勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第五章 破滅を招くもの

391 黄金里の慣習

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 調査を終えて里に戻った俺たちは、何やら賑やかな様子に首を傾げた。
 魔物が討伐されたことを喜んでいるのだろうか?

 しばらく里のなかを道なりに進むと、名主さんの家の近くに大勢の人が集まっている様子が窺えた。
 見ると、名主さんの家の広い前庭にやぐらのようなものを作り、その上に例のハグレ魔物の頭が乗っている。
 見た目的にとても怪しい。

 櫓の下部分には火がつけられているらしく、火口らしき穴からチロチロと赤い火が覗いていた。

「お、お前さん方は先生たちのお仲間かい?」

 周囲の里人に声を掛けられたので、笑みを浮かべたまま曖昧にうなずく。
 メルリルはじいっとハグレの魔物の首を見ていた。
 ぼそりと「美味しそう」という言葉が聞こえたが、とりあえず聞かなかったことにした。
 あれは処理してないから食えないからな。

 どこにこれだけの里人がいたのか、女子供が多い。
 あと、お年寄りがなにやら櫓の近くに集まって、話し込んでいるようだった。

「あ、名主さん」

 メルリルがお年寄りの集団のなかに目ざとく名主さんを見つける。

「ただいま戻りました。これはいったい何事ですか?」
「おお、先生!」

 仕方ないとはいえ、先生呼ばわりはやめて欲しい。
 名主さんは嬉しそうに俺に突進して来ると、バンバンと両肩を叩いた。
 痛いぞ。

「いや、さすが有名な武術の先生だ! まさか今日のうちに倒しちまうとは思わんかったよ!」

 まるで人が変わったような砕けっぷりだった。
 まぁそれだけ嬉しかったということか。

「俺の力ではない。ほかの者の力だ」
「おお、さすが大先生は違いますな。本当に強い人は偉ぶらない!」

 待て、大先生ってなんだ?

「いや、本当に。倒したのは若い者たちですよ」
「その彼らが、自分たちの師匠のおかげですと言っているのですよ。さすが大先生、弟子に慕われていますな。私なんぞ、里のわけえもんからは侮られるばっかりで、ぜひその秘訣をお教え頂きたいもので」

 勇者、止め刺したのお前だろうが! なんでもかんでも俺を立てるのをやめろ!

「いや、彼らの人間が出来ているだけですよ。それよりもこれはいったいどういうことでしょうか?」

 なにやら怪しい儀式のような様子を示して尋ねた。

「実はですな、壁が出来る前に行っていた魔物避けの儀式を復活させようということになりまして」
「魔物避けの儀式ですか?」
「はい。なんでも強い魔物の首を里と森の境界線に安置することで、魔物避けになるんだそうです。実は私も実際に見たことがないので、里の古老の方たちに教わりながら進めているんですよ」
「なるほど、そういう事情でしたか。興味深いですね」
「まぁ中央辺りからすれば因習に過ぎないんでしょうけどね。私らからしてみれば、すがれるものにはすがりたいという気持ちなんですよ」

 名主さんの気持ちもわかる。
 森と近い村というのは魔物の被害を常に心配しなければならない。
 俺たちの村は教会の浄化の儀式に頼っていたものだ。

「……浄化」
「ダスター?」

 思わず呟いた俺をメルリルが不思議そうに見た。

「ああいや、ええっと、名主殿、うちの連中はなかですか?」
「ええ、うちのかあちゃんが精一杯もてなしていますよ。あ、申し訳ない。大先生をこんなところで足止めしてしまって。ささ、どうぞ、家に入って、ゆっくりしていてください」
「わかった。ありがとう」

 俺と、俺の頭で寝てしまったフォルテと、メルリルは、怪しい煙の匂いが漂う前庭から家へと向かったのだった。

「あ、師匠、お疲れ様。風呂を沸かしてもらったんで師匠たちも入ってくればいいんじゃないか?」

 勇者たちは広間でのんびり茶と茶菓子を味わいながらくつろいでいた。
 服装も、鎧などを外して内着と上着だけになっている。
 まぁ歩きと戦いで疲れただろうからそれはいい。

「アルフ、お前、なんで手柄を俺に押し付けたんだ? お前が倒したんだろうが?」
「へ? 違うだろ?」
「は? 魔物の首を斬ったのはお前だろ」
「戦いの指揮を執ったのは師匠だろ。基本的に手柄は指揮官のものだぞ」
「俺たちは軍隊じゃなくって、パーティだぞ。もっと個人的な手柄を誇っていいんだ」
「それならやっぱり師匠だろ。俺は弱ったところに止め刺しただけだし。そんなのを誇ってたら恥ずかしいぞ」
「……まぁ、目標に対する意識が高いのはいいことだ」
「おう、なんと言っても真の勇者だからな。半端な手柄を誇ったりしないぞ」

 ううむ。これは怒れない。
 確かに勇者の志が低いのはよくないからな。
 だが、俺にしたって、前脚斬っただけで倒したみたいに言われるのは困る。

 まぁいいか。こんな東の果てで少々訳のわからん名声を授かったとしても、気にするようなことじゃないだろう。
 難しいことを考えるのは止めて、とりあえず風呂に入って来るか。
 疲れているときにものを考えてもろくなことにならんしな。

「メルリルも一緒に入るか?」
「あ、はい」

 あ、思わずいつもの調子で誘ってしまったが、ここの風呂って特殊で、湯着がないんだった。
 それで昨夜はちょっとしたゴタゴタが起きたんだよな。

「あっと、ここの風呂は湯着がなかったな。メルリルが先に入ってくれ」

 メルリルは不思議そうな顔をした。

「湯着がなくても一緒に入ればいいのでは? お湯が冷めるともったいないです」
「え?」

 メルリルの後ろでほかの連中がうんうんとうなずいている。
 俺たちの習慣なんぞ何も知らない研究所脱出組も「いってらっしゃい!」「夫婦は一緒にお風呂入るよ?」などと大真面目だ。

 いや、俺たちまだ結婚してないからな。
 誓いはしたんで、もう夫婦と名乗ってもいいんだが、お世話になった人たちに挨拶してないんでそういう訳にもいかないだろう。
 しかし俺だけ照れているのもおかしいので、一緒に風呂に入ることにした。

 名主さんの家の風呂は木材の里らしく木で作られたものだった。
 木を切ったとき独特の香りが未だに漂っている。
 湯船もなかなか広く、このお湯を沸かすのはかなり燃料が大変だろうと思えた。
 そのため、一度沸かしたら入らないときは蓋をして保温しながら、湯が冷めるまでどんどん入って行くのだそうだ。

 俺とメルリルは湯着代わりに体を洗うための手巾を体に巻いて風呂に入った。
 ここは湯船の外に洗い場があり、レバーをひねると水が出るので、お湯と混ぜて体を洗うのに使う。
 水道と言うのだそうだけど、かなり便利だ。
 帝国にも同じように水道と呼ばれる設備があって、石で出来た溝のようなところに水を流しているのだが、ここのものとは全く違う。
 なんでもこの地には中空の細長い木があってそれを天然のパイプとして繋げて使っているとのことだった。

 俺たちの国では同じ設備を作ろうとすれば、どっちの方式にしても材料に苦労しそうだ。

「体を洗ってあげますね」
「いや、自分でやるからいい」
「キュー」
「はい。じゃあ、フォルテを洗ってあげる」

 極力意識を向けないようにしていたメルリルがまさかの申し出をして来たので思わず飛び退いてしまった。
 ふう。
 今は髪飾りをつけてないので、元の姿に戻っているメルリルは、豊かな尻尾を振りながら楽しそうにフォルテを泡まみれにしている。
 フォルテも案外楽しんでいるな。

 それはともかくとして、現在体を洗うのに手巾を使っているので、俺たちはほとんど裸である。
 それと、洗い場も風呂も光源がないので、夜は薄暗くてそれほど問題がなかったんだが、今はまだ明るいので何もかもが見える。

 ……くっ、もしかすると、東の風呂は精神を鍛える鍛錬場なのかもしれないな。
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