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第1章 First contact
第8話 復活
しおりを挟む封印の祠。
それは百数年前の勇者が作り上げたものだ。その祠にある黒い棺に魔王が封印されており、何重にもの封印術を掛けられて厳重に封印されている。
そこで疑問に思う事があるだろう。何故当時の勇者は"殺す"のではなく"封印"という方法をとったのか。
魔王を殺してはいけない理由でもあったのか、封印しなければいけない理由でもあったのか
―――否。
単純に勇者は魔王を倒しきれなかった。ただそれだけだ。
その勇者は何故か封印術に長けていた。殺すのが一番いい方法だというのは分かってはいたが今一歩、実力が及ばなかった。そのため封印という手段をとらざえるをえなかった。
つまり、魔王はまだ死んではいない。
祠からオラクガが出てくる。
その表情は怒りや悲しみなどが入り交じった複雑な表情をしていた。
彼は約30年間、毎日この祠に通っている。その目的は魔王復活。
祠にあった水晶、あれは"魔の力"を蓄えるアイテムだ。
オラクガは魔王が封印されたと知ってからすぐにその封印の解除方法を探った。しかし彼は封印術や魔法の類いは不得意であるため、魔王軍の生き残りの中からその手のものが得意な魔物達に解除方法探し出すよう命令した。しかし、勇者の掛けた封印術は何重にも重ねて掛けられていた。それも1つの封印術が何重にも掛けられているのではなく、様々な封印術を重ね掛けしていたのだ。そのため解除方法を探すのに数十年費やしてしまった。
長い時間を掛けてついに解除方法を見つけたが、解除に必要な道具をゼロから作るのに再びかなりの時間が掛かってしまう。
その道具が祠に設置された水晶球だ。あれに"魔の力"を蓄えて解除を行う。しかし、次の問題は必要な魔の力の量だった。その量は莫大で、かつて魔王軍が全て魔の力を注いでも到底足りないほどの量が必要だった。そして極めつけは祠だ。あの祠は神聖が強すぎるため入れるのは魔王軍の幹部クラスのみという制限があり、魔の力を水晶に送れる魔物はオラクガだけであった。そのため必要な魔の力を蓄えるのに、毎日オラクガが自身の力をギリギリまで絞ってもかなりの時間がかかる。
(確か"ワイシング"が言うには50年から60年ほど掛かるという話だったな)
自身の部下が言うにはこのペースだと封印解除に掛かる時間は50から60年。既に30年経ってる為残りは20から30年ほど。その間オラクガは毎日のようにこの場合に通う予定だ。
その行為をオラクガは辛いとは全く思わない。むしろそのぐらいで魔王が復活するのであればいくらでも行える。
全ては魔王復活という悲願を達成するために。
(もうしばらくお待ち下さい、魔王様。必ずやこのオラクガが復活させてみせます!)
祠で封印されている魔王には届かないが、彼は心の声で自分の決意を叫ぶ―――その時だった。
「!?」
オラクガは何かの気配に気付いた。寒気がするような、それでいてどこか心地いいようなそんな不思議な感覚だ。オラクガは咄嗟に辺りを見渡すが周りに何かいるわけではない。今まで感じたことのない感覚と、ドンドンとその感覚が強くなっている事に警戒を強める。
感覚が強くなったことでその"何か"が向かってきている方向に気が付いた。それは上空。上空を高速で何かが飛んできていたのだ。
飛んでいたのは紫色の禍々しい三日月。それは真っ直ぐ祠に向かっており、その事をオラクガが理解する前に衝突した。
―――ドゴォォォォン!!!
「なんだ!!?」
突如発生する爆発。彼は反射的に腕を顔の前に持ってきて爆風から顔面を守った。防御をしながらも何が起こったのか理解しようとして腕の隙間から覗き見る。しかし爆発によって巻き上げられた土煙のせいで視界が遮られており、視覚から得られる情報は何もなかった。
しばらくすると土煙が晴れて状況が見え始める。オラクガは爆発が起きた場所に祠があったことを頭に浮かべながら、恐る恐る状況を確認するためにその場所に近づいて行った。
「こ、これはっ!?」
オラクガは驚愕した。祠が入り口の階段だけを残して消滅していたのだから。
過去に祠を破壊しようとしたことはある。この祠が神聖を放っているのは建材として使われている対魔石が原因で、幹部クラスの魔物しか入れないのは祠の内部に入ることでその神聖を四方八方から浴びてしまうからだ。もし壁と屋根部分がなく、対魔石が床の部分だけで封印がむき出しであったのなら、そのぐらいの神聖なら耐えられる魔物が多くいるため水晶に魔の力を貯めやすくなる。つまりこの祠を壊し魔王の封印をむき出しにしたら魔王の封印を解く時間が大幅に短縮される。その理由から祠の破壊を試みたことがある。
しかし、結果は破壊できなかった。どんなも魔法もどんな物理攻撃もびくともしなかった。そのため祠の破壊は諦めざるを得なかった。
そんな祠が跡形もなくなくなっている。
「一体何が起きた!!」
急いで祠の場所に向かう。オラクガは焦っており、冷や汗まで掻いている。それは魔王の棺と水晶の安否を気にしてだ。祠は強力な神聖を放ち、魔の者の侵入阻害するだけのものだったため破壊されても関係ない。むしろ彼らにとっては嬉しいくらいだ。
水晶も破壊されたとしても最悪また作れる。貯めていた魔の力は放出されて消失してしまうが、水晶は時間があれば何度でも作り直すことが出来る。魔の力も貯め直せば別に問題はない。また多大な時間が掛かるが、魔の者は人間より遥かに長寿なため許容できる範囲だろう。
しかし仮に魔王が封印されている棺が破壊された場合、どうなるのだろうか。そもそも封印術が掛けられているため、常識的には破壊は不可能のハズだ。だが封印術が掛かってないが、同じく破壊が無理だと思われた祠は木っ端微塵になっている。もしかすると、棺も破壊されているかもしれない。
オラクガの脳内は勝手に最悪の可能性を考えてしまう。不安になりながらも祠の跡地に到達した。
そこには谷ができていた。
祠の階段から先が地面がV字に切り取られており、とても大きく、そして深い谷ができていたのだ。
「ば・・・かな・・・」
突然に大地が切り取られる事に驚き、飛んできた物の正体はなんなんなのか、どれ程の力が込められていたのか、どこから飛んできたのか、誰の仕業なのかなどの思考で混乱する。
だがこれだけは理解した。いや本当は理解したくなかったのだろう。しかしオラクガは見つけてしまう。―――谷の底でバラバラになった黒い棺を。
「あ・・・ぁ・・・」
頭の中に浮かんでいた"最悪"が現実として現れた。その現実をオラクガは受け止めきれず、力なくその場に倒れむ。
希望が音を立てて壊れそこに恐怖と不安、悲しみなどの黒い感情が絶望として注がれていく。オラクガはその時初めて、数百年生きてきた生涯で初めて、絶望を知った。
「お前・・・オラクガか?」
絶望していたオラクガの背後から声が掛かる。その声をかつて聞いた事があるものだった。とても懐かしく、百年以上の間もう一度聞ける日々を願っていたものだ。
絶望で満たされていたものが期待により反転する。オラクガは不安と期待で一杯になった瞳で後ろを振り返った。
「まさか・・・そんな・・・魔王様!!」
オラクガの背後に立っていたのは百数年前に勇者に封印されていたハズの存在。魔王だった。
「そうか、俺が封印されてからそのような事が・・・」
「・・・」
復活した魔王はまず封印されてからどんな事があったのか、オラクガがどんな事をしていたのかを聞いていた。最初は何があったのか分からず混乱していたオラクガだったが、何とか魔王が落ち着かせると魔王の質問に答えていく。百数年前から現在までの出来事を口頭で説明するには相応の時間がかかり、全てを説明し終わる頃には日が傾いていた。
「どうやらお前には苦労をかけた様だ。礼を言わねばならんな」
「!・・・いえ、私は魔王様がこうして復活されただけで・・・」
「そうか、お前は変わっていないな」
「はい!私の魔王様に対する忠義は何一つ変わってはいません!」
「ふっ、そうか」
魔王は昔と何も変わっていない自分の仲間を見て嬉しく思う。それと同時に封印から自身を置き放つために努力してくれた事に深い感謝をする。
必ずこの恩を返さなければ。魔王は心の中で強く誓った。
「とにかく私が封印されてからの大体の事は分かった」
「はい」
「で、だ。お前はこの事をどう思う?」
魔王は自身が封印されていた祠があったらしい、跡地を見ながらオラクガに問いかけた。
「正直なところ私には見当もつきません。先ほども申し上げた通り突然、空から降って来たのです。それは禍々しい気配を放つ紫の三日月でした。」
「ふむ」
先ほどオラクガから説明されたときの事を思い出し、自分の頭の中で思い当たるものがないか探る。
魔王ともあればかなりの知識を持っている。魔法や地理、魔物の種類、古い歴史、魔物の中で語り次がれた伝説なども知識として魔王は持っていた。己の知識の海を高速で探してみるがオラクガの説明にあったものに当てはまるものは無かった。
魔王はしばらく考えこんだ後に1つの可能性に思い至る。
「もしかしたら"魔人"かもしれんな」
「魔人・・・ですか?幾代か前の魔王の時に現れたというあの伝説の?」
「そうだ。かなり昔だが魔人の話を聞いた事がある。なんでも先々代の魔王の時に突然現れ、当時の魔王軍と共に勇者と戦ったらしい。その魔人は武器の扱いに長けており、禍々しい邪気を操ったという。そしてその力で当時いた勇者とその仲間を殺し魔王軍を初の勝利に導いたと言われている。その力は当時の魔王を凌駕していた程と聞いた。」
「それほどとは・・・」
「先ほどお前が言った禍々しい紫の三日月を邪気と言われる力だと仮定するならば、このような事ができるのは伝説上の魔人の可能性がある」
「確かに・・・魔王様より強大な力だとは思いませんが、四天王一の攻撃力を誇るの私ですら破壊できなかった祠を破壊して尚、大地をこれほど切り取る力。魔王様以外には伝説の魔人しかいないと考えるのが普通でしょうか」
「まぁこの話はもう少し情報を集めてからだ。仮にも俺を復活させたのだ、魔人が本当にいたとしても敵の可能性は低いと思われる」
「わかりました」
「ところでオラクガよ、城はどうなっている?」
「魔王様のお城でしたらあの時、勇者どもにかなり破壊されましたが可能な限り復元してあります」
魔王の城は当時の魔王と勇者の戦闘で7割方破壊されていた。しかしいずれ必ず復活する、復活させると思っていたオラクガがほっとく事はあり得ない。オラクガは30年間祠に通っていたがその間に部下を使い可能な限り復元させたのだ。
「流石だな。オラクガ。では一旦城に向かう、いや帰る事にしよう」
「はっ!」
魔王とオラクガは話を終えると魔王は魔法を使い、オラクガは空中を蹴る様にして空に上がり魔王城へと飛んでいった。
魔王とオラクガが魔人の話をしていたちょうどその時、世界のどこかでクシャミが1つ聞こえたという。
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