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第1章 First contact
第7話 自覚する力
しおりを挟む「なんだ・・・」
何が起こった。俺は"飛ぶ斬撃"なんて使ってないハズだ。そもそもこの距離であの硬度の物を切るなんてあの師匠でも不可能だ。いや、その前にそもそも原因は俺なのだろうか。
「・・・・」
確かめるため、刀を構えて何もない空間に向かって先ほどと同じ動きをしてみる。
「何も起こらないな」
先ほどと同じ動き―――先ほどの鎧を着た男を気絶させた技の動き―――をしても何も起こらなかった。つまりあれをやった犯人は俺ではない可能性が高い。一安心だ。その前に飛ぶ斬撃なんて俺はまだできない。よって犯人は俺ではない。
「・・・念のためだな」
念のためにもう一度、刀を構える。万が一があるため、先ほどのやり取りを完全再現させる。今度は完全再現するために、あの男の意識をとばした時と同じ様に刀に少しだけ殺気を込める。あの時と全く同じ動きをした結果――――
「・・・・・」
なんか出た。
目を凝らさないと見えない程の細さで"紫色の何か"が俺の刀から飛び出た。急に俺が犯人の可能性が急上昇だ。
もう一度自分の愛刀をしっかりと見る。だが見たところ刃こぼれはおろか、なんの異常は見られない。
ひとつ前と違うのは殺気を刀に込めたかどうかだけで、動きは寸分狂わず同じものだ。だと、すると原因は"殺気そのもの"ということになる。
「試してみるか」
俺は少し実験をすることにした。
こんな現実ではおかしい現象をわからないままにしておくのは危険だ。
思いっきり刀に殺気を込めてみる。すると、刀が少し黒がかった紫色のオーラみたいなものを纏っていく。
「おお!」
自分の新たなる力に俺は驚き、思わず声を出してしまった。
今、自分の持っている刀は見るからに禍々しいオーラを放ち、溢れる力の放出先を探しているように感じる。
「ふぅ・・・」
俺は軽く息を吐き、全身の力を抜く。俺はそのまま刀を鞘にしまい腰を落とし、構える。いわゆる居合の構えだ。居合とは抜刀術とも呼ばれる、それは鞘から抜き放つ動作で一撃を加えるか相手の攻撃を受け流し、二の太刀で相手にとどめを刺す武術だ。俺の一番好きで一番得意なこの技。それを特大の殺気を込めた状態のこの刀で放ってみる。
「ッッ!!・・・」
悟が放ったそれは先ほどと桁違いの大きさだった。禍々しい紫色でてきた"三日月形の飛ぶ斬撃"となり、とてつもない速度で空に向かって飛んで行った。上空に浮かぶ雲を両断し、空の彼方に飛んで行く。それは勢いを衰えさせることなく飛んで行き、数秒で見えなくなってしまった。
「はは・・・」
悟はどこか呆れたように少し笑った。しばらく見えなくなった斬撃をそのまま見上げていたが、ふと、思い出した事があり正気に戻る。
(ん?まて、ということは?城を切ったのは俺って事になるのか?)
そう。何のきっかけでこの実験をしたかを、思い出したのだ。
実験の結果から、先の事件の犯人は悟である可能性が非常に高い。
「・・・」
もちろん意図してやったことではなくこれは不運な事故である。しかしいくら事故だと説明しようとしても言葉によるコミュニケーションが困難なため難しい。それにどこでだれが見ていてもおかしくないこの未知なる世界では見られていないという保証はどこにもない。もしかしたら既に自分が犯人だということが国中に知れ渡っているのかもしれない。
わからないことが多すぎていくらでも可能性が浮かんでしまう。
「とりあえず・・・逃げるか」
しばらくの沈黙のあと悟が考え出した答えは、まさかの逃走。そうと決まると悟はそそくさと刀をギターケースにしまう。そのあと連れている集団の方に向かい、オーク(仮)の一体に預けていたスライムを回収する。
「えー、これから別の場所に移動したいと思うが、お前らはどうする?ついてくるのか?」
これからの行動を伝えて、どうするのかの疑問を投げ掛ける。そもそもこのモンスター集団の目的はなんなのか、そもそもなぜ俺に付いてきているのかがわからない。そしてそれを知ろうにも相手の言葉がわからない以上、こちらから問いかけて反応をみるという方法しかない。
一体のオーク(仮)が一歩前にでて口を開いた。
「ヴォヴォオォヴ」
「悪い、何を言ってるかわからなかった」
雰囲気的になんとなくは分かるが、ジェスチャーなどがない純粋な言葉はまだ悟が理解するには無理があった。
進んで話してくれたオーク(仮)が少しだけしょんぼりと肩を落として落ち込んでいるのを見て悟は申し訳ない気持ちになる。
「すまん。今のは俺の質問が悪かった。えーっと、そうだな・・・。じゃあ、俺について来る奴は手を上げてくれ」
言葉での返事が難しいならばこちらからYESかNOで答えられる程度の簡単な質問をしてあげれば良い。
結果はモンスター集団の全員が手を上ているという端から見たら少しシュールな絵になっていた。
「・・・そうか。まぁ別に付いてくるのは構わないが、多少の協力はしてもらうぞ? あと、毎回のように聞くのは面倒だから付いてくる気がなくなったら何時でもいなくなっても大丈夫だ」
「ヴォ!」
オーク(仮)が悟にも分かる簡単な返事をしてとりあえずだがこの問題は終わった。そして次の問題は逃走先である。
全くの見知らぬ土地なので悟はなにもわからない。
最初の森に引き返すのもいいが、そんなに距離が離れてる訳でもないのでもしかしたら犯人探しをそこまで行ってくるかもしれない。
そう考えると、もう少し離れてる場所に行きたい悟であった。
「あー早速で悪いが、あの場所以外に人が居る所を知らないか?小さい集落的なところでもいいから」
「ヴォウ・・・」
彼らは人がいる所といえばこの国のこと以外に知らなかったようで、少し申し訳なさそうに首をブンブンと横に振っている。それを見た悟は「そうか・・・」と簡単に返した。
流石にこの世界にいる人間があの国の人間で全てだとは思はない、だが今からどれだけ広いかもわからないこの世界で当てもなく彷徨う訳にもいかない。
悟は目の前の彼らを見ながらしばらく考え、妥協案を閃いた。
「じゃあここから離れた場所で、居心地の良さそうな所を教えてくれ」
「ヴオォヴォ!ヴォヴヴ、ヴオォオォ!」
「・・・え?」
急に興奮ぎみで返事をしたオーク(仮)の言葉に戸惑っていると、そのオーク(仮)が悟を見ながら自分の胸を叩いた。雰囲気的なものから彼が行ったジェスチャーの意味を推察し、あれには『任せてくれ!』というような意味が込められていたのだろうと考える。するとオーク(仮)が他のオーク(仮)を集めて、円を描くように並び始めた。一体これから何が起こるのか分からない悟はとりあえず彼らの行動を見守る事にした。
次にオーク(仮)達が一斉にぶつぶつと何かを唱え始める。しばらくすると円の中心に"魔方陣"が出来上がり、その上には"白い円"が現れた。
「ヴォ!!」
「お、おう」
悟は初めて見る不思議な現象に驚き、元気に『出来ました!!』というような雰囲気でこちらを見るオーク(仮)にたどたどしい返事しかできなかった。
魔法陣というと、恐らくこの白い円はファンタジーでいう魔法というもなのかもしれない。悟は魔法というフィクションの中でしかありえないものを見たことで頭に僅かに残ったていた可能性を捨て、自分がいるこの世界は完全に異世界なのだと確信した。
「え、なにこれ?どうすんの?」
「・・・ヴォ!ヴォヴオオオヴ」
「グガッ!」
魔法が発動してから何かを待っている様にこちらを見つめていた彼らに気が付いた。悟がいた世界にはなかった、魔法という未知の力の事を知る由もない悟は当然彼らが何を待っているかはわからない。そのため訳がわからず思った疑問をそのまま口にした。
すると、こちらの状況を理解したのかオーク(仮)が一体のゴブリン(仮)に向かって理解できない言葉を発する。何かしらの指示を受けたゴブリン(仮)は、一切躊躇う事もなく白い円の中に入っていった。
「ヴォ!」
「お、おう」
ゴブリン(仮)が入っていく所を見届けると、彼らの顔が悟の方に向いた。その顔はどこかドヤ顔しているようにも見えなくもない顔だった。恐らく今の行為は悟にこの白い円の使い方とこれは安全なものだという説明をしたものだ。毒見のようなものだ。
あの魔法の使い方はあの白い円の中に入るだけ、つまりは悟もあの白い円に入れということだ。
「マジか」
「ヴォヴォ!ヴォウヴォウ!」
「・・・行ってみるか」
白い円の所で『ささっ!どうぞどうぞ!』と言わんばかりにスタンバイしている彼らに悟は微妙な顔をするが、心の中は非常にワクワクしていた。魔法という未知の物に対して子供の用に興味を示している。覚悟を決めると、悟は意を決して白い円の中に入っていった。
この大陸は大きく2つに分けられる。大陸を約半分にして北側が"人間界"、南側が"魔界"と呼ばれている。
その南側の方、魔界の最奥の地でいつもの日課を行う者がいた。
その存在は人と同じ様な外見をしており、シルエットだけを見ると人間に見えてしまう。だが、人間とは違い両腕と両足、胴体が硬い外骨格に覆われている。その外骨格は明るい赤色をしており、腕なら肘まで、足なら膝までの部分を覆っている。加えて背中にはマントの様な物をつけている。そのマントはまるで炎をそのままマントにしたような柄でどこか神秘的なものを感る。
ここまでなら一見防具を付けた人間に見えるかもしれないが、その存在は人間ではなく魔物である。それが事実であること証明するように頭に角が二本存在する。外骨格のない部分から見える白い肌が異形らしさを高めている。
その魔物はかつての魔王の部下であり、部下の中では最も地位の高い4体の幹部―――いわゆる四天王―――の内の1体であった魔物だ。その名を"剛炎のオラクガ"。百数年前の魔王軍と勇者の戦いで生き残った幹部は残念ながら彼だけであった。
そんな彼は毎日決まった時間にある場所を訪れている。その場所は魔界の最奥にあり、他の魔物もあまり近寄らない場所にある。その場所に建っている建物が彼の目的地だ。建物の外見は四角い祠の様な作りになっており、それは魔界にあるとは思えないほど神聖を放っている。何故ならその祠はある一つの石だけで作られている。"対魔石"と呼ばれるそれは魔物にとって効果が高い聖なる力を常に放出しており魔の者が近づくだけでダメージが入るほどである。その為この祠の周りは浄化され、魔物はよりつかない。
そんな場所に彼は躊躇なく入っていく。
建物全てが対魔石で出来ているので、重複してかなりのダメージを受けているはずだが、表情などを一切変えずに淡々と祠の奥に進んで行く。2人分ほどしかない幅の通路を進んでいくと開けた空間にでる。その空間の中央には長方形の黒い箱が1つと、その上に丸い水晶の様な物が1つあるだけで他にはなにもない。
黒い箱には至る所に魔方陣が記述されており、水晶の方はとても澄んでいるキレイな水晶ではあるが中心にだけ黒く禍々しい小さな球体が浮かんでいる。
オラクガはその2つの物体に近づき、水晶の方に手を添えた。すると水晶の中にあった黒い球体がほんの少しだけ大きくなる。その事を確認すると水晶から手を離して黒い箱の方を見る。
「魔王様・・・」
彼はこの場所に封印されている者の名を呟き、他に何をするわけではなくこの空間から出て行った。
この祠は百数年前の勇者が作った建造物である。その勇者はある一つの存在を封印するためだけにこの祠を作った。その魔物の名前は先ほどオラクガが呟いた通り。ここにはかつて魔物の王だった者が封印されているのだ。
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