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第2章 Monster situation

第27話 訓練開始

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「ほ、本日はよろしくお願いします!」

 カケルが部屋から出て受付の所に行くと先に待っていたエリカとカエデが挨拶をした。
 そしてさらにエリカがよろいをガシャっと鳴らしながら頭を下げた。

「ああ。その前に、その動き辛そうな鎧を脱いで来い」

 カケルはエリカの鎧を脱ぐように指示した。
 エリカに行う訓練には鎧は不要だ。そもそも鎧なんぞ着て機動力きどうりょくを低下させるのは間違っている、というのがカケルの師匠からの教えだ。
 いわく、ただの鎧は鉄すら切れる達人達の前では意味がない。そんなものは普段着ている普通の服と変わらない。雑魚なら良いが、本当の強敵と出会った時はデメリットの方が大きい。それなら普段から着る必要がないそうだ。
 昔のカケルが聞いたら理解できない話だが、今のカケルならそれが良く理解できる。

「え?あ、はい!」

 彼女は着替えてくる為に一度部屋に戻った。5分もしない内にバタバタと音を立てて戻ってくる。
 カケルはそれを確認すると、「いくぞ」と一言ひとこと言って宿を出ていく。
 それに続いて二人も宿屋を出た。

「頑張ってくださいね!」

「おう!」

 ここでカエデとはしばらく別れる事になる。
 彼女は自分の相方に応援を送った。

「エリカをよろしくお願いいたします」

「・・・おう」

 次いでカケルにも一言いうとエリカと同じ返事が返って来た。 
 その返事を聞いて案外お似合いかもしれないと思いながらカエデは別方向に歩いていった。




 カエデと別れた後、エリカを連れてカケルが向かったのはアドルフォン王国の外だ。
 訓練をするためにはもちろん広い場所が好ましいため、国の外に広がっている草原で行う事にした。
 一応組合には模擬戦場という所があり、そこは有料で貸し出しをしている。
 広さも十分あることからハンター達はそこを訓練に使ったり、名称の通りにハンター同士が模擬戦をするために使ったりできる。
 だが、カケルはもちろん知らない。必要以上な事は自主的に調べようとしないカケルがその事を知る機会きかいは今後もないだろう。

 適当な場所まで歩いていき、カケルはそこで立ち止まった。どうやらここら辺に決めたようだ。
 カケルはエリカの方を向くと、剣を抜くように言った。

「まずは、お前がどのくらいの実力じつりょくなのか見る。俺を殺す気で来い」

 いきなりの事で戸惑うエリカを他所にカケルも刀を抜き、エリカに対峙たいじする。
 
(こ、殺す気って・・・それは無理だ)

 エリカにとってカケルは想い人なのだ。そんな人物を、例え仮初かりそめでも殺そうとする事は出来なかった。
 しかし、このままでは訓練にならない。せっかく教えてもらう事ができるのだ、無駄にはしたくない。
 エリカはとりあえず、カケルに斬りかかった。

「やぁぁぁぁ!!」

 カケルに向かって声を上げながら剣を振り下ろす。しかし、それは簡単にけられた。
 エリカは続けてもう一撃を繰り出そうとするが、気が付いた時にはその手にあるはずの剣の感触かんしょくがなくなっていた。
 エリカが驚いて自分の手のひらを見ていると、後ろからザクッという音をが聞こえる。後ろを振り向くと、そこには地面に突き刺さったエリカの剣があった。カケルがエリカの剣をはじいたのだ。

「お前、真面目にやる気あるのか?」

 エリカが地面に刺さっている自分の剣を不思議そうに見ていると、カケルから声が掛かる。
 その声は怒気どきあきれが少し入っているようなものだった。それを聞いたエリカは「ご、ごめんなさい」と怯えながら小さく謝った。

「今度はしっかり俺を殺すつもりで来い。俺の怪我なんてものはお前が心配するな。俺に教わりたいなら、まず俺の言うこと信用して実行してみろ。・・・あの子の為にも頑張ってみろ」

 カケルなりの不器用な気遣いの言葉だったが、その言葉にエリカは先ほどの事を思いだした。

(そうだ。せっかく昨日、覚悟を決めて、オレを強くしてくれと頼んだんだ。待ってるカエデの為にも、早く強くならなきゃいけないのに、何をしてんだオレは!)

 エリカは地面に刺さった自分の剣を引き抜き、かまえた。
 エリカは自信のピンク色な想いを圧し殺し、自分の待っているカエデの為に。彼の言葉を信じて、彼に敵意てきいを向けた。

「さっきはすみません、でした。今度は言われた通りに行きます!」

 カケルは「出来るなら最初からやれよ」とつい思ってしまうが、口には出さない。やる気になったエリカを観察かんさつし、彼女の実力を見定みさだめる。

「いつでもこい」

「やあぁぁぁ!!!!」

 先ほどの動きとはキレも、気合いも違う一撃がカケルに迫る。しかしこんな攻撃程度はカケルからしたらどうってことない。だがカケルは先ほどのように避けるのではなく、あえて自分の刀でエリカの剣を受けた。
 ガキンと金属同士がぶつかる音が鳴る。
 エリカは続けてカケルに連続で斬りかかるが、カケルは全て刀で防御した。
 何回目の攻撃かわからなくなった所でカケルが足払あしばらいを仕掛けた。
 突然の事でエリカはそれを避けられず、後ろに倒れて尻餅しりもちをついてしまう。

「痛ぁ」

 尻餅で痛がっているエリカを見ながらカケルは少し考える。それはこれから、エリカをどのようにきたえていくかという事だ。
 今の一連の動きでエリカの実力を調べ終わったカケルは次に行う訓練のメニューを考えていた。

「お前の実力はわかった。少しまってろ」

 カケルはエリカにそう言い放つと、そこら辺に生えている木の一本に近づいていった。
 エリカは疑問に思ってカケルの行動を見ている。カケルは木の側で刀を数回振っただけで戻って来た。
 エリカはカケルを見ると先ほどとは違う点を見つける。それはカケルの片方の手に、もう1つ刀のようなものが握られていた。

「ほら」

 カケルはそう言ってそのもう1つの刀をエリカに手渡した。受け取ったエリカはその茶色い刀を見てみる。それは木で出来ているようだ。おそらくカケルが先ほどの木から切り出して作ったものだろう。とても人間技とは思えないが。

「これは・・・?」

「木刀ってやつだ」

 木刀とはその名の通り、木をけずって刀の形にしたものだ。元々は剣術の稽古けいこように作られた物で、剣道はもちろんその他の様々な武術の稽古でも使われる物だ。

「これから、しばらくはその木刀で訓練する。その間、自前の剣は使用禁止だ」

 続けてカケルはこれから行う訓練メニューについての説明を淡々と始めた。
 メニューの内容はとてもシンプルで、様々なかたでの素振すぶりだ。
 カケルが指示した型通りの素振りを淡々と行う単純なものだ。

「だが、この素振りには2つほど注意点がある。素振りをする時は基本的に自分の体に意識を集中させろ。素振りをしながら、自分の動きを良く確認して無駄な動きをなくし、最適化していけ。そして、もう1つ。素振りをする時はその型がどういう風に使えるか、自分の頭の中で戦闘をイメージしながら行う事だ」

 カケルはエリカに説明するが、エリカは今一理解が追い付かないようだ。言われた事を口に出して復唱ふくしょうしながら頭を抱えている。

「まぁ、とりあえずやってみろ。一つ一つ俺が注意していくから」

「わ、わかりました」


 エリカは貰った木刀を構えてカケルが指示した通りの形で素振りをする。先ほどカケルが言った事も含めてカケルが一つ一つ細かく注意していく。
 この時カケルは久しく自分の昔の事を思い出していた。自分も最初は師匠じじい言っていることが分からなくてこうして指摘されながら言っている事を―――無理やり―――理解していった。
 その時の事を思い出し師匠じじいの事を反面教師にしながら彼女に少しでも分かりやすく教えていった。
 一通り彼女が理解した所でしばらくするとカケルは素振りしている彼女を見守るだけになった。
 時々注意をはさむが、彼女は筋が悪くないのか注意する回数もしだいに少なくなった。

「そういえばお前、名前はなんていうんだ?」

 見てるだけでは流石に暇になったのか珍しい事にカケルの方からエリカに質問した。
 エリカは素振りを続けながら、自分の名前を答える。

「オレは、エリカです。エリカ・フルソード」

「わかった。エリカ、な」

「そ、そういえばその・・・あなたは何て名前なんですか?」

 自分の名前を聞かれたタイミングで、エリカはカケルに名前を聞いた。なんと、エリカはカケルの名前を知らなかったのだ。最近組合ではカケルの事はブラックボルトという異名で伝わるため、様々な人がカケルをブラックボルトと呼んでおりカケルという偽名を知っている人は少ない。そのため、組合の話を聞いただけの彼女は彼の名前を知らなかったのだ。
 これにはカケルも少し驚く。確かに2人に一度も名前は呼ばれなかったが、まさか自分の中の名前すら知らないのに剣術を教えてほしいと頼んできたのか。

「カケルだ」

「カケル、さん、ですね」

「そいえば、喋り方は無理してそんな風にしなくてもいいぞ?普段通りの喋り方でかまわん」

 カケルは喋り方について指摘する。エリカがカエデと話している時は敬語なんて使わず、男のような少し雑な喋り方だったと知っているのだ。それにエリカが使っている敬語けいごはどこかぎこちない。

「そ、そう、ですか?わかっ、た。カケル、さんの言うとおりに普段通りの喋り方にするよ」

「名前も無理にさん付けしなくてもいい。呼び方は何でもいい。好きなように呼んでくれ」

「そう、ですか?じゃなくて、そうか?」

 少しずつエリカのぎこちない敬語は消えていき、まるで男友達と話しているような喋り方になる。エリカはカケルの呼び方について少し考えたが、何かいい事を思い付いたのか唐突に「あっ!」と声をあげた。

「じゃあ、師匠って呼ぶぜ!」

「・・・まぁそれでいい」

 エリカに師匠呼びされたカケルは珍しく、何処か照れた様子だった。この後もカケルが暇だったのでちょこちょこ雑談をしながら訓練を続けていった。

 こうして、カケルとエリカの新しい師弟していという関係が始まったのだ。

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