魔人に就職しました。

ミネラル・ウィンター

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第2章 Monster situation

第38話 そっちは任せた

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「"殺意"?殺気と何が違うんだ?」

 昔、俺は師匠じじいにそんな事を聞いた事がる。

「まず殺気と言うのはじゃな。簡単に言うと人の放つことが出来る気の中で"一番強い気"じゃ」

「気?」

「そうそう。怒気とか邪気とか、聞いたことあるじゃろ?そういう人間が出す事の出来る気の中で最も強く、最も鋭いのが"殺気"・・・・とワシは思っておる」

 お前が思っているだけかよ・・・と思ったもののなんとなく殺気が何なのかは理解できた。
 だが今知りたいのは殺気と殺意の違いだ。

「で、殺気の事は分かったが"殺意"ってのは何なんだ?」

「殺意は殺気とは違い、気ではなく"相手を命を賭けて殺すという強い意志"じゃ。そして殺意には二種類ある。意図的にいだく"作り物の殺意"と、自然にき上がる"本物の殺意"じゃ」

「・・・訳が分からなくなってきたが、とりあえず続けてくれ」

「殺気を放つには必ず殺意が必要。だがそれは意図的に抱く作り物の、偽物の殺意で十分代用できる。だが所詮は紛い物、本物のには及ばん」

「あー、ガソリンで例えるとレギュラーとハイオク的な違い・・・か?」

「おおー!中々いい例えを言うではないか!」

 殺意は殺気の源になるもの、というのはなんとなく分かってきた。

「それで、その本物の殺意を抱く方法とかも俺は教えられる訳か」

「・・・いや、本物の殺意を抱く方法はワシでは教えられん」

「は?」

「このワシだって過去に一度しか本物の殺意を抱いた事がないからな!」

 ドヤ顔でワッハッハッハと笑う師匠じじいを無性に殴りたくなった。

「だが、お前もいつか本物の殺意を抱く時が必ず来る。その時の為に今から色々とできる事はある」

「本物の殺意ねぇ。因みにどういう状況で抱く物なんだ?」

「それは教えられん」

「は?じじいは前に体験したことがあるんだろ?」

「そうじゃ。だから教えん。あらかじめ知っておくと意味がないからの。まぁ知ってからのお楽しみってやつじゃよ」

 知らない方が良い。物事にはそういうものもあるというのは分かっている。だから師匠じじいのいっている事は理解できるし、納得もできる。
 だが言い方が腹立つ。

「・・・禿げろ」

「禿げん!ワシの頭皮は強靭じゃからな!」

 今から随分と昔の会話だが、こんな話を師匠じじいとした。当時は何も思わなかったが、こんなものでも今は懐かしくだ。
 結局、あの時から"本物の殺意"を抱いた事はなかった。だが、今理解できた。
 今、心の底から湧き上がる黒く鋭いこの気持ちこそが―――
 ―――"殺意"だと。




「痛ぅ~!」

 スパーダと戦っていたイツキが2人の所に戻ってきた。
 どうやら少し怪我をしているようで、腕を押さえながら少し痛そうに顔を歪めている。

「悪い、回復とリジェネ貰えるか?あと保険でも」

「はいはい。思ってるより苦戦・・・いえ、楽しんでいるみたいね」

「私達も手伝うよ?」

 メグミとアユミがイツキの注文通りに回復魔法とスキルを使用してイツキを回復させる。
 イツキはまだ、カケルの存在に気付いていなかったが回復してもらっている時にやっとカケルの存在に気がついた。

「ん?おい、あの男は?」

「うーん、何だか敵っぽい?」

 カケルの魔物を助ける言動を見て、恐らく敵だと判断する。

「敵ぃ?っておい。あいつ・・・あの髪色って!?」

 そこで改めてカケルを見たイツキが髪色に気づいた。
 その髪色は、この世界では珍しい黒色。
 それは自分たちと同じだ。そして、髪の色が黒色だと自分たちとの共通点が自ずと増えることになる。

「ってことは、あいつも転移者か!?」

「十中八九ね」

 彼らが同じ転移者と出会うのはこれで、2回目だ。
 同郷どうきょうの人間と会えた事に驚くが、イツキは先程のアユミの発言。敵っぽいという言葉を思い出す。

「で、何であいつは敵なんだ?」

「あなたは見てないけど、彼は魔物を助けるように動いたわ。私の魔法を防ぎ、アユミの状態異常を一部の魔物だけだけど、治していたわ」

 メグミはカケルが行った事を説明するが、その光景を見ていないイツキはいまいち信じてない。
 自分等と同じ、異世界からの転移者が何故魔物の味方をしているのかがわからないのだ。
 だがそれも、先程から戦っていたリビングデッドがカケルの下に来た事で彼女達が言っている事は本当なんだと理解した。

「おお、悟。戻ったか!」

「スパーダ、お前はなんともないのか?」

「ああ、特になんともない。あいつには少し手間取ったが、もう。次からは問題ない」

「そうか・・・お前が手間取ったのか」

 スパーダは先程の戦闘でダメージを負った様子はない。どうやら手間取ったらしいが、ノーダメージだ。
 しかしカケルはスパーダほどの強さを持つ者に少しでも苦戦させた、彼らへの警戒を強めた。
 スパーダとカケルの実力はほとんど同等どうとうみたいなものだ。
 多少の技術の分野の中で得意不得意があるだけで、実力はほぼほぼ変わらないと言ってもいいだろう。
 もっとも人間とアンデッドという種族的な違いはあるので、完全に技術だけの問題とは言えないかも知れないが。
 カケルはスパーダに簡単に他の魔物が避難した事を話す。

「なんか話してるな。って事はマジで敵なのか?」

「あの様子を見るとそうでしょうね。魔物達を使役していたのかしら?」

「じゃあ、あの人がこの村のボスってこと?」

「恐らく、ね」

 自分たちと同じ転移者ならスキルを持っているハズよね。今の所、言動を見ると魔物を従えるスキルか、魔物と意思疎通できるスキルと言ったところかしら。
 それに私の魔法を切った時、何か力を感じた。恐らく攻撃系のスキルもあるわね。
 メグミはカケルのスキルをそう考察した。

「一度だけ聞く」

 スパーダと話し終わったカケルは先程の質問を改めて、目の前の3人に聞いた。

「お前らはここに何しに来た」

 カケルの最後の良心が生み出した質問。それに平然と答えたのはイツキだった。

「何しにって。魔物が居たから退治がてらに強い奴と戦えればなぁーっと」

「・・・そうか」

 その質問の、答えを聞いたカケルの表情は怒りをあらわにしていた。
 カケルがここまで感情を表に出したのは初めてかも知れない。
 それほどまでに、この惨状さんじょうとそれを作り出した原因に対して怒りがつのっているのだろう。
 カケルはそっと左手で腰に差している刀のさやを軽く押さえると、スパーダに小声で話しかけた。

「お前にはあの男を任せていいか?後の2人は俺がやる」

「ふむ。以前、悟に負けた私が言うのはアレかもしれないが、大丈夫なのか?あそこの女共の魔法はなかなかに強力だったぞ?」

「魔法か。正直魔法についてはさっぱりだ。だけど、あいつらは俺に。ジャック達と約束したからな」

「そうか。それなら、あの男は私に。先ほども言ったが奴の剣には慣れたからな」

 スパーダと話すカケルだったが、イツキ達もイツキ達で会話をしている。
 お互いに小声で相手には聞こえていない。

「お前って俺たちと同じ転移者だろ?お前こそこんな所でなにしてんだ?」

 イツキがカケルに対して質問する。
 しかし、カケルは答える気はない。目は3人をとらえたままだが、スパーダと会話をしている。
 やがて会話が終わったのか、次の言葉は小声ではなかった。

「なら」

「では」

「「そっちは任せた!!」 」

 次の瞬間。スパーダはイツキに。カケルは2人の女性に向かって突っ込んでいった。




「なっ!?」

「きゃあっ!」

 男女それぞれの驚いた声があがる。
 瞬時しゅんじにそれぞれの相手の目の前まで行ったカケルとスパーダは、それぞれの相手に攻撃を仕掛けた。
 カケルはアユミの横を通り過ぎ、アユミの後ろにいたメグミを居合いで斬りかかる。
 スパーダはイツキをに対して、地面をえぐるように斜め下から上に斬り上げるような攻撃だ。

「ぐっ!!」

 イツキはなんとか手に持っていた聖剣で防ぐ。だが、それはスパーダの読み通り。スパーダの攻撃はそもそもイツキを斬り殺そうとした攻撃ではない。相手が剣を使って受け止める事を予想した攻撃だ。
 スパーダの攻撃を受け止めたイツキは地上から浮き上がり、足を踏ん張る事が出来なくなる。

「なにっ・・・!?」

 そしてそのまま後方におもいっきり吹っ飛ばされ、吹っ飛んでいった。


 カケルの居合いがメグミの首元に迫る。メグミはその早い攻撃をギリギリでなんとか回避した。
 しかし、その過程で長い髪がカケルの放った居合いで切られてしまう。
 メグミの回避より、少し遅く反応していたアユミがレイピアを取り出し、カケルを背後から攻撃する。
 しかしその目視もくしもしていない後ろからの攻撃をカケルは難なく回避。力の入った後ろ蹴りで、アユミの腹を蹴飛ばした。

「がはっ!!」

 アユミは腹部を蹴られて吹っ飛んで行く。
 カケルは吹っ飛んでいる間に追撃しようと具現化した殺気を刀にまとわせ、殺気による飛ぶ斬撃を放とうとする。
 しかし、それは放たれなかった。

「!?」

「《暴発する衝撃/アウトレイジ・インパクト》!」

 魔法が放たれる。
 メグミを中心にドーム状の衝撃波が地面ごと一定の範囲を吹き飛ばす。
 カケルは魔法らしきものを唱えてると分かった瞬間にその場から離れる行動に移したため、その衝撃波はくらわなかった。
 その魔法が地面の表面を吹き飛ばした事で、あたりに少し土煙が舞う。

「アユミ!!」

 その隙にメグミは蹴飛ばされたアユミの元に向かった。
 アユミは吹っ飛ばされながらも空中で身をよじり、木に激突する事なく着地していた。

「いたたたた~。本気でお腹を蹴飛ばすなんて、最低な男だ!」

「大丈夫?」

「私はリジェネがあるから問題ないよ。メグミは?」

「私はなんとか距離を取らせたからなんとかなったわ。髪は少し切られちゃけど。それよりも・・・」

「うん・・・」

 メグミ達はカケルを見る。先程の魔法による土煙は既になくなっており、少し先にはカケルが刀を握りしめ同様にこちらを見ている。
 そこで彼女達は相手が本気で殺しに来ていると認識する。
 アユミが右手でレイピアを構え左手はメグミの手を握る、メグミは杖をカケルに向けて構える。彼女達も本気になったのだ。

「アユミ、やるわよ」

「うん。殺される訳には行かないからね!」

 しばらく両者が見つめ合う。お互いに様子を伺うが、先に動いたのはメグミ達だった。

「《炎の弾丸を連射する球体/フレイム・バレット・スフィア》」

 メグミの前に赤い球体が現れた。その球体はカケルをロックオンする。すると、その球体から30cmほどのサイズの炎の弾丸が連射れんしゃされる。それはまるで本物の銃の弾丸のような速度で発射されるそれは、この世界のマシンガンといっても過言ではない。

 その魔法が発射されると同時にカケルは走り出した。ジグザグに走って、その魔法を避けながらメグミ達に接近していく。
 今のところ、メグミの魔法は当たっていない。
 近づいていくとカケルの前からアユミが走ってきた。その速度はカケルに勝るとも劣らない速度だ。
 アユミは手に持つレイピアでカケルを攻撃した

「さっきのお返し!!」

 炎の弾丸を避けながら、カケルはアユミのレイピアによる攻撃を回避する。
 アユミの攻撃は回避したがその瞬間にメグミの魔法である炎の弾丸が肩をかすめた。

(あの女の魔法はタイミングをいじれるのか)

 どうやら、メグミがアユミの攻撃に合わせて《炎弾丸を放つ球体/フレイム・バレット・スフィア》の発射タイミングをずらしたようだ。

「そら!そら!!」

 アユミがレイピアによる攻撃を続ける。
 カケルが回避や反撃を使用とすると、メグミの魔法が飛んでくる。
 まだ直撃はしてないが、避けきれずに魔法が掠める。

 そこでカケルは魔法を使用している女に向けて、飛ぶ斬撃をおみまいする事にした。
 2人の攻撃を回避しながら、刀に殺気を込める。
 そしてタイミングを見て、メグミに具現化した殺気による飛ぶ斬撃を放った。
 しかし、そのままではない。飛ぶ斬撃を放った後、そのまま流れるように刀を動かして殺気が纏っている刀でアユミを攻撃したのだ。

「なっ!?」

 アユミは驚くもレイピアを横にして受け止めようとする。だが、カケルはそんな事は想定済みだ。カケルはその、その女を両断するつもりで殺気と力を刀に込めている。そしてカケル自身、それが可能だという自信があった。
 だが、何故かカケルの攻撃はアユミが持つレイピアに受け止められてしまった。

「なに?」

 本来なら、レイピアごとアユミを縦に両断するつもりだった。現実は受け止められている。そして次の瞬間。カケルは自分の指先から駆けあがってくるに痺れを感じた。
 それはアユミのスキル《状態異常付与バリエーション・ギフト
 アユミはカケルの攻撃をレイピアで受け止めようとして、刀とレイピアが接触した瞬間。
 そのスキルを発動したのだ。
 アユミのスキルがレイピアから刀に、刀からカケルの手に伝わっていく。
 カケルは自分の手から上がってくる異常を感じ、麻痺の類いだと理解するとすぐに左手を構えた。
 そして痺れが腕から体に行く前に、手刀で自分の右腕を切断した。

「ぐ・・・っっっ!!」

 かなりの痛みはあるが耐えられる。腕を切り落とした事で一瞬にしてかなりの出血をするが、
 カケルは切断した右腕に力を込める。すると腕の筋肉で血管を圧迫あっぱくし、出血を止めたのだ。
 それらの動作を瞬時に判断してやってのけたカケルだったが、流石にアユミが自分から距離を取っている事に気づくのには遅れてしまった。

「魔法か!!」

 アユミが距離を取った事に気が付くとすぐに魔法だと確信した。
 直ぐにメグミの方に目を向けると既に魔法が放たれていた。
 アユミはメグミが放つ魔法に巻き込まれないようにカケルから離れたのだ。
 アユミとメグミの作戦は最初から、アユミのスキルで動きを止めること。そして動きが止まったらメグミの特大魔法を放つことだったのだ。

「《交差する2つの落雷/ダブル・ライトニング・ストライク》!!!」

 一瞬光ったと思うと次の瞬間には、カケルがいた所にかみなりが落ちてきた。遅れて聞こえてきた大きな雷轟らいごうという雷が空気中を流れ空気が震えてでる音が、その森全体に聞こえるほど大きな音となり辺りに響いた。
 それはその魔法が本物の雷同様に、音速を超えていた証だ。

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