黒薔薇姫とカエルの王子

綾瀬 りょう

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第15話 愛しき人とこれからを

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 女になる呪いをかけられた。父上に恋をした魔女が自分の子を来る住む姿を見せたいから。父上を恨まなかったと言えば嘘になる。

 憧れていた王様の背中だったのに、生贄に捧げられたのが俺だと思ってしまった。

「目が覚めましたか」

 見慣れた天井、ふかふかのベッド。腕を上げようとすると、見慣れた細くて白い腕では なく、ゴツゴツとした白い腕だった。

 ラジエルが俺をベッドから起こすのを手伝ってくれる。水差しを持ち、俺に差し出す。焼かれていたはずの腕に痕は残っていない。

「ラジエル、一体何があった」

 差し出された水を飲み切る。ダンスパーティーからのミハエルの裏切り。憧れていた女の子の、裸・・・。

「ミシェル様それについて詳しく思い出すと命の危険があります」

 真顔のラジエル。誰に、殺されるか聞きたくない。ウィントがリテラスの事を大切に想っていることをパーティーで知った。

「俺は戻ったんだな」

「ミシェル様、魔王復活の憂いを払ったのはリテラス様の歌声です。貴方が燃え上がった後、リテラス様が本気出して歌ってくれました」

「ラジエルさん」

 時々雑になる気がする。知恵の書を携えている天使は知りうることを全て口にできない。俺の体調を心配しているが、それ以上は本人に聞けということか。

「僕からよりも、本人から聞いてください。呪いが解けたのは終わりじゃなくて始まりです。覚悟したほうがいいですよ」

 俺を呪った魔女が死んだわけではない。愛し合う人を見つけたから呪いが解けた。幼いころから一緒に居たミハエルが魔女の弟子で俺の事を殺そうとしていた。

「魔王復活に関して一つだけお話しできるのは、暴走していた男がやり始めたわけじゃなくて、周期的に、と言ったほうがいいですね。リテラス様も力が戻ってすぐに力を使ったので色々確認することが多いです」

「ありがとう、消えないでいてくれて」

 本を見つけたのがきっかけだが、ラジエル程の天使であれば居なくなることはできたはず。

「巡りあわせは僕じゃないですからね。ほら、早く行かないとお姫様が泣いてしまいますよ」

 俺は重い体を起こし、遠くに聞こえる歌声を探しに部屋を出た。



 歌を歌った。喉が焼けそうだったのは抵抗する力の存在があったから。ラジエルがハープで手助けをしてくれていたから、助けられた。

 あの場に、どうして兄様が居たのか、分からなかった。治療に専念するため数日間滞在することになった。兄様が私を連れ戻しに来たなら、一度帰らなければならない。

 カエルの呪いがかかっていたとしても、勝手に城に住み着いていた。兄様が怒らないのは私の体調を考えて。

 魔力消費が主だったので、直ぐに体調は戻った。私よりも怪我の酷かったミシェルは目を覚ましていない。常にラジエルがミシェルの護衛を買って出てくれている。ミシェルが目覚めるまで国にとどまりたかったが、兄様の様子を見ていると、数日中に国に連れ戻される気がする。

 城の池は先日の襲撃から逃れていた。城の中枢が壊されているのも、直ぐに修理をする予定と王は言っていた。今回自分の不手際で息子に呪いをかけられただけではなく、襲われた。偶然居合わせた歌姫である私が救世主。

 国に戻った後に、正式に礼をしたいと言われている。

「リテラス」

 名前を呼ばれたかった人がいる。全身炎で覆われたのを見た時は心臓が止まるかと思った。力を振り絞って枯れた喉の調子も戻ってきていた。

「ミシェル様」

 呼びたかった。

「ミシェル様、私は取り返しのつかないことをしました」

 幼い時に酷い言葉を吐いた。彼に心の傷をつけた。王になる努力を怠らなかったのは、彼の心が強かったから。

「国に帰れば会えなくなるから」

 愛してしまった人。呪いが解けたということは、私たちは両想い。言葉にしてしまったらきっと私は離れられなくなる。

「リテラス、君に確認したいんだ」

「はい」

 裁かれる覚悟はある。逃げ出しそうになる足に力を入れる。カエルの時は素直に甘えられたのに、人の姿に戻ると気恥ずかしくなる。女性の姿の時も国王に似て美人だったけど、呪いが解け男性に戻った彼は、思いの他しっかりとした体格で、髪は長い。

 低めの声が耳に心地よい。

「命を助けてくれてありがとう」

「王になる者が、簡単に頭を下げてはいけません」

 私はミシェルに駆けよる。顔を上げたミシェルは口の端を上げる。

「引っかかった」

「きゃっ」

 ミシェルは私の事を抱きしめる。カエルの時は散々抱き着きましたが、これはなしではありませんか。お互いに婚約者は居ないと記憶しているけど、お互いに元ので再開してまだ数分ですが。

「逃げられない様に捕まえておけって、ラジエルが言っていたから」

 ラジエルのアドバイスを斜めに解釈したミシェルは私の耳元囁く。嗅ぎなれた匂い。一緒にベッドで眠らなければよかった。

「俺の呪い解けたのは、リテラスが居たから。俺は君が好きだ。お互いにまだ知らないことだらけ。これから一緒に知っていかないか」

「歌姫の私だから好きなのですか」

 ミシェルなら私になんの力が無くても好きになってくれると思いたい。兄様に会ったときに、『順番間違えたらだめ、絶対』と言われた。

 出会いが最悪で今更順番と言われても。

「リテラスとの出会いは鮮明に覚えている。俺はあの時勘違いしそうになっていたのを君の一言で思いとどまれたんだ。大切な感情を教えてくれたから。間違えたら正してくれる」

「偶然です」

 ミシェルは私の事を話してくれない。私は本音が言えなかっただけ。歌姫の力が開花して、利用されそうになっていた私。兄さまが私の事を支えてくれた。

「偶然でも、俺は君が好きなんだ。君は俺の事が嫌い」

「好き、ですよ」

 寝込みを襲う様にキスをした。ミシェルが覚えているのか、分からないけど。

「答えはそれだけじゃダメ?」

 視線が絡み合う。最悪な出会い。お互いに呪いが解けた。スタートライン。

「ミシェル様」

 私はミシェルの耳元に口を近づける。

「これから、よろしくお願いします」

 
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