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第四章 世界の片隅で生きる者たち
295 路地裏の邂逅
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軽い食事を終えた俺たちはまた問題の本を探し始める。
今度は書店店主の助言により、個人出版のものだけを扱うという少し特殊な店を訪ねることにした。
結果的に最初の大通りにある書店から徐々に奥まった店へと移動することになった結果、俺たちは複雑な路地に迷い込んだような形になった。
とは言え、フォルテがいるので本当に迷うことはない。
「フォルテ、すまんがまた上から探してくれ」
「キュッ!」
すでに何度かフォルテに頼んで上空から探索をしているが、街全体から見た位置は把握出来るものの、狭い路地はさまざまなもので上から下を完全に見通せなくなっている。
探している店がどこにあるのか、なかなか見つからなかった。
「この狭さは砦を思い出します」
聖騎士クルスがそんなことを口にする。
「砦の内部はそんなに狭いのか?」
「広い区画もあるのですが、狭い空間になるべくたくさんの人間を詰め込むような造りとなっているので、一般的な城や屋敷とは比べ物になりませんね。そのおかげで騎士団のなかでは砦に赴くのは一種の罰のような感覚でした」
「なるほどなぁ」
現在通っている道は、道というよりも家と家の隙間と言ったほうがいいだろう。
こんなところに店があるのか? と疑問に思わないでもないが、書店の店主が地図に印をつけた場所はこの辺りなのだ。
「ククッ」
「ん?」
フォルテが何かを警告するように鳴き声を上げる。
俺はフォルテのほうに集中して視界を繋いだ。
すると、建物を挟んだ一つ向こうの道で騒動が起きていた。
子ども、いや、ぎりぎり成年か? そういう年頃の男女が複数人争っていたのだ。
グループ同士の内部抗争か、集団による少数への暴力というところだろう。
関わるべきか関わずに無視するべきか少しだけ迷った。
基本的に地元の問題に余所者が首を突っ込むとろくなことにはならないものだ。
と、片方の少年が刃物を取り出した。
それにひるんだらしい青年が足をもつれさせて転ぶ。
勢い余って少年のナイフが青年の顔面に刺さろうとしていた。
「ピーッ!」
「うわっ、なんだこの鳥!」
「イテッ! イテッ!」
「おい、ナイフを出すのはやべぇだろ、衛兵が出て来るぞ!」
フォルテがナイフを持った少年の手に突っ込み、その場は混乱に陥った。
「あ、君たちすまない」
そんな状態のところに、何気ない風を装って踏み込む。
若者たちは衛兵の話をしていたからか、ビクッと飛び上がるように驚き、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
素早いな。
その結果、後に残ったのは先程転んだ青年と、その青年にすがりついている少女のみだった。
俺は何が起こっていたのか気づかなかった風を装って彼らに尋ねる。
「ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」
おお、すごく警戒されているな。
じいっと睨んだまま口を開こうともしない。
「店を探しているんだが、もし教えてくれるならその分の案内料を払うぞ」
こういうときは現物を見せるのがいい。
俺は小分けにしてある物入れのなかから大銅貨を三枚ほど引っ張り出す。
「……どこへ行きたいんだ?」
青年は立ち上がってズボンについた汚れを払うと俺に答える。
「この辺りに個人出版の本を専門に扱う店があると聞いたんだが」
「ああ、貸本屋か」
「貸本?」
「本は高えだろ? だから買えないけど読みたいって連中のために安い金で貸し出している店さ」
「売ってはいないのか?」
「個人が作っている本は普通の書店では扱えないんだ。だからそういう貸本屋で売るんだよ」
「なるほどなぁ」
いろいろおもしろい制度があるんだな。
確かにあの値段では生活に余裕がない庶民が本を買うのは難しいだろう。
「ばあちゃんのお店、案内するよ」
すると、それまで口を利いてなかった少女がぼそりと言った。
よく見ると、その少女は体に魔力の輝きを帯びている。
この国ではわりと珍しい魔力持ちのようだった。
「君のおばあちゃん?」
「ううん、違う。でも貸本のばあちゃんやさしいから」
「そっか」
「っ、おしゃべりはよせ。こっちだ」
青年は少女を俺から遠ざけると、道案内を始めた。
と、役割を終えたフォルテがふわりと俺の肩にとまる。
「……その鳥、あんたのか?」
「ああ」
「そうか、さっきは助かった」
「礼を言われるようなことじゃないさ。道案内が欲しかっただけだし」
青年はそれ以上は特に口を開くことをせずに狭くて複雑な道をどんどん先へ行く。
一方少女のほうは俺の後ろに続く二人が気になるようでちらちら見ていた。
「あっ」
あまりにも気を取られすぎたのか、今度は少女が転びかけた。
咄嗟に支えようとしたが、その前に少女の体から風が起こり、転びかけた体を立て直す。
「ハルナっ!」
青年が真っ青になって少女を叱咤する。
その声にビクッとした少女はブルブルと震えだした。
「なんで怒るんだ? 咄嗟に魔力を放出しただけだろ? 俺はそういうタイプの魔力の使い方は苦手だが、この程度なら出来るぞ」
俺は拳に魔力を集めてうっすらと光らせてみせる。
それを見た少女はパッと顔を輝かせ、少年は驚いたように俺の顔と拳の光を見た。
「あんた魔法使いか?」
「いや、ただの冒険者だが」
「ただの冒険者が魔法を使うのか?」
「これは魔法じゃないぞ。魔法使いってのは祝福の紋章持ちの連中のこったな」
俺はそう言って肩をすくめる。
「魔法使いの国、本当にあったんだ」
いや、うちの国は魔法使いの国って訳じゃないぞ。
まぁ貴族のほとんどは魔法使えるけどな。
ん? あれ? そういうのは他所から見たら魔法使いの国ってことになるのか?
いやいや、西方の国々の貴族はだいたい魔法使えるだろ。
そもそもこの国だって、貴族は使えるはずだぞ、大神殿から祝福を受けているはずだからな。
そんな俺の思いを他所に、青年と少女はなんだかポカンと口を開けたまま、夢でも見ているような顔つきで、俺をじっと見ていたのだった。
今度は書店店主の助言により、個人出版のものだけを扱うという少し特殊な店を訪ねることにした。
結果的に最初の大通りにある書店から徐々に奥まった店へと移動することになった結果、俺たちは複雑な路地に迷い込んだような形になった。
とは言え、フォルテがいるので本当に迷うことはない。
「フォルテ、すまんがまた上から探してくれ」
「キュッ!」
すでに何度かフォルテに頼んで上空から探索をしているが、街全体から見た位置は把握出来るものの、狭い路地はさまざまなもので上から下を完全に見通せなくなっている。
探している店がどこにあるのか、なかなか見つからなかった。
「この狭さは砦を思い出します」
聖騎士クルスがそんなことを口にする。
「砦の内部はそんなに狭いのか?」
「広い区画もあるのですが、狭い空間になるべくたくさんの人間を詰め込むような造りとなっているので、一般的な城や屋敷とは比べ物になりませんね。そのおかげで騎士団のなかでは砦に赴くのは一種の罰のような感覚でした」
「なるほどなぁ」
現在通っている道は、道というよりも家と家の隙間と言ったほうがいいだろう。
こんなところに店があるのか? と疑問に思わないでもないが、書店の店主が地図に印をつけた場所はこの辺りなのだ。
「ククッ」
「ん?」
フォルテが何かを警告するように鳴き声を上げる。
俺はフォルテのほうに集中して視界を繋いだ。
すると、建物を挟んだ一つ向こうの道で騒動が起きていた。
子ども、いや、ぎりぎり成年か? そういう年頃の男女が複数人争っていたのだ。
グループ同士の内部抗争か、集団による少数への暴力というところだろう。
関わるべきか関わずに無視するべきか少しだけ迷った。
基本的に地元の問題に余所者が首を突っ込むとろくなことにはならないものだ。
と、片方の少年が刃物を取り出した。
それにひるんだらしい青年が足をもつれさせて転ぶ。
勢い余って少年のナイフが青年の顔面に刺さろうとしていた。
「ピーッ!」
「うわっ、なんだこの鳥!」
「イテッ! イテッ!」
「おい、ナイフを出すのはやべぇだろ、衛兵が出て来るぞ!」
フォルテがナイフを持った少年の手に突っ込み、その場は混乱に陥った。
「あ、君たちすまない」
そんな状態のところに、何気ない風を装って踏み込む。
若者たちは衛兵の話をしていたからか、ビクッと飛び上がるように驚き、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
素早いな。
その結果、後に残ったのは先程転んだ青年と、その青年にすがりついている少女のみだった。
俺は何が起こっていたのか気づかなかった風を装って彼らに尋ねる。
「ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」
おお、すごく警戒されているな。
じいっと睨んだまま口を開こうともしない。
「店を探しているんだが、もし教えてくれるならその分の案内料を払うぞ」
こういうときは現物を見せるのがいい。
俺は小分けにしてある物入れのなかから大銅貨を三枚ほど引っ張り出す。
「……どこへ行きたいんだ?」
青年は立ち上がってズボンについた汚れを払うと俺に答える。
「この辺りに個人出版の本を専門に扱う店があると聞いたんだが」
「ああ、貸本屋か」
「貸本?」
「本は高えだろ? だから買えないけど読みたいって連中のために安い金で貸し出している店さ」
「売ってはいないのか?」
「個人が作っている本は普通の書店では扱えないんだ。だからそういう貸本屋で売るんだよ」
「なるほどなぁ」
いろいろおもしろい制度があるんだな。
確かにあの値段では生活に余裕がない庶民が本を買うのは難しいだろう。
「ばあちゃんのお店、案内するよ」
すると、それまで口を利いてなかった少女がぼそりと言った。
よく見ると、その少女は体に魔力の輝きを帯びている。
この国ではわりと珍しい魔力持ちのようだった。
「君のおばあちゃん?」
「ううん、違う。でも貸本のばあちゃんやさしいから」
「そっか」
「っ、おしゃべりはよせ。こっちだ」
青年は少女を俺から遠ざけると、道案内を始めた。
と、役割を終えたフォルテがふわりと俺の肩にとまる。
「……その鳥、あんたのか?」
「ああ」
「そうか、さっきは助かった」
「礼を言われるようなことじゃないさ。道案内が欲しかっただけだし」
青年はそれ以上は特に口を開くことをせずに狭くて複雑な道をどんどん先へ行く。
一方少女のほうは俺の後ろに続く二人が気になるようでちらちら見ていた。
「あっ」
あまりにも気を取られすぎたのか、今度は少女が転びかけた。
咄嗟に支えようとしたが、その前に少女の体から風が起こり、転びかけた体を立て直す。
「ハルナっ!」
青年が真っ青になって少女を叱咤する。
その声にビクッとした少女はブルブルと震えだした。
「なんで怒るんだ? 咄嗟に魔力を放出しただけだろ? 俺はそういうタイプの魔力の使い方は苦手だが、この程度なら出来るぞ」
俺は拳に魔力を集めてうっすらと光らせてみせる。
それを見た少女はパッと顔を輝かせ、少年は驚いたように俺の顔と拳の光を見た。
「あんた魔法使いか?」
「いや、ただの冒険者だが」
「ただの冒険者が魔法を使うのか?」
「これは魔法じゃないぞ。魔法使いってのは祝福の紋章持ちの連中のこったな」
俺はそう言って肩をすくめる。
「魔法使いの国、本当にあったんだ」
いや、うちの国は魔法使いの国って訳じゃないぞ。
まぁ貴族のほとんどは魔法使えるけどな。
ん? あれ? そういうのは他所から見たら魔法使いの国ってことになるのか?
いやいや、西方の国々の貴族はだいたい魔法使えるだろ。
そもそもこの国だって、貴族は使えるはずだぞ、大神殿から祝福を受けているはずだからな。
そんな俺の思いを他所に、青年と少女はなんだかポカンと口を開けたまま、夢でも見ているような顔つきで、俺をじっと見ていたのだった。
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