好きになったのは魔王の息子~私達幸せになります!~

蒼衣翼

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魔族と人族

10 裡に潜むモノ

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 ニヤニヤしながら打ちかかって来た剣を、ジークは盾の表面で滑らせながら斜めに体を入れ替える。
 囲まれた状態から脱出しようとしたのだが、そう簡単にはいかず、次の少年が死角から巧みに走り込み、上段からの振り下ろしを行う。
 上段からの振り下ろしは威力がありすぎるので、通常の訓練では禁じ手なのだが、少年たちはジークが死んでも構わないという思い切った攻撃を行って来た。

(さすがに上手い。でも、連携は取れてないな)

 通常の訓練では多対一などというものはないので、少年たちも慣れていないのだろう。
 攻撃に多少の戸惑いがある。
 同士討ちを避けるためだ。

 ジークは盾に取り付けてある特殊なアタッチメントで盾を半回転して横倒しにすると、ひじで押すように振りかぶった少年の体勢を崩す。
 そして素早く盾を戻して別の方向からの剣を防いだ。

 この一連の動きで包囲は崩れた。
 ジークは素早く一対一になるように位置取りをする。

「さすが鈍亀、守りは堅いようだな!」

 五人の少年の中心人物であり、一番体の大きい少年がそう言いながら石を投げつけた。
 咄嗟に盾で弾いたジークだったが、側面ががら空きになり、そこにすかさず剣が突き入れられる。
 刃先は潰している剣とは言え、重い金属の剣に脇腹を突かれ、ジークはバランスを崩し転倒し、ゲエゲエと胃の中のものを吐いた。

「汚い! 神聖な騎士団の訓練所を汚すな!」

 怒鳴った大柄の少年は鋼の入ったブーツでジークを蹴飛ばす。
 ゴロゴロと転がったジークは、本能的に剣を抜いた。

「ほうやる気か?」
「こりゃいいや、鈍亀が盾以外を使うってのか?」
「やってみろよ? 生白い顔しやがって、傷の一つもつけたほうが格好がつくんじゃないのか?」

 囃し立てる少年たちの声がどこか遠い。
 脇腹が焼け付くように痛かったのも遠い感覚となり、世界から熱が消えて行く。

 なぜか口元に笑みが浮かんだ。
 
『全てを壊せ! お前の力を示すのだ!』

 知らない誰かの声が頭のなかで響く。
 ジークは言われた通りに、自分のなかに感じる力を剣に通し、それを放とうと持ち上げた。

「あなたたち! 何をやっているのですか!」

 突如、訓練所に鋭く、そして美しい声が響き渡る。
 クイネが教官の横に腕組みをして立っていた。
 教官はなぜか真っ青になって硬直している。

「一人に対して五人でかかるなど、騎士の誇りを忘れてしまったのですね! 恥知らず!」

 恥知らずと言われてしまった少年たちも黙ってはいない。

「これは訓練だ。姫様は口出ししないでくれ」
「一人を大勢で殴るのが訓練ですか? 先程は足蹴にしていたようですけど?」
「そ、それは……」
「ああ、あなた方がいずれ盗賊になったときのための訓練ですか?」
「な、なんだと!」
「違うというなら、私とジークを相手にしてごらんなさい?」
「女となどやれるか! ちっ、行くぞ!」

 大柄な少年は仲間を引き連れ、立ち去った。
 なぜか教官も一緒に去ってしまう。

「全く、恥知らずはこれだから。ジーク、大丈夫?」
「……」
「どうしたの? ボーッとして。はっ、もしかして、魔王の力をあの愚民共に示すところだった? ごめんなさい邪魔しちゃって」
「え、いえ、あははは……イタッ!」

 クイネの勢いになぜか笑えてしまったジークだったが、脇腹の痛みに悲鳴を上げた。

「あっ、酷い、アザになってるじゃないの! 早く治療を受けましょう」
「いえ、大丈夫」

 ジークはフーッと息を吐くと、周囲から魔力を吸い上げる。
 すると、脇腹の痛みが引いていくのを感じた。

「あ、治った! すごい!」
「魔王の力ってすごいですよね」
「何言ってるの。ジークがすごいんだから!」

(さっきの声……)

 ジークは先程自分を突き動かした声について考える。
 おそらくは先代、いや、代々の魔王の意識なのだろう。

「僕、このままここにいて大丈夫なのかな?」
「安心して、私があの連中をぐうの音も出ないぐらい締め上げてあげるから!」
「いえ、そういうことはしないでください。クイネの評判が下がります」
「評判が下がるのはあいつらよ!」
「あはは」
「もう、笑いごとじゃないんだから!」

 ジークはプンプン怒るクイネをなだめ、自分の吐瀉物を掃除するとその日の訓練を終えたのだった。
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