悪役令嬢は躊躇する

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
20 / 24
運命の学園生活

称号の行方

しおりを挟む
 翌日、授業が終わった後に、ローズ達は学習室に集まった。
 図書室の隣にあって、少々騒いでも問題にされない場所だ。
 資料が豊富な図書室では会話禁止なので、討論や学習会を開きたい学生のための場所として存在している。

「我が家から見つかったのが『十二家起源』と『邪竜の災厄』で……」
「僕が探せたのがこの『建国覚書』と『十二の称号分与』だ」

 ローズとピアニーが、それぞれに持ち出せた書物をテーブルに乗せた。
 どちらも図ったように二冊ずつだが、時間的になんとか探し出せる数としてはその程度だった、ということだろう。

 大きな違いとしては、ローズの持ち出した書物は読み物形式であるのに対して、ピアニーの探しだした書物は、記録であるという点だ。
 王家の書庫らしいと言えばらしい。

「そう言えば、なぜかイツキも十二の称号の一つを持っているのですね」

 アイネの言葉に、イツキがビクッとする。
 別に責めている訳ではないのだが、物言いが厳し目なアイネが、イツキは苦手のようだった。

「ええっと、うちはローズ様のとこの分家なんで、称号を下賜されたんじゃないかと」

 しどろもどろに答える。

「我が家はメイとマーチの二つの称号を預かっております。おそらくは十二家の内二家が一つになったのでしょう」

 ローズがイツキの説明を補足した。
 実際のところ、ローズも十二の称号の件はあまり詳しくない。
 称号の管理は称号官という特殊な部署の仕事であり、さすがの当事者たる貴族家も、複雑な結びつきを全て理解してはいないのだ。

「王家は、ジャニュアリーのほかに、ジューンとオーガストを預かっているね。現在はジューンがグラスソード家に下賜されているはずだ」

 ピアニーが、王家の持つ称号を説明する。

「グラスソードと言うと、第一王子の……」

 アイネが少し苦々しく言った。
 この国の第一王子は、シルバ・ジューン・グラスソード、現在十八歳の青年である。
 十七で学園を卒業したときに、卒業祝いとして王から下賜されたのが称号としてのジューンと、領地としてのグラスソードだ。
 領地を下賜されるというのは、独立した家を立てるということであり、称号を下賜されるということは、王の覚えがめでたいということである。
 そのまま皇太子としてもいいのだが、実は今の王家には困った事情があった。
 王妃との間に長く子が生まれなかったので、政治的な理由で王に充てがわれたのが第一夫人と第二夫人だ。
 そして第一夫人が第一王子を産んだ。
 ところがその翌年に、子を諦めていた王妃が第二王子を産んだのである。

 このため、後継者問題が複雑化してしまったのだ。
 その第二王子は、現在学園の最上級生だが、ピアニーとの間に交流はない。
 ピアニーは、第二夫人の子であり、上の二人の兄どちら共と折り合いが悪い。

 とは言え、早々にグリーンガーデン公爵家と婚約したので、後継者争いに巻き込まれることがなかったのは幸いであった。
 ピアニーの母が、処世術に長けていたとも言える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう

蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。 王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。 味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。 しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。 「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」 あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。 ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。 だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!! 私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です! さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ! って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!? ※本作は小説家になろうにも掲載しています 二部更新開始しました。不定期更新です

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

処理中です...