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第三章 神と魔と
191 鍛錬開始
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「ざっと見たところ、ほぼ予想通りだった。クルスとテスタの二人はもうそれぞれの役割に応じた体が出来上がっている。そのため二人は状態維持のための基礎訓練だけでいい。ミュリアはそもそも戦闘職ではないので無理に体を鍛える必要はないが、いざというときのために持久力と瞬発力を重点的に鍛えておいて損はないだろう。メルリルは身体的な基礎能力は高いので全体を伸ばしていけばいい。さて、アルフ」
一通り基礎的な身体能力測定をやった後に、全員の鍛錬方法についての方針のようなものを告げておく。
チームとしてお互いのことをある程度把握しておいたほうがいいからな。
最後に勇者を見る。
まるでほめられることを期待しているようなキラキラした目で見て来るが、さっきやった身体能力の確認の内容でどこにほめられる要素があったのか、俺は真面目に聞きたい。
「お前は体を甘やかしすぎだ。背もそこそこ高いし手足も長い、肉体の持っているポテンシャル自体は高いはずなのにそれが全く活かされてない。そこで、他のみんなが基礎鍛錬をやっている間、お前は集中的に能力アップのために少し無理をしてもらう」
「えっ! で、でも最初にやったやつなんかは俺よりもクルスのほうが駄目だったろ?」
こいつめ。
一つを抜き出して文句をつけるとか、考えの狭い奴だな。
「クルス、股裂きをやってみてくれ」
「わかった」
俺に言われた通り、クルスが股裂き、つまり両足を直線上に前後に広げてみせる。
クルスの股裂きは足の全部が地面にぴったりと触れている。
「クルスは騎士だ。重い鎧を着て、馬に乗って戦うのが基本だ。馬から下りても、どっしりと構えて力強い斬撃を浴びせたり、攻撃を防いだりするために重心を低く保ち移動は決して素早くはない。重い鎧と受ける攻撃を支えるため肩から背中が鎧そのもののように硬くなっていて、前屈は苦手だ。しかし大切な関節部分の柔らかさは維持している。クルス、そのまま手を背中に回して上下で両手を繋いでくれ」
「わかった」
クルスは股裂きをしたまま両手を背中に回し、上下でそれを繋ぐ。左右入れ替えて同じようにしてみせた。
左右の手はそれぞれひじ近くまで触れることが出来るほど柔軟だ。
「関節の柔らかさは攻撃や移動範囲の広さにつながる。関節の駆動域の違いはとっさの切り替えにも現れるぞ。クルスもういいぞ。ありがとう」
「いいえ」
「で、アルフやってみろ」
「よし、まかせろ!」
勢いだけはあるな。
しかし、勇者は両足を広げたものの、足首が地面についた程度、背中に回した手は利き手がようやくある程度届くぐらいで反対の手は指先が届く程度という有様だった。
「何か言うことは?」
「よろしくお願いします」
ということで、他のメンバーは基礎鍛錬と素振りと走り込み、勇者は特別メニューでの鍛錬を行うことになった。
特に勇者の関節の硬さは致命的だ。
いっそ脱臼をさせて聖女に回復してもらって関節を造り治すかとも考えたが、あまり肉体を無理やり作り変えても自分の体をコントロール出来なければ意味がないので、負荷が掛かりすぎない程度に無理をさせることにした。
次の日の朝、勇者は起き上がることが出来なかった。
まぁ仕方ないだろう。
ちょっと急激に負荷を掛けたから体が悲鳴を上げているのだ。
負荷を掛けて滋養のある食事を摂って、また負荷を掛けるという繰り返しで少しずつ体を安定させていく必要がある。
実を言うと、これは俺が師匠にやられた方法だ。
俺は全身の関節を一回砕かれたことがある。あのときは死ぬかと思った。
さすがにあそこまではやらないが、勇者が俺と同じように魔力を使う剣士タイプなので伸ばす方向がわかりやすくて助かる。
「朝食は肉と卵の粥だぞ」
「食べる」
ヘロヘロでも食欲はあるようだ。
この街の早朝の市場には転がり鳥の卵が売られていたので助かった。
どうやら飼っている農家が多いらしい。
基礎鍛錬でも聖女とメルリルにはきつかったようで、二人も体が痛いと言いながら起き出して来た。
メルリルは病み上がりなのに無理をさせすぎたと反省していたところに治療師に怒られてさらに反省することとなった。
「でも運動すること自体は賛成です。体力をつければそれだけ体にエネルギーが回って病気をしにくくなりますからね」
とも言われたので、メルリルと聖女に関しては無理をしないように注意しながら鍛錬をさせることにした。
治療師から出立のお許しが出たのは、それから更に三日後のことだった。
一通り基礎的な身体能力測定をやった後に、全員の鍛錬方法についての方針のようなものを告げておく。
チームとしてお互いのことをある程度把握しておいたほうがいいからな。
最後に勇者を見る。
まるでほめられることを期待しているようなキラキラした目で見て来るが、さっきやった身体能力の確認の内容でどこにほめられる要素があったのか、俺は真面目に聞きたい。
「お前は体を甘やかしすぎだ。背もそこそこ高いし手足も長い、肉体の持っているポテンシャル自体は高いはずなのにそれが全く活かされてない。そこで、他のみんなが基礎鍛錬をやっている間、お前は集中的に能力アップのために少し無理をしてもらう」
「えっ! で、でも最初にやったやつなんかは俺よりもクルスのほうが駄目だったろ?」
こいつめ。
一つを抜き出して文句をつけるとか、考えの狭い奴だな。
「クルス、股裂きをやってみてくれ」
「わかった」
俺に言われた通り、クルスが股裂き、つまり両足を直線上に前後に広げてみせる。
クルスの股裂きは足の全部が地面にぴったりと触れている。
「クルスは騎士だ。重い鎧を着て、馬に乗って戦うのが基本だ。馬から下りても、どっしりと構えて力強い斬撃を浴びせたり、攻撃を防いだりするために重心を低く保ち移動は決して素早くはない。重い鎧と受ける攻撃を支えるため肩から背中が鎧そのもののように硬くなっていて、前屈は苦手だ。しかし大切な関節部分の柔らかさは維持している。クルス、そのまま手を背中に回して上下で両手を繋いでくれ」
「わかった」
クルスは股裂きをしたまま両手を背中に回し、上下でそれを繋ぐ。左右入れ替えて同じようにしてみせた。
左右の手はそれぞれひじ近くまで触れることが出来るほど柔軟だ。
「関節の柔らかさは攻撃や移動範囲の広さにつながる。関節の駆動域の違いはとっさの切り替えにも現れるぞ。クルスもういいぞ。ありがとう」
「いいえ」
「で、アルフやってみろ」
「よし、まかせろ!」
勢いだけはあるな。
しかし、勇者は両足を広げたものの、足首が地面についた程度、背中に回した手は利き手がようやくある程度届くぐらいで反対の手は指先が届く程度という有様だった。
「何か言うことは?」
「よろしくお願いします」
ということで、他のメンバーは基礎鍛錬と素振りと走り込み、勇者は特別メニューでの鍛錬を行うことになった。
特に勇者の関節の硬さは致命的だ。
いっそ脱臼をさせて聖女に回復してもらって関節を造り治すかとも考えたが、あまり肉体を無理やり作り変えても自分の体をコントロール出来なければ意味がないので、負荷が掛かりすぎない程度に無理をさせることにした。
次の日の朝、勇者は起き上がることが出来なかった。
まぁ仕方ないだろう。
ちょっと急激に負荷を掛けたから体が悲鳴を上げているのだ。
負荷を掛けて滋養のある食事を摂って、また負荷を掛けるという繰り返しで少しずつ体を安定させていく必要がある。
実を言うと、これは俺が師匠にやられた方法だ。
俺は全身の関節を一回砕かれたことがある。あのときは死ぬかと思った。
さすがにあそこまではやらないが、勇者が俺と同じように魔力を使う剣士タイプなので伸ばす方向がわかりやすくて助かる。
「朝食は肉と卵の粥だぞ」
「食べる」
ヘロヘロでも食欲はあるようだ。
この街の早朝の市場には転がり鳥の卵が売られていたので助かった。
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「でも運動すること自体は賛成です。体力をつければそれだけ体にエネルギーが回って病気をしにくくなりますからね」
とも言われたので、メルリルと聖女に関しては無理をしないように注意しながら鍛錬をさせることにした。
治療師から出立のお許しが出たのは、それから更に三日後のことだった。
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