勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第五章 破滅を招くもの

418 戦に向けて進む刻

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 アンリカ・デベッセはとてもいい国だが、戦に他国人を巻き込むつもりはないので、俺たちが軍議に関わることはない。
 だが一方で南海とアンリカ・デベッセは共闘して、北冠へと攻め上がり、そのときに俺たちが陽動として天守山の神と戦うことは決っている。
 つまりこのままでは打ち合わせが全く進まないし、戦での具体的な話をするには南海国に移動する必要があるということだ。

 しかしその当の南海国は俺たちに感謝はしているというものの実際のリアクションは薄く、戦については依頼を受けただけで文書に署名をした訳でもない。
 結果として俺たちは半ば放置されたような形になっていた。

「いくら三ヶ月後の話だからって呑気過ぎないか?」

 勇者がイライラしたように言う。

「世の中にはこういうのんびりとした気質の国もあるんだな」

 俺は少し達観気味に答えた。

「ほら、イライラするのはわかるが、魔力の濃度が雑になっているぞ! お前魔力量が多いからって適当に操作するな。力技で何もかもうまく行くほど世の中は甘くないからな!」

 とりあえず今は鍛錬に力を入れる。
 何しろ神様とやらと戦うのだ。
 それぞれの戦闘能力は出来るだけ上げておいたほうがいい。
 特に勇者の力は戦いの要と言っていいのだ。出来ることを増やしておくべきだろう。

「あっ!」
「おっ」

 バシャーン! と、派手な音を立てて勇者が池に落ちる。
 現在、勇者には水の上に立つ訓練を施していた。
 俺は一瞬なら水を踏んで走ることは可能だが、今勇者に課しているようにずっと水上に佇むことは出来ない。
 つまり自分の出来ないことをさせている訳だが、勇者には大量の密度の高い魔力があるので、むしろ出来ないほうがおかしいということで鍛錬に取り入れていた。
 しかし勇者はまだ不安定で、足元だけに魔力を集中するとバランスを崩して今のようにひっくり返る。

 体全体を水面から引き上げつつ、足の裏と水面を触れさせて、それを起点に体をまっすぐに保つというのが目標だ。
 これが出来るようになるとちょっとした足がかりがあれば空を歩くことも出来るようになるはずだ。
 理屈としては。

「師匠、これ難しいぞ。頭が分裂しそうになる」
「簡単なら鍛錬する必要ないだろ。これが出来たら足場が悪いところでも常に体のバランスを保つことが出来るようになるんだ。がんばれ! というかお前はバカ魔力に任せて放出した魔力を水と反発させることで浮こうとしているだろ? バランスが崩れるからやめろ」
「だってこれ、あれだぞ。すごく重い岩を抱えながら針の上に立てって話だろ?」
「そういうイメージをしているからおかしなことになるんだ。そうだな、水鳥の羽根が水に浮いているのを見たことあるか?」
「ある」
「あれだ。あれをイメージしろ」

 俺の言葉に、びしょ濡れのまま勇者がもう一度水面をそっと踏む。

「この、最初の一歩がだな……」
「戦いのときにそんな悠長に動く気か? お前には出来るんだからやれ!」
「お師匠様は勇者様にお厳しいですね」

 ぶつくさ文句を言っている勇者に指導していると、聖女がハラハラしながら勇者を見つつそう言った。

「まぁ相手が相手だからな。ミュリアはどうだ? 結界を動かせそうか?」
「やはり結界の術式は固定されているようで、手の入れようがありません。ただ、攻撃を弾くだけなら盾のようなものを広範囲に出現させることが出来るようになりました」
「おお。偉いぞ! ちょっとやってみせてくれ」
「はい。『神前の盾よ、覆え!』」

 聖女の涼やかな声と共に俺の前に半円状の、俺の体を覆って余りある広さの魔力の壁が出来上がった。
 魔力が奇妙な回転を続けていて、単なる壁とも違う。

「神前の盾というのは何か聞き覚えがあるぞ」
「はい。本来は大聖堂の聖騎士が使う魔法です。あれを少しいじって範囲を広げました」
「あ、導師の魔法を跳ね返したあれか?」

 大聖堂で起きた衝撃的な事件を思い出し、思わず死者に祈りを捧げる。
 導師は導師なりに信念を貫いたんだろうが、結局は自分で自分を追い詰めて破滅してしまった。

「……はい」

 聖女も思い出したのか、少し沈んだ声で答えた。
 おっと、せっかく素晴らしい結果を出したのに落ち込ませるのは駄目だな。

「これは素晴らしいぞ。どこにでも自由に出せるのか?」
「どこにでもという訳ではありません。わたくしの視線が通る範囲という制限があります」
「いや、十分だ。きっとミュリアのこの魔法で命を救われることがあるはずだ。ありがとう」
「本当に? うれしいです」

 にっこりとミュリアが微笑む。
 うんうん、結果が出るのはうれしいよな。
 和んだところに、またも激しい水音が響いた。
 まぁさっきよりは長く持ったかな?

「ダスター、少し思ったのだけど」
「ん?」

 メルリルが難しい顔をしている。
 メルリルは俺たちの行うような鍛錬は意味がないので、精霊メイスとの親和性を上げる訓練をしていたはずだ。

精霊メイスによると、この地方は冬もあまり寒くならない地域とのこと。実は私の住んでいた森もそうでした。だからこそ、北の地方の冬はとても寒くでびっくりしたものです。それなのにここの人たちは冬に北に行って戦を始めると言ってましたよね。大丈夫でしょうか?」
「なるほど。不安要素としては一理あるな。とは言え、それを理解していない訳でもなさそうなんだよな」

 女王に謁見した時に、北の海は冷たいというようなことを言ってたしな。

「まぁでも、気になったことは言っておいたほうがいいな。後で後悔するようなことになると困るしな」
「ええ」

 そこで俺はさっそくそこらの女官さんを捕まえて尋ねてみた。

「今度の戦について聞きたいことがあるのだが、誰に話をしたらいいかな?」
「戦のことですか? それなら戦紡ぎの誰かがいいでしょう。こちらへ、ご案内しますわ」
「え、いきなり伺っていいのか?」
「あなた方の望みは最優先なので問題ありません」

 にっこりと笑顔を向けられて、どうも居心地の悪い思いがある。
 アンリカ・デベッセに滞在し続けるのがなんとなく辛いのはこういうところだよな。
 あまり特別扱いしすぎだと思う。
 感謝してくれているのはわかるんだけどな。

「ちょっと行って来るけど、鍛錬はサボるなよ」
「え? 師匠、見ててくれないのか?」
「次に見たときに水落ちしないようになってたら褒めてやる」
「わかった!」

 勇者はあれだな、やる気が持続しないのをなんとかすべきだよな。
 なんかいい方法はないかな?
 いっそ、子どもたちに見学させてみようかな?
 あれで子ども相手には良い格好したがるから案外頑張るかもしれない。

 考えながら女官さんについて行くと、以前女王さまと謁見した場所とは逆方向の奥側に黒を基調にした立派な建物が見えて来た。

「こちらが戦部いくさべです。少しお待ちいただけますか?」

 と、建物の入り口にあるホールのようなところで待つように言われた。
 軽い気持ちで戦についての進言を考えたが、もしかして、迷惑かけてないかな、俺。
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