勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
208 / 885
第四章 世界の片隅で生きる者たち

313 首なし騎士の慟哭

しおりを挟む
 夜明け前には早いが、俺たちは深夜になると旧街道へと移動した。
 旧街道とは言え、日中は人の行き来はそれなりに多い道だが、真っ暗な深夜に好んで外に出る者はまずいない。
 町長の話によると目撃した町民というのは、畑がやや離れた場所にあるので夜明け前に家を出る必要があり、移動の際に目撃する羽目になったらしい。
 似たような理由で数人が首なし騎士を目撃しているが、みんな怖がって旧街道を避けるようになってしまったため、仕事の効率も下がっているとのことだった。

「何か感じるか?」

 俺は旧街道と交わる農道に立って辺りを見回しつつメルリルに問いかける。

「今のところ何も感じない」

 メルリルの答えにうなずいて、相手を観察するのによさそうな場所を探す。
 俺と勇者は魔力を使って夜目が利くし、メルリルに至っては人間の目以外の感覚で世界を見ることが出来るらしいので周囲が真っ暗でも問題ないのだが、本来聖騎士だけは魔力がないので自分の力で暗闇を見透かすことが出来ない。
 そこで、町長宅を出立するときに聖女に夜目の魔法をかけてもらっていた。
 おかげで俺たちは現在灯りなしで行動することが出来ている。

「畑に水を引いているのか、水路が道の脇にありました。こう草が多くては手元に持つ灯りだったら落ちていたかもしれませんね」

 聖騎士が周囲を見渡しながら言った。
 旧街道周りはあまり手入れがされておらず、背の高い草が多く生えている。
 そのせいで農道脇にある水路が全く見えない状態になっていた。
 うかつに草むらだと思って足を踏み入れれば水に落ちて凍える思いを味わっていただろう。

「道も草がかなり生えているし、状態のいい獣道という感じになっているよな」

 聖騎士の言葉に答えて、俺は旧街道を評価する。
 道というのは使われなくなるとたちまち草に侵食されてしまうものだ。
 旧街道も昔は東の大きな領主町との交流でかなり賑わっていたらしいが今は新街道にその地位を奪われ、国が保全もしてくれなくなったので、段々使い辛くなって来ているとのことだった。
 地元の人間にとっては大切な道なのだが、自分たちで保全する余力がないのだ。
 今の俺たちの状況からすると、潜む場所に不自由はしないということでもあるが、それはまた、盗賊などが潜みやすいということでもある。
 旧街道が廃れることで、旧街道沿いの町や村は少しずつ危険にもなっていた。
 とりあえず今の俺たちには関係ないことだが、潜みやすいが見通しが悪いというのは少し勝手が悪い。

「フォルテ頼むぞ、お前が頼りだ」
「キュッ!」

 ここでもフォルテの空からの視点は大助かりだった。
 フォルテの視界は昼でも夜でも見たいように見えるし、かなり遠くまでくっきりと認識出来る。
 フォルテがいるおかげで調査依頼は格段にやりやすくなっていた。
 今後また普通の冒険者として活動を再開したとしても、頼もしい相棒として活躍してくれるだろう。

 さて、今夜の月は赤味が強い面が半分だけ見えていて、魔の力が強いとされる夜だ。
 同じ魔のものとするならば、誘われて出て来てくれるといいんだが。

「まだかな」

 勇者がじれたように呟いた。

「町長の話だと夜明け前の一番暗いときということだからもうしばらく時間がある。用を足したいなら行って来い」
「そうじゃないけど、暇だから」

 お前まだ着いたばっかりじゃないか。
 これからかなり待機が続くんだぞ、大丈夫か?

「調査ってのは待つことが基本なんだ。じっと待てない人間に冒険者は務まらない。まぁお前は冒険者じゃないからな。嫌なら今からでも町長の家に戻っていいぞ」
「ま、待てないとは言ってない」

 俺が言外に帰れと言ったのを感じたのか、勇者が慌てたように言い訳した。

「なら待て」

 剣聖は座り込んでじっと意識を研ぎ澄ませているようだ。
 騎士がときどきやっている、剣を立ててその柄に額をつけ、片膝をついた姿勢である。
 何か意味がある姿勢なのだろうか。
 勇者は手元の土を掘り返して、小さな虫を見つけて遊び出した。
 ……まぁうるさいよりはいいか。
 メルリルは目を閉じて小さく何かを呟いている。
 歌、かな? 巫女メッセリの力を使っているのだろうか。
 俺はまずは自分の目で現場を確認する作業を始めた。
 道に生えている草は同じ場所を踏まれたらしく倒れて枯れた痕が長く続いている。
 これは荷車の通った痕だろう。
 首なし騎士は馬に乗っているらしいが、道にはここ最近の馬の蹄の痕はなかった。
 この辺りの荷車は人が引いているらしい。
 早駆けしている姿が目撃されているので、もし実体なら蹄の痕は深く残る。
 それは実体ではない、つまり魔物ではないということを意味していた。
 やはり幽霊なのだろうか。
 俺は以前までは幽霊というのは夢のなかに現れる程度のものであって、現実世界に何かの影響を及ぼす存在ではないと思っていた。
 しかし、あの大公国の館で会った少女は、まるで生きている者のように俺と話し、首飾りまで持って来た。
 あれが本当に幽霊だったとしたら、その存在は世界に影響を及ぼせるということだ。

「ダスター」

 メルリルの小さな声が俺を呼んだ。

「来たか」

 俺の問いにメルリルは小さくうなずく。
 すぐに勇者と聖騎士も体勢を整えた。

「何を見ても今夜は何もするんじゃないぞ」
「わかってる」
「はい」
「わかった」

 調査前の打ち合わせで話したことをここでもう一度確認する。
 全員が深くうなずいて答えた。
 やがてソレは姿を見せる。
 ドカッ! ドカッ! という独特の蹄の音。
 馬を急がせているときの焦りを感じさせる響きだ。
 町長の言った通り、早馬のように見える。
 姿はぼんやりと白い。
 馬はこの辺りでよく使われている背の高い大柄なもので、戦用に防刃の馬用鎧を装着していた。
 騎士はマントをつけた大柄な姿で、腰には剣をいている。
 首があるはずのところには何もない。
 聞いた通りの姿だった。
 眼の前を通り過ぎて西から東へと向かって走って行く。
 俺はフォルテの視界を借りてその先を追った。
 首なし騎士は周囲を全く気に留めず、ひたすら道なりに東へ向かっている。
 やがて、その向かう先が明るくなり始め、馬の速度が更に上がった。
 だんだんと明るくなり、周囲には朝もやが漂い始める。
 周囲のものが太陽の光でくっきりと見えるようになったとき、首なし騎士の馬が竿立ちになり悲鳴のようないななきを上げた。
 そして唐突にその姿は消え去る。
 あまりにも唐突すぎて拍子抜けするほどだった。

「消えた」
「ダスターわかった。あれは確かに人が精霊メイス化したものよ。平野人が幽霊と呼ぶものに間違いないと思う」

 俺がその消失を伝えると同時に、メルリルが相手の正体を告げる。

「害意はない。焦りと哀しみ、絶望と希望、そんな感情が伝わって来た」

 ただひたむきに何かを求めているということなのだろうか。
 俺はあの屋敷にいた少女を思い出す。
 死した後も守りたい何かがあるというのは果たして幸せなのか不幸なのか。
 まぁとりあえず俺としては、相手が何を感じていようが、この件を解決するだけなんだけどな。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。