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第四章 世界の片隅で生きる者たち
274 ドラゴン研究者
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フォルテの助けを借りながら無事衛兵詰所に辿り着いた俺は、メルリルと冶金ギルドのカホックと合流した。
「犯人は捕まえたが、攫われた人がどうなったかは衛兵の人たちに聞いてくれ」
「いや、あんたにそこまで期待しちゃいねえよ。俺を助けてくれただけで十分以上だ。ありがとよ」
「それで、俺たちはもう冶金ギルドに戻ってドラゴン研究者についての情報をもらいたいんんだが、どんな感じだ?」
「ああ、聞き取りは終わったからもういいんじゃないかな?」
「そうか。……あの、俺たちもう帰っていいですか?」
カホックの話を聞いて、俺は衛兵詰所にいる担当の人に帰る許可を取ることにした。
係の人は「少しお待ちください」と、書類を確認して、うなずく。
「はい。大丈夫です。あ、念の為連絡先を教えていただけませんか?」
「冶金ギルドでいいか?」
「カホック氏はそれでいいのですが、ダスターさんはギルド員ではありませんよね? 旅行者……でしたっけ?」
この国は西方諸国とは国交を断絶しているので、東国ならともかく、ミホムからの旅行者というのは珍しいのだろう。
よくよく聞いてみると、この国交断絶というのにも抜け道があって、旅芸人や大聖堂の特別な許可を持つ冒険者などは出入りが出来るらしい。
とは言え、滅多にいないのは間違いない。
「ああ。じゃあ泊まっている宿を教えておこう」
「お願いします」
ということで、簡単な手続きの後に衛兵詰所を後にして、俺たちは冶金ギルドに戻った。
「助かったよ。じゃあ、達成報酬と、パスダとエリエルの家の場所だ。二人には一応伝言は入れておいたが、ちゃんと見ているか怪しい。街にはいるらしいということだから直接訪ねたほうが会える確率は高いと思う」
ギルド長の、通称おやっさんが最初の契約よりもやや色をつけた報酬と、頼んでいたドラゴン研究者夫婦の情報を教えてくれた。
助かる。
「ありがとう。助かった」
「いやいや、助かったのはこっちだ。なにしろうちの技術者を助けてくれた上に犯人逮捕にも協力したって話じゃねえか。スカッとしたぜ」
「まぁ犯人逮捕は衛兵隊の手柄だからな。俺は案内しただけだし」
「それでもだよ。もしこの国でなんかあったら俺らを頼ってくれていい。これを渡しておく」
「お、おお。ありがとう」
なにやら金属のカードのようなものを渡されて何かわからないながら礼を言った。
その金属のカードには複雑な溝が走っている。
特に魔法の痕跡はないので、魔道具ではなさそうだ。
「それは我が冶金ギルドの特別ギルド員証だ」
「おいおい、俺は鉱物の精製なんぞ出来ねぇぞ」
「チッチッ、特別って言っただろうが、それがあれば俺らのギルドで便宜を図ってやれるし、俺らのギルドと取引があるところでは信用を得られるって訳だ」
「ほう。そういうことならありがたくもらっておく」
「おうよ」
そうんなこんなで俺とメルリル、そして活躍したせいで疲れたのか俺の頭上で寝てしまったフォルテは、冶金ギルドを後にしたのだった。
それと、冶金ギルドでこの街の裏地図をもらったので、目的地までショートカットが可能となった。
これが実は一番ありがたかったかもしれん。
この街、道がむちゃくちゃわかりにくいからな。
「もう日が中天を通り越したな、何か軽く食って行くか?」
「ううん、私は冶金ギルドでおやつを食べたから大丈夫。ダスターがお腹減っているならご相伴するけど」
「俺もいいかな。昼はそうそう腹が減らないしな」
「うん」
ということで、俺たちは一直線に目的地へと向かった。
目的地は、捕物で行った工場地帯とまるっきり逆方向だ。
方向で言えば南だな。
その辺りは住宅地のようだった。
住宅地とは言っても建物自体は代わり映えしないのだが、洗濯物が干してあったり、軒下に食べ物が吊るしてあったりするので、そうだろうと見当をつけただけだ。
とは言え、路地や内路地にのんびりとテーブルや椅子を出してくつろいでいる老人や走り回っている子どもの姿が目立って来たので、認識としては間違いないだろう。
俺は地図をじっくりと確認して、ドラゴン研究者の自宅近くであるらしい路地に卓を出して盤上遊戯のようなものを楽しんでいる老人たちに声を掛けた。
「お楽しみ中悪い。ここらへんにパスダとエリエルというドラゴン研究者の夫婦の家があると聞いたんだが」
「ん?」
老人の一人が俺をちらりと見て、隣のメルリルを一瞥する。
訪問相手の一人が森人ということで、メルリルの目くらましは現在は解いていた。
「ふむ、ほれ、そこだ」
老人が指差す先には庭に大きな木が目立つ家があった。
「ありがとう、これでなんか食ってくれ」
俺は大銅貨を二枚卓上に並べると、その家に向かう。
入り口はそのほかの家と全く同じ。
木製の扉と白っぽい塗り壁だ。
家によっては玄関に飾りをつけたり、壁に布を貼ったりと、ほかとの違いを出している家もあったが、この家にはそういう差別化の工夫は見られない。
俺はその扉を叩いた。
「パスダさん、エリエルさん、ご在宅か?」
家のなかはシーンとしている。
いないのかと思ったが、わずかに気配を感じるんだよな。
「すみません。ドラゴンについて少しお聞きしたいことが……」
俺がそう言うと同時に室内の気配が大きく動いた。
「ん?」
「いらっしゃい! ド、ドラゴンの情報を売りに来た人かい? か、歓迎するよ!」
そこにいたのは森人の男性だった。
そうかエリエルってのは男の名前だったのか。
森人の名前の法則はよくわからんなと思いながら、俺は大神聖帝国の帝都に住む、ドラゴン研究者の片割れとの初顔合わせをしたのだった。
「犯人は捕まえたが、攫われた人がどうなったかは衛兵の人たちに聞いてくれ」
「いや、あんたにそこまで期待しちゃいねえよ。俺を助けてくれただけで十分以上だ。ありがとよ」
「それで、俺たちはもう冶金ギルドに戻ってドラゴン研究者についての情報をもらいたいんんだが、どんな感じだ?」
「ああ、聞き取りは終わったからもういいんじゃないかな?」
「そうか。……あの、俺たちもう帰っていいですか?」
カホックの話を聞いて、俺は衛兵詰所にいる担当の人に帰る許可を取ることにした。
係の人は「少しお待ちください」と、書類を確認して、うなずく。
「はい。大丈夫です。あ、念の為連絡先を教えていただけませんか?」
「冶金ギルドでいいか?」
「カホック氏はそれでいいのですが、ダスターさんはギルド員ではありませんよね? 旅行者……でしたっけ?」
この国は西方諸国とは国交を断絶しているので、東国ならともかく、ミホムからの旅行者というのは珍しいのだろう。
よくよく聞いてみると、この国交断絶というのにも抜け道があって、旅芸人や大聖堂の特別な許可を持つ冒険者などは出入りが出来るらしい。
とは言え、滅多にいないのは間違いない。
「ああ。じゃあ泊まっている宿を教えておこう」
「お願いします」
ということで、簡単な手続きの後に衛兵詰所を後にして、俺たちは冶金ギルドに戻った。
「助かったよ。じゃあ、達成報酬と、パスダとエリエルの家の場所だ。二人には一応伝言は入れておいたが、ちゃんと見ているか怪しい。街にはいるらしいということだから直接訪ねたほうが会える確率は高いと思う」
ギルド長の、通称おやっさんが最初の契約よりもやや色をつけた報酬と、頼んでいたドラゴン研究者夫婦の情報を教えてくれた。
助かる。
「ありがとう。助かった」
「いやいや、助かったのはこっちだ。なにしろうちの技術者を助けてくれた上に犯人逮捕にも協力したって話じゃねえか。スカッとしたぜ」
「まぁ犯人逮捕は衛兵隊の手柄だからな。俺は案内しただけだし」
「それでもだよ。もしこの国でなんかあったら俺らを頼ってくれていい。これを渡しておく」
「お、おお。ありがとう」
なにやら金属のカードのようなものを渡されて何かわからないながら礼を言った。
その金属のカードには複雑な溝が走っている。
特に魔法の痕跡はないので、魔道具ではなさそうだ。
「それは我が冶金ギルドの特別ギルド員証だ」
「おいおい、俺は鉱物の精製なんぞ出来ねぇぞ」
「チッチッ、特別って言っただろうが、それがあれば俺らのギルドで便宜を図ってやれるし、俺らのギルドと取引があるところでは信用を得られるって訳だ」
「ほう。そういうことならありがたくもらっておく」
「おうよ」
そうんなこんなで俺とメルリル、そして活躍したせいで疲れたのか俺の頭上で寝てしまったフォルテは、冶金ギルドを後にしたのだった。
それと、冶金ギルドでこの街の裏地図をもらったので、目的地までショートカットが可能となった。
これが実は一番ありがたかったかもしれん。
この街、道がむちゃくちゃわかりにくいからな。
「もう日が中天を通り越したな、何か軽く食って行くか?」
「ううん、私は冶金ギルドでおやつを食べたから大丈夫。ダスターがお腹減っているならご相伴するけど」
「俺もいいかな。昼はそうそう腹が減らないしな」
「うん」
ということで、俺たちは一直線に目的地へと向かった。
目的地は、捕物で行った工場地帯とまるっきり逆方向だ。
方向で言えば南だな。
その辺りは住宅地のようだった。
住宅地とは言っても建物自体は代わり映えしないのだが、洗濯物が干してあったり、軒下に食べ物が吊るしてあったりするので、そうだろうと見当をつけただけだ。
とは言え、路地や内路地にのんびりとテーブルや椅子を出してくつろいでいる老人や走り回っている子どもの姿が目立って来たので、認識としては間違いないだろう。
俺は地図をじっくりと確認して、ドラゴン研究者の自宅近くであるらしい路地に卓を出して盤上遊戯のようなものを楽しんでいる老人たちに声を掛けた。
「お楽しみ中悪い。ここらへんにパスダとエリエルというドラゴン研究者の夫婦の家があると聞いたんだが」
「ん?」
老人の一人が俺をちらりと見て、隣のメルリルを一瞥する。
訪問相手の一人が森人ということで、メルリルの目くらましは現在は解いていた。
「ふむ、ほれ、そこだ」
老人が指差す先には庭に大きな木が目立つ家があった。
「ありがとう、これでなんか食ってくれ」
俺は大銅貨を二枚卓上に並べると、その家に向かう。
入り口はそのほかの家と全く同じ。
木製の扉と白っぽい塗り壁だ。
家によっては玄関に飾りをつけたり、壁に布を貼ったりと、ほかとの違いを出している家もあったが、この家にはそういう差別化の工夫は見られない。
俺はその扉を叩いた。
「パスダさん、エリエルさん、ご在宅か?」
家のなかはシーンとしている。
いないのかと思ったが、わずかに気配を感じるんだよな。
「すみません。ドラゴンについて少しお聞きしたいことが……」
俺がそう言うと同時に室内の気配が大きく動いた。
「ん?」
「いらっしゃい! ド、ドラゴンの情報を売りに来た人かい? か、歓迎するよ!」
そこにいたのは森人の男性だった。
そうかエリエルってのは男の名前だったのか。
森人の名前の法則はよくわからんなと思いながら、俺は大神聖帝国の帝都に住む、ドラゴン研究者の片割れとの初顔合わせをしたのだった。
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