勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第四章 世界の片隅で生きる者たち

278 ドラゴンというイレギュラー

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「さっきもちょっと言ったが、俺たちは蒸気機関列車に乗って帝都にやって来た。丁度二日前のことだ。そしてドラゴンがその列車の上を通ったのは到着の日の午前中だ」
「ふむふむ。それならおそらく当局に届けが出ているはず。まだ連絡が来ないとは、お役所仕事のなんととろいことか!」

 エリエル氏、連絡の不備にご立腹のようだ。

「それで、色はどれでした? も、もしや青のドラゴンがあなたを追って来たということは?」
「いやいや、それはない。あのドラゴンはそもそも俺には用がないはずだからな。見た感じでは白っぽかったが、何しろ空の高いところを飛んでいて、太陽も眩しかった。あまり確信は持てない」
「いえいえ、大丈夫です。白っぽかったということは間違っても黒や赤ではないでしょう。もし黒や赤が人の集落近くを飛行していた場合、どこかを襲う危険がありますからね。まずはよかった」
「それなんだが、昔からドラゴンは白と緑が安全、黒と赤が危険と伝えられて来たよな。それに根拠はあるのか?」

 本来の用事とは違うが、せっかく専門家と話をする機会があるのだからと、話の流れで気になっていたことを聞いてみる。

「冒険者の方々は独自の情報網がありますよね。それではどのように伝わっているのですか?」

 逆に聞かれてしまった。
 まったく、研究者という連中は自分の好奇心優先だよな。

「そうだな。白は賢者、緑は温厚、赤は凶暴、黒は死と伝わっている」
「ふむ、簡潔で大変本質を捉えた伝わり方ですね。実を重んじる冒険者らしいです。僕もドラゴンを調査するに当たって、まずは白に接触することを選びました。伝承を調べた結果、白のドラゴンは最も人間との取引を行っているからです。彼らは知的好奇心に満ちていて、知らないことを知りたいという欲求が大きいのです。それだけに物知りでもある」
「それはわかる」

 俺は大森林のダンジョンの件で話をした白いドラゴンのことを思い出した。
 そもそもこのドラゴンの色に関しては白のドラゴンからの情報があった。彼らが群体生物のようなものであるという話だ。
 だが、なにしろドラゴンの言うことだ。人間との感覚の違いで誤解の生じることもある。研究家の見解も聞いてみたかった。
 俺にはこの話にどうしても納得出来ない部分があった。過去には黒や赤のドラゴンが人間を襲った記録が何度かある。小さな集落や国を滅ぼしたことすらあった。
 白のドラゴンの話を聞いたときから感じていたのだが、ドラゴンの話、なによりもドラゴンと神が交わしたという盟約には少し矛盾があるような気がするのだ。

「彼らは一体一体が個別の人格、いや、竜格を持っていますが、本来は集団意識を持った生き物です。あの体色はそれぞれの役割分担のようなものですね。つまり彼らは怒りや憎しみを分離することで、精神をコントロールしていると言えるのです」

 言われて、俺はダンジョンの件で勇者と揉めた黒いドラゴンを思い出す。
 全く話が通じなさそうな相手だった。
 白いドラゴンに狂気を司る黒呪とか呼ばれていてたっけ。
 とりあえずここまでは白のドラゴンの話と同じだな。

「だがそれだと、怒りや呪いだけを持ったドラゴンは危険極まりない存在となるだろう?」
「そうです。そこで重要となるのが、ドラゴンの群れのなかの順列です。ドラゴンはとても理性的な生き物で、自ら作った決まりを破ることがありません。その決まりによって呪いや怒りのドラゴンを制御しているのです。それゆえ彼らは知恵ある種族でありながら個体名を持ちません。群れ自体が大きな意味での一個体だからです。つまり営巣地ごとの群れを個体名で呼ぶというのが認識としては正しいと言えます」
「なるほどなぁ」

 ダンジョンの件で対峙した大森林のドラゴンは確かに白い奴が黒い奴を制御していたように見えた。
 ただ、黒いのが勇者たちを脅かしていたのを知りながら、積極的に止めようとはしなかった。
 俺が頼むことで重い腰を上げたような感じだ。
 普段は赤や黒が何をしようと気にしてないという態度だった。まぁあれは俺に対するある種の煽りのようなものだったのかもしれない。
 だけどどうしても引っかかりを感じる。
 俺はそれをうまく言葉に出来ないでいた。

「色の違いについてはわかった。元の話に戻るが、ドラゴンが上空を横切って飛んで行ったのは理由があるのか?」
「ふむ。それは少し説明が難しくなるのですが、基本的にドラゴンは自由な生き物ですから、営巣地から離れることもあります。滅多にはありませんけどね。ただし、彼らは飛ぶときには深夜から夜明け前を選びます。理由としてははっきりとはしていないのですが、生体への影響を配慮してと考えられます。後、狩りのためですね。ご存知かと思いますが、ドラゴンはその存在感によって生体に大きな威圧感を与えます。相手がいすくんでくれれば狩りに有利と考える向きもありますが、実は逆の場合も多い。臆病な生き物ほど遠くからドラゴンの気配を察知して逃げ隠れしてしまうのです。だからこそドラゴンは相手が寝ているときに狩りを行うほうを好みます。ただ、ドラゴンたちは面倒な狩りを嫌って、食料となる魔物を自ら育てているので、狩りは趣味で行っていることもあるようです。その場合は昼間飛ぶこともある。しかしそれは白ではない。白は滅多に外に出ません」

 長い。
 つまり結論としては、白が昼間っから飛ぶのはおかしいってことなんだな?

「ということは白のドラゴンが巣を離れたということは、異常事態と言えるのか?」
「まだ判断は難しいですね。その確認のために営巣地で調査を行わないと」
「そうか」

 俺は学者じゃないから、そこまで綿密な調査や裏付けは必要ない。
 普通とは違うという事実があればいい。

「あと、もう一つ。ドラゴンと神の盟約について知っているか?」

 俺の言葉に、ドラゴン研究者夫妻はまたしても揃ってぎょっとした顔になった。
 驚きすぎじゃないか?

「それはどこで聞きました?」
「実を言うと、俺は勇者の従者なんだ。だから勇者から聞いた」

 俺がそう言うと、夫婦はほっとしたように緊張を緩めた。
 おい、勇者、もしかしてこの話、部外秘だったのか?
 そういうことなら一言注意しておいてくれよ!

「勇者さまの従者殿でしたか。どうりで博識だと思いました。なるほどドラゴンとの盟約も結ぶはずです」

 エリエル氏がそう言うと、パスダさんもうなずいた。
 いや、そういうのはいいから。

「そういうおためごかしはいいから、研究者としての意見を聞きたいんだが、ドラゴンがこの世界と大きく関わらないというのは間違いないと思うか?」
「そうですね。研究者として正直な意見を言わせてもらえば、そもそもの前提が無理な話だと思っています」
「前提が無理?」
「ええ。ドラゴンはその存在の影響力が大きすぎます。彼らがそのつもりはなくても、その存在が世界に与える影響は大きいでしょう。盟約で縛ること自体が無理なのです。ですから盟約で縛られているのは、単なる変化ではないのではないかと推測出来ます。世界を大きく変えないというのは、ドラゴンたちが本質から目を逸らさせるために、人間に告げるときにあえてソフトに表現したのではないかと」
「本質から目を逸らさせる?」
「ええ。本当の盟約を知れば、人間が彼らを怖れ、なんとしても滅ぼそうとするだろうと考えたからではないかと。何しろドラゴンは長生きで賢い生き物ですから」

 俺は眉をひそめた。
 人間があの強大なドラゴンを滅ぼそうとする? どう考えても無理な話だが、エリエル氏はドラゴンを長年研究している学者だ。根拠なく言ってる訳ではないのだろう。

「じゃあ、本当の盟約はなんだと思っているんだ?」
「ドラゴンがこの世界と交わした盟約は、世界を破壊しないこと。おそらくはそれで間違いないと思っています」
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