84 / 885
第三章 神と魔と
189 施し
しおりを挟む
鍛錬は次の日からということで、その日は全員がゆっくり休養を取ることにした。
しばらくしてカランカランという控えめな鐘の音が響き、部屋の外に近づいて来る。
「施しが始まります。入り口のホールにおいでください」
何度が同じことを言いつつ、また遠ざかって行った。
「食事か、行ってみるか」
扉もカギもない部屋なので、荷物はそのままに出来ない。俺が荷物を背負おうとすると、聖女がにこりと笑って俺の手を止めた。
「大丈夫です」
聖女は全員の荷物を集めたところに上に簡単にマントを被せる。
そしてそのマントに片手で触れて、残った片手を神璽に置いた。
「隠して」
小さな呟きと共に、荷物が消え失せた。
いや、触れるとそこにあることがわかる。
透明化したのだろう。
「便利だな」
「祝福の家の応用」
少し得意げに胸を張った。
聖女さまは大変お可愛らしいな。
俺が感心していると、メルリルがその様子を見て微笑んでいるのに気づく。
「二人でいろいろ試してみたんです」
「ほう」
「魔法とメッセリの力とで何が出来て何が出来ないかを調べようと思って」
「素晴らしいな」
なるほど、魔法で出来ることと精霊で出来ることは似ているようで異なる。
一緒に行動するなかでお互いの役割分担を考えてのことだろう。
「師匠、早く行かないとなくなるぞ」
「ああ、いや、俺たちは一番最後に分けてもらおう。食料に困っている訳じゃないしな」
「しかしお二人は奉仕を終えたのですから、この施設の提供するものを受け取る権利がおありでしょう?」
勇者の言葉に答えた俺に、聖騎士が不思議そうに言った。
確かに権利としては正しいのだが、ここの運営が厳しいことを知った身からするとここに逗留している貧しい者たちを優先したい気持ちになってしまう。
「奉仕仕事は代表で行ったんだから全員の分だからな。あと、ここの施しを頼りに生活している人もいるようだし、そういう人から奪うのも勇者一行らしくないだろ?」
「そうだね。まぁ施しだけで生活している連中はそれはそれでどうかと思うけど、具合が悪いときには他人の助けが必要なものだし、ダスター師匠の言う通りにしていいんじゃないか?」
モンクが少々条件を付けながらも俺の言葉に賛同する。
甘やかしすぎるのはよくないが、助けが必要な人間もいると、厳しさと優しさを両方感じさせる考え方だ。
「俺はそれでいいぞ」
勇者があっさりと言う。
それに全員が同意して俺たちはゆっくりと入り口のホールに向かった。
そうして到着してみると、柱と屋根だけの入り口ホールは、今や人でごった返していた。
ただ、人数の割に混乱は起きてない。
「あ、お食事をされますか?」
俺たちを見つけた施設で働いているらしい少女が近づいて来る。
「十分量があるようならお願いしたい。もし足りないようなら自分たちの分でまかなう」
「ありがとうございます。量は問題ないと思いますよ。食べ物は近くの商人さんなどからの寄進と、教会からの援助、それに私たちが作っている畑の野菜などがあるので、それほど困窮していないのです」
「そうかありがとう」
年齢は勇者よりも少し下ぐらいだろうか? かなりしっかりとした子だ。
「これを持って行ってお食事と交換してください」
一人一人に番号の入った木札が渡される。
ホールの一画に衝立によって区切られた場所があり、その並べられた衝立の両端に馴染みの麻のローブを来た施設の人が立って何やら近寄って来る者たちに指示しているようだ。
片方の端から衝立の向こうに人が進んでいるので、入口を案内しているのかもしれない。
木札を持ってそこに近づくと、俺たちの持つ木札を確認して「こちらからどうぞ」と誘導してくれた。
最初の案内のときから思っていたが、この施設は人の誘導の仕方が洗練されているな。
衝立の向こうにはテーブルが並べられていて、その上に食事らしきものが大皿や鍋に山盛りとなっている。
顔と頭を布で覆った者たちが、それらの料理を取り分けているようだった。
「札を預かります。両手を前に出してください」
最初のテーブルの男性が木札を受け取り、差し出された両手を濡れた布で丁寧に拭う。
その後木の板を渡して来た。
「そのトレーの上に料理を乗せて行きますので、係の者に差し出してください」
「わかった」
俺の前には兄妹らしい子どもたちがいて、嬉しそうに板を掲げ持っている。
差し出した木の板に進むほどに次々と料理らしきものが乗せられて行き、最後に椀に入ったスープと平べったいパンが端っこに置かれた。
なかなかの量だ。
この量を毎日この人数に提供しているのでは、いくら寄進などがあっても大変そうだが、うまいこと回しているんだろうな。
食事を受け取った俺たちはそれなりの人数なのでどこで食べようかと開いている空間を探した。
通常の食堂や屋台と違ってここは椅子やテーブルなどはないので、誰もが適当に座って食べているようだ。
と、さきほど前に並んでいた子どもたちがこちらを見上げて肘で小突いて来る。
「おっちゃんたち初めて?」
「あ、ああ」
「こっちこっち」
なにやら案内してくれるらしい。
座って食事をしている人たちの間を抜けて、ホールの奥へと向かう。
「足元気をつけてね」
小さい女の子がそう言って短い階段を下りた。
どこへ行くのかと思っていたら、小さな庭のような場所に出た。
そこには女子どもが多く集まって食事をしているようだった。
みんな一生懸命食べているので、俺たちを気にする様子はない。
「ここで食べよ?」
「ああ、ありがとう」
なんで一緒に食べることになっているのかはわからないが、俺たちはその兄妹と共に草地に座って食事をすることにした。
しばらくしてカランカランという控えめな鐘の音が響き、部屋の外に近づいて来る。
「施しが始まります。入り口のホールにおいでください」
何度が同じことを言いつつ、また遠ざかって行った。
「食事か、行ってみるか」
扉もカギもない部屋なので、荷物はそのままに出来ない。俺が荷物を背負おうとすると、聖女がにこりと笑って俺の手を止めた。
「大丈夫です」
聖女は全員の荷物を集めたところに上に簡単にマントを被せる。
そしてそのマントに片手で触れて、残った片手を神璽に置いた。
「隠して」
小さな呟きと共に、荷物が消え失せた。
いや、触れるとそこにあることがわかる。
透明化したのだろう。
「便利だな」
「祝福の家の応用」
少し得意げに胸を張った。
聖女さまは大変お可愛らしいな。
俺が感心していると、メルリルがその様子を見て微笑んでいるのに気づく。
「二人でいろいろ試してみたんです」
「ほう」
「魔法とメッセリの力とで何が出来て何が出来ないかを調べようと思って」
「素晴らしいな」
なるほど、魔法で出来ることと精霊で出来ることは似ているようで異なる。
一緒に行動するなかでお互いの役割分担を考えてのことだろう。
「師匠、早く行かないとなくなるぞ」
「ああ、いや、俺たちは一番最後に分けてもらおう。食料に困っている訳じゃないしな」
「しかしお二人は奉仕を終えたのですから、この施設の提供するものを受け取る権利がおありでしょう?」
勇者の言葉に答えた俺に、聖騎士が不思議そうに言った。
確かに権利としては正しいのだが、ここの運営が厳しいことを知った身からするとここに逗留している貧しい者たちを優先したい気持ちになってしまう。
「奉仕仕事は代表で行ったんだから全員の分だからな。あと、ここの施しを頼りに生活している人もいるようだし、そういう人から奪うのも勇者一行らしくないだろ?」
「そうだね。まぁ施しだけで生活している連中はそれはそれでどうかと思うけど、具合が悪いときには他人の助けが必要なものだし、ダスター師匠の言う通りにしていいんじゃないか?」
モンクが少々条件を付けながらも俺の言葉に賛同する。
甘やかしすぎるのはよくないが、助けが必要な人間もいると、厳しさと優しさを両方感じさせる考え方だ。
「俺はそれでいいぞ」
勇者があっさりと言う。
それに全員が同意して俺たちはゆっくりと入り口のホールに向かった。
そうして到着してみると、柱と屋根だけの入り口ホールは、今や人でごった返していた。
ただ、人数の割に混乱は起きてない。
「あ、お食事をされますか?」
俺たちを見つけた施設で働いているらしい少女が近づいて来る。
「十分量があるようならお願いしたい。もし足りないようなら自分たちの分でまかなう」
「ありがとうございます。量は問題ないと思いますよ。食べ物は近くの商人さんなどからの寄進と、教会からの援助、それに私たちが作っている畑の野菜などがあるので、それほど困窮していないのです」
「そうかありがとう」
年齢は勇者よりも少し下ぐらいだろうか? かなりしっかりとした子だ。
「これを持って行ってお食事と交換してください」
一人一人に番号の入った木札が渡される。
ホールの一画に衝立によって区切られた場所があり、その並べられた衝立の両端に馴染みの麻のローブを来た施設の人が立って何やら近寄って来る者たちに指示しているようだ。
片方の端から衝立の向こうに人が進んでいるので、入口を案内しているのかもしれない。
木札を持ってそこに近づくと、俺たちの持つ木札を確認して「こちらからどうぞ」と誘導してくれた。
最初の案内のときから思っていたが、この施設は人の誘導の仕方が洗練されているな。
衝立の向こうにはテーブルが並べられていて、その上に食事らしきものが大皿や鍋に山盛りとなっている。
顔と頭を布で覆った者たちが、それらの料理を取り分けているようだった。
「札を預かります。両手を前に出してください」
最初のテーブルの男性が木札を受け取り、差し出された両手を濡れた布で丁寧に拭う。
その後木の板を渡して来た。
「そのトレーの上に料理を乗せて行きますので、係の者に差し出してください」
「わかった」
俺の前には兄妹らしい子どもたちがいて、嬉しそうに板を掲げ持っている。
差し出した木の板に進むほどに次々と料理らしきものが乗せられて行き、最後に椀に入ったスープと平べったいパンが端っこに置かれた。
なかなかの量だ。
この量を毎日この人数に提供しているのでは、いくら寄進などがあっても大変そうだが、うまいこと回しているんだろうな。
食事を受け取った俺たちはそれなりの人数なのでどこで食べようかと開いている空間を探した。
通常の食堂や屋台と違ってここは椅子やテーブルなどはないので、誰もが適当に座って食べているようだ。
と、さきほど前に並んでいた子どもたちがこちらを見上げて肘で小突いて来る。
「おっちゃんたち初めて?」
「あ、ああ」
「こっちこっち」
なにやら案内してくれるらしい。
座って食事をしている人たちの間を抜けて、ホールの奥へと向かう。
「足元気をつけてね」
小さい女の子がそう言って短い階段を下りた。
どこへ行くのかと思っていたら、小さな庭のような場所に出た。
そこには女子どもが多く集まって食事をしているようだった。
みんな一生懸命食べているので、俺たちを気にする様子はない。
「ここで食べよ?」
「ああ、ありがとう」
なんで一緒に食べることになっているのかはわからないが、俺たちはその兄妹と共に草地に座って食事をすることにした。
20
お気に入りに追加
9,275
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。