勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第五章 破滅を招くもの

333 迷宮跡~そこに生きるものたち~

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 スライム地帯に入る前に松明を作った。

「灯りなら光球があるぞ」

 勇者が不思議そうに尋ねて来る。

「これで天井に張り付いたスライムを落として進むんだ。地面をうろうろしているスライムは避ければいいが、天井から落ちて来たら危険だからな」
「それなら俺の火の魔法で焼けばいいのでは?」
「魔法はいざというときのために節約しておいたほうがいい。いくらお前の魔力が桁違いでも限界がない訳じゃないからな」
「そうか。いざというときには頼りにしてくれ!」

 勇者は頼りにされたと思ったのか、嬉しそうに胸を叩いてみせた。
 そういう姿を見ると、本当に頼りにしていいのか疑わしくなって来るからやめろ。
 スライムは、自分よりも大きな獲物にわざわざ襲いかかったりはしないが、触れると酷い炎症を起こしたり、装備がボロボロになったりするので厄介な魔物だ。
 しかもいざ倒すとなったら、司令部位を破壊しなければならないのだが、見ただけではどこがその部位なのかわからないので、手当たり次第攻撃してやっと倒せるという面倒臭さである。
 大きいスライムは恐怖しかなかったが、小さいスライムも厄介者と言えるだろう。

 注意しながらスライムのたまり場を抜けると、巨大な空間に出た。
 地面を見ると、白っぽい糞溜まりが出来ていて、そこにスライムがたかっているようだ。

「上か」

 高い天井に光球を近づけて生物を探すと、そこにはマントに身を包んだ人間のような姿をした生き物が逆さまにぶら下がっていた。

「魔コウモリだ」
「魔コウモリとは?」

 俺の言葉を勇者が聞き返す。

「巨大なコウモリでだいたい俺の半分程度の大きさがある。暗闇でも自由に飛べるし、なによりも衝撃波のような攻撃で生き物を気絶させることが出来るんで、こういう洞窟では戦いにくい魔物だ。問題なのは、閉鎖されていた迷宮跡にあの大きさの魔物が生き残っていることだな」
「どういうことだ?」
「あの魔コウモリを捕食して生きているさらに大きな魔物がいる可能性があるってことだ。あと、あいつが生きるために必要な獲物がそこそこ豊富にこの迷宮跡にいるということでもある」
「なるほど、一つの魔物を見るだけでそれだけのことがわかる師匠はさすがだな」
「いや、冒険者ならだれでもそのぐらいはわかる。お前たちも経験を詰めばそのぐらいはわかるようになるさ」

 さて、とりあえずあいつ等が襲って来ないようにルート取りをする必要があるな。
 この空間はそこそこ広いし、あちこちに石柱やらつららのような石やらがあるから気づかれないように移動すること自体は難しくないと思うんだが、見逃してくれなかった場合にはやつらの気絶攻撃に対抗しなければならない。

「さて、もしあの魔コウモリが襲って来たらどう防ぐかな?」

 俺は全員を岩の密集している片隅に集めて相談した。

「冒険者の方はどうされているのですか?」

 聖騎士が質問して来たので俺は基本的な防御方法を答える。

「音が聞こえる訳でもないんだが、耳を塞いでいると効果が弱まることが知られている。最初からいることがわかっている場合には耳栓を用意したりするな」
「それなら」

 俺の言葉にメルリルが発言した。

「おそらくは人の耳には聞こえない音を発しているのだと思います。だから音が聞こえないようにしましょう。私が周囲の音を遮断するので、この空間を抜けるまでは手の合図で行動するようにしたらいいのでは?」
「なるほどやってみる価値はありそうだな。どうする?」

 ほかに反対意見もなかったので、メルリルに俺たちの周囲の音を遮断してもらう。
 シーンとした何も聞こえない状態は、思ったよりも不安が大きい。
 目の届かないところからの魔物の接近に気づかないかもしれないという恐怖が沸き起こってしまうのだ。
 この音の遮断は使い所が難しいな。
 普段よりもさらに用心しつつ進んでいると、ふと、光球の光が遮られた。
 見ると魔コウモリが巨大な体で襲いかかって来るところだ。
 
「うおっ!」

 声を上げたが、自分の声すら聞こえない。
 俺は手早く手信号で各自分散してそれぞれ迎撃しやすい位置取りをするように指示を出した。
 魔コウモリは本来はあまり大きな獲物は狙わないが、俺たちを侵入者だと思ったのだろう。果敢にアタックして来る。
 何度か口を大きく開けているところを見ると、あの衝撃波による攻撃もしているとみえる。
 全く効果がないということはメルリルの提案が当たったということなのだろう。
 当たり前だが、音もなく聖騎士が動いた。
 抜き手も見せずに剣を振るうと、魔コウモリが分断されて地に落ちる。
 お見事。
 息絶えた魔コウモリをそのまま寄って来たスライムに任せて、手で合図を出して先へ進む。
 さらに用心しながらフォルテの先行と古い地図を照らし合わせながら探索を続ける。
 やがて東へ繋がる通路らしきものを見つけた。
 そこはまるで壁に入った大きな裂け目のような通路でやたら狭いが、とりあえずその通路に入り込めば魔コウモリの襲撃は避けられるだろう。
 俺は全員がなかへと入ったのを確認してからメルリルに合図をして術を解除してもらった。

「ふう、音があるってありがたいな」
「すみません。かえって行動に制限をしたような形になってしまいましたね」

 メルリルがしょんぼりとして謝る。

「いや、全員がそれでいいと決めたことだしメルリルが悪い訳じゃない。実際魔コウモリの攻撃は防げたしな」
「俺たちの眼の前の空中に留まっているだけだったからいい的のようなものだったな」

 勇者が先程の戦いを振り返って言った。
 魔コウモリは攻撃しようとしていたのだろうが、音が遮断されているので、その攻撃のために留まっている状態が隙になってしまったのだ。

「しかしクルスの攻撃は見事だったな。気づいたらコウモリが真っ二つになっていたぞ」
「勇者のおっしゃる通り、相手は斬ってくれというように留まっていましたからね」

 聖騎士にとってはあれしきは褒められるようなことではないのだろう。
 さすのが剣の冴えといったところか。

「しかしこの通路は狭いな。一人が通るのがやっとだ」
「私としては音がないよりも身動きが取れないこの狭さが怖いですね」

 到底剣が振れないものな。
 自分の得意とするもので、感じ方はさまざまということか。
 地図によるとこの狭い通路はそう長くは続かないはずだ。
 とは言え、進むにつれて段差のあるところを登ったり、水没しているところを半分水浸しになりながら歩いたりと、なかなかきつい通路だった。
 水中に潜らなくていいだけマシか。

「よし、次の広い通路だ」
「やっとか。息がつまるところだった」

 勇者が大げさに弱音を吐く。
 と、先行しているフォルテが警戒するのを感じた。

「ん?」

 フォルテに意識を向けると、うずくまっている何かがいるのを感じる。
 魔力を帯びているので存在がわかるが、純粋な視覚だけだったら気づかなかっただろう。

「ヤバい、大物がいる」
「なんでしょう?」

 聖女が緊張したように尋ねた。

「闇大トカゲだ。事前に発見出来てよかった。奴に突然襲われたら確実に誰か大怪我をしていたな」
「そんな恐ろしい相手なのですか?」
「ああ。こいつは隠形特化の魔物なんだ。本気で身を隠されたら発見出来ないし攻撃への対処が間に合わない。肉食で自分よりも大きな獲物も平気で襲う奴だからな。それにこいつに噛まれると傷口が腐って最悪死ぬ。迷宮の殺し屋と呼ぶ奴もいるぐらい厄介な相手だ」

 聖女とメルリルが真っ青になる。
 そう言えばと、俺は自分の防具を見た。
 これの表面には闇大トカゲの素材を使っているんだったか。
 敵対する相手としては面倒この上ないが、カモフラージュ特性が本来のドラゴン素材を隠すのに大いに役立っている。

「先に発見出来たんだからなんとでもなるだろ」

 勇者が自信に満ちた顔でみんなを安心させるように言い放った。

「ああ。フォルテのお手柄だな」
「キュゥ!」

 フォルテが得意げに声を発したことで、当の闇大トカゲがフォルテに気づいた。
 ちょっと褒めるとこれだから。

「今のでそのお手柄も台無しだがな」

 俺はため息をついて素早く狭い通路から広い通路に飛び出す。
 全員がそれに続いて飛び出し、戦闘態勢を取った。
 狭い場所で襲われたらあまりに危険だ。
 気づかれた以上はこのまま戦うしかないだろう。
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