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エピソード8 【目覚めの日】
その一
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白先輩から連絡が来るまでただ待っていればいいか? と言えば、そういう訳にはいかない。
なにしろわからないことが多すぎるからだ。
そこで、僕とディアナはまず、探検クラブのクラブハウスにある資料を二人で漁った。
実はエリオット部長の趣味のせいで、クラブハウスの書庫にはだいぶ偏った内容の資料が揃っている。
そのテーマは呪いと奇跡だ。
書庫はクラブハウスの集会場所でもあり、部員には常にオープンとなっているので、調べ物をするには最適な環境なのだ。
まぁ好奇心の強い部長がついてくるのだけど。
「人類の歴史には必ず呪いと奇跡がつきまとう。特に呪いは知恵を持ちし者の友と言っていい」
などと豪語する部長の集めた書物のなかには、触るだけで呪われそうな怪しげなものも多い。
今回僕たちが探したのは、魂の創造に関するものだ。
魔王は死した魔人の子どもたちの魂を元に作られたと白先輩は言っていた。
「イツキ、これは?」
「こっちも参考になりそうだね」
怪しげな内容にあまり触れないようにしながら読んだのだけど、それでもかなり気分の悪くなる内容が多い。
生贄、儀式、殺戮などが常に溢れているからだ。
「魔王の創造については、古今東西の呪術や魔法を研究している学者の記した研究書があるから専門のコーナーで調べるのが一番だよ」
と、部長。
専門のコーナーなんてものがあるんだ。
もちろん部長に白先輩の事情を打ち明ける訳にはいかないので、僕たちは先日の襲撃事件の犯人が魔王崇拝者であるらしいという理由で、魔王について調べているということで話している。
部長は魔王崇拝者に対しては「強い相手に憧れるのは生物としては本能のようなものだし、理解出来なくはないね」という見解だった。
やや共感に近い考え方なのが怖い。
まぁそう言いながらも、実は馬鹿にしているというスタンスが部長なのだけど。
その魔王に関する専門の研究書と、呪いの仕組みについての書物を併せて読んだ結果、意外なことだけど、魔王という存在が使い魔の一種であるということがわかった。
ようするに人工精霊なのだ。
人工精霊と言えば、図書館の緑さんが思い浮かぶ。
緑さんはもともとは自然のなかに在った精霊だけど、人と契約して半分人工精霊のようなものとなった。
つまり魔王は、死んだ子どもの魂を元に精霊を生み出し、そこに呪いを付与したものということになる。
精霊を消し去るには、その宿る依代を破壊するしかない。
つまり、魔王を消し去るには白先輩が死ぬしかないということになる。
袋小路、行き詰まりの理論だ。
「ある意味、魔王という存在は魔人種にかけられた呪いのようなものということだな。血統のなかに一定以上の魔力を持つ者が生まれると自動発動する呪いだよ。当時の魔人は他人種を憎むあまり、自分たちのなかに最強の破壊者を生み出そうとしたんだ。その場限りの呪いにしておけばよかったものを、その条件を種族に設定してしまったものだから、種族が滅びるまで呪いが続くことになってしまった」
部長が面白そうに言った。
いや、全然面白くないです、部長。
「強者ですらそんな途方もない呪いを生み出すのだから、呪いが虐げられた者の武器と結論づけた研究は言葉が足りないと思うんだ。つまり呪いは人類が人類たる感情の発露のひとつの形態にすぎないとね。憎しみや嫉妬は誰しもが抱く当たり前の感情だろ?」
「部長の話を聞いていると、世界が怖い場所に思えてくるのでちょっと同意するのは遠慮しておきます」
「呪いなんて迂遠なことをするより、憎い相手は殴ればいい」
部長の呪いについての持論を聞かされ続けては精神によくないので辞退した僕とは別に、ディアナは呪い自体に否定的だった。
まぁディアナからすればそうだよね。
「だって、憎い相手を呪ったとして、それは自分の気持ちの解消にはならないでしょう? 殴ったほうがよほどすっきりする」
「アハハ。呪いをかける人は別にすっきりしたかった訳じゃないのさ。相手を苦しめたいだけなんだよ」
「そこが私にはわからない。相手が苦しんだところで、それは自分の成果にはならない。結果として苦しむだけ。自分自身に見返りがない。だから意味がない」
「ディアナくんは純粋で好ましいね」
部長が微笑みながらそう言った。
ディアナが純粋でいい子なのは知っているけれど、部長がそう口にするとなぜか不安になるのはどうしてかな?
これが人徳というものなのだろうか。
とりあえず部長とディアナをあまり深く関わらせるのは嫌なので、調べ物が終わると早々にクラブハウスを後にした。
部長と話していると、ユタカと話すのとは逆に不安になる。
部長はいろいろ頼りになる人だけど、頼りにしたくない理由がこういうところなのだ。
「図書館の緑さんに会ってみようか? 何かのヒントになるかもしれない」
「うん」
クラブハウスを出て、ディアナが大きくほっと息を吐いたのがわかる。
やっぱりディアナも部長が苦手らしい。
ハルもお決まりのリュックに閉じこもっていた状態から顔を覗かせた。
図書館はいつ見てもとてもきれいだ。
日の光を受けてうっすらと輝いているように見える。
多くの学生が行き交い、ロビーから既に会話や勉強をする人がちらほら見受けられる。
僕たちは閲覧室になっているホールの、飲食可能な席へと行き、ドリンクを購入して席に着いた。
「緑さん、いる?」
そっと呼びかけると、僕の頭に乗っていたハルが飛び上がり、そのハルを抱きしめた姿で緑さん、つまり図書館の守護者であるツタの精霊が姿を表した。
「こんにちは、お二人とも元気そうですね」
そのはっきりとした姿に僕はやや戸惑った。
「こんにちは。あの、大丈夫なんですか? 姿を現して」
「こんにちは、緑さん。今日もきれい」
緑さんはクスクスと笑いながら、テーブルの空いている席に座る。
「私の姿が見えているのはお二人だけです。周りの人からおかしく思われないように注意してくださいね」
「そんなことが出来るんですか」
「私の姿はいわば幻影です。誰に姿を見せるのかの選択をするだけの話ですよ」
「なるほど」
彼女の本体はこの図書館そのものだ。
見た目の姿はただの幻ということになる。
「緑さん。精霊が人に宿るってことある?」
ディアナがさっそく緑さんに核心的な質問をした。
前置きのないのが彼女らしい。
「私自身の知識としてはわかりませんが、この図書館にある蔵書のなかにそのような事例を記したものはいくつかありますね」
「そういう呪いがやっぱりあるんだ」
「呪いとは限りませんよ」
「え?」
緑さんは意外なことを告げた。
「例えばこういう事例があります。愛する子どもを失った親が、遺された弟妹にその死んだ子どもの面影を重ねることによって、その子どものなかに死んだ兄姉の人格が生まれたというものです。その宿った魂はもちろん死んだ兄姉のものではありませんので、人に生み出された精霊ということになります。しかし、これは呪いではありません」
「呪いではないんだ」
その弟妹にとっては呪いのようなものじゃないかと思うのだけど。
「ええ、誰にとっても災いではなかったからです。その弟妹も、自分のなかの兄姉の人格と交流し、生涯孤独とは無縁の人生を過ごしました」
「なるほど。災いではないから呪いではないってことか」
ん? なにか、今、重要なことを聞いた気がする。
あ、そうか、生み出される精霊自体に悪意がある訳じゃないんだ。
悪意のある設定があるからそれは呪いとなる。
そう言えば、魔王の人格の設定はなんだっけ? 他種族に対する攻撃? 征服? 支配? いや、元となっているのは憎しみだ。
そう考えると破壊か。
「緑さんには人格があるよね。それはもともとそうだったの?」
思い切って僕は彼女に直接聞いてみた。
緑さんはハルを撫で回し、ハルは身を捩って転げ回っている。
ハルは最近いろんな人に遊んでもらっているな。
「いえ、自然のなかに在ったときには人格というほどのものはありませんでした。契約直後も契約を履行するという意思があったのみです。私の人格がはっきりとして来たのは、歴代の王との交流と、何よりも図書館になってから学生を眺め続けて来たおかげですね」
「そうなんだ」
とすると、魔王はどうなんだ? 歴代の記憶があるのか、それとも記憶はリセットされて、破壊の意思だけが引き継がれるのか。
これは歴代の魔王の足跡を辿るべきかもしれない。
「緑さん、この図書館に魔王の詳しい記録とかある?」
「歴史書のほうにあると思いますよ。物語形式のものは文学書のほうですね」
「創作物はいらないんで出来るだけ正確な記録物が欲しいな」
「それなら地下の書庫に詳しいものがあります。この城を作った魔導王がかなり研究なさっていましたから」
「それって読める?」
「ええ、単なる記録書で、封印されている訳ではありません。ただ、図書館の正規の蔵書ではないので、貸し出しは出来ませんが」
「わかった。ここで読む。ええっと、どうすればいい?」
「検索棚で『城 地下 魔王』と打ち込んでください。そうすれば出てきます。読み終わったら、棚の呼び出し番号を再び打ち込んで戻していただければ大丈夫です」
「ハイテクですね」
緑さん、すごい古い精霊なのに、近代的だ。
僕は精霊に対する先入観を捨てるべきだなと思ったのだった。
なにしろわからないことが多すぎるからだ。
そこで、僕とディアナはまず、探検クラブのクラブハウスにある資料を二人で漁った。
実はエリオット部長の趣味のせいで、クラブハウスの書庫にはだいぶ偏った内容の資料が揃っている。
そのテーマは呪いと奇跡だ。
書庫はクラブハウスの集会場所でもあり、部員には常にオープンとなっているので、調べ物をするには最適な環境なのだ。
まぁ好奇心の強い部長がついてくるのだけど。
「人類の歴史には必ず呪いと奇跡がつきまとう。特に呪いは知恵を持ちし者の友と言っていい」
などと豪語する部長の集めた書物のなかには、触るだけで呪われそうな怪しげなものも多い。
今回僕たちが探したのは、魂の創造に関するものだ。
魔王は死した魔人の子どもたちの魂を元に作られたと白先輩は言っていた。
「イツキ、これは?」
「こっちも参考になりそうだね」
怪しげな内容にあまり触れないようにしながら読んだのだけど、それでもかなり気分の悪くなる内容が多い。
生贄、儀式、殺戮などが常に溢れているからだ。
「魔王の創造については、古今東西の呪術や魔法を研究している学者の記した研究書があるから専門のコーナーで調べるのが一番だよ」
と、部長。
専門のコーナーなんてものがあるんだ。
もちろん部長に白先輩の事情を打ち明ける訳にはいかないので、僕たちは先日の襲撃事件の犯人が魔王崇拝者であるらしいという理由で、魔王について調べているということで話している。
部長は魔王崇拝者に対しては「強い相手に憧れるのは生物としては本能のようなものだし、理解出来なくはないね」という見解だった。
やや共感に近い考え方なのが怖い。
まぁそう言いながらも、実は馬鹿にしているというスタンスが部長なのだけど。
その魔王に関する専門の研究書と、呪いの仕組みについての書物を併せて読んだ結果、意外なことだけど、魔王という存在が使い魔の一種であるということがわかった。
ようするに人工精霊なのだ。
人工精霊と言えば、図書館の緑さんが思い浮かぶ。
緑さんはもともとは自然のなかに在った精霊だけど、人と契約して半分人工精霊のようなものとなった。
つまり魔王は、死んだ子どもの魂を元に精霊を生み出し、そこに呪いを付与したものということになる。
精霊を消し去るには、その宿る依代を破壊するしかない。
つまり、魔王を消し去るには白先輩が死ぬしかないということになる。
袋小路、行き詰まりの理論だ。
「ある意味、魔王という存在は魔人種にかけられた呪いのようなものということだな。血統のなかに一定以上の魔力を持つ者が生まれると自動発動する呪いだよ。当時の魔人は他人種を憎むあまり、自分たちのなかに最強の破壊者を生み出そうとしたんだ。その場限りの呪いにしておけばよかったものを、その条件を種族に設定してしまったものだから、種族が滅びるまで呪いが続くことになってしまった」
部長が面白そうに言った。
いや、全然面白くないです、部長。
「強者ですらそんな途方もない呪いを生み出すのだから、呪いが虐げられた者の武器と結論づけた研究は言葉が足りないと思うんだ。つまり呪いは人類が人類たる感情の発露のひとつの形態にすぎないとね。憎しみや嫉妬は誰しもが抱く当たり前の感情だろ?」
「部長の話を聞いていると、世界が怖い場所に思えてくるのでちょっと同意するのは遠慮しておきます」
「呪いなんて迂遠なことをするより、憎い相手は殴ればいい」
部長の呪いについての持論を聞かされ続けては精神によくないので辞退した僕とは別に、ディアナは呪い自体に否定的だった。
まぁディアナからすればそうだよね。
「だって、憎い相手を呪ったとして、それは自分の気持ちの解消にはならないでしょう? 殴ったほうがよほどすっきりする」
「アハハ。呪いをかける人は別にすっきりしたかった訳じゃないのさ。相手を苦しめたいだけなんだよ」
「そこが私にはわからない。相手が苦しんだところで、それは自分の成果にはならない。結果として苦しむだけ。自分自身に見返りがない。だから意味がない」
「ディアナくんは純粋で好ましいね」
部長が微笑みながらそう言った。
ディアナが純粋でいい子なのは知っているけれど、部長がそう口にするとなぜか不安になるのはどうしてかな?
これが人徳というものなのだろうか。
とりあえず部長とディアナをあまり深く関わらせるのは嫌なので、調べ物が終わると早々にクラブハウスを後にした。
部長と話していると、ユタカと話すのとは逆に不安になる。
部長はいろいろ頼りになる人だけど、頼りにしたくない理由がこういうところなのだ。
「図書館の緑さんに会ってみようか? 何かのヒントになるかもしれない」
「うん」
クラブハウスを出て、ディアナが大きくほっと息を吐いたのがわかる。
やっぱりディアナも部長が苦手らしい。
ハルもお決まりのリュックに閉じこもっていた状態から顔を覗かせた。
図書館はいつ見てもとてもきれいだ。
日の光を受けてうっすらと輝いているように見える。
多くの学生が行き交い、ロビーから既に会話や勉強をする人がちらほら見受けられる。
僕たちは閲覧室になっているホールの、飲食可能な席へと行き、ドリンクを購入して席に着いた。
「緑さん、いる?」
そっと呼びかけると、僕の頭に乗っていたハルが飛び上がり、そのハルを抱きしめた姿で緑さん、つまり図書館の守護者であるツタの精霊が姿を表した。
「こんにちは、お二人とも元気そうですね」
そのはっきりとした姿に僕はやや戸惑った。
「こんにちは。あの、大丈夫なんですか? 姿を現して」
「こんにちは、緑さん。今日もきれい」
緑さんはクスクスと笑いながら、テーブルの空いている席に座る。
「私の姿が見えているのはお二人だけです。周りの人からおかしく思われないように注意してくださいね」
「そんなことが出来るんですか」
「私の姿はいわば幻影です。誰に姿を見せるのかの選択をするだけの話ですよ」
「なるほど」
彼女の本体はこの図書館そのものだ。
見た目の姿はただの幻ということになる。
「緑さん。精霊が人に宿るってことある?」
ディアナがさっそく緑さんに核心的な質問をした。
前置きのないのが彼女らしい。
「私自身の知識としてはわかりませんが、この図書館にある蔵書のなかにそのような事例を記したものはいくつかありますね」
「そういう呪いがやっぱりあるんだ」
「呪いとは限りませんよ」
「え?」
緑さんは意外なことを告げた。
「例えばこういう事例があります。愛する子どもを失った親が、遺された弟妹にその死んだ子どもの面影を重ねることによって、その子どものなかに死んだ兄姉の人格が生まれたというものです。その宿った魂はもちろん死んだ兄姉のものではありませんので、人に生み出された精霊ということになります。しかし、これは呪いではありません」
「呪いではないんだ」
その弟妹にとっては呪いのようなものじゃないかと思うのだけど。
「ええ、誰にとっても災いではなかったからです。その弟妹も、自分のなかの兄姉の人格と交流し、生涯孤独とは無縁の人生を過ごしました」
「なるほど。災いではないから呪いではないってことか」
ん? なにか、今、重要なことを聞いた気がする。
あ、そうか、生み出される精霊自体に悪意がある訳じゃないんだ。
悪意のある設定があるからそれは呪いとなる。
そう言えば、魔王の人格の設定はなんだっけ? 他種族に対する攻撃? 征服? 支配? いや、元となっているのは憎しみだ。
そう考えると破壊か。
「緑さんには人格があるよね。それはもともとそうだったの?」
思い切って僕は彼女に直接聞いてみた。
緑さんはハルを撫で回し、ハルは身を捩って転げ回っている。
ハルは最近いろんな人に遊んでもらっているな。
「いえ、自然のなかに在ったときには人格というほどのものはありませんでした。契約直後も契約を履行するという意思があったのみです。私の人格がはっきりとして来たのは、歴代の王との交流と、何よりも図書館になってから学生を眺め続けて来たおかげですね」
「そうなんだ」
とすると、魔王はどうなんだ? 歴代の記憶があるのか、それとも記憶はリセットされて、破壊の意思だけが引き継がれるのか。
これは歴代の魔王の足跡を辿るべきかもしれない。
「緑さん、この図書館に魔王の詳しい記録とかある?」
「歴史書のほうにあると思いますよ。物語形式のものは文学書のほうですね」
「創作物はいらないんで出来るだけ正確な記録物が欲しいな」
「それなら地下の書庫に詳しいものがあります。この城を作った魔導王がかなり研究なさっていましたから」
「それって読める?」
「ええ、単なる記録書で、封印されている訳ではありません。ただ、図書館の正規の蔵書ではないので、貸し出しは出来ませんが」
「わかった。ここで読む。ええっと、どうすればいい?」
「検索棚で『城 地下 魔王』と打ち込んでください。そうすれば出てきます。読み終わったら、棚の呼び出し番号を再び打ち込んで戻していただければ大丈夫です」
「ハイテクですね」
緑さん、すごい古い精霊なのに、近代的だ。
僕は精霊に対する先入観を捨てるべきだなと思ったのだった。
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