勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

448 名を交わす

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「それにしても人が突然聖地に降り立つとは、長生きしてみるものよな」

 長老と呼ばれた爺さんは、ホッホッホッとのんびり笑いながら言った。
 片手に細長いキセルを持ち、白い煙をくゆらせている。

「長老、そんな呑気にしてる場合じゃねえよ。聖地によそ者が足を踏み入れるなんて許されねえことだろ!」
「おお、ナルボックも大きくなったのぅ。もう十六か? わしも年を取るはずよ」

 長老は隣でがなり立てる青年、ナルボックの頭を片手で撫でながら、孫をあやすように微笑んだ。
 もしかすると実際に孫なのかもしれない。

「ボケてんのかよ!」
「ナルボック。失礼であるぞ」

 鷹のダックが長老を挟んだ反対側に片膝を立てて座っている。

「こんなやつらさっさと始末しちまえばいいんだ! 話なんか聞くだけ無駄だろ!」
「これ!」
「いてぇ!」

 わめいたナルボックの頭を、長老のキセルが叩いた。
 素早い。
 年寄りだと侮っていると酷い目に遭うかもしれない。

 鷹のダックの次に座っているのが俺たちが最初に出会った少女ミャアだ。
 そしてナルボックの隣には、集落に入ってすぐに難癖をつけて来たヒゲの男が座っている。

 どういう順番なんだろう?
 ここへ通されたときに到着順に座っていたからあまり意味はないのかもしれない。

「それで、稀なるお客人よ、なにゆえに我らが聖地に降臨したのだね?」

 この老人からは強い魔力を感じる。
 それも通常のように体内にただ留まっているのではなく、常に少しずつ放射しているような動きをしていた。
 つまりこの老人は今このときも何らかの力を使い続けているのだ。

「単なる事故です。別の場所で精霊界に迷い込んでしまって、なんとか脱出したのがあの場所でした」

 とは言え、俺たちとしては特に隠し立てするようなことがある訳でもない。
 何らかの思惑など全くなく、互いにとっての思わぬ成り行きでこうなったに過ぎないのだ。

「ふむふむ……」
「信じられるはずがない! このようなよそ者の言葉など! そもそも精霊界に人が入れるなど有り得ないであろう!」

 すかさず、ヒゲの男ががなり立てる。
 この男からはほとんど何も感じることは出来ない。
 いや、ここにいる他の連中の放つ気がすごすぎて、霞んで見えるだけかもしれないな。
 言うなればドラゴンと一緒にほかの魔物が座っているようなものだ。
 違和感が凄い。
 でも言ってることは理解出来なくもない。
 あの精霊界は人間が入っていいところじゃないからな。

「長老の言葉を遮るな」
「何を、戦うことしか知らぬ奴が集落の掟に口を挟むな」

 おお、あの男に口答え出来るだけでも尊敬に値するぞ。
 意外と傑物なのかもしれないな、あのヒゲの男。

「部族の判断は長老が行う。お前の役割は皆の暮らし向きを整えることだ。お前こそ勘違いするな」

 ギロリと鷹のダックが威圧を乗せた視線でヒゲの男を見る。
 男は途端に額に汗を吹き出し、視線をあちこちにさまよわせ出した。

 まぁでもそうなるよな。
 この鷹のダックという男、戦士ということだが、とんでもない存在だぞ。

「我が翼の巫女の言うところでは、その、お前さんの肩におる美しい鳥は精霊であるとか」

 長老はそんなやりとりを気にせずに俺に話しかける。
 我が翼の巫女というのはミャアのことかな?
 フォルテが美しいと言われて自慢の羽根を広げている。
 お前気楽でいいな。

「いえ、精霊とは言い難いのではないかと思います。このフォルテは、実を言うと俺の盟約の印です。詳しくは説明出来ませんが」
「ほう、盟約とな。そなたら森近くに留まりし者たちが好む、自らを縛って代わりに力を得るやり方よな」

 別に俺が好んで盟約を結んだ訳でも、力を欲した訳でもないんだけどな。
 そもそも一方的で何がしたいのかわからない盟約だったぞ、あれは。

「ダスターは、力を得ようとしたことなどありません。それよりも、なぜ名を交わさないのですか? 私達を罪人として裁くためですか?」

 メルリルがじれて話に割り込んだ。

「この小娘が!」

 ヒゲ男がやおら立ち上がってメルリルに殴りかからんとしたので、俺は素早くメルリルを引き寄せて腕で相手の拳を防ごうとした。
 だが、男の拳が届くことはなかった。

 いつの間にかヒゲ男の場所に移動していた鷹のダックがヒゲ男の首を掴んで天井近くまで吊り上げていたのである。

「この天幕で暴力に及ぼうとは、なんたる不敬!」

 鷹のダックが鬼神のような形相でうなるように言ったが、吊り上げられているヒゲの男のほうはすでに口から泡を吹いて意識を消失していた。
 おいおい、そのままだとそいつ死ぬぞ。

「よさぬか。ダックや、力を持て余して力無き者相手にそれを振るってはならぬと、以前も厳しく言っておいたであろう? さ、モルスを離しておやり」
「むう。俺は暴力など振るってないぞ。やさしく諭しているだけだ」
「そなたの力で締め上げられれば言葉を聞くどころではあるまい。それがわからぬから力があるにも関わらず戦士としての一流に届かぬのだぞ」
「……むう、わかった」

 ドサリと、ヒゲの男、どうやらモルスというらしいが、その体が分厚く敷かれた敷物の上に落とされた。

「親父、情けねえな、しっかりしろよ!」

 ナルボック青年が気を失ったヒゲの男を支えて背中を叩いている。
 親子だったのか、あまり似てないな。
 それに父親に対する扱いが雑だ。

「グッ、ゲホッ」

 ヒゲの男モルスは、無事息を吹き返したようだ。
 だが、さすがにまだ意識がもうろうとしている。

「すまぬな。どうも祭礼が近いので皆気が立っておるのよ。それで巫女殿、名を交わすということであったな」
「っ、はい」

 メルリルが背をまっすぐに伸ばして答えた。

「確かにそれは礼儀であろう。すまなんだ。まずはわしから名乗ろうかの。この風舞う翼の長老をやっとる、バル・ピーリスというものじゃ。よろしくな」
「俺はダスター。ミホム王国の冒険者だ。こっちはさっき紹介したがフォルテだ」
「私はメルリル。ダスターのパーティメンバーです」

 メルリルの言う通り、互いにきちんと挨拶を交わすことで、相手に対する不信感がだいぶ薄れる。
 相手を知らないということは、多くの場合不安を誘うものだ。
 ただ名前を交わしただけで何が変わるという訳でもないのだろうが、やはり互いの名を知るということは安心感を伴う。

 ずっと不安気におろおろしていたこの部族の巫女であるらしいミャアも、俺たちが互いに名乗り合ったことで、少しだけ落ち着いた様子だった。
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