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第1章 First contact

第14話 ハンター試験

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「すみません。ハンターになるため試験を受けたいのですが」

「え・・・あ、はい。ハンター希望者ですね。それでしたら・・・ちょうどこれから試験が始まる所なので第3模擬戦場もぎせんじょうに向かってください」

「分かりました。えーっと・・・その第3模擬戦場というのはどこに・・・」

「あそこの扉からまっすぐ行って2つ目の十字路を右に行いけば第3模擬戦場です」

「分かりました」

 悟は受付嬢が言われた通りに組合の奥へと進み、第3模擬戦場に向かった。そこには彼と同じようにこれからハンター試験を受けると思われる人物が既に数名待機していた。
 その者達の装備は様々でしっかりと鎧を着こんでいる者もいれば、防御力が期待できなさそうなローブを着て杖を持っている者もいる。彼らは悟を含めると男性8名、女性2名の計10名になる。
 悟は既に待機している他9名と同じように待機しようと模擬戦場の壁に寄り掛かった。そんな彼をこの場にいる9名は物珍しく観察していた。
 その理由は悟の格好だ。身につけている防具は特になく、薄着1枚を着ているだけ無装備にも等しい状態。その腰には細い長剣という見たこともない珍しい武器がぶら下がっているが、それだけだ。とてもハンター試験を受ける為の恰好ではない。
 悟の恰好に疑問を抱いた9人はそれぞれ悟についての考察をし始める。

「ねぇ、あの人・・・間違ってここに来たんじゃない?」

「だが、一応武器らしき物は持っているぞ?」

「そうだけど、明らかに恰好がおかしいからさ・・・」

「まぁそうだな」

「・・・話掛けてみる?もしかしたら本当に場所を間違えてるのかもしれないよ?」

「俺は行かんぞ」

「えー、私も嫌なんだけど」

「おい、言い出したのお前だろ」

「いやだって、あの人ちょっと怖そうで・・・」

 このハンター組合は思っている以上に広い。訓練や練習に使える模擬戦場が4つもある上に、会議などに使えるフリースペースが10部屋以上あるのだ。その広さ故に初めて来た人が迷ってしまうのは仕方ない。この場にいる9人の中にも迷った経験の者がいる。そのため悟の不適切な恰好を見て、まず浮かぶ考えが「この場所に間違って迷い込んだ」というものになるのは当然の事だ。
 9人の内、話しているのは5人だけだが残りの4人も話を聞いていた。そしてその一人が見かねたのか、悟の傍に歩いて行った。

「おい、お前」

 壁に寄り掛かり、ぼーっと呆けている悟に声を掛けた青年。その青年はチェストプレートとガントレット、レギンスという軽装備している。武器は剣のようで、腰には西洋剣せいようけんが一本差してある。
 悟は彼の接近に気が付いていたがあたかもたった今、声を掛けられて初めて気が付いた様に青年の方を向いた。

「今日ここはハンター試験を行う場所だぞ。場所を間違えてるんじゃないのか?」

「ん?いや、間違えてないな。俺はここにハンター試験を受けに来たんだからな」

「なに!?そんな格好でか?」

「何か問題が?」

 悟の言葉に青年は驚いたが、悟も驚いていた。
 自分は何かおかしい格好でもしているのだろうか、もしかしたら指定された格好があるのだろうか、武器や装備に何か制限でもあったのだろうか。格好を指摘され様々な不安が生まれる。しかし、受付には特に何も言われなかった。これから試験を受けるという自分の格好に何か問題があれば普通は受付の段階で指摘が入るだろう。それがなかったのだから問題はないハズだ。

「問題も何もこれからハンターに成るための適正試験が行われるんだぜ?防具も無しに戦闘が行えるか?万が一、怪我を負うような事が有っても自己責任なんだぞ。それかお前、あれか?防具無しで試験受けたら試験官が手加減してくれるとでも思ったのか?それは甘ぇよ。その人物が本当に魔物と戦えるかを見なくちゃならねぇのに手加減してくれる訳ねぇだろ。組合も下手に素人をハンターさせて無意味な死人を出したくねぇんだわ」

「なるほど」

 色々と情報を教えてくれた青年に対して悟は一言で返す。

(なるほど、適正試験といのは戦闘試験だったのか。相手にするのは試験官。そしてその際に負った怪我等に対して組合は責任を負わない。と)

 悟は特に調べもせず、受けに来たものだから試験に関する情報は全く知らなかった。もしかしたら試験の事が掛かれた張り紙か何かがあったのかもしれないが、この世界の文字が読めない悟にはない物と同じ事だ。
 青年は怒り半分、あきれ半分で悟に説明したのだが悟には青年の気づかいは伝わらなかったようだ。結果として悟が知らなかった情報を得られただけだ。
 そして自分がわざわざ気を使っているのに悟の態度は上から姿勢。さらに、一言でどうでもよさそうに返された青年は気に食わなかったようだ。

「なるほど、だと?お前よほど腕に自信があるのか知らねぇが調子に乗ってるんじゃ―――」

 青年は先ほどより明らかに言葉に力を込めて、怒鳴る寸前までいっていたがこの第3模擬戦場に入ってくる人物を見て青年は言葉を止めた。
 そして最後に青年は悟に向かって軽く舌打ちをし、離れていった。

「これより"ハンター適正試験"を行う!」

 入ってきた人物は2人。1人は鎧を着こみ腰に剣を差している。年齢は露出している頭部だけで判断するしかないが、だいたい30代位の男だ。髪は短髪で白髪ではなく白色の髪なのが特徴的だ。
 もう1人はメガネを掛けている青年で、剣や鎧などは装備しておらず冊子の様な物を持っている。髪の色は赤茶色で長髪、見た目のイメージだと好青年という言葉が似合いそうな男だ。
 その2人は模擬戦場の中央の部分に立つと、ハンター適正試験開始を宣言した。
 悟を除く9名は既に―――二人の男が入ってきた時点で―――試験の開始宣言した2名の前に集まり始めていたが。悟は開始宣言がしっかりとされてから動き、遅れて彼らの列に加わった。

「私は今回の試験官を勤める"テイテス・ファトラ"だ」

 剣を持っている方の男が自己紹介をする。その際に悟の方をチラリと見た。

「試験内容は私との模擬戦だ。特にルールは存在しない。総合的な戦闘力を見るため使える物は全て使ってかまわない。模擬戦は1人1人順番に行う。終了の合図は彼、"イデム・クレーク"が行う。模擬戦の際に怪我を負うこともあるだろう。しかし、申し訳ないが怪我や物の破損に関してはこちらでは責任は取らない事を了承してくれ。もしそれが嫌で辞退じたいする者がいるなら先に行ってほしい。以上の事で何か質問や意見があるなら挙手を頼む」

 特に質問をする者もいなければ辞退する者も現れなかった。ここに居る者は参加前から試験についての情報を知り、それらの事については了承済みだったため今さら質問がある者も辞退する者もいなかった。
 ただし悟だけは今日はじめて試験の内容について知ったのだが、もちろん辞退する気はさらさらない。
 テイテスは最後にもう一度だけ悟の事を見ると、何か言いたげな表情を見せた。しかし彼が悟に声を掛ける事はなかった。

「特にいないようだな。では早速始める特にしよう。最初は・・・君からだ 」

「はい!」

 テイテスが最初に指名したのは先ほど悟に言い寄ってきた青年だ。
 青年は指名されて一歩前に出た。

「これより模擬戦を行うから君達は下がっていてくれ」

 その言葉を聞いて他の9人は後ろにさがりは、十分に距離を取る。
 ただ、それはひと塊になるのではなくそれぞれバラバラの位置に陣取っていた。

「では始めよう。いつでもいいぞ」

 テイテスは周りの準備が整ったと判断すると、腰の剣を抜いた。その剣は西洋剣のようで装飾そうしょくなどは一切されていない、紛れもない実戦用だ。テイテスが抜刀したのを見ると青年も腰の剣を抜いた。
 テイテスは剣を青年の方へ向けて、試験開始の合図を行う。
 テイテスと青年が剣を構える。その2人の間は僅か5mほど、両者ともまずは様子を伺っていた。

「デヤァッ!!」

 最初は動いたのは青年の方だった。
 青年は剣でテイテスを切り付けた。しかし、ベテランの剣士であるテイテスはそれを楽々かわして見せた。しかしその攻撃をかわされる、もしくは防がれる事を予想していたのか、青年は剣を持っていない方の手の平ををテイテスに向けた。

「《火の玉/ファイヤーボール》!」

「ッ!?」

 青年がそう叫ぶと彼の手の平から直径30cmほどの火の球が放たれる。まさか魔法を使って来るとは思っていなかったテイテスはあわてて反撃しようとした行動を中断し回避行動に移す。ギリギリ避けられた火の球はそのまま壁に衝突し、小さな爆発を起こした。

「攻撃魔法が使えるとは、魔法戦士か」

「ええ、俺の目標はペェスタさんですから。将来、彼以上の凄腕ハンターになりますよ。俺は」

 戦士が補助魔法を使えるというのは多々ある。しかし、攻撃魔法になると使える物は極端に減る。至近距離なら魔法を使うより直接攻撃した方が早く、離れて遠くから狙うなら最初から魔法のみの攻撃の方が強い。戦士と攻撃魔法は両立させるには相性が悪いと、今まで思われてきた。そんな中ペェスタ・プラクターという人物が戦士と攻撃魔法を両立を果たし、タイミングさえ合えばとても強力な攻撃手段になると魔法戦士の有能さを証明したのだ。そのためペェスタに憧れたハンターが魔法を覚え魔法戦士になるなど、魔法戦士が最近急増しているのだ。

「はい。もう結構です」

 その後もしばらく攻防は続いたが両者の戦いを見ていたメガネの男、イデムが突然終了を告げた。両者が戦っている間、その持っていた冊子に何かを書き込んでいた。
 しかしその内容を見ることが出来るのは、今は彼しかいないので何が書かれてあるかは分からない。だが恐らくこの試験のレポートだろう、と悟は考察した。ハンターになるための適正チエックでも行っていたのだろう。
 終了を告げられ青年はすぐに剣をしまい、テイテスに向かって軽くお辞儀じぎをする。そして彼はその場所から離れ、模擬戦場の端の壁に休むように寄り掛かかった。

「よし、では次は君だ」

 そしてテイテスが次の人物を指名する。こうして、次々と試験が行われていった。





「はい、もう結構です」

 9番目の人物の試験が終り、この試験は次で最後となる。その最後の人物は悟であった。

「では最後は君だ」

 悟しか残っていないので必然的に悟が指名される。悟は返事の代わりに軽くため息を吐いて、中央へ歩いていった。
 悟は退屈していたのだ。順番が最後だからというのもあったが、そんなことよりもハンターという存在の戦闘能力の低さに落胆らくたんしていたからだ。この世界特有の力である魔法は元の世界にない力だったので興味が引かれたが戦士、剣術については達人である悟からしたらレベルが低すぎた。もちろん元の世界の一般人よりは身体能力は格段に上だが、立ち回りや技術のレベルが低い。仮にも悟は達人の領域にいるので、どうしてもそういう事が気になってしまったのだ。

「念のため確認するが・・・その格好で本当にいいのか?」

 テイテスが最初から気になった悟の格好について指摘する。
 やはり、彼の見た目は戦士としておかしすぎる。

「ええ、この格好で問題ありません」

「・・・そうか。わかった」

 テイテスは返事を返すと剣を構える。しかし悟は刀を抜くことすらせず、少しも動く事なく棒立ちの状態のままだ。当然、その様子を見てテイテスは疑問に思う。
 テイテスが「どうしたのか?」と聞くより先に悟が口を開いた。

「どこからでもどうぞ」

「なに?・・・本気か?」

「ええ、本気です」

 悟の発言に驚くテイテスとイデムだったが、本人の意思でやっている事なので特に言うことはなかった。
 それを見ていた悟以外の9人は呆れた様子で談笑し、悟の事を冷ややかな目で見ている。

「仕方ない。自分で行った結果だ。悪く思うなよっ!」

 ついに様子を伺っていたテイテスは攻撃を仕掛けた。ベテラン戦士テイテスの強さはハンターランクにするとAランクといった所だろうか。王国からハンター組合に派遣された彼の強さはまさしく一級品。そこらへんの名の知れないハンターなど足元にも及ばない。
 だが―――
 
「ッ!?」

 テイテスの攻撃は悟には当たらず、空を切った。その攻撃は手を抜いていたとは言え、避けられるとは思っていなかったテイテスは驚いた。そして今の回避行動がまぐれではない事を確認するためにもう一度悟に攻撃を仕掛ける。

「くっ!」

 しかしその攻撃も最小限の動きで避けられる。
 そこで疑惑が確信に変わった。目の前の男は強いと。
 ここでテイテスは手を抜く事を止め、本気で悟に連続で攻撃を仕掛けた。
 だが悟は全ての攻撃を最小限の動きで回避しつづける。それでもテイテスは攻撃を止めず、自身が使える強化魔法を自身に使用し再び攻撃を続ける。が、強化魔法で身体能力を強化しても結果は変わらず。悟は苦も無く攻撃を回避し続けていた。

 そして息のつかぬような連撃中の僅かな隙を付き、悟は刀を抜刀。テイテスの目には悟が少しブレて見えたと思った時には既に、悟の刀はテイテスの首元に当てられていた。

「ッ!・・・早い、な」

「どうも」

 その時にようやくテイテスは理解した。次元レベルが違うと。
 その一部始終を見ていた9人と記録係であるイデムはポカンと口を開けて何が起こったか分からない様子だった。

「も、もう結構です」

 そんな中いち早く正気を取り窓したイデムは明らかにテイテスの負けであるこの状況を理解し、試験の終わりを宣言する。それを聞いた悟は刀をテイテスの首元から離し、鞘に納める。

 こうしてハンター試験は終了した。試験結果は試験の終了後にイデムが口頭で伝えた。結果は全員合格。今回受けた10人は晴れてハンターとして認められたのだ。
 試験に合格した者は登録をするため名前などの情報を提供してもらう。その為一度受付の所に戻るように指示される。それを聞いた10人はそれぞれ第3模擬戦場を後にした。
 その時、後ろから悟だけを呼び止める声があった。

「君、少しいいか?」

「何か?」

 声を掛けたのはテイテスだった。
 呼び止められた悟は立ち止まりテイテス方に向き直る。

「なに、ハンター登録の事で少し君に話したい事があってな。別室にお願いできるか?」

「・・・わかりました」

 そうして悟は別室に案内される。
 そこにはハンター組合が用意しているフリースペースの一部屋。部屋にはソファーが対面するように2つあり、その間には大きめのテーブルがある。悟は座るように言われると、ソファーに座った。座るとすぐに使用人と思わしき女性が来て、飲み物を用意してくれた。

「で、何の話ですか?」

 悟は用意された飲み物には口を付けず、話を催促する。

「ああ、ハンターのランク制については知っているだろう?ハンターは皆、最初は一番下ランクであるFランクからスタートする決まりだ。どんなに実力を持っていても最初は皆同じにする事で少しでも不公平さを減らしている」

 ランク制の事は先日に受付嬢から説明を受けた時に聞いているため悟は知っていた。

「実は先日ある事件が起きた。この国の城が何者かに破壊されたのだ。」

 テイテスの発言に悟はドキッとしてしまう。それもそのはず、おそらくテイテスが言っている事件の犯人が自分だからだ。悟はテイテスに悟られない様に感情を表に出さないようにして話の続きを聞く。

「その後、城が破壊されたのは未知の魔物の仕業だとわかった。その情報を持ってきたのはペェスタ・プラクターというこの国のSランクのハンターだ。そのSランクハンターが今回の事件の犯人と思わしき魔物に遭遇そうぐうし、敗北したと言ったのだ」

 この話を聞きながら悟はもしかしてあの男か?と予想をつける。その男は悟が事件を起こした日に急に襲いかかった白銀の鎧を着た謎の男。今になって意識を刈り取りそのまま放置したことを思い出した。

「我々ハンター組合はこの事を重く見ている。その魔物の捜索と討伐を計画しているが、何せあまりにも情報が足りなさすぎる。ハンター全員にその魔物の情報の提供を求めているが、全く集まらないのだ。恐らくこんな事件を起こした魔物は相当上位の魔物に違いないだろう。そのため上位のハンター達に魔物討伐依頼の際に、この国を攻撃した魔物の情報を集めるように伝えた。
だが、上位のハンターの数は下位のハンターより圧倒的に少ないのだ。これでは情報が集まりにくい。そこで実力があるのに下位のランクにいる人物を上位ランクに上げるように国王から通達が出ている」

 悟もここまで言われれば彼の言いたい事はわかる。

「君は実力がある。それも相当な、私なんかが足元にも及ばない実力がな。だから、君がもし良ければいきなりだが上位ランクから始めてみないか?」

 その言葉に悟は少し考える。上位ランクから始める事のメリットとデメリット。だが、上位ランクから始める事のデメリットとはほとんどなく、ただ単に全体的に受けられる依頼が増えるというメリットだけであった。

「はい、別にいいですよ」

 知らないだけで、何らかのデメリットはあるかもしれないが悟はそこはあまり考えずに返事をした。

「そうか!では早速ハンター登録をしよう。時間を取らせてしまった礼だ。こちらで登録の手続きはほとんど済ませて置こう。名前だけ教えてくれ」

「そうか、ありがたくお願いします。名前はさい―――」

 そこまで言って止めた。本当に自分の名前で登録してもいいのか?と、疑問に思ったのだ。悟は1度もこの世界に来て名乗っていない。そして別に自身の身分を証明する物はないのだ。つまりこの世界に悟が悟だと知る者は存在しない事になる。なら別に偽名を使っても問題ない。この登録も別に本人の証明するものが必要な訳ではないのだ。
 少しだけ考える。だが名前を答えるだけの事に時間を使っていると不信がられてしまう。すぐに考えた悟は、ここは偽名を使うことにした。

「俺の名前は"カケル・サカシタ"だ」

 使ったのは彼の師匠の名前。その名前をこの世界の常識に合わせて苗字と名前を逆にしたものだ。
 しかし何故この名前にしたのか、それを知るすべはない。
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