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第1章 First contact

第12話 異世界の国

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「よし、これで準備完了」

 あのあと新しく加わったアンデッドと共に帰ってきた俺は、すぐにあの国に向かう準備を始めた。
 まずは服を着替えた。アンデッドから貰った服は、上は薄緑色で下は薄茶色という色の服だった。素材は"麻"と"ウール"を組み合わせた物で、彼の言っていた通り質はあまりよくない。この服はなんでも自分をを討伐しに来た人間を返り討ちにした時の戦利品らしい。
 次に翻訳魔法を掛けてもらった・・・が、この魔法が本当に機能しているかどうかの確認を行うためには実際に会話をしなければならない。その為テストが出来ないので、ぶっつけ本番になってしまうが仕方ない。
 それと自分の愛刀も持っていく。今回はギターケースには入れず、腰にしてそのまま持っていく事にした。最初に訪れた時に襲ってきた男は普通に剣を持っていた。それにこの世界には魔物という存在がいる事から、旅人たびびと護身用ごしんようとして武器を所持していても大丈夫だろうと思っての事だ。

 今回のおもな目的は3つ。
 1つ目は今のこの状態で実際に入れるかどうかだ。もし入れなかった場合は何が駄目なのかを分析して、おそらくあるだろう別の国や村で同じ事をするつもりだ。
 2つ目は道具等の購入出来る物の確認だ。村の開拓作業に使える物全般、一般的生活に使用する物、調理器具などなど。この世界にどういった物まで存在しているのか、どれくらいの価格なのかを調べる。今回は調べるだけで入手するのは次回にする予定だ。
 3つ目は資金しきん調達ちょうたつにできる場所。言い換えると職探しだ。元の世界では物を購入するのに金がいる。おそらくこの世界にも通貨つうかがあるハズだ。だからその通貨を得られる仕事をいくつか見繕うという訳だ。

 今回はこの3つを主な目的として、あの国に向かう。そして十分に情報が得られたら時点で一度帰宅する事にした。得られた情報の結果によって変わるが、何をするにもこいつらに情報の共有と相談をしなければならないからな。

「魔人サマ」

「ん?どうした?」

 準備を終えて、早速出掛けようとした時にトレントから話しかけられる。

「コレヲオ持チクダサイ」

「これは?」

 トレントから渡されたものはえだだった。見て触る限りではこれは単なる木の枝にしか思えない。15cm程の普通の木の枝だ。

「コレハ私ノ枝デス」

「え?お前の?」

「ハイ。コレヲ地面ニ突キ刺スト、私ト会話スル事ガデキマス」

「ほー便利な物だな」

「コチラニ戻ル際ニハ、コレデ連絡ヲオ願イシマス。ソウシマシタラ転移魔法ヲ開キマスノデ」

「・・・そうか、なるほど。了解した」

 そりゃあ魔力という有限な物を使って発現させてるのだから、ずっと使い続けてもらうのは悪いよな。前回の様に短時間なら問題がないのだろうが、掛かる時間が未定な今回は使い続けてもらうのはやめた方がいい。そのため帰る際にもう一度、転移魔法を使ってもらう必要がある。その連絡のため手段がこの枝だ。というか帰りの事を全然考えてなかった。トレントがこの枝を渡してくれなければ帰りの際まで気がつかなかっただろう。危なかった。

「よし、行くか。トロル、転移魔法を頼む」

「ヴォオ!!」

 トレントから受け取った枝をしっかりと懐にしまい、今度こそ出発する。目にするのはこれで3回目の転移魔法の発動。前回、前々回と変わらぬ動作で魔法陣が作られていく。
 そうして出来た白い円に俺は1人で飛び込んだ。

 次の瞬間には辺りの風景は一変する。どうやら林の中の様だ。どうやらこの場所はあの国から少し離れた場所のようで少し遠くにあの国が見える。前回の場所ではないが人目に付きにくい場所だ。トロル達が気を利かせてくれたのだろう。確かに転移魔法で移動するところを誰かに見られると面倒なことになるかもしれない。俺の足りない考えを補ってくれる彼らには感謝しかないな。
 後ろを振り向き、今しがた俺を転移させた魔法を確認すると。転移魔法は俺を転移させるという役目を終えて音もなく静かに消えていく所だった。

「さて、無事に入れるかな」

 俺はあの城の上部分がなくなってしまっている国に向かって歩きだした。




「おお!これは・・・!」

 この国――"アドルフォン王国"には思っていたよりすんなり入る事が出来た。入国許可書のような物は必要なかったし、刀も護身用という事で納得してくれた。何より言葉がしっかり通じた。流石魔法。相手の言葉は全て日本語に聞こえたので、恐らく俺の言葉はこの国の言語に聞こえるのだろう。服装についても特に何も言われなかった。

「まず一つ目の目的は達成したし、残りは二つだな」

 この国に入って、まず人が多く賑わっている街並みに驚いた。だがそれは一瞬で落ち着き、俺は残り2つの目的の為にこの国を練り歩く。その際に街並みや人の観察は忘れない。
 建物は中世の文明レベル相応で建材は主に木と石のようだ。人に関してだが、チラホラと防具や武器を身にまとった者が見られた。やはり魔物対策なのだろうか?

「ここは道具屋か?」

 初めて見る異世界の国で少しタイムスリップした感覚を感じながら歩いていると道具屋らしき店を見つけた。その道具屋はかなりの品揃えで日常に使える物から旅や戦闘に使える物まで、色々な物を販売していた。目的の品である、くわおの、ナイフや調理器具であるなべや焼くため鉄板なども確認できた。おそらく大抵の物はここで揃うだろう。

「よお、あんちゃん!何か気に入った物はあったか?あったなら是非買っていってくれ!」

 何が売っているかの確認のため物色ぶっしょくしていると他の客を対応し終わった店主が話しかけてきた。スキンヘッドが特徴の店主で随分とガタイが良い。

「悪いんですが今日は何かを買う予定はないんです。何が売っているのか確認するために寄っただけでして・・・。なんだか冷やかしのようですみません」

「いいや気にすることはねぇぞ、あんちゃん!客が商品の質を確認するのは当然の権利だ。好きなだけ見て行ってくれ、うちは品揃えが多いからな!はっはっは!」

 声が大きく、元気なおっさんだ。それにどこか不思議な話しやすさがある。
 俺は話しかけられたついでにこの店主に通貨の事を聞く事にした。

「・・・店主。少し聞きたい事があるんですがいいですか?」

「おう!いいぞ。なんでも聞いてくれ答えられる質問なら答えるぜ!」

「通貨について聞きたいのですが・・・実は俺はかなりの田舎の出身でして、通貨についてほとんど知識がないんです。簡単にでいいから教えてくれませんか?」

「通貨って・・・まさか金の事を知らないのか!?」

「はい」

「金のこと知らねえって、お前え・・・どんだけ田舎の出身なんだ!?」

 店主が思わずツッコミを入れてくる。田舎どころか異世界出身なのだから仕方ないだろう。

「仕方ねえ!恩を売るのも商売の一環だ!特別に教えてやるぜ。だから今度来たときはうちで何か買っていけよ!」

「ええ。約束しますよ」

 こうして俺は道具屋の店主からこの世界の通貨について教わった。
 この世界の通貨は金貨きんか銀貨ぎんか銅貨どうかの"三つ"に分かれている。金貨は1枚で銀貨100枚の価値があり、銀貨は1枚で銅貨100枚の価値があるという。その通貨には刻印などはされておらず単なる金、銀、銅を薄い円形―――コインの様にカットしただけの物だ。実際にこの店で売っている鍬と斧は銅貨4枚で、鍋は銅貨6枚という価格だ。どうしても元の世界の知識があるためイマイチこの世界の金銭感覚きんせんかんかくに違和感を覚えるが、なんとなく通貨の事についてはわかった。

 その後しっかりと店主にお礼を言い、俺は道具屋を後にした。
 これで二つ目の目的も達成した。後はその資金の調達元の調査―――仕事探しだ。出来れば書類仕事じゃなく力仕事がいいのだが、場合によってはままは言ってられないな。そうと決まれば早速、近くを通りがかった人に話しかける。

「すみません、ちょっといいですか?」

「・・・え?私ですか?」

「はい。実は私はこの国に仕事を探しにやって来たのですが、何分この国に来るのは始めてでどこの施設に行けば良いのか分からないのです。もしよろしければ口頭だけでもいいので教えてもらえませんか?」

 これが元の世界ならお世話になっていた職業安定所に行けばバイトでもなんでも探すのが楽なんだが、今は居るここは異世界の知らない国だ。どこに何の施設があるかなんて知るわけがない。一応街の入り口のところに大まかな地図があったが、言葉が違ければ当然文字も違う訳で、地図に書いてあった文字は一切読めなかった。翻訳魔法はあくまでも言葉を翻訳してくれるだけで文字まで読めるようになる魔法ではないのだ。
 そのためこうして田舎者のふりをして通行人に案内してもらおうと画策がさくしているわけだ。

「えーっと・・・いいですよ。特に急ぎの用事があるわけではないので案内しますよ」

「いいんですか?」

「はい」

「ありがとうございます」

 よし。これで三つ目の目標も達成できそうだ。

「実はこの国には貴方みたいな人が良く来るんですよ」

「へーそうなんですか」

 親切な人に案内されている道中は他愛もない雑談をするが、そんなに話が弾まない。
 まぁ初対面の人間同士なのだから当然だわな。けして俺の会話スキルが貧弱な訳ではない。
 時々簡単な質問をされ、俺が答えるという単純な会話をしていると進行方向に大きな建物が見えてきた。

「もしかしてあの建物ですか?」

「はい、そうです。もう目の前なので私は行きますね」

「あ、はい。ありがとうございました」

「いえ、気にしないください。ああ、それと少しアドバイスをさせていただきますと

「え?・・・防具?」

 突然何を言っているんだ?この人は。防具なんているわけないだろう。

「それでは失礼します。頑張ってくださいね」

 最後にそれだけ言ってここまで案内してくれた親切な人は去って行った。その後ろ姿を眺める俺は彼女が残した謎の発言の事を考えていた。
 "ハンター"試験ってなんだ?猟師りょうしの事か?確かに元の世界では猟師になるには特別な資格が必要だったが、それが世界でも同じなのか?だとすると彼女が案内してくれた施設は猟師になるための試験会場ってことか?

「途中までは順調だったのに最後で一気に訳が分からなくなった。結局俺は何処に案内されたんだ」

 俺は目の前の大きい建物を見てため息を吐いた。色々と考えるのにも少し疲れた。とりあえず、目の前の案内された建物に入ってみることにした。もしこれが目当ての施設じゃないにしても、今の俺は会話ができる。また事情を説明して案内してもらえばいいだろう。自分でうだうだ考えているより知っている人に聞いていった方が格段に速い。

 その建物の扉を開けるとまず最初ににぎやかな声が聞こえてきた。扉を完全に開けて中に入ると目に映ったのは武装ぶそうした人だった。鎧を着こんだ者やヘンテコな恰好で杖を持っている者、大きな剣や弓などを持っている者。と、武装した人が大勢いたのだ。
 建物の内部は外から見た通り広いが、奥の方にも通路が続いているため実際にはもっと大きいのだろう。扉を背にして右側には木でできたテーブルやイスがいくつも置いてあり、そこには武装した人たちがいくつかのグループに分かれて座っている。その反対の左側には横長のイスが数個置いてありそちらには武装していない、普通の人が数人座っていた。その奥には何かの受付の様なところがあり、同じ様な恰好をした女性が数人立っている。
 パッとこの施設を見渡したがここがどういった施設なのかは分からない。かといってこのまま入り口付近で棒立ちしていると迷惑になってしまうので、適当に中に入って受付らしき所に向かう事にした。ここはかなりしっかりしている施設のようだ。偏見へんけんかもしれないが、こういうところで働いている者の情報ならかなり信用できるハズだ。

「すみません。少しいいですか?」

「ハイ。本日はどういったご用件でしょうか?」

「えー。この施設はどの様な施設なのでしょうか?」

「え?ええっとそれはこのハンター組合がどのような施設なのか?ということでしょうか?」

「はい。あと、そのハンターというものについても教えてほしいです」

「えぇ・・・。わ、分かりました。少し長くなりますがお時間の方はよろしいですか?」

「はい。大丈夫です。問題ありません」

「では、説明させて頂きます。まずハンターというのは―――」

 簡単に言うとハンターとは魔物を討伐する職業の者の事だそうだ。ハンターは国や民間から魔物に関する依頼―――主に討伐とうばつ依頼―――を受け、見事依頼を完了すると報酬ほうしゅうが貰える職業だ。報酬の内容は、依頼の難易度に比例ひれいして報酬が良くなって行くらしい。そしてその依頼を仲介ちゅうかいするのがここ、ハンター組合になる。ハンター組合は依頼者とハンターの仲介や依頼の管理、ハンター達へのサポートなどを行う組織だそうで、ハンターは基本的にこの組合の所属になる。そしてそのハンターになる条件は適正テストに合格をすれば誰でも成れるというのだ。
 そのほか細かい説明を受けたが要約するとこんな感じだろう。

「以上になります。何かご質問はありますか?」

「・・・いえ。ありがとうございました」

 長い説明が終わりハンター組合を出ると、日が傾き始めた頃だった。結局ここは俺の求めていた施設ではなかったが、ハンターという職業を知ることが出来た。説明を聞いた俺のハンターへの印象は、。つまるところ魔物専門の殺し屋。そんなところだ。
 別にハンターという職業を否定している訳ではない。元の世界であった害虫駆除だって言い換えれば虫専門の殺し屋だ。虫に困っている人から依頼を貰い、殺して、報酬をもらう。ハンターと何も変わらない。かく言う俺も似たような事をしたことがある。人を殺し、報酬をもらう。あれは師匠じじいのせいというのもあるが、実際に俺は人を殺し報酬として金銭をもらったことがある。

 だからこれは・・・俺の我が儘なんだろうな。を知っているからなのか、魔物という生き物を我が物顔で殺して笑っている奴らを見ると、なんというか物凄く―――腹が立った。




「ふぅ、今知りたい事は一通り集まったかな」

 あの後も俺は色々な店を見ながら、他に働ける場所を探して歩き回った。そして今、3時間ほどこの国を歩き回り知り得た情報を少し整理していた。 
 最初に見つけた道具屋の他に道具屋を複数見つけたが、最初に見つけた道具屋が一番品揃えが良く、店主の雰囲気も良かった。価格は店によって前後したが、品揃えが多いので様々な物を購入する場合はやはり最初の店が楽だろう。今後何か購入するときはあの道具屋にする予定だ。
 武器屋も発見したが、残念ながら刀は売られていなかった。防具も鎧のばかりで、俺の欲しかった鎖帷子くさりかたびらのような物はなかった。
 肝心の働き口の方だが、ハンター以外では飲食店いんしょくてんの皿洗いなどの雑用しかなく、給料も微妙そうな所しか見つからなかった。そのため今の所一番の就職候補はハンターって事になっている。

「さて、そろそろ帰るか」

 現在必要そうな情報は全て集め終わったと判断し、今日のところは帰宅する事にした。
 俺は数時間前に入ってきたこの国の出入り口からこの国を出ていく。もちろん出ていくときも特に何か言われることはなかった。

「あっ、あの城の事は何も調べなかった」

 アドルフォン王国から出てしばらく歩いたあと、なんとなく振り返ると視界に切られた城が映る。その時にあの城の事について何も調べてなかった事に気がついた。だが、もう国から出てしまい、また入って情報を集めるのは少し面倒だ。国中を歩いたが被害のような所は全く見なかったが、果たして実際はどうなのだろうか。あの、おそらく城についてはまた次の機会に情報を集める事にしよう。
 国を出てしばらく歩くと、この地に転移してきた林の場所に着いた。念のため誰かに見られない様に注意を払う。

「確かこの枝を地面に差せばいいんだよな?」

 これから帰るため、ここに来る前にトレントに言われた通りに貰った枝を地面に突き刺した。
 少し時間が掛かるのかすぐには何も起こらなかったが30秒程たった頃、地面に突き刺した枝は少しずつ大きくなり40cmほどまで成長した。そこから見た目が少し変わり、まるで小さいトレントの様に顔の様なくぼみが出来た。

「魔人サマ、オ帰リデスカ?」

 本物のトレントより少し高い声でその小さいトレントは喋りだした。どうやら話しているのはトレントのようでこの小さいトレントは端末になっている様だ。

「あ、ああ。とりあえず必要な情報は集まったから一旦そっちに帰る」

「ワカリマシタ。今トロル達ニ伝エテ転移魔法デ繋ゲマス」

「よろしく頼む」

 会話が終わると小さいトレントは元の短い枝に戻っていった。その直後近くに魔方陣と白い円が現れる。
 俺はその円に飛込み、今の帰るべき場所に無事に帰還したのだった。


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