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第1章 First contact
第5話 噛み合う
しおりを挟むペェスタは先ほどの受付嬢との会話の内容通りにこの国の周辺を見回る為に東門から外に出た。彼は依頼の無い時はいつも外に出ては、魔物が寄って来てないか、王国の周囲に何か異常が無いかを見回っている。それは彼がハンターになってからずっと続く彼の日課ようなものだ。
東門から少し離れた所でペェスタは1つの魔法を使用した。
「《完全なる光の支配権/ペルフェクト・ライト・ルーラー》」
《完全なる光の支配権/ペルフェクト・ライト・ルーラー》という魔法は"光属性最上位魔法"の1つ。効果は名称の通りに光を支配することで、光を自在に操る事ができる。例えば光を一点に集中させて攻撃を行ったり、相手の視界を遮ったり、逆に自分の視界を広げる事もできる。さらに一部の光属性魔法を操る事もできる。というかなり自由度が高い魔法である。
もちろん完璧な魔法というわけではないので欠点が存在する。同時に2つ以上の光は操れなかったり、"光"という高度な物を扱うのでかなりの技術、集中力を要する。
しかしペェスタは"得意属性"が光という極めて稀な存在であり、尚且つ才能にも恵まれていたため彼はそんな高度な魔法を使用する事ができる。
そして彼は光を屈折させて、望遠鏡のように遠くを見るためにこの魔法を使用したのだ。
遠視の魔法は別に存在するのだが、その魔法は"無属性"の補助魔法に分類されている。実はペェスタは無属性魔法を苦手としている。それは得意属性が光という適正が原因とされているが実際のところ詳しい原因は不明だ。
「ふむ・・・特に気になる物はないかな?」
魔法の効果が発動し自分の視界に入っていた景色がズームされるように拡大していく。
彼は暇な時にこうやってこの王国の周りを魔法で見渡してパトロールしている。これが彼の日課の1つだ。
「む、あれはいったい・・・?いや、なんだアレは」
ペェスタが辺りを見渡していると、奇妙な集団を発見した。トロルとゴブリンの群れだ。だがトロルとゴブリンが群れを成すのは別に珍しくはない。彼が疑問に思ったのはその群れを率いている様に先頭を歩いている者。見た目から判断するには人間に見えるが見慣れない全身真っ黒な衣服を着ており、背には黒い棺の様な物を背負っている。
(魔物を従える人間など聞いた事もない。そもそも魔物が人間に従うなどッ・・・!)
現在、どんな魔法を行使しても魔物を従える事など出来ない。混乱させたり等して一時的に誤認させる事は可能だが、魔の者と敵対している人間にしっかりと隷属させる方法は存在しないとされている。
ペェスタは一瞬あの時の事を思い出すが、既にそれは過去の出来後。脳内に浮かんだ昔の友人の存在を頭を振ると同時に消し去った。
(ならば奴も魔の者の類いか・・・)
彼の形相が一変する。ペェスタが大の魔物嫌いという話はかなり有名だ。彼は幼い時に母親を魔物に殺されている。それも目の前で。そんな事から彼は魔物に強い憎しみや、恨みを持ち、いつかは魔物を根絶するという野望を内に秘めている。
そんな彼が街の周辺で魔物を見つけて放っておくなんて到底無理な話だ。
ペェスタは群れを率いる正体不明の存在を敵と判断しその者を殺すと決め行動に移した。
「《巧みな光の再現/アービル・グリント・イミテーション》」
魔法を唱えるとペェスタの体がうっすらと発光する。この魔法は光の如く素早く動ける様になる魔法だ。かなり強力な魔法であるためこの魔法には大きな難点が2つある。1つは使用する魔力が膨大である事、もう1つはこの魔法の効果時間が2秒という極僅かな時間しか効果が続かない事である。
だが、その2秒という時間は十分すぎる。2秒という時間はこの世界で一流の剣士であるペェスタにとって遠く離れた相手に奇襲して撤退するだけの十分な時間なのだ。
そして今回も自分が得意とする戦法。この魔法で奇襲をしかけそのまま首を刎ね、直ぐに離脱をするというヒット&アウェイ戦法を取るつもりだ。
魔法を唱えたペェスタは直ぐに剣を構え、自身の剣に少し魔力を流し込む。もちろん彼の持っている剣は普通の剣ではない。彼の剣はいわゆる魔法武器と言われる物だ。
彼の剣は魔力を少し流すだけで鋼鉄を簡単にスライスできるだけの切れ味になる効果がある。
魔物には防御力が高く、体が硬いものも存在する。その代表ともいえる魔物がゴーレムだ。ゴーレムのような魔物に対して切断系の攻撃は効果が薄い。普通、ハンターがゴーレムを討伐しようとするなら打撃系の武器に持ち替えたりするものだ。だがソロで活動するペェスタが敵によって武器を持ち替えるという戦術を行うには、荷物の関係上難しい問題だった。
その為ペェスタは万能な剣を求めた。どんな敵でも切ることが出来る夢のような剣を求めたのだ。
万能な剣を求め、探している時にペェスタは一人の武器職人の噂を聞く。
その職人は現在、既に死亡してしまっているが腕は本物だった。その人物はひと昔前には世界でも認められていた職人であったが、ある時を境に武器作りを辞めてしまい何処かに隠居してしまった。しかしぺェスタはその人物を見つけ出し、最高の武器を作ってもらった。それが彼が持つ魔剣、"アドラシオン"。
その職人は目標があった。それは1つの剣を越える事だ。
ある時その職人の元に一本の剣が流れ込んだ。その剣は異様に細く鋭かった。最初はガラクタだと思い込んでいたが、試しに降ってみるとその剣は万物を切り裂いた。そのできごと以来、彼は武器制作から手を引いた。勝てない。彼はそう思ってしまったのだ。万物を切るという剣の到達点。その最高の武器を自分は一度でもガラクタだと思ってしまった。その時点で彼は高齢であった為、その時のショックは心の深くに傷を作った。
しかし数年後ぺェスタが万能の剣を作ってくれと依頼をしてきた。もちろん最初は断ったが、ぺェスタはある条件をつけた。言ってくれれば素材はありとあらゆるもの用意すると。
その条件を聞いた職人は剣を作る事を了承した。
彼はペェスタが現れなければ人知れず死ぬつもりだった。だがふと自分の人生を振り返った時、この世に特別なものを何も残していない事に気が付いた。そしてもう一つ。自分は挑戦していないことに気が付いた。
自分の人生で培ってきた全てで頂に挑戦する。彼は人生の最後に傑作を作ることにしたのだ。
そうしてこの魔剣は作られた。そして今までこの武器を使用してペェスタが切れなかったものは存在しない。
「――――――ッ!」
力を込め、大地を蹴り抜く。
相手の正体が不明なため中途半端な力では"万が一"があるかもしれない。警戒しているからこそ全力で行動をする。
これより行われる攻撃はこの世界では最強クラスものだろう。
あらゆる生物が認識する事ですら困難な速度で後ろに周り込み奇襲をしかける。そしてその剣は鋼鉄をも簡単には切り裂く魔法の剣。狙う場所は基本的な生き物の急所である首。
どんな相手にも回避はほぼ不可能な攻撃。
ペェスタは高速で真後ろに回り込み、未だこちらの存在に気付いてないであろう対象の首を目掛けて思いっきり剣を振り抜いた。
だが振った剣に手ごたえはなく、何もない空間を切り裂いただけであった。一瞬ペェスタにも何が起こったか分からなかった。
結果だけ言うと、攻撃対処がペェスタの攻撃を回避した。お辞儀するように腰を前に曲げる事で後ろから首を狙う攻撃をかわしたのだ。
ペェスタのこの攻撃がかわされたことなど一度もなかった。それゆえにこの攻撃に絶対の自信があった。それがあろうことか初見でかわされた。いや、仮に見たことがあり知っていたとしても避けられる攻撃ではない。ペェスタは大きなショックを受け、反射的に頭の中で避けられた理由についての様々な考えが浮かぶ。
そのため次の行動が少し遅れてしまった。ハッと魔法の効果があと僅かなのを思い出し『自分の攻撃を避けた異質さを考えると一旦距離を取った方が良い』という結論に至った。本当ならばあと一撃加えたい所であるが、無駄な時間を過ごしてしまったため時間の猶予がない。
ペェスタは魔法の効果が続いている間に再び地面を蹴り、対象から離れ距離を取った。
魔法の効果が切れたので薄く発光していたペェスタの体が元に戻る。そしてペェスタ改めて対象を確認すると、対象もまたペェスタを確認していた。
両者の目が合い、しばしの沈黙が続く。
「何者だ、キサマ・・・」
先にペェスタが疑問を問いかけた。それは純粋な言葉通りの意味が半分、もしかしたらというわずかな可能性半分のものだ。知性が高い魔物は喋る事が出来る。魔物を統率している存在なら喋れる可能性は高い。ならば何か情報を得られるかもしれない。そう思っての問いかけだ。
しかしそのものをから返って来た返事は―――
「◯Χ%□#△●☆□♯▽◇」
人のものでは無かった。
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