勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第四章 世界の片隅で生きる者たち

277 ドラゴンが見ている?

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「いや、驚いた。ドラゴンとの盟約と言えば、初代勇者のものが有名だけど、実はそのほかにもあまり知られていない盟約があるんだ。だからあなたの盟約も意外だけどあり得ない訳ではないとは理解出来る。だけど、やっぱり驚くよね」

 驚きから覚めると、ドラゴン研究者のエリエル氏はまくしたてるように言った。
 しかし、初代勇者以外にドラゴンとの盟約を結んだ例があるのか、俺もさすがに知らなかったな。

「これは貴重な資料ね。ちょっと待ってて筆記するから」

 パスダさんのほうは、そう言うが早いか、文机と紙束、ペンを持ち出して俺たちの話を書き起こす気満々だ。
 あ、あのペン、例のインク壺がいらないやつだ。
 俺の隣ではメルリルが、話の展開についていけずにオドオドしている。
 耳がピクピクしていて大変可愛いが、落ち着こう。

「盟約と言っても、俺のは一方的に押し付けられたようなもんだ。その、なんだ……」

 ふむ、相手がドラゴンとは言え、他人の恋路を本人の預かり知らぬところで他人に語るのはためらわれるな。

「まぁドラゴンはだいたいにおいて、一方的だよ。あまり対等に話が出来る相手じゃない。ちょっと意識というか考え方というか常識が違うんだね。基本的に盟約はあっちの都合のことが多いんだ。それもドラゴン側からしたら、大した理由じゃなかったりする。で、あなたの盟約はどんなものだったの?」
「ん、ああ。実は棲家が違うドラゴンにプロポーズをしたいから繋ぎを取ってくれというものだった」
「なんと、ロマンチックだね!」

 エリエル氏はパンと手を叩いた。
 ご機嫌である。

「それで、伝言を届けに来たところな訳? よかったら同行させてもらってもいいかな?」
「ん? ああいや、もうその役目は終わった。ここには別の用事で来ている」

 なるほど、そう言えばこの国の近くにドラゴンの営巣地があるんだったか。
 そこに行くためにこの国にはるばるやって来たと勘違いされたんだな。

「終わった?」
「ああ」

 エリエル氏はポカーンと口を開けると、慌てて首を振った。

「いやいや、そんなはずはないよ。だって、あなた、まだ盟約の影響を受けているよね。実はもう一つ、何か託されてないかい? もしかするとあなた自身気づいていないようなことかもしれないけど」
「……いや、青のドラゴンとの盟約はそれだけのはずだ」
「青!」
「ああ、言ってなかったな。俺と盟約を結んだのは青いドラゴンだった」

 俺の言葉を聞いた途端、エリエル氏はそれこそ爆発したように飛び上がり、すごい勢いでどこかへとすっ飛んで行った。
 言葉をかける暇もない。

「ええっと」
「大丈夫。じゃあ話を進めるわね。あなたが青いドラゴンと盟約を結んで、頼まれた仕事は無事に終わった。その代償として何かもらった?」
「もらったとしたらこいつかな?」

 俺は頭の上でスウスウ寝息を立てているフォルテをつつく。
 パスダさんはじっと俺の頭上を見つめると、にじり寄って来てテーブルの上に登り、俺たちが慌ててカップを持ち上げるのを気にもせずにフォルテを観察した。
 救出手のいなかったエリエル氏のカップは倒れて中身がこぼれてしまっている。

「まぁまぁ、ほんと、これはドラゴン光ね。今までなんで気づかなかったのかしら? ああ、そうね、もちろん存在力のコントロールのせいに違いないわ。素晴らしいわ。ドラゴンの力を感じるけれど、その子はドラゴンではないのね。ああ、わかった。その子こそがあなたの盟約ね! 大変だわ、あなた繋がりし者になっているじゃないの」

 パスダさんもやっぱり研究者だったんだな。
 研究対象に夢中になると周りが見えなくなるっぽい。

「あの、テーブル、汚れますよ?」

 俺はお茶がこぼれているテーブルを示して言った。

「まぁ、ごめんなさい」

 パスダさんは慌ててテーブルから降りると、すぐに手巾を持って来て、お茶を拭き取り、倒れたカップを回収して行った。手際がいい。研究に熱を入れながらも、日常のこともきっちり出来るタイプのようだ。
 しかし、繋がりし者と言ってたな。
 俺自身にはなんとなくそういうことなんだろうなという自覚はある。
 フォルテが俺のなかに入り込むことが出来るし、逆に俺がフォルテと意識を重ねることも出来る。
 それは俺の魂に盟約としてフォルテが書き込まれているからなんだろう。
 盟約とは形があるものの、その実体は魂に刻まれる徴だ。
 だから盟約者以外が目に見える盟約の徴を奪おうとしても無理だし、意味がない。
 そのことは神の盟約について教会で習うときに教わった。
 
「あの、大変というと、問題があるということなんでしょうか?」
「あ、ごめんなさい。不安にさせてしまったわね。そうじゃないの。大変というのは、あなたの選択によって人類が大変なことになるかもしれないってだけ。あなたが気にすることではないわ」

 いや、それ、気になるだろ!

「え? ちょっと待ってください。俺のせいで人類に問題が起きるって話ですか?」
「いえいえ、違うのよ。あなたを通してあなたが盟約を結んだドラゴンが、人間を学んでいるの。だからドラゴンの受け取り方次第では、人間嫌いになるかもしれないわねって話よ。あなたが何かをしたせいで問題が起きる訳ではないわ」

 いやいや、ええっ! この盟約ってそういうものなのか?
 そう言えば、あのときあの青いドラゴンなんとか言ってたな、数奇な運命とか生き様とかそういうことを。
 つまり俺を通じて人間見てるから楽しませろってことだったのか? あれ。

「あらあら、そんな深刻な話じゃないのよ。ときどきドラゴンはそういうことをするの。人間だけじゃなくって、動物とか植物とかときには鉱物なんかと繋がリンクっている場合もあるのよ。と言っても、ずっと眺めている訳じゃないの。人が夢を見るように、意識の奥の部分で情報として整理して記憶していくみたいなのよ。まだまだ研究途中なんだけどね」
「ん~、少しわかりにくいが、見えているというよりも報告書を読んでいるような感じということか?」
「そういうふうに考えていいかもね。ちょっと人間には理解しにくい感覚なのよ」
「う~む」

 何かうまいことごまかされたような気がしないではないが、正直俺に理解出来る問題でもないような気もする。
 まぁいい、あの青いドラゴンに見込まれた時点で、とんでもない運命に放り込まれたと思っておけばいいだけの話だ。
 俺は脱力して椅子に深く腰掛けた。

「ダスター、大丈夫よ。あなたを見ているなら、ドラゴンが人間嫌いになったりしないわ!」
「……ありがとう、メルリル」

 なにか変な風に俺を励ましてくれるメルリルに礼を言って、身を起こして薬草茶をすする。
 うん、ちょっと渋い。
 
「待たせたね! ちょっと資料を調べて来たんだけど、やったよ! 一件だけ、青いドラゴンの目撃情報があったんだ! これ、今までは光の加減で見間違いだったのではという見解だったんだけど、あなたの話で本当に青いドラゴンがいたということが証明されたんだ! これは凄いことだよ! ドラゴン史が塗り替えられる快挙だ! そうだ、その青いドラゴンは、伴侶を求めていたんだよね? ということは、そのドラゴンは最初の発情期を迎えているということになる。なら、かなり若いドラゴンだね、ああ、もしかしてまだ生まれて十年経ってないのかも? いや、そんなことはないか、五十年程度は経っているはず。いや、でもドラゴンによって成長速度が違うから、ああ、直接見てみないと!」
「とにかく一度落ち着け。その、気が済んだら俺の話も聞いてくれないか?」

 このままでは終始この夫婦のペースで話が進んでしまう。
 俺のほうでも欲しい情報があるのだ。

「ああ、すまない。順番としてあなたのほうの話も聞くべきだね。ええっと何が聞きたいのかな?」
「まぁいろいろあるんだが、まずは、この国でドラゴンが飛んでいるのを見たんだが、あれはよくあることなのか?」

 俺がそう言った途端、ドラゴン研究者夫婦の目がまた怪しく輝く。

「詳しく!」

 いや、聞いているのは俺だからな?
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