勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
345 / 885
第六章 その祈り、届かなくとも……

450 大聖堂にて

しおりを挟む
 勇者一行は大神聖帝国の港に到着後、西の門の領主であるファルフォ・藍・ディディル卿の屋敷に立ち寄り、馬を長い間預かってもらっていた礼と代金を支払おうとした。
 しかし、勇者マニアであるディディル卿は逆に長期間勇者の愛馬をお世話したことを喜び、勇者達の冒険の話を聞きたがった。
 仕方なく、勇者は一晩この屋敷に逗留して東方で起こった出来事をある程度濁しつつ語ることとなる。
 また、この逗留で意外な収穫もあった。
 
 帝都で勇者をさんざん悩ませていた第五王女のアニサだが、投資していた工場が破産、利益が回収出来なくなり、さらに輸入を禁止されている武器などを不正なルートで輸入していたとして、財産を失った上に終身禁固刑となったという話を聞けたのだ。

「因果は巡る。当然の帰結だな」

 その話を耳にした勇者はボソリと呟いた。
 その言葉はディディル卿の書記官によって書き留められ、後世に伝えられることとなるのだが、それはまた、後日の話ではある。

 勇者一行は滂沱の涙を流して別れを惜しむディディル卿に見送られて西の門を旅立ち、魔物の跋扈する砂嵐が止まない荒野を越えて大聖堂に至る。

 大聖堂は各地で発生した飛蝗ひこうなどの異常事態によって引き起こされた大規模作物被害や自然災害に対処するために各地に神殿騎士隊と共に聖女や聖人を派遣するなどの対応に追われて閑散としていた。
 多くの人間が常に詰めていた大聖堂を知る者には、その静寂は物悲しく感じられたようだが、勇者は「常にこのぐらい働いているのがここの本来の存在意義なんじゃないか?」と、せせら笑う。

「お帰りなさいませ。勇者様にふさわしいお出迎えを出来ず申し訳ありません」

 大聖堂に残った隻腕の聖騎士エイダス・ハッタ・クフタリオが勇者一行を迎えると共に謝罪した。

「仰々しい出迎えなどされたら回れ右して立ち去るぞ」
「それは困りまする」

 ハハハと笑うこの聖騎士は穏やかな人柄で、勇者の嫌味もやわらかく受け流しつつ奥へと案内を行った。
 今回は宿泊房には向かわずに、勇者達は直接本神殿を訪れた。
 通り掛かる者たちはみな白いローブの神殿奉仕者たちで、勇者たちに深くこうべを垂れて祈りの聖句を口にする。

 これに混乱したのがミハルである。
 なにしろ東方育ちで神と言えば天守山の主という認識で育ったのだから、教会のあり方がさっぱり理解出来ないのだ。
 だが、この場を騒がすのはよくないことと理解してはいたので、終始大人しく師匠である聖騎士クルスに従った。

 ここまでずっとついて来ていたドラゴンの幼体である若葉だが、大聖堂全体を覆っている結界を「嫌い」と言って、なかにはついて来なかった。
 ずっとうるさく付きまとわれていた勇者にとっては、嫌な場所での唯一のよかったことと言える。

「お帰りなさい、アルフレッド、お帰りなさいミュリア、テスタも、無事で戻って来てくれて嬉しいわ」

 大聖堂の主たる聖者、清冷なる一片の雪ニア・ヤヌーヌ・ハイはそれぞれを優しく抱きしめた。
 勇者は鼻の頭にシワを寄せたが、とりあえずは文句を言わずにそれを受け入れる。

「聖騎士クルス様、よくぞ勇者様や聖女様をお守りくださいました。ありがとうございます」

 聖者が手を差し伸べると、聖騎士クルスは「ハッ」と、言いながら片膝を突き、深くこうべを垂れる。
 聖者の手がその上にかざされると、周囲に優しい金色の光と、花のような芳香溢れた。

 今度こそ仰天したミハルであったが、声を上げるのをぐっと耐え、師に並んで片膝を突く。

「初めまして清廉なる新たな騎士様。どうかわたくしの大切な子供達を守ってあげてくださいね」
「い、いえ、私はまだ、未熟ゆえ……」

 焦れば焦るほど言葉が出なくなり、ミハルはやや過呼吸状態に陥った。

「落ち着け。聖者様のお言葉はただ受け入れればよいのだ。この世界のために身を捧げておられる尊いお方ゆえ」

 聖騎士クルスの言葉に、ミハルはようやく落ち着いて呼吸をすることが出来た。

「驚かせてしまってごめんなさいね」
「そ、そんな、わ、私が……」
「あー、もう! そんなまだるっこしい挨拶なんかどうでもいいんだよ! ミハル、そんなに震え上がってどうする。近所の婆ちゃん程度の気持ちで相手しとけ」
「え、えー……」

 しびれを切らした勇者の言葉にミハルは涙目である。

「ふふ。元気そうで安心しました。何かわたくしに頼み事があるのですね?」
「最初からそう言ってるだろ! 本当はいろいろ文句を言いたいことだらけなんだが、それどころじゃないんで今は置いておく。神の盟約に師匠の行方を尋ねるから使わせろ!」

 そのあまりの言いように、ミハルだけでなく、聖騎士もモンクも呆れ顔だ。
 唯一聖者だけが優しい微笑みを浮かべたまま、静かに勇者を見つめていた。

「それは出来ません」
「なんだと!」
「あなたは神の盟約に触れることは出来ません。影響を受けすぎるのです。わたくしが信用出来ないということであれば、ミュリアなら神の盟約に呑まれずに目的の場所に辿り着けるでしょう。ただし、ミュリアにとっても厳しい試練となります。それでもよろしいですか?」
「ぐっ、俺がやる! ミュリアに危ないことはさせられない!」
「愚か者!」

 聖者は勇者を一喝した。
 部屋全体にピリリとしたしびれを感じさせる青白い細い光が走る。
 ただ傍にいたというだけの者たちも、軽い痺れを感じたその衝撃を真正面から受けた勇者は思わずよろめくこととなった。

「ぐっ、……この!」
「あなたは剣の通じぬものに剣で戦い、魔法の通じぬものに魔法で戦うのですか?」

 パチッパチッと何かが聖者の周囲で弾けている。
 ぼんやりと青白い炎のようなものが聖者の周囲に見えた者もいた。

「し、しかし……」
「仲間を案じることと、仲間を信じぬことは違います。今やミュリアは立派な聖女です。彼女ならきっとやり遂げるでしょう。なぜ信じてあげないのです?」
「しかし!」

 尚も言い募る勇者を制したのは聖女だった。
 聖女ミュリアは小柄な体で勇者の前に立ち、両手を胸の前に置いて腰をかがめる。

「わたくしにお任せください。必ずや勇者様のお望みを叶えてみせます」

 聖女の譲らない声に勇者もうなずくしかなかった。
 そうして、勇者一行は大切な仲間を取り戻すために、大聖堂にて一つの挑戦を行うこととなったのである。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。