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魔族と人族
13 変身はロマン
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「クイネ、僕、行きます!」
「わ、私もサポートするわ! みんなの前で格好いいところ見せてやりましょう!」
クイネが盛り上がっている。
しかしジークは首を振ってそれを否定した。
「いえ、このままでは無理です。ドラゴンと戦うなら僕も魔王化しないと」
「あ、あの角がある状態ね」
「はい。あの角は魔力の触媒のようなもので、あれがあるとより効率的に魔力を操ることが出来るっていろいろ試したときに言いましたよね」
「うん。じゃ、じゃあ、アレをやるのね!」
クイネの目がキラキラと輝く。
それに対して、ジークはややどんよりとした雰囲気になった。
「そうですね。やるしかないでしょう。まさか素顔で角を出して戦う訳にはいきませんから」
二人は魔王の力を検証していたときにもしその力を使う必要が来たときにどうするかという話をしていた。
いざというときに力を出し惜しみする者は死ぬ。
それはこの要塞都市で育った二人の常識でもある。
とは言え、もしジークが魔族だとバレたら間違いなくこの要塞都市から追われてしまうだろう。
そこで、クイネが考えたのが変身である。
「それじゃあ、行きます!」
ふわっと光が集まり、ジークの姿が変わる。
額に巨大な二本の角、そして、ドラゴンを模した仮面と装飾の多い古の鎧に身を包み、その姿はまるで古代から蘇った神代の勇者のようですらあった。
この姿を選んだのはクイネだ。
変身はジークがイメージしやすい姿でないと維持出来ない。
そこで、祈りの廟で見慣れた竜神の姿をそのまま模したのだ。
戦神である竜神はクイネのお気に入りで、毎日のように二人で詣でていた。
ジークにとって見慣れた存在だったのである。
ジークには自分の姿は見えないが、それは幸いであったと言えるだろう。
もし見えていたら恥ずかしさに悶え死んだかもしれない。
ジークは高い塔の上から飛んだ。
そして姿が消える。
誰の目にも留まらない速さで移動したのである。
「がんばれー!」
クイネがすでに勝った気で応援する。
しかし、目の前には巨大で真っ赤なドラゴンが、今まさにブレスを吐こうとしていた。
『滅びろ!』
ずらりと並んだ歯が、その凶悪な力を感じさせる。
だが、本当に恐ろしいのはその奥からせり上がって来るブレスである。
ドラゴンのブレスは石をも熔かす。
それを受けて耐えられる者などいないだろう。
「そうはさせない!」
横合いから何者かがドラゴンの横っ面に蹴りを入れた。
大きさで言えば、人と羽虫ほどの差がある。
そんな小さな体で繰り出した蹴りなど、巨大なドラゴンに通じるはずもない。
普通なら、だ。
しかし、その身は魔王の後継者。
強大な魔力は世界そのものと言ってもいい。
その魔力を乗せた蹴りは、たやすくドラゴンを吹き飛ばした。
『ぎゃわあああ!』
行手にある全ての建物をなぎ倒しながら、ドラゴンは要塞都市の壁の外まで飛ばされた。
「よし!」
緊急時には街の人たちはすぐさま頑丈な砦のほうへ避難するので、街中の建物に人は残っていないはずだ。
ジークはまずは街の外へとドラゴンを追い出したことにホッと安堵した。
そこへ、ゴーンゴーンと鐘の音が響く。
「ん? ドラゴンは街の外へ蹴り出したからこの魔法は効果がないはずだけど」
クイネの父である領主フォックスは、無駄な攻撃をしかけるような指揮官ではない。
ジークは一瞬その意図が掴めず困惑した。
「おのれ、次から次へと! 魔族めが! だが、我ら人族はそうそう負けはせぬ!」
「あっ、もしかしなくても僕か!」
フォックスが危険視しているのは、ドラゴンを蹴り飛ばした魔族であると、ようやくジークは気づいたのだった。
「わ、私もサポートするわ! みんなの前で格好いいところ見せてやりましょう!」
クイネが盛り上がっている。
しかしジークは首を振ってそれを否定した。
「いえ、このままでは無理です。ドラゴンと戦うなら僕も魔王化しないと」
「あ、あの角がある状態ね」
「はい。あの角は魔力の触媒のようなもので、あれがあるとより効率的に魔力を操ることが出来るっていろいろ試したときに言いましたよね」
「うん。じゃ、じゃあ、アレをやるのね!」
クイネの目がキラキラと輝く。
それに対して、ジークはややどんよりとした雰囲気になった。
「そうですね。やるしかないでしょう。まさか素顔で角を出して戦う訳にはいきませんから」
二人は魔王の力を検証していたときにもしその力を使う必要が来たときにどうするかという話をしていた。
いざというときに力を出し惜しみする者は死ぬ。
それはこの要塞都市で育った二人の常識でもある。
とは言え、もしジークが魔族だとバレたら間違いなくこの要塞都市から追われてしまうだろう。
そこで、クイネが考えたのが変身である。
「それじゃあ、行きます!」
ふわっと光が集まり、ジークの姿が変わる。
額に巨大な二本の角、そして、ドラゴンを模した仮面と装飾の多い古の鎧に身を包み、その姿はまるで古代から蘇った神代の勇者のようですらあった。
この姿を選んだのはクイネだ。
変身はジークがイメージしやすい姿でないと維持出来ない。
そこで、祈りの廟で見慣れた竜神の姿をそのまま模したのだ。
戦神である竜神はクイネのお気に入りで、毎日のように二人で詣でていた。
ジークにとって見慣れた存在だったのである。
ジークには自分の姿は見えないが、それは幸いであったと言えるだろう。
もし見えていたら恥ずかしさに悶え死んだかもしれない。
ジークは高い塔の上から飛んだ。
そして姿が消える。
誰の目にも留まらない速さで移動したのである。
「がんばれー!」
クイネがすでに勝った気で応援する。
しかし、目の前には巨大で真っ赤なドラゴンが、今まさにブレスを吐こうとしていた。
『滅びろ!』
ずらりと並んだ歯が、その凶悪な力を感じさせる。
だが、本当に恐ろしいのはその奥からせり上がって来るブレスである。
ドラゴンのブレスは石をも熔かす。
それを受けて耐えられる者などいないだろう。
「そうはさせない!」
横合いから何者かがドラゴンの横っ面に蹴りを入れた。
大きさで言えば、人と羽虫ほどの差がある。
そんな小さな体で繰り出した蹴りなど、巨大なドラゴンに通じるはずもない。
普通なら、だ。
しかし、その身は魔王の後継者。
強大な魔力は世界そのものと言ってもいい。
その魔力を乗せた蹴りは、たやすくドラゴンを吹き飛ばした。
『ぎゃわあああ!』
行手にある全ての建物をなぎ倒しながら、ドラゴンは要塞都市の壁の外まで飛ばされた。
「よし!」
緊急時には街の人たちはすぐさま頑丈な砦のほうへ避難するので、街中の建物に人は残っていないはずだ。
ジークはまずは街の外へとドラゴンを追い出したことにホッと安堵した。
そこへ、ゴーンゴーンと鐘の音が響く。
「ん? ドラゴンは街の外へ蹴り出したからこの魔法は効果がないはずだけど」
クイネの父である領主フォックスは、無駄な攻撃をしかけるような指揮官ではない。
ジークは一瞬その意図が掴めず困惑した。
「おのれ、次から次へと! 魔族めが! だが、我ら人族はそうそう負けはせぬ!」
「あっ、もしかしなくても僕か!」
フォックスが危険視しているのは、ドラゴンを蹴り飛ばした魔族であると、ようやくジークは気づいたのだった。
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