30 / 51
第2章 Monster situation
第27話 訓練開始
しおりを挟む「ほ、本日はよろしくお願いします!」
カケルが部屋から出て受付の所に行くと先に待っていたエリカとカエデが挨拶をした。
そしてさらにエリカが鎧をガシャっと鳴らしながら頭を下げた。
「ああ。その前に、その動き辛そうな鎧を脱いで来い」
カケルはエリカの鎧を脱ぐように指示した。
エリカに行う訓練には鎧は不要だ。そもそも鎧なんぞ着て機動力を低下させるのは間違っている、というのがカケルの師匠からの教えだ。
曰く、ただの鎧は鉄すら切れる達人達の前では意味がない。そんなものは普段着ている普通の服と変わらない。雑魚なら良いが、本当の強敵と出会った時はデメリットの方が大きい。それなら普段から着る必要がないそうだ。
昔のカケルが聞いたら理解できない話だが、今のカケルならそれが良く理解できる。
「え?あ、はい!」
彼女は着替えてくる為に一度部屋に戻った。5分もしない内にバタバタと音を立てて戻ってくる。
カケルはそれを確認すると、「いくぞ」と一言言って宿を出ていく。
それに続いて二人も宿屋を出た。
「頑張ってくださいね!」
「おう!」
ここでカエデとはしばらく別れる事になる。
彼女は自分の相方に応援を送った。
「エリカをよろしくお願いいたします」
「・・・おう」
次いでカケルにも一言いうとエリカと同じ返事が返って来た。
その返事を聞いて案外お似合いかもしれないと思いながらカエデは別方向に歩いていった。
カエデと別れた後、エリカを連れてカケルが向かったのはアドルフォン王国の外だ。
訓練をするためにはもちろん広い場所が好ましいため、国の外に広がっている草原で行う事にした。
一応組合には模擬戦場という所があり、そこは有料で貸し出しをしている。
広さも十分あることからハンター達はそこを訓練に使ったり、名称の通りにハンター同士が模擬戦をするために使ったりできる。
だが、カケルはもちろん知らない。必要以上な事は自主的に調べようとしないカケルがその事を知る機会は今後もないだろう。
適当な場所まで歩いていき、カケルはそこで立ち止まった。どうやらここら辺に決めたようだ。
カケルはエリカの方を向くと、剣を抜くように言った。
「まずは、お前がどのくらいの実力なのか見る。俺を殺す気で来い」
いきなりの事で戸惑うエリカを他所にカケルも刀を抜き、エリカに対峙する。
(こ、殺す気って・・・それは無理だ)
エリカにとってカケルは想い人なのだ。そんな人物を、例え仮初めでも殺そうとする事は出来なかった。
しかし、このままでは訓練にならない。せっかく教えてもらう事ができるのだ、無駄にはしたくない。
エリカはとりあえず、カケルに斬りかかった。
「やぁぁぁぁ!!」
カケルに向かって声を上げながら剣を振り下ろす。しかし、それは簡単に避けられた。
エリカは続けてもう一撃を繰り出そうとするが、気が付いた時にはその手にあるはずの剣の感触がなくなっていた。
エリカが驚いて自分の手のひらを見ていると、後ろからザクッという音をが聞こえる。後ろを振り向くと、そこには地面に突き刺さったエリカの剣があった。カケルがエリカの剣をはじいたのだ。
「お前、真面目にやる気あるのか?」
エリカが地面に刺さっている自分の剣を不思議そうに見ていると、カケルから声が掛かる。
その声は怒気と呆れが少し入っているようなものだった。それを聞いたエリカは「ご、ごめんなさい」と怯えながら小さく謝った。
「今度はしっかり俺を殺すつもりで来い。俺の怪我なんてものはお前が心配するな。俺に教わりたいなら、まず俺の言うこと信用して実行してみろ。・・・あの子の為にも頑張ってみろ」
カケルなりの不器用な気遣いの言葉だったが、その言葉にエリカは先ほどの事を思いだした。
(そうだ。せっかく昨日、覚悟を決めて、オレを強くしてくれと頼んだんだ。待ってるカエデの為にも、早く強くならなきゃいけないのに、何をしてんだオレは!)
エリカは地面に刺さった自分の剣を引き抜き、構えた。
エリカは自信のピンク色な想いを圧し殺し、自分の待っているカエデの為に。彼の言葉を信じて、彼に敵意を向けた。
「さっきはすみません、でした。今度は言われた通りに行きます!」
カケルは「出来るなら最初からやれよ」とつい思ってしまうが、口には出さない。やる気になったエリカを観察し、彼女の実力を見定める。
「いつでもこい」
「やあぁぁぁ!!!!」
先ほどの動きとはキレも、気合いも違う一撃がカケルに迫る。しかしこんな攻撃程度はカケルからしたらどうってことない。だがカケルは先ほどのように避けるのではなく、あえて自分の刀でエリカの剣を受けた。
ガキンと金属同士がぶつかる音が鳴る。
エリカは続けてカケルに連続で斬りかかるが、カケルは全て刀で防御した。
何回目の攻撃かわからなくなった所でカケルが足払いを仕掛けた。
突然の事でエリカはそれを避けられず、後ろに倒れて尻餅をついてしまう。
「痛ぁ」
尻餅で痛がっているエリカを見ながらカケルは少し考える。それはこれから、エリカをどのように鍛えていくかという事だ。
今の一連の動きでエリカの実力を調べ終わったカケルは次に行う訓練のメニューを考えていた。
「お前の実力はわかった。少しまってろ」
カケルはエリカにそう言い放つと、そこら辺に生えている木の一本に近づいていった。
エリカは疑問に思ってカケルの行動を見ている。カケルは木の側で刀を数回振っただけで戻って来た。
エリカはカケルを見ると先ほどとは違う点を見つける。それはカケルの片方の手に、もう1つ刀のようなものが握られていた。
「ほら」
カケルはそう言ってそのもう1つの刀をエリカに手渡した。受け取ったエリカはその茶色い刀を見てみる。それは木で出来ているようだ。おそらくカケルが先ほどの木から切り出して作ったものだろう。とても人間技とは思えないが。
「これは・・・?」
「木刀ってやつだ」
木刀とはその名の通り、木を削って刀の形にしたものだ。元々は剣術の稽古ように作られた物で、剣道はもちろんその他の様々な武術の稽古でも使われる物だ。
「これから、しばらくはその木刀で訓練する。その間、自前の剣は使用禁止だ」
続けてカケルはこれから行う訓練メニューについての説明を淡々と始めた。
メニューの内容はとてもシンプルで、様々な型での素振りだ。
カケルが指示した型通りの素振りを淡々と行う単純なものだ。
「だが、この素振りには2つほど注意点がある。素振りをする時は基本的に自分の体に意識を集中させろ。素振りをしながら、自分の動きを良く確認して無駄な動きをなくし、最適化していけ。そして、もう1つ。素振りをする時はその型がどういう風に使えるか、自分の頭の中で戦闘をイメージしながら行う事だ」
カケルはエリカに説明するが、エリカは今一理解が追い付かないようだ。言われた事を口に出して復唱しながら頭を抱えている。
「まぁ、とりあえずやってみろ。一つ一つ俺が注意していくから」
「わ、わかりました」
エリカは貰った木刀を構えてカケルが指示した通りの形で素振りをする。先ほどカケルが言った事も含めてカケルが一つ一つ細かく注意していく。
この時カケルは久しく自分の昔の事を思い出していた。自分も最初は師匠言っていることが分からなくてこうして指摘されながら言っている事を―――無理やり―――理解していった。
その時の事を思い出し師匠の事を反面教師にしながら彼女に少しでも分かりやすく教えていった。
一通り彼女が理解した所でしばらくするとカケルは素振りしている彼女を見守るだけになった。
時々注意を挟むが、彼女は筋が悪くないのか注意する回数もしだいに少なくなった。
「そういえばお前、名前はなんていうんだ?」
見てるだけでは流石に暇になったのか珍しい事にカケルの方からエリカに質問した。
エリカは素振りを続けながら、自分の名前を答える。
「オレは、エリカです。エリカ・フルソード」
「わかった。エリカ、な」
「そ、そういえばその・・・あなたは何て名前なんですか?」
自分の名前を聞かれたタイミングで、エリカはカケルに名前を聞いた。なんと、エリカはカケルの名前を知らなかったのだ。最近組合ではカケルの事はブラックボルトという異名で伝わるため、様々な人がカケルをブラックボルトと呼んでおりカケルという偽名を知っている人は少ない。そのため、組合の話を聞いただけの彼女は彼の名前を知らなかったのだ。
これにはカケルも少し驚く。確かに2人に一度も名前は呼ばれなかったが、まさか自分の中の名前すら知らないのに剣術を教えてほしいと頼んできたのか。
「カケルだ」
「カケル、さん、ですね」
「そいえば、喋り方は無理してそんな風にしなくてもいいぞ?普段通りの喋り方でかまわん」
カケルは喋り方について指摘する。エリカがカエデと話している時は敬語なんて使わず、男のような少し雑な喋り方だったと知っているのだ。それにエリカが使っている敬語はどこかぎこちない。
「そ、そう、ですか?わかっ、た。カケル、さんの言うとおりに普段通りの喋り方にするよ」
「名前も無理にさん付けしなくてもいい。呼び方は何でもいい。好きなように呼んでくれ」
「そう、ですか?じゃなくて、そうか?」
少しずつエリカのぎこちない敬語は消えていき、まるで男友達と話しているような喋り方になる。エリカはカケルの呼び方について少し考えたが、何かいい事を思い付いたのか唐突に「あっ!」と声をあげた。
「じゃあ、師匠って呼ぶぜ!」
「・・・まぁそれでいい」
エリカに師匠呼びされたカケルは珍しく、何処か照れた様子だった。この後もカケルが暇だったのでちょこちょこ雑談をしながら訓練を続けていった。
こうして、カケルとエリカの新しい師弟という関係が始まったのだ。
0
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
傭兵アルバの放浪記
有馬円
ファンタジー
変わり者の傭兵アルバ、誰も詳しくはこの人間のことを知りません。
アルバはずーっと傭兵で生きてきました。
あんまり考えたこともありません。
でも何をしても何をされても生き残ることが人生の目標です。
ただそれだけですがアルバはそれなりに必死に生きています。
そんな人生の一幕
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる