勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
278 / 885
第五章 破滅を招くもの

383 魔力の性質

しおりを挟む
 いろいろ話した結果、全員まずは基礎からやるべきということになった。
 俺たち西方の人間は人に魔力があることに慣れていて、小さな村でも一人や二人は魔力持ちがいる環境で育っている。
 子どもが魔力持ちだと気づくと、先達から魔力の利用方法を聞いて、自分に出来ることを探り始めるのだ。

 ところが東方の人間は人が魔力を持つということを異常だと考えている。
 そのため、子どもが魔力持ちと気づいても気づいてないふりをしたり、隠そうする。
 子どもはそんな親や大人の様子から魔力を悪いものと考えて使わないように我慢するという悪循環となっているようだった。

 しかも俺たちの国では貴族に魔力があるのは当たり前なので、魔力持ちは偉い人と考えているところがあり、むしろ魔力持ちは尊敬される傾向があった。
 そして貴族は小さい頃から魔力を魔法として使用する方法を習う。
 貴族の魔法というのは教会直伝の効率化されたものなので、いちいち魔力操作などを考えたことはないそうだ。
 俺はその事実に逆に驚いたが、まぁそれはそれとして、研究所を脱出した者たちは、まずは魔力というものの性質を知って、自分の持つ力を理解する必要があった。

「風が吹くと草がなびくよな」
「うん」
「風は目に見えないけど、それがあることは誰でも知っているだろ?」
「はい」

 子どもたちと大人二人は、食後の休憩時間に俺の話を興味深そうに聞いている。
 結局のところ、救出組全員が魔力について理解しておこうという話になったのだ。

「魔力も似たようなものだ。目には見えないけれど世界に干渉する力として存在する。うーんっと……」

 小さい子がわからないという顔をしているので、俺は説明の仕方を考える。

「みんなのなかに風や熱や力とか、そういうものの元があるんだ……ええっと、これは実際に感じたほうがいいな。突然だが、このなかで足が痛い人!」

 呼びかけると「はーい!」と、小さい子たちが手を挙げる。
 少ししておずおずと恥ずかしそうに大人組の女性、ネスさんが手を挙げ、予知者のウルスも不承不承といった感じに手を挙げた。
 足痛い奴多いな!

 まぁそれも仕方がない。
 彼らの履いている靴は底の薄いものだったので、最初の二日でほとんどが穴が開いたり、破れたりしてしまっている。
 それに木の皮を巻いてごまかしている状態だ。

「ミュリア、カウロ、悪いけど軽く回復してやってくれ」
「はい」「わかった」

 とととと近寄って来る聖女と、照れながら立ち上がるカウロ少年を全員の輪の中心に立たせる。

「まずは、カウロ、ウルスおじさんを回復だ」
「うん。痛くなくなれー」

 カウロ少年がウルスの足に軽く触れて癒やしを使う。
 その様子を全員に注目するように言った。

「今の魔力の動きが見えた人!」
「はい!」

 元気よく手が挙がる。
 南海生まれのッエッチだ。
 一人だけなのはまぁ仕方ないか。一人でも見えるだけマシだろう。

「どんな感じに見えた?」
「説明しにくいんですけど、カウロの手が淡く光って、ウルスさんの足にその光が吸い込まれたように見えました」
「え~、見えなかった」「もう一回!」

 ッエッチの言葉に、ほかの子どもたちから声が上がる。

「はいはい、今の時点で見える必要はないから、大丈夫。あそこにいる勇者のお兄さんもちょっと前まで見えなかったんだぞ」
「えっ、師匠~」

 自分には関係ないとばかりに面白がって様子を見ていた勇者を指し示す。
 小さい子どももいるんだぞ、情けない声を出すな。
 子どもたちは「そうなんだ~」と納得してるだろ。

「魔力というのは一人一人違う。そのため、魔法を他人に影響させる場合にはなんらかの拒絶的な反応がある。しかし癒やしの魔法は唯一他人のなかに拒まれずに入り込むことが出来る魔力だ。これはかなり特殊な魔力で、そのせいで癒やしの魔法は特定の人間しか使うことが出来ない」

 俺の説明にカウロが照れたようにもじもじする。

「それじゃあ、ミュリア、全体回復をお願い出来るか?」
「はい。……この手の届く人々の受けたる障りを流し去りたまえ」

 聖女は胸に下げた御印みしるしに手を触れて聖句を唱えた。
 俺の目には空中に現れた雨のような光の粒が周囲の人間に降り注ぐのが見える。

「あ、なんかスーっとした」
「ひんやりとしてあったかい」
「ぽかぽかする!」
「本当に足が痛くなくなった!」

 全員が驚いたように上を見たり、足を触ってみたりしていた。

「魔力が作用する感覚はなんとなくわかったな。魔力は目に見えないけれど確かに存在して自分以外のものに作用する力だ。そこがまずはわかればいい。ミュリアありがとう。もういいぞ」
「はい!」

 聖女はニコニコしながらもともと座っていたところに戻って行く。
 なんだかうれしそうだ。

「それじゃあ自分の魔力特性がわからない人は今日寝るまでの間に今のミュリアの癒やしの魔力の感覚を思い出しながら眠ること。自分の魔力特性がわかっている組はそれぞれ指導してくれる相手に教わるように。以上、基礎の勉強終わり」

 元気のいい子どもたちはそれぞれ師匠と決めた相手のところへと走って行く。
 まだ自分のやるべきことがわからない子は俺のそばに来てズボンやマントの裾を引っ張り出した。

「ねーねーおっちゃん、魔法見せて!」
「おじさんも魔法使えるの?」
「おじさんは魔法を習ってないので使えません。魔力は使えるぞ」

 仕方ないのでその子どもたちの相手をすることとなった。
 しかし子どもたちは魔法は使えないが魔力が使えるという理屈がわからないようだ。

「どういうこと?」
「おっちゃん詳しく!」
「例えば、そっちでニヤニヤしているウルスのおっさんは自然に予知が使えるようになったと言ってただろ。天性の魔力持ちっていうのはそういう風に必ず魔力特性というものがあって、何か得意なことがあります。一般的には放出か魔力による強化が多いな」
「んー?」

 子どもたちが首をかしげる。
 ネスさんやヌマシダ少年はなんとなくわかっているようだ。

「例えば俺は放出は使えないが、放出が使える人間は、魔力を自分の体の外に放って、何かの現象を起こすことが出来る。さっき言った風みたいに草を揺らしたりな」
「えーつまんない」
「いやいや、放出の強い奴っていうのは、手を触れずに他人を投げ飛ばしたり出来るんだぞ。ただし魔物相手だと工夫をしないと怒らせるだけだったりするから注意が必要だ。不用意に使わないように」
「へー」
「放出系の魔力持ちは小さいころに現象が現れやすいと聞いている。寝ているときに周りの物が動いたりした人はいるかな?」

 俺の言葉に一人の少女がビクッとした。
 ええっと、確かイチカか。
 北冠の生まれだったな。

「あ、あたし、違うの。わざとじゃないの。だけど、お母さんがすごく怒って……」

 おおう、泣き出したぞ。

「おいおい、なんで泣いてるんだ。大丈夫だぞ。家が恋しいのか? そうだよな。まだ子どもだもんなお前ら」
「違うの、私朝起きたら部屋がめちゃくちゃになってることが何度もあって、お母さんがね、凄く怒って、こんな悪ふざけするのは私の子じゃないって。私、知らないって言ったのに……」
「そうか。小さい頃はコントロール出来ないもんな。大丈夫。今はむやみに魔力を放ったりしてないだろ。それは君が我慢しているからなんだぞ」
「我慢?」
「ああ。放出系の魔力持ちはだいたい何かやらかして、それに自分がショックを受けて我慢し続けてある日突然暴走するということがあるんだ。俺たちの国ではそういうことが起きないように、放出系の魔力持ちの子どものために親はお守りを作ってやってな。使う必要があるときにはそれを壊すことで使うように習慣付けるんだ。紐で編んだ腕輪とかが多いな」

 俺の説明にイチカは勢い込んで尋ねた。

「それがあればお母さんに怒られない?」
「うーん、そうだな。イチカの国はちょっと難しいかな。これは答えにくいかもしれないから答えなくてもいいけど、もしかしてお母さんが君を収容所に入れるって言ったのか?」
「ううん。おかあさんは部屋を散らかしちゃ駄目って怒っただけ。学校で検査があってね、車に乗せられてそのまま行ったの。お家に帰りたいって言ったのに、誰も聞いてくれなくて。……あのね、でも、私って魔人なんだよね? 悪い子になったんだよね? だからお家に帰れないんでしょ?」

 イチカのお母さんの立ち位置がわからないな。
 本当に気づいてなかったのか、気づいていてそれを認めようとしなかったのか。
 どちらにせよ、もうイチカが戻れる場所ではないのは間違いない。
 だけどイチカはまだ子どもだ。確か八歳だったか? まだ家に帰れると思っていたいのだろう。
 こういうのはどう説明すればいいんだろうな。

「いや、別に魔人は悪い子じゃないぞ。髪や目の色が違うようなもんだ。イチカの国の人はそういう違っていることが嫌いなんだな、きっと」
「悪いことじゃないの?」
「悪いことじゃないさ。イチカは鳥に羽根があって空を飛べるのが悪いことだと思うか?」
「キュルッ?」

 俺の言葉に頭の上からフォルテが返事をした。
 イチカはフォルテをじっと見ると、少し首をかしげる。

「ええっとね、うらやましい、かな?」
「そうだ。君の力は本来羨ましがられることはあっても、悪いものじゃない。もっと堂々としていればいい。こいつだって堂々としているだろ?」
「クルルルルル!」

 フォルテはイチカの肩に飛び乗ると偉そうに胸を張ってさえずってみせた。
 イチカはそんなフォルテを撫で回し始める。

「ありがとうフォルテちゃん」
「ギュィッ」

 自慢の羽根を逆立てられながら、フォルテは不満気に鳴いたが、相手は子どもとわかっているからか好きなようにさせていた。
 フォルテもずいぶん我慢を覚えたなとちょっと感心したのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。