276 / 885
第五章 破滅を招くもの
381 山の防壁
しおりを挟む
俺たちの今の問題は現在地がどこかわからないということだ。
予知者ウルスによると、研究所の所員のほとんどは北冠の人間だったとのことなので、地理的には北冠に近いだろいうという推測となった。
まずは東に移動したいところだが、バカ正直に東に移動すると研究所の調査に来た連中とかち合ってしまう可能性がある。
そこでこの場所を北冠の近くと仮定した上で、南へと移動することにしたのだ。
「ずっと山歩きになるんだが、子どもたちは大丈夫なのか?」
勇者が不安そう言う。
保護対象が突然大勢出来て困惑しているようだ。
「ミュリアにあの、なんと言ったっけ、行進魔法をかけてもらうしかないだろ」
「天使の行進だな。だがあれは疲労を軽減するだけだぞ」
「ないよりはマシだろ」
という勇者との話し合いもあり、聖女に全員分の魔法「天使の行進」をかけてもらう。
こわごわ魔法をかけてもらった魔力持ちの東国人たちは、特に変化を感じない魔法に拍子抜けといった感じだ。
「魔法ってもっとこう、派手なものだと思ってたぜ!」
南海生まれのローエンスが跳ね回りながら言う。
「いくら疲れにくいと言っても、これから山登りだぞ? バテたら捨てていくから覚悟しろ」
そうすごんで言うと、ローエンス本人よりも、ほかの周囲の子どもたちのほうが萎縮してしまった。
子どもの扱いは難しい。
「ピャ!」
「む?」
研究所の敷地からかなり離れた場所で、崖にそった細い道を注意しながら渡っていたときに、フォルテが敵を察知した。
風切りワシだ。
でかい。
俺の知っている魔物の風切りワシと少し模様や全体の姿が違っているので、能力にも違いがあるかもしれない。
「風切りワシだ! 斜面にぴったりと体をつけろ!」
「いやああああ! 魔物!」
大人の女性ネスさんが大きな悲鳴を上げる。
襲うタイミングを図っていた風切りワシは、それがきっかけとなったのか、恐ろしいスピードで急降下して来た。
近づくと、その大きさがよくわかる。
大人が五人程手を横に広げて横に並んだぐらいだろうか?
「アルフ、任せる!」
「わかった」
じいっと風切りワシを見ていた勇者は、地形的に武器を抜くのは無理と判断したのだろう。左手を一閃した。
その手の甲から腕にかけて淡い光が文様をなぞって浮かび上がる。
「落ちろ!」
まっすぐに、子どもたちの列に向かっていた風切りワシは、カクンと空中で姿勢を崩した。
そして、次の瞬間、真っ二つに体が分かれて、血と臓物を撒き散らしながら落ちて行った。
前から思っていたが、勇者はもしかすると詠唱必要ないんじゃないか?
かなり適当に術を発動しているよな。
毎回必ずしっかりとした詠唱を行う聖女と比べて魔法の発動が自由すぎる。
まぁ神罰魔法とやらのときはきちんと詠唱しているようだが。
「す、凄い!」
怖くて目を瞑っていた子どもの一部と大人組は何が起こったのかよくわかっていないようだったが、目を開けて成り行きを見守っていた子どもたちは勇者の魔法にいたく感動したようだった。
「にーちゃん凄い! ぼ、僕も、そういう魔法使えるようになる?」
ええっと、確かエイエイだったか? 北冠生まれの男の子だ。
年齢は八だったか九だったか……人数が多すぎて年まで覚え切れないぜ。
「んー、どうかな。こういう系統魔法は大聖堂から付与された教本で習うんだ。天性の魔力持ちはあんまり魔法とか使わないよな」
そう言えばという感じに勇者が言った。
というか、その言い方で子どもに理解出来る訳ないだろ。
「どういうこと? 学校とかで習うの?」
「学校というのは確か集団教育の場所だな。魔法に関しては書物を読んで師匠とマンツーマンで習う。普通は家ごとにお抱えの魔法の専門家がいるからそういう教師に習うんだが、俺の使う魔法のほとんどは紋章に刻まれているんでちょっと違うな」
子どもたちは勇者の話がよく飲み込めないようだ。
逆に大人であるウルスが興味深そうに聞いていた。
「それで、結局僕にも使えるの? 使えないの?」
あ、エイエイもじれたのか、怒ったような口調になっている。
そうだよな、訳わからんこと言って煙に巻いたように思えるよな。
「お前たちには魔法は無理だ。自分に合った魔力の使い方を探せ」
「なんだよ、ケチ!」
「ケチとはなんだ! 俺は親切に教えてやったんだぞ!」
「え~、ケチだからケチだよ!」
あ、勇者が不貞腐れた。
おまえ、十は年が下の子相手に本気で腹を立てるなよ。
ともあれエイエイだけでなく、魔力持ちの子どもたちは総じて魔法に興味しんしんのようだった。
その後も休憩ごとに勇者と聖女は子どもたちのなぜなに攻撃を受け、山越えの疲労以上に精神的疲労でかなりまいってしまったのである。
ときどき襲って来る魔物を撃退し、目についた食用の植物を採取して、動物を片手間に狩りながら南下した俺たちは、左手に巨大な防壁を間近に見ることとなった。
「これは、ええっと、央国の巨大な要塞というやつか?」
「いや、壁自体は人の住む場所と魔物の棲む場所とを隔てるために国の西側に延々とあるんだ」
「こんな壁を延々と造るとかどれだけ手間暇と資材が必要なんだよ。普通考えても実行しないよな」
「造ったときには全ての国から国の運営予算なみの金を出させたらしい」
俺とウルスが壁を見ながら話していると、その内容に勇者が呆れたような顔をした。
「嘘だろ。普通は反対する国が出て来るだろ」
「かなり昔の話で俺も全部知っている訳じゃないが、反対した国では不幸が起きて、トップが変わったようだぞ」
勇者の疑問に答えたウルスの話が物騒すぎる。
「マジかよ」
「神罰による不幸だと教わったぞ」
「どう考えても人為的なもんだろ。それか……」
勇者は眼光鋭く、東にそびえる壁を見た。
「神を名乗る何者かのしわざか」
予知者ウルスによると、研究所の所員のほとんどは北冠の人間だったとのことなので、地理的には北冠に近いだろいうという推測となった。
まずは東に移動したいところだが、バカ正直に東に移動すると研究所の調査に来た連中とかち合ってしまう可能性がある。
そこでこの場所を北冠の近くと仮定した上で、南へと移動することにしたのだ。
「ずっと山歩きになるんだが、子どもたちは大丈夫なのか?」
勇者が不安そう言う。
保護対象が突然大勢出来て困惑しているようだ。
「ミュリアにあの、なんと言ったっけ、行進魔法をかけてもらうしかないだろ」
「天使の行進だな。だがあれは疲労を軽減するだけだぞ」
「ないよりはマシだろ」
という勇者との話し合いもあり、聖女に全員分の魔法「天使の行進」をかけてもらう。
こわごわ魔法をかけてもらった魔力持ちの東国人たちは、特に変化を感じない魔法に拍子抜けといった感じだ。
「魔法ってもっとこう、派手なものだと思ってたぜ!」
南海生まれのローエンスが跳ね回りながら言う。
「いくら疲れにくいと言っても、これから山登りだぞ? バテたら捨てていくから覚悟しろ」
そうすごんで言うと、ローエンス本人よりも、ほかの周囲の子どもたちのほうが萎縮してしまった。
子どもの扱いは難しい。
「ピャ!」
「む?」
研究所の敷地からかなり離れた場所で、崖にそった細い道を注意しながら渡っていたときに、フォルテが敵を察知した。
風切りワシだ。
でかい。
俺の知っている魔物の風切りワシと少し模様や全体の姿が違っているので、能力にも違いがあるかもしれない。
「風切りワシだ! 斜面にぴったりと体をつけろ!」
「いやああああ! 魔物!」
大人の女性ネスさんが大きな悲鳴を上げる。
襲うタイミングを図っていた風切りワシは、それがきっかけとなったのか、恐ろしいスピードで急降下して来た。
近づくと、その大きさがよくわかる。
大人が五人程手を横に広げて横に並んだぐらいだろうか?
「アルフ、任せる!」
「わかった」
じいっと風切りワシを見ていた勇者は、地形的に武器を抜くのは無理と判断したのだろう。左手を一閃した。
その手の甲から腕にかけて淡い光が文様をなぞって浮かび上がる。
「落ちろ!」
まっすぐに、子どもたちの列に向かっていた風切りワシは、カクンと空中で姿勢を崩した。
そして、次の瞬間、真っ二つに体が分かれて、血と臓物を撒き散らしながら落ちて行った。
前から思っていたが、勇者はもしかすると詠唱必要ないんじゃないか?
かなり適当に術を発動しているよな。
毎回必ずしっかりとした詠唱を行う聖女と比べて魔法の発動が自由すぎる。
まぁ神罰魔法とやらのときはきちんと詠唱しているようだが。
「す、凄い!」
怖くて目を瞑っていた子どもの一部と大人組は何が起こったのかよくわかっていないようだったが、目を開けて成り行きを見守っていた子どもたちは勇者の魔法にいたく感動したようだった。
「にーちゃん凄い! ぼ、僕も、そういう魔法使えるようになる?」
ええっと、確かエイエイだったか? 北冠生まれの男の子だ。
年齢は八だったか九だったか……人数が多すぎて年まで覚え切れないぜ。
「んー、どうかな。こういう系統魔法は大聖堂から付与された教本で習うんだ。天性の魔力持ちはあんまり魔法とか使わないよな」
そう言えばという感じに勇者が言った。
というか、その言い方で子どもに理解出来る訳ないだろ。
「どういうこと? 学校とかで習うの?」
「学校というのは確か集団教育の場所だな。魔法に関しては書物を読んで師匠とマンツーマンで習う。普通は家ごとにお抱えの魔法の専門家がいるからそういう教師に習うんだが、俺の使う魔法のほとんどは紋章に刻まれているんでちょっと違うな」
子どもたちは勇者の話がよく飲み込めないようだ。
逆に大人であるウルスが興味深そうに聞いていた。
「それで、結局僕にも使えるの? 使えないの?」
あ、エイエイもじれたのか、怒ったような口調になっている。
そうだよな、訳わからんこと言って煙に巻いたように思えるよな。
「お前たちには魔法は無理だ。自分に合った魔力の使い方を探せ」
「なんだよ、ケチ!」
「ケチとはなんだ! 俺は親切に教えてやったんだぞ!」
「え~、ケチだからケチだよ!」
あ、勇者が不貞腐れた。
おまえ、十は年が下の子相手に本気で腹を立てるなよ。
ともあれエイエイだけでなく、魔力持ちの子どもたちは総じて魔法に興味しんしんのようだった。
その後も休憩ごとに勇者と聖女は子どもたちのなぜなに攻撃を受け、山越えの疲労以上に精神的疲労でかなりまいってしまったのである。
ときどき襲って来る魔物を撃退し、目についた食用の植物を採取して、動物を片手間に狩りながら南下した俺たちは、左手に巨大な防壁を間近に見ることとなった。
「これは、ええっと、央国の巨大な要塞というやつか?」
「いや、壁自体は人の住む場所と魔物の棲む場所とを隔てるために国の西側に延々とあるんだ」
「こんな壁を延々と造るとかどれだけ手間暇と資材が必要なんだよ。普通考えても実行しないよな」
「造ったときには全ての国から国の運営予算なみの金を出させたらしい」
俺とウルスが壁を見ながら話していると、その内容に勇者が呆れたような顔をした。
「嘘だろ。普通は反対する国が出て来るだろ」
「かなり昔の話で俺も全部知っている訳じゃないが、反対した国では不幸が起きて、トップが変わったようだぞ」
勇者の疑問に答えたウルスの話が物騒すぎる。
「マジかよ」
「神罰による不幸だと教わったぞ」
「どう考えても人為的なもんだろ。それか……」
勇者は眼光鋭く、東にそびえる壁を見た。
「神を名乗る何者かのしわざか」
11
お気に入りに追加
9,275
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。