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襲撃者達の事情
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次なる舞台である賊のアジトは、馬車が通る馬車道からそこそこ離れている。
ついでに言えば、貴族の領地からも外れているとのことだった。
誰から聞いたのかと言えば、とっ捕まえた賊からだ。
人は、語ってはいけないことほど語りたいという欲求を持っていることがある。
その心に耳を傾けるのが、心の声だ。
心の声によると、この賊達は、これまでずっと慎重な立廻りを心がけて来たらしい。
なるべく戦闘を最小限に抑えるために飴を使い、大金は持たないものの、長旅が出来る程度の金は持っている庶民が利用する、乗合馬車を狙う。
死者は少ないのでほとんどが行方不明扱い。
しかも訴え出るのは護衛も雇えない庶民。
そんな事件に、貴族はわざわざ自分の大事な戦力である兵士を差し向けたりはしない。
庶民の手持ちの金はそれほど多くはないが、人間自体を商品として取り引き出来るので、儲けも安定している。
かくして、安全に稼げる、盗賊団が誕生した。
なんとも酷い話だが、人の心理をついた巧妙な仕事である。
ちなみに、乗合馬車の御者は、道幅が狭くなっている草原で、行手に障害物を置き、それをどかそうと馬車を停めて降りたときに馬車を奪って置き去りにしているようだ。
通常の襲撃なら、馬車を探し回った御者が乗客の消えた馬車を発見する、という流れとなるらしい。
御者を殺すと、乗合馬車自体が運行を止める可能性が高いので、なるべく殺さないようにしているとのこと。
これらのことを聞き取った僕の印象は、盗賊団のトップに、そこそこ頭のいい奴がいそうだ、というもの。
小賢しい賊ほど性質の悪いものはない。
警戒されたら、すぐさまアジトを捨てて逃げてしまうだろう。
そう考えると、襲撃はなるべく早く行う必要があった。
気づかれれば、この盗賊団はすぐに逃げてどこかに隠れてしまうだろう。
「停まって。ここからは馬だと気づかれるので」
草原が途切れ、むき出しの岩肌の続く荒野。
ボーンさんは、素直に馬から降りた。
馬を繋いでおく場所がないので、馬はそのまま放置になる。
逃げてしまうかもしれないが、そこは諦めるしかないだろう。
メディが馬から下りるのを手伝って、一緒に草原の端っこの草むらに姿を潜める。
「この先に、小さな集落跡があって、賊はそこをアジトにしているようです」
「このまま行くと丸見えね」
メディは行く先を透かし見るように言った。
「ならば堂々と行けばいい。盗賊共からすれば、我々程度の人数を怖れる理由がない。逆に獲物が自分からノコノコやって来たと思うだけだろう」
ボーンさんが無謀なことを言いだす。
いや、それだけ自分の腕に自信があるのだろうか?
何十人から囲まれても勝つつもりとか?
いや、さすがにまさか、だろう。
「いい案ですね」
メディがニコっと笑う。
「それなら、まず私が一人で行きましょう。それなら、相手は絶対に警戒したりしないはずです」
また、メディまでがとんでもないことを言い出した。
そりゃあまぁ、女の子が一人でうろうろしていても、相手は警戒したりしないだろうけどさ。
メディに戦う力がある訳じゃないんだよ?
「馬鹿なことを」
ボーンさんも僕と同意見のようだ。
「いいえ。私が、盗賊の人達の目を引き付けている間に、カゲルさんとボーンさんは、なんとか身を隠しながら近づいていただければ、十分ありだと思います」
どうかな? 身を隠すところがない以上、結局全員見つかるのが関の山だと思うけど。
普通は、ね。
「わかった。姿を隠すのが得意な僕が、まずは様子を見て来るから。どこか回り込める場所があるようだったら、その案で行こう。ボーンさん、それでいいですか?」
「……二人はここで待っていてくれればいい。俺が一人で全てを片付けて来る」
その提案に対するボーンさんの意見は、過激なものだった。
ええっ、どんだけ自信家なの、この人。
そりゃあ、賊を倒した手並みは鮮やかだったけど。
そして、任せてしまえば、メディと僕に危険はほとんどないから、ついうなずいてしまいたくなる誘惑に駆られてしまうじゃないか。
「ダメです」
メディはきっぱりと言った。
「ここまで一緒に来たんです。戦うなら一緒に戦いましょう。カゲルさんの言う通りにしてください」
しばしメディとボーンさんの視線が交錯する。
折れたのは、ボーンさんのほうだった。
「……わかった。だが、無理はするな。お前達には関係ない話だ」
「関係なくはないでしょう? 襲撃されたし、何よりも、話を聞いてしまったんですから」
ボーンさんは、メディの言葉に、心を動かされている風である。
メディのこういうところは、僕が全く敵わない部分だ。
こんなこと、普通、さらっと言えたりはしないだろ。
人に裏切られ続けたほんの十六歳の少女が。
とりあえず、許可はもらったので、僕は一人先行する。
さてさて、舞台を整えますかね。
盗賊団には、せいぜい油断をしてもらう。
本来どれだけ用心深い賊であろうと、台本が出来上がれば、その役割に従ってもらうだけだ。
ついでに言えば、貴族の領地からも外れているとのことだった。
誰から聞いたのかと言えば、とっ捕まえた賊からだ。
人は、語ってはいけないことほど語りたいという欲求を持っていることがある。
その心に耳を傾けるのが、心の声だ。
心の声によると、この賊達は、これまでずっと慎重な立廻りを心がけて来たらしい。
なるべく戦闘を最小限に抑えるために飴を使い、大金は持たないものの、長旅が出来る程度の金は持っている庶民が利用する、乗合馬車を狙う。
死者は少ないのでほとんどが行方不明扱い。
しかも訴え出るのは護衛も雇えない庶民。
そんな事件に、貴族はわざわざ自分の大事な戦力である兵士を差し向けたりはしない。
庶民の手持ちの金はそれほど多くはないが、人間自体を商品として取り引き出来るので、儲けも安定している。
かくして、安全に稼げる、盗賊団が誕生した。
なんとも酷い話だが、人の心理をついた巧妙な仕事である。
ちなみに、乗合馬車の御者は、道幅が狭くなっている草原で、行手に障害物を置き、それをどかそうと馬車を停めて降りたときに馬車を奪って置き去りにしているようだ。
通常の襲撃なら、馬車を探し回った御者が乗客の消えた馬車を発見する、という流れとなるらしい。
御者を殺すと、乗合馬車自体が運行を止める可能性が高いので、なるべく殺さないようにしているとのこと。
これらのことを聞き取った僕の印象は、盗賊団のトップに、そこそこ頭のいい奴がいそうだ、というもの。
小賢しい賊ほど性質の悪いものはない。
警戒されたら、すぐさまアジトを捨てて逃げてしまうだろう。
そう考えると、襲撃はなるべく早く行う必要があった。
気づかれれば、この盗賊団はすぐに逃げてどこかに隠れてしまうだろう。
「停まって。ここからは馬だと気づかれるので」
草原が途切れ、むき出しの岩肌の続く荒野。
ボーンさんは、素直に馬から降りた。
馬を繋いでおく場所がないので、馬はそのまま放置になる。
逃げてしまうかもしれないが、そこは諦めるしかないだろう。
メディが馬から下りるのを手伝って、一緒に草原の端っこの草むらに姿を潜める。
「この先に、小さな集落跡があって、賊はそこをアジトにしているようです」
「このまま行くと丸見えね」
メディは行く先を透かし見るように言った。
「ならば堂々と行けばいい。盗賊共からすれば、我々程度の人数を怖れる理由がない。逆に獲物が自分からノコノコやって来たと思うだけだろう」
ボーンさんが無謀なことを言いだす。
いや、それだけ自分の腕に自信があるのだろうか?
何十人から囲まれても勝つつもりとか?
いや、さすがにまさか、だろう。
「いい案ですね」
メディがニコっと笑う。
「それなら、まず私が一人で行きましょう。それなら、相手は絶対に警戒したりしないはずです」
また、メディまでがとんでもないことを言い出した。
そりゃあまぁ、女の子が一人でうろうろしていても、相手は警戒したりしないだろうけどさ。
メディに戦う力がある訳じゃないんだよ?
「馬鹿なことを」
ボーンさんも僕と同意見のようだ。
「いいえ。私が、盗賊の人達の目を引き付けている間に、カゲルさんとボーンさんは、なんとか身を隠しながら近づいていただければ、十分ありだと思います」
どうかな? 身を隠すところがない以上、結局全員見つかるのが関の山だと思うけど。
普通は、ね。
「わかった。姿を隠すのが得意な僕が、まずは様子を見て来るから。どこか回り込める場所があるようだったら、その案で行こう。ボーンさん、それでいいですか?」
「……二人はここで待っていてくれればいい。俺が一人で全てを片付けて来る」
その提案に対するボーンさんの意見は、過激なものだった。
ええっ、どんだけ自信家なの、この人。
そりゃあ、賊を倒した手並みは鮮やかだったけど。
そして、任せてしまえば、メディと僕に危険はほとんどないから、ついうなずいてしまいたくなる誘惑に駆られてしまうじゃないか。
「ダメです」
メディはきっぱりと言った。
「ここまで一緒に来たんです。戦うなら一緒に戦いましょう。カゲルさんの言う通りにしてください」
しばしメディとボーンさんの視線が交錯する。
折れたのは、ボーンさんのほうだった。
「……わかった。だが、無理はするな。お前達には関係ない話だ」
「関係なくはないでしょう? 襲撃されたし、何よりも、話を聞いてしまったんですから」
ボーンさんは、メディの言葉に、心を動かされている風である。
メディのこういうところは、僕が全く敵わない部分だ。
こんなこと、普通、さらっと言えたりはしないだろ。
人に裏切られ続けたほんの十六歳の少女が。
とりあえず、許可はもらったので、僕は一人先行する。
さてさて、舞台を整えますかね。
盗賊団には、せいぜい油断をしてもらう。
本来どれだけ用心深い賊であろうと、台本が出来上がれば、その役割に従ってもらうだけだ。
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