勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第五章 破滅を招くもの

385 豊の森樹園

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「ここだ」

 ウルスが崩れた壁の一部を示す。

「宝石に映った場所だ」

 少し前の川に架かった橋と一体化した部分から壁の崩壊は始まっていて、明らかに補修をしていないことがわかっていた。
 今いるところに至っては、崩壊した範囲が広すぎて、子どもでも歩いて越えられる状態になっている。
 そしてどうやらこの場所が以前ウルスがその予知の映像で見た侵入場所ということだ。

「じゃあ行くか。交渉はウルスに任せるがいいか?」
「当然だ。お前ら常識がどうこう以前に訛りがひどすぎるし、子どもに交渉させる訳にもいかないからな」

 どうもこいつは言い方というものを弁えないらしい。
 ライバルに陥れられたのは、案外とこの口の悪さのせいじゃないのか?

 崩れ落ちた壁の合間からウルスが先に東側に下りて、小さい子たちを通して行く。
 途中でキメラにされていた姉弟の女の子のほうが瓦礫につまづいて危険な尖った壁のほうへと転がりそうになったのを勇者が軽くキャッチして助けた。

「本当にここで転けそうになったな」
「予知は便利だなぁ」

 俺と勇者が感心していると。

「俺だって今までこんなに鮮明に未来がわかったことはないぞ! この魔宝石ってのは凄いな」

 と、ウルスが応じた。

「その魔宝石はおそらく見ることに特化した加工をされているんだと思います。だからウルスさんと相性がよかったんでしょう」

 そう聖女が言った。
 残念ながら俺たちのうちに魔宝石の加工や魔道具について詳しい者がいなかったので、ウルスに渡した魔宝石に施された加工がどういう意味を持つのかわからなかったのだが、聖女が言うようにウルスに映像が見えたということはそういうことなのだろう。

「本当にこれ、もらってしまっていいのか?」
「一番それを使いこなす人間が使ったほうがいいだろ?」

 ウルスが眉根を寄せて問うのにそう答える。
 こいつ商人だけあって無償の譲渡というものが気に食わないらしい。

「そもそもその分働いてもらう予定なんだから、収支は釣り合ってるんじゃないか?」
「バカ言え、俺の負担のほうが大きいわ!」
「なら気にせずもらっとけよ」
「わかった」

 ウルスはその魔宝石をときどき覗いては予見を試しているようだった。
 今のところ、どういう場面かわかるようなものが見えないとのことだ。
 山の斜面を下りて、森林地帯を方向に注意しながら抜ける。
 この森はところどころに切り株があり、適度に光が地面まで通るように木々の間隔が広い。
 つまり、人の手が入っているということだ。

「ホーイ! ホーイ!」
「ん?」

 遠くから人の声らしきものが聞こえた。
 カコーンという何かを打つような音が時折響いている。

「だ、誰かいる!」

 子どもたちが怯えたように寄り集まる。
 人がいることに喜ぶよりも警戒するのは、今までの経験のせいだろう。

「いいか。俺たちは山歩きの訓練中に遭難した海王の武術道場の門下生だ。何を聞かれても『押忍オス!』で押し通せ」
押忍オス!」

 ウルスの言葉に全員が声を揃えて答えた。
 年齢も性別も衣装もバラバラでまとまりのない集団である俺たちに信憑性のある設定をつけようとしても無駄だと考えたらしいウルスは、理解しにくい武術集団というキテレツなカバーストーリーを被せたのである。
 正直俺はこの「押忍!」という挨拶や武術道場という考え方がよくわからなかったが、聖騎士によると腕の立つ武人が道場を持って優秀な子どもを育てるということはあるらしい。
 ちなみに「押忍!」という挨拶については聖騎士も知らないとのことだった。

 俺たちはぞろぞろと音のするほうへと進み、そこで背の高い木に登っている人を発見した。

「こんにちは!」

 コーン! といい音を響かせながら木の枝を払っていた男は、声に振り向いてあからさまにぎょっとした顔になる。
 そりゃあな、山のなかで多数の子どもの混じった変な集団に出会ったらびっくりするよな。

「我らは海王変幻武術の道場の一門である!」
 
 変幻武術ってなんだよ!
 思わず声を大にして聞きたい気持ちになったがぐっと堪える。

「へ、へえ、ご苦労さまです」

 明らかに相手の人は混乱している。

「修行中に道に迷ってしまったのだが、ここはどの辺りか?」
「は、はぁそれは難儀なことで。ここは豊の森樹園ですが……」
「なるほど、それはだいぶコースを外れたな。このまま山を降りれば鉄道があるだろうか?」
「いや、ここらにあるのは森林鉄道だで、人を乗せる鉄道は隣の領主さまのいらっしゃる荘園まで行かにゃならんよ。この里には乗り合いバスならあるが、一日一便だけん」
「そうか、わかった。とりあえずバス乗り場に行ってみる。乗り場はどこにあるんだ?」
「そりゃあ決まってる。里の入り口にある待合所だ。受付もそこでやっとる」
「助かった。ありがとう」
「いやいや。しっかしわらしが多いようだけん、どこかで休んだほうがよくないか? 一度名主殿を尋ねてみんさい」
「わかった!」

 ウルスは普段と全く違うニコニコ顔で話を聞くと、ニコニコ顔のまま挨拶をしてその場を離れた。

「どうなったんだ?」

 会話の内容がよくわからなかったので尋ねてみる。

「どうやらここは黄金里国だな。豊の森樹園と言っていたが……」

 黄金里と聞いて、俺は黄金里出身の二人を呼んだ。

「カウロ、ヒシニア、ここはどうも君たちの国らしい。豊の森樹園という場所を知っているか?」

 カウロは天性の治癒能力持ちの少年で、ヒシニアは最近の訓練で五感を鋭く出来ることがわかった少女だ。
 二人とも同じ九歳だった。
 九歳ということに意味があるのかと聞いたら、二人ともに学校の身体測定があって、その後すぐにさらわれたらしい。
 どうも東方では学校という施設が魔力持ちを探す場になっている可能性が高いようだ。

「名前は知らないけど、樹園ということは林業を生業としている地域だと思う。うちの里はもっと中央寄りかな? 私、地図とか見たことないからよくわかんない。ごめんね」

 ヒシニアは自分たちの国と聞いて嬉しそうにしたが、ちらりとほかの子たちを見て、表情を改めた。
 そして土地勘がないことを謝罪する。

「謝らなくていいよ。カウロは?」
「僕は少しなら自分の里以外にも行ったことがあるけど、ここは知らない。ただ、うちの荘園の隣にも樹園があったから、もしかすると、その、翠湖すいこが近いかもしれない」

 カウロは少し戸惑っているようにも見える。
 家が近いということで嬉しくはないのだろうか?

「家が近かったらそのまま帰るか?」

 尋ねると、しばし唇を噛んで。

「一度、家の様子を知りたいんです。わがままでごめんなさい」
「わがままじゃないさ。帰ったらまた収容所送りとかになったらシャレにならんしな」

 カウロは小さくうなずくと、聖女のそばへと戻った。

「あのさ」

 俺の服の裾をヒシニアが引っ張る。

「どうした?」
「私、聞いたことがあるの翠湖すいこの奇跡の子どもの噂。ケガを治したり病を癒やしたり出来る神さまの使いだって言われてた。翠湖すいこって王家に関わりがある湖がある里なんだけど、そこの神さまが宿ってるとかなんとか。同じ年頃の子どもだって、うちの親と近所の人が噂してたの」
「なるほど。治癒の力は神聖視されやすいからな」
「あの子、嫌だったんじゃないかな?」

 ヒシニアがムッとした顔になる。
 きっとカウロのことを思いやっているのだろう。

「ヒシニアはいい子だな」
「ちょっと、やめてよ。そういうんじゃないから。あのね、荘園ではね、優秀な子は領主さまが取り立ててくれたりするから、親はけっこう子どもに期待しちゃうところがあるんだ。うちの兄貴なんかおだてられた挙げ句選ばれなかったんで荒れたりしてさ。大人って勝手なところあるよね」

 頭を撫でたら嫌がられてしまった。
 女の子はあまり知らない異性に接触されるのは好きじゃないらしい。
 俺はヒシニアにとってまだ最近知り合ったおじさんに過ぎないもんな。

「親は自分が出来なかったことを子どもにしてもらいたいって思っちまうもんらしいぞ。まぁ確かに身勝手だよな」
「私、あの子苦手だけど、いい子だってことはわかるから。不幸にしないでよね」
「そうだな。わかった。俺に出来る限りがんばるよ」

 自分の国だから家に帰りたいだろうに、ほかの子に遠慮したりして、ヒシニアもいい子なんだよな。
 ともあれ、今は無事に移動することを考えないとな。
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