勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第四章 世界の片隅で生きる者たち

280 報告会1

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「師匠! 心配した! もう少しで衛兵詰所に駆け込むところだったぞ!」

 宿に戻ると、なぜか俺の部屋に勇者以下全員が集合していた。
 
「バカを言うな、いい大人が夜遅くまで帰って来ないぐらいで騒ぎ立てるようなことじゃないだろ。酒場に行くことだってあるだろうが」
「でも、伝言もなかったし」
「だから、お前は俺の保護者じゃないし、俺もお前の保護者じゃない、数日行方不明というならともかく、ひと晩程度帰らないぐらいで騒ぐようなことじゃないだろうが。そしてなぜ俺の部屋にいるんだ? お前たちの部屋のほうが広いだろ?」
「この部屋に師匠が帰って来るから」

 帝都ではそれなりの格の宿を取っているので、従者という立場の俺の部屋も安い雑魚寝部屋とは違い、ちゃんと個室だし、そこそこ広い。
 だが、せいぜい客が来ても二人か三人になることしか想定していないような部屋なのだ。
 いい大人が五人も入るとさすがに窮屈だった。

「とにかく出てけ、用事があるなら後でお前の部屋に行くから」
「わかった。今日の報告会をしよう」

 勇者はそう言うと、全員がゾロゾロと退室した。
 何かやたらテンションが高い勇者に続いて、聖女とモンクがわずかに手を挙げて軽く挨拶をしてくれ、聖騎士が丁寧に礼をして部屋を出る。
 
「ふう」

 俺はこのままベッドに横になりたかったが、そういう訳にはいかないだろうな。
 一つ頭を振ると、外套を外して勇者の部屋に向かう。
 嫌なことはさっさと済ませたほうがいい。
 途中、俺と一緒に戻ったばかりのメルリルも誘う。

「わたし、ちょっと何か食事をもらえないか聞いて来る」

 勇者の部屋には勇者パーティ全員が集まっていたが、俺の顔を見たモンクがそう言って部屋を出る。
 そう言えば夜の食事を摂っていない。
 本来従者である俺の役割なんじゃないかと思い、モンクを止めようとしたら、「アルフの話聞いてあげて」と、頼まれてしまった。
 仕方ないな。
 その代り、メルリルがモンクと共に受付に向かった。
 宿のなかとは言え、女性だけで夜に行動させるのは不安があるが、あの二人が揃っていて万が一もないだろうし、俺は俺に求められている役割を果たすか。

「それで、どうだったんだ?」

 茶を淹れようとしたら今度は聖騎士に止められ、勇者の対面に座っておとなしく話を聞いてやることにした。
 どうやら何か報告したくてうずうずしているようだしな。

「これ見てくれ!」

 そう言って勇者が取り出したのは、一枚の書面。渡航許可証だ。
 いくつかのサインがきっちり入っている。
 この書類を所持している者たちの帝国籍船舶への乗船と出国を許可するという内容だ。
 おお、きっちり取得して来たのか。もっと時間がかかると思っていたが、がんばったな。

「すごいな、面会してその日に許可証をもらって来るとは。さすが勇者だ」
「そうだろ、がんばったんだぜ! 皇帝はやたら自慢話ばかりしてこっちの用事を聞こうとしないし、挙げ句の果てになぜか自分の家族を紹介し始めるしで、いっそ締め上げて書かせてやろうかと思ったぐらいだ。席を蹴って帰ろうと思ったことも何度もあったんだぞ」

 皇帝陛下、せっかく勇者に会ったんだからいろいろ話したかったのか? てか家族の紹介とかなんだ?
 あー、もしかして。

「もしかすると、皇帝陛下には年頃の娘さんがいるのか?」
「よくわかったな。ちょうどいい娘がいるとか意味がわからないことを言い出して紹介されるし、イライラしたぞ」

 本気で言っているのかな? 元貴族なんだから女性を使った懐柔とか多かったんじゃないかと思うんだが。
 貴族だった頃は体はそれなりに育っていても精神が子ども過ぎて女の魅力に気づかなかったとかその辺りか?
 なんか段々こいつが不憫になって来たぞ。

「そ、そうか。まぁでもそんな状態からよく許可証の発行に持ち込めたな。雰囲気的に難しかっただろう」
「ああ、だからダラダラした話を打ち切って、用事を先に済ませてもらった」
「……皇帝陛下は気分を害された様子はなかったか?」
「大丈夫だ。かなりおべんちゃらを言っておいたからな。がんばって褒めるところを探して褒めちぎったぞ」
「それなら問題ないか。よくやったな!」

 ちゃんと相手を上げて遺恨のないように話をしたようだ。
 よかった。
 特に自分に自信がある女性は、男に相手にされないと逆恨みする場合があるからな。
 出来るだけ褒めちぎっておくのが肝心だ。

「そうそう、その後お茶会につきあわされたんだが、そこに吟遊詩人が招かれていて」
「ほう」

 ちゃんと相手の顔を立てて茶会に出席したのか。
 本当に頑張ったんだな、勇者。

「師匠と俺の詩をやっていたんだが、少々間違いがあったので訂正しておいた。間違っている部分を除けばいい歌い手だったな」
「……ちょっと待て。お前と俺の詩とはなんだ?」
「ん? どうやらその吟遊詩人、大公国から大聖堂を経由して来たらしいんだが、大公国での、ほら、あの人さらい共? あいつらを捕まえた話がかなり脚色されて詩になっていた」
「は? いや、いくら吟遊詩人が情報に通じているとはいえ、詩になるのが早すぎないか? というか、なんで俺がお前と活躍したことになっているんだ? 俺はあのときあくまで従者として表に出なかっただろうが!」

 俺は血の気が引くような心地で確認した。
 吟遊詩人の詩になってしまったら、西方諸国全体にその話が広がってしまうということだ。
 冗談じゃないぞ。

「それが、大公国ではあの炎の貴公子とやらの英雄譚が定期的に作られていて、そのための話の種を集める情報網があるらしいんだが、どうもそこに引っかかったとかで、それを俺が関わった物語を集めている吟遊詩人が知って、まぁ皇帝の茶会で歌った奴なんだけどな。そこで情報を買って、インスピレーションを感じて即興で作ったとか言ってたな」

 どうやら吟遊詩人には独自の組織があるっぽいな。
 いや、それは今はどうでもいい。

「まさか名前は出ていないよな?」
「ああ、名前は知られていないようだった。熟練の冒険者と勇者が共闘したとか、古城を守る精霊の乙女の願いに応えて俺が悪人を倒したとか、連中らしい話を作ってたな」
「そうか……」

 まぁ名前が出てないならなんとかごまかせるか。

「ただ、師匠の活躍が地味過ぎた。だから俺がちゃんと、どれだけ師匠が凄い冒険者かということをきっちり伝えて来たから安心していいぞ」
「不安でしかないわ。お前まさか俺のことを師匠とか言ってないよな?」
「大丈夫だって。俺を信じてくれ」

 信じられないから不安なんだが。
 しかしもう過ぎたことだ。今更どうにも出来ない。
 今後、変な話が広まってないか気をつけるしかないだろう。

「ところで師匠は何をしていたんだ?」
「ああ、いろいろゴタゴタがあった」

 今日起こったことを思い出して俺はため息をついた。
 考えてみたら一日のうちにいろんなことが起きすぎて疲れたな。
 俺が思いを巡らせていると、部屋のドアが軽く叩かれる。

「戻ったよ」

 モンクとメルリルだ。
 聖騎士が扉を開けると、料理の乗ったワゴンを押して二人が入って来る。

「まずは飯にするか」

 全員の同意を得て、俺たちは食事の準備を始めたのだった。
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