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第2章 Monster situation

第30話 成長する魔物達

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 オーガが来るとわかっている方向にアンデット・ナイトが村を守るようにならぶ、そしてその前にはオーガの無力化をまかされたザイル達サンド・ゴーレムが待機している。
 アンデット・ナイトの後ろには、ダスト率いる悪魔族とジャック達トレントが待機している。
 その更に後ろには建物の屋根にマサムネが待機している。指揮役であるため高い所から全体を見渡している。

 ―――プルプル

「モウスグ確認デキル所マデ来マス」

 ジャックが敵の位置を報告すると、魔物達は身構えた。そしてそのあとすぐにオーガの接近が目に見える所まできた。
 どんどんとオーガ迫ってくる。

『行くぞ皆』

 ザイルが無機質な声を上げると、それに答える形でサンド・ゴーレム達が動き出した。
 敵のオーガは全部で17体。対してこちらのサンド・ゴーレムは20体以上。数ではこちらが上だが、第三者が見たら戦力的に負けていると思うだろう。

「チッ!こちらの事はバレていたのか」

 オグルは見えて来た村に魔物達が陣形を組んで待ち構えているのを見て舌打ちをする。
 それと同時に不在時も魔物達が外的を感知し、ここまでの防衛行動を仕込んでいることに感心していた。しかし一番外側―――つまりこのままいくと一番最初にオーガと接触する―――魔物は陣形の魔物選びのミスとしか思えない。

「サンド・ゴーレムだと?そんな低級な魔物でオーガをどうにか出来るわけないだろう」

 サンド・ゴーレムはゴーレムの中でも体力がもっとも少ない種類だ。体力が他のゴーレムより劣《おと》っている代わりに、ストーン・ゴーレムやアイアン・ゴーレムなどよりは素早いという特徴がある。
 だが、ゴーレムが素早いと言ってもそれはゴーレムの中だけだ。大半の魔物に素早さでも劣っているのが現状だ。
 それにオーガと比べてしまうと魔物の性能としても雲泥の差がある。オーガと比べればはっきり言って雑魚だ。そしてその雑魚がオーガに向かって来ている。

「オーガども!目の前のゴーレムを蹴散らせ!」

 そんな雑魚に警戒する必要はない。もしも警戒するなら後ろの中位のアンデットや悪魔族の魔物だろう。ぱっと見オーガとやりあえる魔物はいないがあそこまで中位のアンデッドがそろっていると流石のオーガも多少は苦戦するかもしれない。それに悪魔族が使うとされる"重属性"魔法も厄介だ。
 だが、それでも苦戦する程度。オーガが負ける可能性はほぼゼロだ。

 「グォォォ!!」とうなり声をあげながら手に持っている武器でサンド・ゴーレムをはらった。リーチの長いトゲ付きの鈍器はサンド・ゴーレムが攻撃射程に入って間もなく攻撃がヒットする。オーガの圧倒的かつ単純な腕力わんりょくで繰り出されるその攻撃は意図いとも簡単にサンド・ゴーレムをただの砂に変えた。

 「ゴゴォ」と無機質な声を上げながらサンド・ゴーレムは当たり前のようにオーガの攻撃に耐えきれず、次々にやられていく。やられたサンド・ゴーレムは体をたもつ事ができなくなり、自分を形成していた元の物質である砂の山になっていく。

「ふんっ、やはりただの雑魚だったか」

 オグルが一撃でやられていくサンド・ゴーレムを見て自分の思った通りの結果になった事を言う。もしかしたら何かあるんじゃないかと警戒はしていたが、杞憂だったようだ。それも当然の事だ。オーガに敵う魔物の方が圧倒的に少ない。この世界では常識なのだ。

「・・・ド、ドウシマスカ」

 一方、魔物側でも少し混乱が起こっている。
 オーガを何とか出来ると名乗りをあげたザイル率いるサンド・ゴーレム達がものの数秒で、砂の山に変わっていった。
 会議の時は自分で進化したとかなんとか言っていたが正直、変わった所なんて見られなかった。
 アンデット・ナイト達の後ろでサンド・ゴーレム達をサポートするべく構えていたジャック以外のトレントと悪魔族も最初の作戦は失敗したのではないか、という雰囲気でソワソワしだしている。
 ジャックも少し不安になった為、指揮者であるマサムネにどうするかと聞いたのだ。

 ―――まだだ!

「エ?デスガ、カレラハ・・・」

 ―――まだ、ザイル達はやられてない! 

 そう。マサムネが言っている通り、彼らはまだ終わっていない。
 彼らは進化している。魔物のエネルギー原でもある魔の力。それよりも濃いエネルギーである魔人様が扱う力。それに多少なりとも触れ続けた結果。
 彼らの体はゴーレムのいきを超えたのだ。普通のサンド・ゴーレムならこのまま、砂の山のまま死亡していただろう。だが、彼らのはここから始まる。

「な、なんだ!」

 まず、オグルが異変に気づいた。サンド・ゴーレムを蹴散らしたオーガの少し後ろで指揮をしていた為、全体を見ていたところで異変が起きた。
 サンド・ゴーレムは倒して砂の山になった。ここまではいい。だが、その砂が動き出したのだ。
 砂がまるで水がの様に流れるように動き、一本のへびのようになる。
 そしてそれがオーガの体ににまとわりついた。

「オーガども、自慢の力でそれを壊せ!」

 オーガ達は命令通りにに自身に纏う砂を壊そうとする。
 しかしその砂はサンド・ゴーレムの時とは違い、固まっている訳ではない。
 そのためいくら力を込めて砂を握ろうが、いくら砂を払おうが、破壊はできず。払った砂は空中でそのまま引き返して戻ってくるのだ。

 次第にオーガは全身を包まれ、身動きが出来なくなっていく。
 何とか抵抗しているオーガもいるが、それも時間の問題で次第に動かなくなった。

「そんな・・・オーガが!最強の魔物が雑魚なんかにっ!」

 オグルが信じられないとばかりに声を荒げる。
 だが、事実は事実。オーガがサンド・ゴーレムにやられたというのは紛れもない事実だ。
 いや、もはやサンド・ゴーレムではない。彼らは進化し、別の魔物へと生まれ変わったのだ。
 ―――サンド・ルーラー・ゴーレム
 これが彼らの新しい種族名だ。

 オグルが驚愕していると一部の砂が動き、彼の目の前に砂の山を作った。するとそれは形を形成していき、最終的には何処にも欠損のない完全なサンド・ゴーレムの形になった。

「ゴゴォ」

 目の前のサンド・ゴーレムは無機質な声を出す。
 しかし魔物とは違いオグルにはサンド・ゴーレムがなんて言っているのかは分からない。
 だが今だけはオグルは分かるような気がした。このサンド・ゴーレムは今、笑ったのだ。
 ゴーレムなので表情もないがオグルは確かに今、ゴーレムが笑ったように見えた。

「くっ!!」

 魔物なんかにバカにされたオグルは頭に血が上るがそれもすぐに収まる。
 それほどオーガがサンド・ゴーレムに無力化された事が堪えたのだ。

(くそっ!俺が甘かった!我々全員で掛かるべきだった!)

 結果、オグルは逃走した。無力化されたオーガを見捨て、身体能力を上げる魔法を使いながらオグルは来た道を引き返したのだ。
 自分だけでは無理だった。次は魔王教のメンバー全員で、尚且つ徹底した作戦も立てて挑もう。必死に足を動かしながらそんな事を頭の片隅で考えていたが、それは叶わない。
 何故なら突如目の前に死者が来たからだ。

「なっ!?」

 ドォォンと音を立てながら着地したそれはオグルが見たこともないアンデッドだった。
 でかい体格に一本の剣。そして圧倒的な威圧感。明らかに別格の魔物だ。
 そしてさらに―――

「お前はここで死んでもらう」

 そのアンデッドはを発した。
 それによってオグルの混乱は加速した。
 
 スパーダはオーガを操っていた男にそう言って刀を向けた。
 スパーダの刀がオグルを襲う。
 しかしその攻撃ははじかれた。

「ほう」

 オグルがとっさに防御魔法を使ったのだ。混乱しながらも死を恐ろしいという思いが勝ったのか、何とか防御魔法を叫んだ。
 実は彼のもっとも得意な魔法はオーガを操る魔法ではなく、防御魔法だ。
 彼はオーガの攻撃をもふせぐ防御魔法と、オーガをも操る事が出来るという2つの魔法を駆使して魔王教の8人の中でも最強をほこっていた。

 事実、その戦術は強い。魔物を操る事が出来る魔法に射程距離が存在する以上、モンスターテイマーはその射程距離にいなければならない。
 つまり、操っている魔物から長距離離れる事ができない。そのため、モンスターテイマー自身が狙われてしまう可能性がある。
 本体がられてしまえばお終いだ。モンスターテイマーは本体が重要なのだ。
 しかしオグルのように防御魔法が使えるのなら、狙われても問題ない。防御魔法を使いながら、安全に魔物を操ることができる。それがオグルの得意とする戦法だった。
 もっとも今回はまさかオーガがやられるとは思わなかったが。

「ふむ、なかなか硬いな」

 スパーダがその防御魔法をもう一度攻撃するが、防御魔法は壊れない。
 スパーダという特別製のリビングデッドの攻撃を耐える時点でオグルの防御魔法の凄さがうかがえるだろう。

(なんだこいつは!?言葉を話すアンデッドなんて聞いた事もないぞ!それにこいつは明らかに他の魔物とは違う。確実にオーガより上位の魔物だ!!)
 
 もしかしたらアンデッド使いであるジュディアなら、このアンデッドの事も知っているかもしれないと考えるが今はそれどころではない。
 防御魔法は破られてないが、この魔法は動きを止めながらでないと使えない。動きながらは使えないのだ。魔法もそこまで万能ではない。

(仕方ない、一回限りだから使いたくなかったがこれを使うしない!)

 オグルは左腕に刻まれた転移魔法が込められている術式に意識を向ける。
 これは前回、ジュディアが使ったものと同じものだ。使用者をあらかじめ設定している場所に転移させる魔法が込められている。しかしこれは使い捨てだ。一度使えばこの術式は使えなくなる上に、一度術式を刻まれた体には二度と新しい術式を刻む事はできない。正真正銘の一回きりのものだ。
 しかし、オグルは絶対絶命の状況。背に腹は代えられないと、その術式を使用することを心に決める。

 そうと決まれば使う"タイミング"だ。
 この術式を使うとなれば一度この防御魔法を解除しなくてはならない。
 だが普通に解除しても、術式を使用するまでのわずかすきに攻撃されてはまずい。

(次にこのアンデッドの攻撃を弾いた瞬間に解除して、魔道具を起動させる!)

 そのタイミングなら間に合うハズだ。次に攻撃を仕掛けてくるタイミングでやると決めて、オグルはそのタイミングを待った。

「確かに硬い。これなら並大抵なみたいていの事では破壊できないだろう」

 スパーダがオグルの防御魔法を見ながら独り言を話す。

「だが、今回は相手が悪いというやつだな」

 そう言うと、スパーダは刀に具現化した殺気を纏わせていく。刀は禍々まがまがしい色に包まれていった。

(なんだ!?このアンデッドは何をしている!?)

 見たことも聞いたこともない謎の行動にオグルは大量の冷や汗を流した。
 さらに唐突に殺されるイメージが頭に沸いてくる。自分の意志ではなく直観的に、本能的に感じたような感覚だ。それによりオグルの身体は無意識に硬直していた。人間は過度なストレスが襲うと自己防衛本能として筋肉が硬直する。本来それはいつでも危機に対応できるようにする"備え"なのだが、それを引き起こされた場合。"備え"は"不備"と化す。

 スパーダはその禍々しい刀を大きく上に振りかぶると。
 勢いよく振り下ろした。

 ―――ドガァアァァァン!!

 爆音が森に鳴り響き、地面が揺れ、辺りに土煙が舞う。

「後で、ジャック達に言っておかんとな」

 そう、一言ひとことつぶいてスパーダは村に戻っていった。
 オグルが防御魔法を展開していた場所は、地面がえぐられ、まるで隕石でも落ちてきたと思われるようなクレーターができていた。

 そんな攻撃に耐えられるハズもなく、オグルは自慢の防御魔法と共に消滅した。








 魔物の村があるアイタル森林から少し離れた所の上空に飛行物体が飛んでいた。それはドラゴンと言われる生物だ。
 よく見ると上に人が乗っている。

「なんだありゃ?闇魔法でも失敗したのか?」

 その男は先ほどスパーダが放った一撃で禍々しいオーラの爆発が起きた所を目撃していた。

「ドライグ、ちょっとあそこにいってみてくれ」

 男は自分の乗っているドラゴンに指示をする。
 ドラゴンも男の言うとおりの場所に飛んで行った。

「にしても、あらためてすげぇ世界だなこの世界」

 男はドラゴンの背中にのりながら空の絶景ぜっけいを楽しむ。

「魔物はうじゃうじゃいるけど、そういうファンタジーものじゃ定番なハズの魔王はもういねぇらしいからなぁ~。魔王が既にやられているRPGって普通ないよなぁ」

 1人でそう呟いた男は、クセルセス宗教国しゅうきょうこくのSランクハンター。
 悟と同じ転移者の1人でもあった。

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