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第三章 神と魔と
197 森の中の館1
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いい加減本格的に急がないと大聖堂の我慢も限界を迎えそうな気がする。
それにそろそろ暑くなって来た。北の大地にも夏がやって来たらしい。
そこでテスタの知る道ではなく、そのまま北に向かっている枝道を進むことにした。
背の低いさまざまな木々が生える鬱蒼とした森のなかを往く道だ。
白い幹に白銀の葉を茂らせた美しい木などもあり、植生の違う森は俺の知るどの森とも違った雰囲気を持っていた。北の地域の森は、南とはまた様相が違う美しさがある。
ふと、日が陰った。
「む?」
「キュピ?」
頭上を見上げると黒っぽい雲が空を覆いつつあった。
風も徐々に強くなっている。
フォルテが無邪気に俺の鼻をつついたが、今は無視だ。
「ひと雨、いや、嵐が来そうだぞ。テスタ、この辺りは夏場でも嵐が来るのか?」
「ああ、この辺では夏が嵐のシーズンだよ。というか南の嵐のように激しくも長くもないけどね。せいぜい一日か二日豪雨が降るだけ」
「そうか。どこか雨宿り出来る場所を探さなくてはならないな」
「ピャッ!」
フォルテが了解! とばかりに、俺の意を受けて飛び上がる。
今や言葉で何か指示するよりも先に、フォルテは俺が考えたことを実行するようになっていた。
まさに一心同体という感じだ。
……いや、さすがにまだそこまではないか。
フォルテの美しい青い輝きが、曇りつつある空を鮮やかに染める。
「ピィー」
合図があり、俺はフォルテの目を借りた。
ん? 道の先に大きなお屋敷があるな。
また、こんな辺鄙な場所に物好きな貴族もいたものだ。
「アルフ。この先に貴族のものらしい屋敷があるんだが、どうする? 雨宿りを頼んでみるか」
「……貴族か」
勇者は鼻の頭にシワを寄せてつつ呟き、ちらりと女性陣を見た。
「頼むだけ頼んでみるか」
さすがの貴族嫌いの勇者も、か弱そうな聖女やメルリルを雨のなかにずぶ濡れで放置することよりは貴族に頭を下げることを選ぶようだ。
成長したのかもしれない。
もっとも聖女もメルリルも基礎的な鍛錬を続けて、かなりスタミナはついてきているんだけどな。
舞い降りたフォルテを肩に受け止めて、森のなかの細い道を進んだ。
「本当に貴族の館か? 門番もいないぞ」
勇者が不審そうに言った。
確かに貴族なら門番の一人ぐらいは置いているはずだ。
もしかしたら富豪の商人が建てた館なのかもしれない。
「失礼する!」
俺は声を張り上げた。
館のなかに気配はある。
なかでも最も近い場所、館の入口近くに強めの魔力の気配があった。
その魔力の気配が動き、扉が開いた。
出て来たのは大柄で筋肉質の男だった。
まるで冒険者のような体格だが、仕立てのいい内向きの仕事をする者の服を着ている。
「何用でございましょう?」
「旅の途中で雨に降られそうなのだが、どこか小屋でもいいので雨に濡れない場所を提供してもらえないか?」
「しばしお待ちを」
男は引っ込み、奥へと向かった。
主人に伺いを立てに行ったのだろう。
やがて戻って来た男は俺たちを門の内側に招き入れた。
「主が旅のお話をお聞きしたいとの仰せです。それでよろしければ館に滞在をしていただいてもよいと」
「おお、ありがたい」
俺たちはそうしてその館に招き入れられた。
このとき、旅の途上での面倒を避けるために勇者や聖騎士は紋章入りのマントを脱いで普通の旅人が着用するようなローブを着ていたのだが、おそらく勇者の紋章を背負ったままならここで招き入れられることはなかっただろう。
のちに俺はそう思った。
それにそろそろ暑くなって来た。北の大地にも夏がやって来たらしい。
そこでテスタの知る道ではなく、そのまま北に向かっている枝道を進むことにした。
背の低いさまざまな木々が生える鬱蒼とした森のなかを往く道だ。
白い幹に白銀の葉を茂らせた美しい木などもあり、植生の違う森は俺の知るどの森とも違った雰囲気を持っていた。北の地域の森は、南とはまた様相が違う美しさがある。
ふと、日が陰った。
「む?」
「キュピ?」
頭上を見上げると黒っぽい雲が空を覆いつつあった。
風も徐々に強くなっている。
フォルテが無邪気に俺の鼻をつついたが、今は無視だ。
「ひと雨、いや、嵐が来そうだぞ。テスタ、この辺りは夏場でも嵐が来るのか?」
「ああ、この辺では夏が嵐のシーズンだよ。というか南の嵐のように激しくも長くもないけどね。せいぜい一日か二日豪雨が降るだけ」
「そうか。どこか雨宿り出来る場所を探さなくてはならないな」
「ピャッ!」
フォルテが了解! とばかりに、俺の意を受けて飛び上がる。
今や言葉で何か指示するよりも先に、フォルテは俺が考えたことを実行するようになっていた。
まさに一心同体という感じだ。
……いや、さすがにまだそこまではないか。
フォルテの美しい青い輝きが、曇りつつある空を鮮やかに染める。
「ピィー」
合図があり、俺はフォルテの目を借りた。
ん? 道の先に大きなお屋敷があるな。
また、こんな辺鄙な場所に物好きな貴族もいたものだ。
「アルフ。この先に貴族のものらしい屋敷があるんだが、どうする? 雨宿りを頼んでみるか」
「……貴族か」
勇者は鼻の頭にシワを寄せてつつ呟き、ちらりと女性陣を見た。
「頼むだけ頼んでみるか」
さすがの貴族嫌いの勇者も、か弱そうな聖女やメルリルを雨のなかにずぶ濡れで放置することよりは貴族に頭を下げることを選ぶようだ。
成長したのかもしれない。
もっとも聖女もメルリルも基礎的な鍛錬を続けて、かなりスタミナはついてきているんだけどな。
舞い降りたフォルテを肩に受け止めて、森のなかの細い道を進んだ。
「本当に貴族の館か? 門番もいないぞ」
勇者が不審そうに言った。
確かに貴族なら門番の一人ぐらいは置いているはずだ。
もしかしたら富豪の商人が建てた館なのかもしれない。
「失礼する!」
俺は声を張り上げた。
館のなかに気配はある。
なかでも最も近い場所、館の入口近くに強めの魔力の気配があった。
その魔力の気配が動き、扉が開いた。
出て来たのは大柄で筋肉質の男だった。
まるで冒険者のような体格だが、仕立てのいい内向きの仕事をする者の服を着ている。
「何用でございましょう?」
「旅の途中で雨に降られそうなのだが、どこか小屋でもいいので雨に濡れない場所を提供してもらえないか?」
「しばしお待ちを」
男は引っ込み、奥へと向かった。
主人に伺いを立てに行ったのだろう。
やがて戻って来た男は俺たちを門の内側に招き入れた。
「主が旅のお話をお聞きしたいとの仰せです。それでよろしければ館に滞在をしていただいてもよいと」
「おお、ありがたい」
俺たちはそうしてその館に招き入れられた。
このとき、旅の途上での面倒を避けるために勇者や聖騎士は紋章入りのマントを脱いで普通の旅人が着用するようなローブを着ていたのだが、おそらく勇者の紋章を背負ったままならここで招き入れられることはなかっただろう。
のちに俺はそう思った。
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