我らの戦いに祝福を!」

 年老いた女性が色とりどりの腕輪を重ねた腕を天に差し上げる。
 カラカラと何かが転がる音がして、鮮やかな色を重ねたローブのような衣装の少女が落ちたものを調べた。

「青の翼と白の牙!」

 ざわっと、人々の小さな呟きが重なった音として広がった。

「なんと、最初から」
「精霊のおぼしめしじゃ」

 青の翼は風舞う翼の紋章で、白の牙は白骨の牙の紋章だ。
 おおすげえな。
 俺も大精霊とやらの意思を信じてみたくなったぜ。
 最初っから一番怪しいとされる相手との戦いとはね。

 結局ミャアは一言も相手のことをしゃべらなかったが、誰もが一致してそういうことをしそうな相手として挙げていたのがこの白骨の牙だった。
 毒を使った狩りが得意な部族らしい。
 そして裏で暗殺業をなりわいにしていると言われていた。

「よーお、よろしく頼むぜ」

 儀式通りに互いに反対側の崖から舞台に上がる。それぞれの後ろの崖には戦士をバックアップする巫女が立ち、精霊の加護を戦士に祈るというスタイルだ。
 俺の前に現れたのは、いわゆる凶相と呼ばれるタイプの顔を持つ男だった。
 顔の造形自体は優男と言えなくもないのだが、目つきや表情がその人品を現しているため、一見すると醜く見えてしまうのだ。

「こちらこそ」

 いいな。
 最初に何の憂いもなくぶっ飛ばせる相手が来てくれた。
 ありがたいことだ。

 俺のバックアップをしているメルリルには、相手が落ちたら助けるようにと言ってある。
 心置きなくお相手が出来るというものだ。

「一つ聞いていいか?」
「は? なんだ?」
「お前は何のために戦う?」
「ひゃっはっはっは! 何を言い出すかと思えば。決まってるじゃないか、名声と贅沢のためさ。ああ、それと」

 ニイッと凶悪に笑顔を作る。

「よええ奴が絶望するのを見るのが好きなのさ」
「わかった。ありがとう」
「はぁ?」
「遠慮なくやれそうだ」
「言ってろ、馬鹿め! もう戦いは始まってるんだぞ!」

 男は懐から太く長い針のようなものを投擲すると同時に、長い筒を口に当てて吹き矢を放った。
 二段構えの攻撃だ。
 どうせどっちにも毒が塗ってあるのだろう。

 だが。

「遅い!」

 俺はその両方を叩き落とすと「星降り」の剣を抜き放った。
 その瞬間、俺の手元にだけ銀の星がきらめく夜が生まれる。

「断絶、返して結び」

 閃いた剣身が一瞬だけ姿を見せ、鞘に収まる。

「な、なんだ? 何をした? 虚仮威しか?」

 自分の体に触れて、何も異変を感じなかったのか、男はヒヒヒと笑う。
 そして再び懐に手をやって、……膝から崩れ落ちた。

「なんだ……力が……あ? ああああっ!」

 男は自分の服の前を広げ、腹を見た。
 そこには薄い筋肉のついた不健康な肌があるだけだ。

「俺の白蛇が! 精霊が! いねえ! いなくなった!」

 ペタペタと自らの腹を触り、俺を睨む。

「てめえ、何をしやがった! 俺の精霊を返せ!」
「お前に精霊はいらない。自らの力で戦え」
「ふざけるな!」

 よたよたと男は俺に殴りかかる。
 ひょいと足をひっかけるだけで、簡単に相手は転がり、そのまま舞台の端から落ちた。

「うぎゃあああ!」

 酷く聞き苦しい悲鳴が上がり、誰もが唖然と見守るなか、風に吹き上げられた男は反対側の崖へと投げ上げられる。
 俺よりも年上ぐらいのあちらの巫女が飛んで来た男を受け止めてひっくり返った。

「ありがとう、メルリル」
「ここは精霊の気配が濃いから簡単」

 周囲の者たちは、誰も一言も発しない。
 ただ驚愕の表情を貼り付けたまま、俺の顔を見ているだけだった。
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