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第2章 Monster situation

第28話 お風呂を作ろう

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 エリカの訓練を始めてから2日後。この日はカケルが村に帰る日であった。
 昨日の夜にエリカに1週間に一度、自宅に帰る様にしているため今日は帰る事は伝えてある。自分の不在時は昨日と同じメニューを続けるように指示を出しておいた。
 エリカは残念がっていたが、今頃1人で素振りをしているのだろう。
 カケルは目の前に現れた転移魔法に足を踏み入れながらそう思った。

 村に着くと、迎えてくれたのはスライムの"マサムネ"とリビングデッドだった。
 最初の頃は戻って来たら村の魔物が総出そうでで迎えてくれたが、戻ってくる度に全ての魔物が集まる必要はない。とカケルが言った為、今ではマサムネとその護衛ごえいを担当しているリビングデッドの2人が迎えてくれた。

「ただいま」

 ―――プルプルッ

 マサムネがカケルの胸に飛び付いた。カケルはマサムネ受け止めると軽く撫でる。
 相変あいかわらずお気に入りのスライムボディを堪能たんのうしているとカケルは少し違和感を感じた。

「マサムネ・・・最近太った?」

 ―――プル?

 マサムネが一回り大きくなっている気がするのだ。
 しかし本人は首?をかしげている。

(俺の勘違いか?いや、でも、これは明らかに大きくなっているような・・・)

 スライムの生態は知らない事の方が多い。マサムネはただ単に成長しただけかもしれない。実際他のスライムでマサムネより大きい個体はいる。だが例え太っただけであっても単に柔らかみが増すだけの気がするので気にすることではないのかもしれない。
 そんな事を考えながらカケルは自分の家に帰って来た。
 自宅に着くと、木の床に倒れ込む。ここでは心身しんしんともにリラックスできる場所だ。
 そうしてそのまま、マサムネを1時間ほど弄ることがもはや毎回の恒例こうれいになっている。
 しばらくして自宅から出てきたカケルとマサムネは少しだけツヤツヤしていた。

「よ、ジャック戻ったぞ」

 自宅から出るとマサムネとは一旦別れてジャックの所に向かった。こちらも毎回の恒例になっているカケルが居ない間の出来事についての報告だ。
 ジャックが色々と解説しながら新しく完成した建物や新しく村に来た魔物達の事を見て回る。
 あれからハンターとして依頼をこなしていた為その依頼先で村のメンバーになった魔物が増えている。
 新たな種族は悪魔族の"アモス・デビル"。ゴーレムの"アイアン・ゴーレム"、"サンド・ゴーレム"。ビートル族の"ヘラクレス・ビートル"。
 新しい種族はこのくらいだ。もちろんこの村に既存している種族の数も増えている。
 人数が増えた事で村も大きくなってきた。自分が提案した覚えのない施設とかも増えていたためジャックに説明をしてもらいながら、カケルは村全体を見ていった。

「コレデ全テデス」

「ん、わかった。報告ご苦労さん」

「コノ村モ大分充実シテキマシタ。様々ナ種族ノ魔物達ガココマデ楽シク生活デキテイル・・・。コレモ全テ魔人サマノオカゲデス」

「毎回似たようなこと言ってるなお前。いつも俺のおかげとかじゃなくてお前たちが自分で頑張っただけだっていっているだろ」

「ワカリマシタ。今回モニシテオキマス」

「はいはい。今回もにしておいてくれ」

 ジャックがカケルを見て不意にニッと笑うと、それを見たカケルもフっと小さく笑った。
 どうやらジャックも十分楽しんで生活できている様だ。

「デハ、私ハ戻リマス」

「おう・・・。あっ!ちょっとまってくれ」

 業務に戻ろうとするジャックを咄嗟に引き留める。
 実は今回、村に戻ってきたらやろうと思ってきた事をがあったのだ。 
 それは"風呂作り"だ。カケルはこの村に露天風呂ろてんぶろを作ろうと思ったのだ。
 今までは川で水浴びか、ファイアスライムに水を汲んできてもらいそれを掛けてもらっていた。ファイアスライムが水を取り込むと水はお湯になり簡易的なシャワーになっていたからだ。
 しかしカケルは最近思ってしまった。風呂にかりたい、と。日本人の血がさわぐのだ。
 ジャックを呼び止めたのは風呂を作る相談をするためだった。




「ふぅー、やはり風呂は良いなぁ」

 数時間後カケルは出来立てほやほやの露店風呂に浸かっていた。
 石で出来たわくに、スライムが水を入れそれをファイアスライムが暖める。これで風呂は出来上がった。
 実はこの露天風呂は製作作業は1時間ほどしかかかってないが、どういう作りにするかを何時間も悩んでいた。
 お湯をるのはスライム達にやってもらう事は決まっていたが、肝心のお湯を溜める枠をどうするか悩んでいた。最初は木で作ろうとしたが今の木の接合技術ではどうしても隙間が出てしまいお湯が抜けてしまうのだ。

 結構、安易あんいな考えで風呂を作ろうと思っていたカケルは頭を悩ませた。
 そこにこの問題を解決してくれる魔物が名乗りをあげてくれた。それは"サンド・ゴーレム"と"ストーン・ゴーレム"だ。
 ゴーレムという種族はある特性とくせいがある。
 それは体が欠損けっそんした場合に自分の体と同じ物質を体にくっつけて、失った部分にするという特性だ。例えばサンド・ゴーレムなら砂を、ストーン・ゴーレムなら石や岩を欠損した部分にくっ付けて体を復元することが出来る。

 今回その特性を使用してこの露天風呂を作ったのだ。
 まず大量の石を用意した。それをストーン・ゴーレムが―――どういう原理かわからないが―――石同士を接合。その次にサンド・ゴーレムがその特性を利用して接合された石の細かい隙間を砂で埋め、砂同士を接合及び固定する。そうして1時間ほどで、石の枠組みは完成した。さっそくスライム達に水を入れて貰い、そこにファイアスライムを浮かべて約30分。こうして魔物の村に露天風呂が完成したのだった。

「これが、風呂というものか。なかなか良いものだな」

「ヴォォ~」

「グガァ~」

「オァァ~」

 リビングデッドとパブル達トロル数人、グレム達ゴブリン数人、それにスケルトン数人と一緒に風呂に入っている。皆、風呂というものを気に入ってくれたようだ。
 ゴーレム達には広く作って貰ったが、それでも大きさの様々な魔物が入るといっぱいいっぱいだ。
 風呂の入り口は木で作り、女と書かれた入り口と男と書かれた入り口の2つを作った。
 風呂は女湯と男湯に別けた。カケルには性別の見分けがつかないが、ジャックに聞くと魔物にも一応性別はあるらしいので分けたのだ。
 もちろん男湯と女湯の間には木で仕切りを付けてある。
 実際にカケルが男湯の方で使っていると仕切りの向こう側から魔物の声が聞こえるため、女性個体がいるのだろう。

「最高だなぁ」

 カケルは風呂に浮かんでいるファイアスライムをいじりながら、久しぶりの風呂を楽しんだ。




「よし、作るか」

 これから始めるのはもう一つ恒例になっているカケルの料理だ。風呂を出ると日が落ちてきた頃だったので今回も料理を振舞う事にした。
 今回はミートフラワーがあるので魚は使わない。
 ミートフラワーはミカンのように球状で少し厚い皮に包まれており、それを剥くと中から肉が現れる。正確には肉ではなく、あくまで植物なのでまるで動物の肉のような果肉になる。
 畑仕事をしているアンデット達の働きによって育てていたミートフラワーが大量に収穫しゅうかくされたため、今回はミートフラワーを使った肉料理だ。使い方は普通の肉と変わらない。

 ちょうど夕刻になったころに料理が終わった。
 メニューは大胆だいたんな丸焼きから味付けして炒めたものまで、様々な肉料理を作ってみた。
 人数も増えたため料理の種類と量も増やしたのだ。
 今回はスライムやビートル族といった液体しか食事できない魔物のためにスープも作った。

 魔物の食事というか、エネルギー補給ほきゅうの種類は基本的に4種類に別けられるそうだ。
 まず1つ目は基本的に食べれる物なら何でも食べる雑食の魔物。これはゴブリンやトロル、新しく入った悪魔族がこれになる。
 2つ目は液体しか食べる事ができない液体限定の食事の魔物だ。これにはスライムやビートル族が当てはまる。
 そして3つ目は食事を必要とせず、何らかの別の方法でエネルギーを補給する魔物だ。これはトレント達がそうだ。トレントは植物で言う光合成に近い事をしているらしく日光があればエネルギー補給が出来るそうだ。言うなれば日光が食事に当てはまるだろう。
 最後にこの三つ以外の、エネルギー補給が不要な魔物。アンデットやゴーレムがそうだ。そもそもアンデットとゴーレムの種族はエネルギーの減少が種族なのだ。

 こうしてカケルは魔物本人にどういう特性や特徴があるのか聞いたりしながら、今回の晩御飯ばんごはんも皆で楽しく過ごしていった。




「あれは・・・」

 次の日、黒い服を着た1人の男がこの魔物の村を発見した。

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