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魔族と人族
12 要塞都市の危機
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魔族の落下地点を目で追っていたジークが、緊迫した様子で叫んだ。
「駄目だ!」
だが、その声は近くにいるクイネ以外には届かない。
そして魔族の落下地点から炎が吹き上がった。
「なに? なにがあったの?」
「あれはおそらく竜人です。人族が肉弾戦で敵う相手ではない。いや、魔法戦ではもっと敵わない相手です」
「でも落とすことは出来たわ」
「完全に相手の油断ですね。だからこそ、その分相手の怒りは増したと思っていいでしょう。あれをどうにかするには距離を取ってこの都市の封印陣でハメるしかありません」
「そっか。それをお父様に伝えないと」
「いえ、お館様はすでにお気づきのようです」
すさまじい地響きが起こり、魔族の周囲の建物が一気に吹き飛んだ。
そこへ巨大な剣を担いだ領主フォックスが駆けつける。
今や開けた土地となった場所に目にも留まらぬ速度で走り込むと、倒れ伏した兵のなかでかろうじて生き残った者が退避する時間を稼ぐ。
「なかなかやるな、トカゲ女!」
「小賢しい人族めが! 私を地に落としたことを後悔しながら逝くがよい!」
竜人の女の手に巨大な炎の剣が出現する。
魔法で作られた剣だ。
魔法で作られた剣は見た目の形にとらわれない攻撃範囲があるので厄介な武器である。
ヒュンと、竜人の女が軽く剣を振る。
その剣戟が地を割り、その割れ目に沿って炎が上がる。
壁までの亀裂に沿った家々が燃え上がった。
「くそったれが!」
フォックスが剣を体に引きつけた状態で竜人の女に突進した。
「遅い!」
そう笑い飛ばして剣を振り上げたその腕に金属の矢が突き刺さる。
クイネが距離があるなか機を見て矢を放ったのだ。
そのせいで女の攻撃はワンテンポ遅れてしまった。
領主フォックスの剣が唸りを上げ、女の腕を斬り飛ばした。
キィン! と、金属の砕ける音が響き、同時にフォックスの剣も砕けてしまう。
「ちぃっ!」
「貴様ぁ!」
二人が同時に声を上げた。
その瞬間、ゴーンゴーン! と要塞都市の鐘が鳴り響く。
「ぬおっ! これはっ!」
「喰らえっ! 聖なるくびきを!」
その鐘の音が響くと同時に、女が苦しみ出す。
神の祝福と呼ばれる封印魔法だ。
魔族に対してのみ効果がある魔法である。
「っ、頭が痛い」
「大丈夫? ジーク」
「うん。ちょっと頭痛がするだけだから」
ジークは周囲の魔力を吸い上げると、その魔力で見えない殻を作って自分を囲む。
「よし、これで平気だ。それにしても魔王の力は応用次第では無敵に近いんじゃないかな? あと、やっぱり僕、魔族だったみたいで地味にショックです」
「誰だって生まれは選べないもの、それはジークの責任じゃないわ」
ジークの言葉にクイネが慰めるようにそう言った。
クイネにしても自分が父の娘であることに憤りを感じている身だ。
だからこそ実感として生まれの不自由さを理解出来る。
「ありがとうございます。……っ、あの魔族。転身しようとしています!」
「なんですって! 竜人ということはドラゴン化? なに、あいつそんな高位の魔族だったの?」
魔族は人族を見下しているため、高位の者が自ら人族の街を襲うことは稀だ。
普通は部下を使って襲わせるところから始めるのである。
いきなり転身出来るような大物が来るとは運が悪いとしか言えない。
「全員退避ーっ!」
領主フォックスもその気配を感じ取ったのだろう。
慌てて兵に退避を命じた。
敵が弱ったのを見て突撃体勢を取っていた騎士たちが、わずかに戸惑う。
そこに、爆発のような衝撃が襲い、騎士たちは愛馬もろとも吹き飛ばされた。
飛ばされる騎士と馬の周囲に銀色の光が現れ、衝撃吸収の魔法の発動が美しくきらめく。
これは一度だけ命の危険を相殺する魔法だ。
そして街の中心に、巨大なドラゴンが現出した。
「駄目だ!」
だが、その声は近くにいるクイネ以外には届かない。
そして魔族の落下地点から炎が吹き上がった。
「なに? なにがあったの?」
「あれはおそらく竜人です。人族が肉弾戦で敵う相手ではない。いや、魔法戦ではもっと敵わない相手です」
「でも落とすことは出来たわ」
「完全に相手の油断ですね。だからこそ、その分相手の怒りは増したと思っていいでしょう。あれをどうにかするには距離を取ってこの都市の封印陣でハメるしかありません」
「そっか。それをお父様に伝えないと」
「いえ、お館様はすでにお気づきのようです」
すさまじい地響きが起こり、魔族の周囲の建物が一気に吹き飛んだ。
そこへ巨大な剣を担いだ領主フォックスが駆けつける。
今や開けた土地となった場所に目にも留まらぬ速度で走り込むと、倒れ伏した兵のなかでかろうじて生き残った者が退避する時間を稼ぐ。
「なかなかやるな、トカゲ女!」
「小賢しい人族めが! 私を地に落としたことを後悔しながら逝くがよい!」
竜人の女の手に巨大な炎の剣が出現する。
魔法で作られた剣だ。
魔法で作られた剣は見た目の形にとらわれない攻撃範囲があるので厄介な武器である。
ヒュンと、竜人の女が軽く剣を振る。
その剣戟が地を割り、その割れ目に沿って炎が上がる。
壁までの亀裂に沿った家々が燃え上がった。
「くそったれが!」
フォックスが剣を体に引きつけた状態で竜人の女に突進した。
「遅い!」
そう笑い飛ばして剣を振り上げたその腕に金属の矢が突き刺さる。
クイネが距離があるなか機を見て矢を放ったのだ。
そのせいで女の攻撃はワンテンポ遅れてしまった。
領主フォックスの剣が唸りを上げ、女の腕を斬り飛ばした。
キィン! と、金属の砕ける音が響き、同時にフォックスの剣も砕けてしまう。
「ちぃっ!」
「貴様ぁ!」
二人が同時に声を上げた。
その瞬間、ゴーンゴーン! と要塞都市の鐘が鳴り響く。
「ぬおっ! これはっ!」
「喰らえっ! 聖なるくびきを!」
その鐘の音が響くと同時に、女が苦しみ出す。
神の祝福と呼ばれる封印魔法だ。
魔族に対してのみ効果がある魔法である。
「っ、頭が痛い」
「大丈夫? ジーク」
「うん。ちょっと頭痛がするだけだから」
ジークは周囲の魔力を吸い上げると、その魔力で見えない殻を作って自分を囲む。
「よし、これで平気だ。それにしても魔王の力は応用次第では無敵に近いんじゃないかな? あと、やっぱり僕、魔族だったみたいで地味にショックです」
「誰だって生まれは選べないもの、それはジークの責任じゃないわ」
ジークの言葉にクイネが慰めるようにそう言った。
クイネにしても自分が父の娘であることに憤りを感じている身だ。
だからこそ実感として生まれの不自由さを理解出来る。
「ありがとうございます。……っ、あの魔族。転身しようとしています!」
「なんですって! 竜人ということはドラゴン化? なに、あいつそんな高位の魔族だったの?」
魔族は人族を見下しているため、高位の者が自ら人族の街を襲うことは稀だ。
普通は部下を使って襲わせるところから始めるのである。
いきなり転身出来るような大物が来るとは運が悪いとしか言えない。
「全員退避ーっ!」
領主フォックスもその気配を感じ取ったのだろう。
慌てて兵に退避を命じた。
敵が弱ったのを見て突撃体勢を取っていた騎士たちが、わずかに戸惑う。
そこに、爆発のような衝撃が襲い、騎士たちは愛馬もろとも吹き飛ばされた。
飛ばされる騎士と馬の周囲に銀色の光が現れ、衝撃吸収の魔法の発動が美しくきらめく。
これは一度だけ命の危険を相殺する魔法だ。
そして街の中心に、巨大なドラゴンが現出した。
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