勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
334 / 885
第五章 破滅を招くもの

439 死闘

しおりを挟む
 振動している地面の上を走るのは思っていたよりも辛い。

「きゃあ!」
「ミュリア!」

 普通に転がるよな。
 抱えたままではどうにもならないので聖女とモンクも、そしてメルリルも一緒に走っていたが、さすがに無理があるようだった。

「ミュリア、テスタ、すまないがメルリルと一緒に結界のなかでしのいでいてくれ! 奴の動きが止まったら援護を頼む!」

 勇者が聖女達に頼む。
 この先、仲間を庇いながら戦うことは出来ないという判断だろう。

「っ、そんな! ……いえ、わかりました。ご武運を!」
「おう、まぁすぐに大人しくさせてやるから待ってろ!」

 頼もしいな。
 勇者らしくて頼りになるぞ!
 というかこの状態で魔力もなしに俺たちについて来ている聖騎士も凄い。
 俺はこのメンバーの足手まといにならずに戦えるのか?
 不安しかないぞ。

「師匠、例の技で胴体をぶった切れないか?」

 勇者がいきなり無茶振りして来た。

「無理だ、体も意識も全く安定しないし。それに……」

 言い淀んだ俺を勇者が見つめる。

「この、天守山の主とやらの体のなかに、底なしの闇のようなものを感じる。あらゆる攻撃が吸い込まれてしまいそうで、断ち切れるイメージが湧かない」
「ちぇ、楽をしようとしても駄目か」

 俺の言葉を勇者が軽口で返して来た。
 今の情報も敵に怯える理由にはならないのだろう。

「一応『星降りの剣』なら斬れるかもしれないんだが、胴体じゃ大してダメージにならないかもしれないしな。頭を拝むまで出し惜しみをしておく」
「あ、それいいな。俺も出し惜しみするぜ!」
「お二人は余裕ですね」

 聖騎士が呆れたように言った。
 いやいや、魔力ないのに揺れを相殺するように駆けているお前さんの動きも凄いよ。

「まぁ悲嘆に塗れながら戦うというのも格好悪いしな」

 俺は強がってそう答える。
 勇者は足場を最小限にしてバランスを取る訓練がさっそく活かされた形だ。
 地面が揺れ動こうとびくともしていない。
 一緒にいて頼もしさまで感じる。

 俺は必死で魔力操作をして駆け抜けているので実際は余裕なんぞないんだがな。

「師匠の言う通りだ。たかだかヘビの化物が少しデカくなっただけだろ。こんなのを恐れる理由がないな」

 勇者がちょっと調子に乗って笑い飛ばした。
 調子に乗りやすいのが勇者の問題点だが、こういう場合には士気が上がるので前向きな発言はありがたい。

「あー、前にデカいヘビと戦いましたよね」
「お、そう言えば昔山越えするときにそんなのがいたなぁ」

 ん~君たちちょっと気を抜き過ぎじゃないですかね。
 全く敵を怖れないのはいいが、気を抜きすぎるのもマズいぞ。
 適度な緊張感は持っておいたほうがいい。

「気を引き締めろ! そろそろ山頂近くのようだぞ」

 全てを白く覆っていた朝霧が太陽の光に追われて散って行く。
 その日の光に照らされて、山のシルエットが浮かび上がった。
 山頂にて光を弾いているのは、尖った山の頂きではなく、ひどく人じみた顔を持つ巨大は蛇の頭だった。

『ほう、ここまで来るとは。それなりに力があるようだな。いいぞ。近頃は新鮮味のある食事が取れなくて味気ない思いをしていたものよ。小さくとも、中身が詰まっているのなら食べ甲斐もある』
「けっ、誰がお前などの飯になるか! 勇者アルフがその傲慢を討ち取ってみせる!」
『ほう、勇者を名乗るか。クァッハッハッ! 活きがいいな。その物怖じのなさに免じて我も名乗ろうぞ。我が名はシンイチロウ・アカガネ。この世界では意味なき名ではあるが、我の唯一残った証でもあるものだ。光栄に思うがいい』
「思うかクソ野郎!」

 勇者の口が汚い。

 しかし待て、アカガネだと? 何か聞き覚えのある響きだ。
 この世界では珍しい……そうか、勇者の名前だ。
 アルフの正式な名は確か、……アルフレッド・セ・ピア・アカガネだったか? 
 偶然か? いや、こいつはこの世界と言った。
 ということはもしかして初代の勇者と同じ世界から来たのかもしれない。
 勇者の名前は初代勇者から引き継がれている。
 初代勇者は異界から魂のみを呼んだんだったか。
 その世界の名前がアカガネ? 異界では誰もが名乗る名前なのだろうか?

『愚か者め!』

 巨大な頭が恐ろしいスピードで動いた。
 魔力を込めた目で追えるギリギリだ。
 追えるだけで俺には避けることすら出来ない。

「破邪!」

 勇者が迫る牙を弾き返す。
 突進と共に吹きかけられた禍々しい気も、勇者の剣が大半を吹き飛ばした。
 だが、大半が吹き飛ばされたにもかかわらず、その禍々しい気が体から熱を奪う。

「ぐぅっ、クルス、大丈夫か?」
「いや、さすが天上の戦い。凡人たる私の付け入る余地はなさそう、です、ね」

 真っ青になりながら、聖騎士が強がって笑った。
 実際、これは俺たちにどうこう出来る戦いじゃなさそうだ。
 勇者の足を引っ張らないようにしないとな。

「ピャッ!」

 そのとき、自分を忘れるな! という激しい憤りの感情と共に、フォルテが俺のなかに入った。
 あ、いや、忘れていた訳じゃないぞ。

 その途端、周囲の全てに対する認識が書き換わる。
 俺は思わずくらりとして膝をついた。

「ダスター殿!」
「いや、大丈夫。ただの人間が神に挑もうって言うんだ。少々無茶ぐらいしないとな」

 これまで、俺はフォルテを完全に受け入れたことはなかった。
 それはフォルテの存在があまりにも異質すぎたからだ。
 一種の力として受け入れることは可能でも、その存在全てを受け入れてしまえば、俺自身の在り方すら変わってしまいそうで、恐ろしかったのだ。

 だが、今はそうも言っていられない。

「ふうううううう!」

 身体が燃えるように熱い。
 背中に、人間にはあるはずのない羽根の感触があり、俺はそれを使うことが出来る。

『面白い、面白いな! 小さな羽虫に過ぎぬとも見るべきものはある。だが、そういう強者が絶望に沈んでこそ、我の楽しみもあるというものよ』

 ゴゴゴゴゴゴッ! ともの凄い地鳴りが響き、山の全ての表面から蛇体が解けるように宙に舞った。
 一つ一つが山のような蛇体の一部が単純な物量で俺たちを押しつぶさんとする。
 小手先では全く対処のしようがない攻撃だった。

「クルス!」
「私のことは構わないでください! 信じた正義を貫くのが勇者なのですから!」

 まるでボール遊びのように何度も弾き飛ばされた聖騎士がぐしゃりと地面に叩きつけられる。
 まさか死んで……いや、聖騎士はちゃんと大盾を構えていた。
 あの盾はドラゴンの鱗で出来ている。なまなかなことでは破壊されることはない。
 それに聖騎士の装着している装備のかなりの部分がドラゴン素材製だ。
 たやすくあの守りを貫ける攻撃は有り得ない。

「きさま! 人をもてあそぶのもいいかげんにしろ! きさまのせいでどれだけの人間の人生が狂わされたか! どれだけの人間が無残に死んで行ったか。その無念を我が剣に込めて貴様に味あわせてやる!『神無かみなり轟け! 我が剣に!』」

 勇者の全身が光輝く。
 細く青白い光の線が縦横無尽に広がった。
 そして、邪神に真っ直ぐ突っ込んで行く。

『愚か! どれだけ強い攻撃だろうと見えているものは防ぐことが出来る!』

 バリバリバリッ! と、天地を光の柱が貫いた。
 何かが焼けたような臭いが広がり、強い光に眩んだ目がなかなか回復しない。

「っつ!」

 やっと光が収まったなかに見た光景はまさに絶望。
 空に足場を作る力を失った勇者が落下して行き、巨大な邪神はほぼ無傷のように見えた。

「うそ……だろ?」
『なになに、楽しそう! 僕も混ぜて!』

 気力が根こそぎ奪われたような気分のところに、無邪気で楽しげな声が飛び込んで来た。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。