勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第四章 世界の片隅で生きる者たち

254 トラブルは突然に

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 乗り込み用のホールに行くと、真っ黒な煙を吐き出しつつ列車が止まるところだった。
 馬車よりも何倍も頑丈そうな車体がゆっくりときしみを上げながら停車する。
 シューッと白い煙がもうもうと車体のあちこちから吐き出された。
 止まった列車に係員が駆け寄り、閉まっていたドアを開ける。
 そして、ゆっくりと乗っていた人が降り始めた。

 列車周りの担当の人間は同じ肩章を装着しているようだ。
 俺はそのなかでホールの様子を窺っているらしい男に声をかけた。

「すまないが、この列車はいつ出発するんだ?」
「ん? お乗りになるのですか?」
「ああ」
「列車は日中しか走らせません。今から出発すると次の駅に到着するまでに日が暮れてしまいますので、今日の出発はありません。そのため明日の早朝出発になるでしょう。ただ、宿にお泊りになりますと、出発に遅れることも考えられますので、出来れば乗車して列車内にお泊りになることをおすすめします」
「ありがとう」

 詳しく教えてもらって助かった。
 俺は並んで口をポカンと開けて降りて来た人と止まっている列車を眺めている勇者たちのところに戻る。

「出発は明日の朝らしい。出立時間が早いんで夜は列車に泊まったほうがいいとのことだった。で、今日は今からどうする?」
「とりあえず列車に乗りたい」

 俺の問いに最初に答えたのは勇者だった。
 すごく乗りたそうだよな。
 しかし、列車から人が降りると、係員が列車の前にロープを張って入り口を閉め、どうやら内部の清掃を始めているっぽい。

「まだ乗れないようだぞ」
「チッ」

 ふてくされる勇者を他所に、メルリルがもじもじしながら近寄って来た。

「あの、時間があるようなら用足しに行きたいんだけど」
「しょんべんか?」

 ガッ! と、いらんことを言った勇者を殴り、俺はうなずく。
 
「時間はたっぷりあるんだ。行ってくるといい。場所、わかるか?」
「あ、うん。係の方に聞くから大丈夫」
「それなら、わたくしも、一緒に」

 聖女がにっこりと笑いながら言う。
 オルゴールの一件以来、この二人はお互い気が合うことに気づいたようで、より一層一緒に行動するようになっていた。
 十歳近く年齢差がありそうだが、年の離れた姉妹のようで微笑ましい。

「じゃあわたしもついていくよ。二人だけじゃ心配だし」
「頼む」

 モンクのテスタが名乗り出た。
 こういうときに女性であるモンクの存在は助かるな。
 しかもモンクの戦闘スタイルは素手なので、武器の封印なぞ意味がない。
 三人は先程俺が話を聞いた係の人に何やら聞いてから屋台と大きな柱の後ろのほうへと向かった。

「いつ乗れるんだ?」
「掃除しているんだからしばらくかかるだろ」
「勇者さま、そこにテーブルセットがいくつかありますから、そこでお三方を待ちましょう」

 ということで、男ばかり残った三人でしゃれた造りのテーブルセットに座った。
 虚しい。
 別に話すこともないので、それぞれぼーっと座っていたが、三人があまりにも遅いので心配になって来た。
 女性の用足しは男より時間がかかることは承知しているものの、ちょっと遅すぎないか?

「なんかあったか?」

 勇者がゆっくりと立ち上がった。

「俺が行って来る。お前が動くと大事になる場合がある。俺のほうがいいだろう」

 勇者を押し留めて俺が立つ。
 勇者は目立ちすぎる。今もずっと周囲から視線を感じるしな。
 俺に制されて、勇者はおとなしく腰を下ろした。

「わかった。頼む」
「ああ」

 あの三人がいて、問題を処理出来ないということがあるんだろうか?
 俺は単に女性らしい理由で遅れていて無駄足になることを半ば予想しながら、三人が向かった方向へと足を進めた。
 三人が向かった方向は奥まった施設になっていて、荷物預かり所や相談窓口などがある区画と、ちょっとした休憩所がある区画に分かれているようだった。
 便所があるとしたらその休憩所があるほうだろう。
 案の定、そっちへと進むと、モンクのものらしい声が聞こえて来た。

「わたしたちには用事はないんだからあっち行ってって言ってるだろ」
「なんだその言い方は、私たちは親切心からお茶にお誘いしたのだぞ。そもそも誘ったのはそなたではない。こちらのお嬢さんのほうだ」

 ああ、なんだ女を引っ掛けようとする男に足止め食らってたのか。
 さすがのテスタも攻撃された訳じゃない相手をぶっ飛ばしたり出来ないからな。

「あの……」

 肝心の聖女は、いつも以上の対人恐怖症に陥っていて、メルリルの背中に張り付いた状態だ。
 メルリルが相手を説得しようと、聖女をかばいながら相手の正面に立った。

「彼女、怖がっています。やめてください」
「はぁ? 獣が人間の言葉をしゃべるな! どけっ!……なんだおまっ、ゲヒッ!」

 気づいたときには、俺はその言葉を発した男を殴り飛ばしていた。
 今こいつなんて言った?
 人は本当に腹が立つと震えるんだなと、俺は決して冷静とは言えない頭で考えたのだった。
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