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第13話 ダンスと黒龍の襲撃
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目を覚ました時に、母上が涙一杯にした瞳で私に抱き着いてきた。
奇跡的に助かったと言われ、古龍を倒した勇者として、体調が整い次第パーティーを開こうと言っていた。
私は歌声を思い出す。出会いたかった少女の歌声がハープと一緒に奏でられている。
「ご心配をおかけしました」
王位継承第一位なのに、身を危険にさらした。
あの竜が口から吐く炎は普通のものとは違い燃え広がる。黒い炎。
私の部屋には母上と父上、医者がいるだけで他には誰もいない。部屋の中を見回すとリテラスは隠れている気配がする。
「父上、彼の竜は魔力が普通のものとは異なりました」
普通の古龍ならば母上がここまで心配することもない。燃えた場所から瘴気が漏れ出していた。おちおちとパーティーを開いている場合ではない。
「だからこそ、交流をするのだ」
「父上」
「隣国の姫の事を覚えているか」
昨晩聞いた歌声を思い出す。初めて会ったときに言われた一言。
私は愛されていないと泣いて、愛されるように努力して、剣術も学術も学んだのに、魔女に呪いをかけられた。両親はそんな私を大切にしてくれている。直系の王族の血を継いだのが私だけだからか、怖くて聞くことができない。
姫の言葉が真実であれば私は耐えきれない。
「覚えております」
「姫君の力を借りなければならない事態かもしれない」
最近増えてきている魔物についてミハエルに調べさせた。彼には魔女の血が流れているので関連のある書物も見てきてもらった。
数百年周期で来ている魔物の増殖の時、魔王が出てくることが多い。
「ミシェルには悪いが、今度のパーティー隣国の王子ウィントと踊ってくれ」
ウィント王子は姫君が大好きだと聞いたことがある。私と同じく婚約者がいない。
理由は全く別だ。彼は妹が大好きすぎるから、結婚しないと宣言していた。
王子の時にそれでもいいのかと真剣に悩んでいた。許されているのか、断固として断っているのか分からないが。
「分かりました」
王命を断れるわけがない。
母上が一瞬父上をにらむが、元々町娘だった母上は、政治に口出ししない。
「体調が整い次第、至急準備を整える」
王族として切り捨てなければならない感情。国のために命を捨てるのを厭わない。
生まれた場所が王族だったから、命の楔は握られている。
☆★☆★☆
お見合いの時よりも小規模であるが、呼ばれた面々は諸外国の重鎮ばかり。己の血筋を入れて、力を誇示するために、自分の子供を使う。
綺麗に傷は癒え、私がシンプルなドレスを望んだため、ダンスフォールの中で一番シンプルかもしれない。
「古龍を退治した姫に拍手を」
リテラスは姿を隠してしまった。ラジエルが気にするなと言っていたが、いつの間にか一緒に寝るのが当たり前で、部屋に待ってくれている存在が居るのを知り、物足りなくなる。ラジエルは相変わらず私よりもリテラスに優しい気が知る。
「それでは、ミシェル、ファーストダンスを」
婚約者が決まっていない私に近づいてきたのはウィントがやってきた。
事前に話をしていたのか、父上に視線を向けると無言の圧。母上は庶民から輿入れしたため、参加しなくてもいい行事には参加しなかった。
「お相手お願いします、姫君」
「私の足を引っ張らないでください」
素直になれない呪いの事を彼は知らない。噂くらいは聞いたことがあるのか、文句を言いかえされることは無かった。
記憶に残る少女と面影はあまり似ていない気がする。私が手を取るとウィント王子はステップを踏み始めた。
半分くらい踊り始めると皆が動き始める。
そっと顔を近づける。
「お姫様は元気ですか」
直球しか聞き方が浮かばなかった。時間は限られている。相手は私が質問するとは思わなかったのか、驚きを隠していなかった。
「リテラスは今どこにいる」
話が嚙み合わない。ウィントの私の手を握る力が強くなる。氷の王子と呼ばれていたのを思い出す。
怪我は完治しているが私が得意なのは剣術と魔術との組み合わせ。ドレスに剣は隠せない。
「ウィント殿下」
瞳の奥の色が動く。魔法を使おうとしているのか、うっすら私たちのいるところの温度が下がる。城には厳重に結界が貼ってあり、ラジエルも私の事を一応心配してくれているのか、今日は姿を隠して様子を見てくれるという。日に日に大きくなる瘴気の靄が気になっているようだ。
「穏便に話を進めようと思っていましたが、俺のリテラスをどこに隠した。この国に居るのは分かっているんだ」
私の知っているリテラスはカエルのリテラスだけ。数年前に会った彼女とは交流が無い。
口を開けば相手に誤解されかねないので、私はどう返事をするか迷っていた。ウィントンはそれが気に入らなかったのか、そっと耳に口を近づける。仲睦まじい演出だが、吐息からも魔力を感じ、変な動きをすれ凍死させるつもりかもしれない。
「嘘はつかないほうがいい。貴方が吐く言葉は本心じゃない。リテラスはどこだ」
「知るはずないじゃない」
ウィントがどうしてそう思うのか、私は分からない。私の事を疑っている視線。
「私が知っているとでも。数年前に一度会ったきりよ」
「我が王国の魔導士を甘く見ないで欲しい。リテラスがここに来たのは調べがついている」
ウィントが家族思いの王族ということは諸外国にも知れ渡っており、一番大切にしているのは妹リテラス。リテラスにも婚約者がいないのは、彼女が悪役王女と呼ばれているだけではなく、兄の邪魔もある気がした。
歌姫の能力が他国に出てしまえば、国の護りが弱くなってしまう。
「私が知っているのはカエルのリテラスです。貴方の妹がカエルとでもいうのかしら」
「知っているのではないか、呪いでカエルの姿に変えられて守ってあげなければと城中を探しても姿を現さず、最初カエルになったことを恥ずかしくて出てこられないかと思った。魔導士に調べさせたらこの城にいるのは分かっているんだ、隠さず、出せ」
カエルに名前を付けたのは偶然。
大怪我をして寝ていた時に聞こえた歌声は夢だと思っていた。リテラスが居るはずがない。ラジエルはカエルなのに、私よりも丁寧に接していた。
今代の歌姫だから?
「とぼけようとしても無駄だ。調べはついている。それよりも早くリテラスに逢わせてくれ、時間が無いんだ」
「時間が無い」
どんと、城が揺れる。
ぴきぴきと城を囲う結界が壊れていくのが見えた。
「きゃー」
「落ち着いてください」
「今城の上空に黒龍が現れました、至急騎士団が集まります」
結界のせいなのか、近づいてくる気配に気が付かなかった。ウィントは私から距離を取り、自国から連れてきた数名が彼を護るように私と距離を取る。
「どういうことだ」
悪意がある者が近づく場合気が付かないはずがない。城の結界は壊され、バキバキという音とともに、天井が吹き飛ぶ。
「貴方様を許すことができない」
いつも見慣れたミハエルが、黒龍の背中から叫んでいた。
髪が長く伸び、目の色も一般的な茶色から赤に変わっていた。彼から滲み出る魔力の色が違う。暖かなものではなく、冷たく濁った雰囲気に感じるのは、魔物からするものと同じ。
「貴様、裏切るのか」
父上が逃げ惑う客人をかき分け声を荒げる。腰を抜かし動けなくなっている者、自分も戦うべきか悩み右往左往している者、自分の主人を護るために剣を握る者。
ウィントは城を囲う結界が解けたからか、周囲に氷の塊を召喚居ている。射るような目つきで乱入してきたミハエルを見ている。
「俺の大切な姫の話を聞いているのに邪魔をするな」
「王子、逃げるのが優先です」
「逃げるならリテラスも一緒でないと俺は逃げない」
リテラスと聞き、カエルがどこに姿を隠したのか分からないでいた。いつもと同じようにしていたはずなのに、急に姿を隠してしまった。
ラジエルがふわりと私の前に姿を現す。
「恨まれるようなこと、したんですか」
呆れているようにも見える。ウィントはラジエルに気が付くとすぐさま駆け寄り跪いた。
「噂は聞いております知恵の天使様」
「今はそんなことをしている場合ではない。歌姫が姿を隠してしまってな。僕も手を焼いているんだ」
ラジエルは知恵の書を手にしていた。
「ミハエルと言ったか、今ならまだ間に合う。戻ってくる気はないのか」
「師匠様を傷つけたんだ、相打ちになっても貴様の首は取る」
竜が吐く炎は私が攻撃を受けたものに似ていて、父上の囲う。ミハエルは魔女の血を継いでいたわけではなく、魔女だったのか。忍び込んで狙うは父上の首。
「師匠は貴方を愛していたのに、見向きもしなかった。俺が傍に居て尽くしても相手にされなかったんだ」
父上を好きだった人。父上は結婚する前から人気があったと聞いている。歴代の王の肖像画の中でも一番美しい。
「そなたは、誰の事を言っているんだ」
「師匠の事を、忘れたの?貴様の息子に呪いをかけた魔女だ」
古龍の上で泣き叫ぶミハエル。ラジエルが何かを察したのか右手を上げると父上の姿が炎の中から消えた。
「人の心を脅して掴んでも何にもならん。知恵の書には人の心のことまでは書いてありませんが、古龍を利用してまですることですか」
ウィントもラジエルの言葉に同意する。
「好きなら堂々と、すればいい。正面から勝負をしないで相手を陥れて手に入れたって幸せになれない」
瘴気の渦はミハエルの気持ちの高ぶりに反応したように蠢きだす。
「うるさい、黙れ黙れ黙れ。俺は傍に居られれば良かったのに、私の傍に居ては不幸になると言って消えてしまった」
「私に呪いをかけた魔女は、消えた」
私の呪いを解く方法。相手を見つけ出し解くか、真実の愛を見つけること。私の事を嫌いなあの子に好きになってもらえるかしら。愛想笑いばかりしていたのを見透かされていた気がして思わず逃げて、謝ろうとしたら彼女は既に国を出た後だった。
歌姫の力で国を護る彼女の噂は城に仕える者に対して暴言を吐き、自分のお陰で国が支えられている。誰か気に入らない侍女が居ればすぐに暇を出す。
そんな妹を迎えに来たとウィントは言っていた。カエルにされた姫を出せと。
部屋に迷い込んでいたのは、姫だったのか。己が傷を負い寝込んでいるときに聞いた歌声は幻ではなく彼女のもの。
「あいつがいなくなったなら、まずはお前から殺してやる」
黒龍が鳴く。癒えたはずの傷口から黒い炎が上がる。
奇跡的に助かったと言われ、古龍を倒した勇者として、体調が整い次第パーティーを開こうと言っていた。
私は歌声を思い出す。出会いたかった少女の歌声がハープと一緒に奏でられている。
「ご心配をおかけしました」
王位継承第一位なのに、身を危険にさらした。
あの竜が口から吐く炎は普通のものとは違い燃え広がる。黒い炎。
私の部屋には母上と父上、医者がいるだけで他には誰もいない。部屋の中を見回すとリテラスは隠れている気配がする。
「父上、彼の竜は魔力が普通のものとは異なりました」
普通の古龍ならば母上がここまで心配することもない。燃えた場所から瘴気が漏れ出していた。おちおちとパーティーを開いている場合ではない。
「だからこそ、交流をするのだ」
「父上」
「隣国の姫の事を覚えているか」
昨晩聞いた歌声を思い出す。初めて会ったときに言われた一言。
私は愛されていないと泣いて、愛されるように努力して、剣術も学術も学んだのに、魔女に呪いをかけられた。両親はそんな私を大切にしてくれている。直系の王族の血を継いだのが私だけだからか、怖くて聞くことができない。
姫の言葉が真実であれば私は耐えきれない。
「覚えております」
「姫君の力を借りなければならない事態かもしれない」
最近増えてきている魔物についてミハエルに調べさせた。彼には魔女の血が流れているので関連のある書物も見てきてもらった。
数百年周期で来ている魔物の増殖の時、魔王が出てくることが多い。
「ミシェルには悪いが、今度のパーティー隣国の王子ウィントと踊ってくれ」
ウィント王子は姫君が大好きだと聞いたことがある。私と同じく婚約者がいない。
理由は全く別だ。彼は妹が大好きすぎるから、結婚しないと宣言していた。
王子の時にそれでもいいのかと真剣に悩んでいた。許されているのか、断固として断っているのか分からないが。
「分かりました」
王命を断れるわけがない。
母上が一瞬父上をにらむが、元々町娘だった母上は、政治に口出ししない。
「体調が整い次第、至急準備を整える」
王族として切り捨てなければならない感情。国のために命を捨てるのを厭わない。
生まれた場所が王族だったから、命の楔は握られている。
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お見合いの時よりも小規模であるが、呼ばれた面々は諸外国の重鎮ばかり。己の血筋を入れて、力を誇示するために、自分の子供を使う。
綺麗に傷は癒え、私がシンプルなドレスを望んだため、ダンスフォールの中で一番シンプルかもしれない。
「古龍を退治した姫に拍手を」
リテラスは姿を隠してしまった。ラジエルが気にするなと言っていたが、いつの間にか一緒に寝るのが当たり前で、部屋に待ってくれている存在が居るのを知り、物足りなくなる。ラジエルは相変わらず私よりもリテラスに優しい気が知る。
「それでは、ミシェル、ファーストダンスを」
婚約者が決まっていない私に近づいてきたのはウィントがやってきた。
事前に話をしていたのか、父上に視線を向けると無言の圧。母上は庶民から輿入れしたため、参加しなくてもいい行事には参加しなかった。
「お相手お願いします、姫君」
「私の足を引っ張らないでください」
素直になれない呪いの事を彼は知らない。噂くらいは聞いたことがあるのか、文句を言いかえされることは無かった。
記憶に残る少女と面影はあまり似ていない気がする。私が手を取るとウィント王子はステップを踏み始めた。
半分くらい踊り始めると皆が動き始める。
そっと顔を近づける。
「お姫様は元気ですか」
直球しか聞き方が浮かばなかった。時間は限られている。相手は私が質問するとは思わなかったのか、驚きを隠していなかった。
「リテラスは今どこにいる」
話が嚙み合わない。ウィントの私の手を握る力が強くなる。氷の王子と呼ばれていたのを思い出す。
怪我は完治しているが私が得意なのは剣術と魔術との組み合わせ。ドレスに剣は隠せない。
「ウィント殿下」
瞳の奥の色が動く。魔法を使おうとしているのか、うっすら私たちのいるところの温度が下がる。城には厳重に結界が貼ってあり、ラジエルも私の事を一応心配してくれているのか、今日は姿を隠して様子を見てくれるという。日に日に大きくなる瘴気の靄が気になっているようだ。
「穏便に話を進めようと思っていましたが、俺のリテラスをどこに隠した。この国に居るのは分かっているんだ」
私の知っているリテラスはカエルのリテラスだけ。数年前に会った彼女とは交流が無い。
口を開けば相手に誤解されかねないので、私はどう返事をするか迷っていた。ウィントンはそれが気に入らなかったのか、そっと耳に口を近づける。仲睦まじい演出だが、吐息からも魔力を感じ、変な動きをすれ凍死させるつもりかもしれない。
「嘘はつかないほうがいい。貴方が吐く言葉は本心じゃない。リテラスはどこだ」
「知るはずないじゃない」
ウィントがどうしてそう思うのか、私は分からない。私の事を疑っている視線。
「私が知っているとでも。数年前に一度会ったきりよ」
「我が王国の魔導士を甘く見ないで欲しい。リテラスがここに来たのは調べがついている」
ウィントが家族思いの王族ということは諸外国にも知れ渡っており、一番大切にしているのは妹リテラス。リテラスにも婚約者がいないのは、彼女が悪役王女と呼ばれているだけではなく、兄の邪魔もある気がした。
歌姫の能力が他国に出てしまえば、国の護りが弱くなってしまう。
「私が知っているのはカエルのリテラスです。貴方の妹がカエルとでもいうのかしら」
「知っているのではないか、呪いでカエルの姿に変えられて守ってあげなければと城中を探しても姿を現さず、最初カエルになったことを恥ずかしくて出てこられないかと思った。魔導士に調べさせたらこの城にいるのは分かっているんだ、隠さず、出せ」
カエルに名前を付けたのは偶然。
大怪我をして寝ていた時に聞こえた歌声は夢だと思っていた。リテラスが居るはずがない。ラジエルはカエルなのに、私よりも丁寧に接していた。
今代の歌姫だから?
「とぼけようとしても無駄だ。調べはついている。それよりも早くリテラスに逢わせてくれ、時間が無いんだ」
「時間が無い」
どんと、城が揺れる。
ぴきぴきと城を囲う結界が壊れていくのが見えた。
「きゃー」
「落ち着いてください」
「今城の上空に黒龍が現れました、至急騎士団が集まります」
結界のせいなのか、近づいてくる気配に気が付かなかった。ウィントは私から距離を取り、自国から連れてきた数名が彼を護るように私と距離を取る。
「どういうことだ」
悪意がある者が近づく場合気が付かないはずがない。城の結界は壊され、バキバキという音とともに、天井が吹き飛ぶ。
「貴方様を許すことができない」
いつも見慣れたミハエルが、黒龍の背中から叫んでいた。
髪が長く伸び、目の色も一般的な茶色から赤に変わっていた。彼から滲み出る魔力の色が違う。暖かなものではなく、冷たく濁った雰囲気に感じるのは、魔物からするものと同じ。
「貴様、裏切るのか」
父上が逃げ惑う客人をかき分け声を荒げる。腰を抜かし動けなくなっている者、自分も戦うべきか悩み右往左往している者、自分の主人を護るために剣を握る者。
ウィントは城を囲う結界が解けたからか、周囲に氷の塊を召喚居ている。射るような目つきで乱入してきたミハエルを見ている。
「俺の大切な姫の話を聞いているのに邪魔をするな」
「王子、逃げるのが優先です」
「逃げるならリテラスも一緒でないと俺は逃げない」
リテラスと聞き、カエルがどこに姿を隠したのか分からないでいた。いつもと同じようにしていたはずなのに、急に姿を隠してしまった。
ラジエルがふわりと私の前に姿を現す。
「恨まれるようなこと、したんですか」
呆れているようにも見える。ウィントはラジエルに気が付くとすぐさま駆け寄り跪いた。
「噂は聞いております知恵の天使様」
「今はそんなことをしている場合ではない。歌姫が姿を隠してしまってな。僕も手を焼いているんだ」
ラジエルは知恵の書を手にしていた。
「ミハエルと言ったか、今ならまだ間に合う。戻ってくる気はないのか」
「師匠様を傷つけたんだ、相打ちになっても貴様の首は取る」
竜が吐く炎は私が攻撃を受けたものに似ていて、父上の囲う。ミハエルは魔女の血を継いでいたわけではなく、魔女だったのか。忍び込んで狙うは父上の首。
「師匠は貴方を愛していたのに、見向きもしなかった。俺が傍に居て尽くしても相手にされなかったんだ」
父上を好きだった人。父上は結婚する前から人気があったと聞いている。歴代の王の肖像画の中でも一番美しい。
「そなたは、誰の事を言っているんだ」
「師匠の事を、忘れたの?貴様の息子に呪いをかけた魔女だ」
古龍の上で泣き叫ぶミハエル。ラジエルが何かを察したのか右手を上げると父上の姿が炎の中から消えた。
「人の心を脅して掴んでも何にもならん。知恵の書には人の心のことまでは書いてありませんが、古龍を利用してまですることですか」
ウィントもラジエルの言葉に同意する。
「好きなら堂々と、すればいい。正面から勝負をしないで相手を陥れて手に入れたって幸せになれない」
瘴気の渦はミハエルの気持ちの高ぶりに反応したように蠢きだす。
「うるさい、黙れ黙れ黙れ。俺は傍に居られれば良かったのに、私の傍に居ては不幸になると言って消えてしまった」
「私に呪いをかけた魔女は、消えた」
私の呪いを解く方法。相手を見つけ出し解くか、真実の愛を見つけること。私の事を嫌いなあの子に好きになってもらえるかしら。愛想笑いばかりしていたのを見透かされていた気がして思わず逃げて、謝ろうとしたら彼女は既に国を出た後だった。
歌姫の力で国を護る彼女の噂は城に仕える者に対して暴言を吐き、自分のお陰で国が支えられている。誰か気に入らない侍女が居ればすぐに暇を出す。
そんな妹を迎えに来たとウィントは言っていた。カエルにされた姫を出せと。
部屋に迷い込んでいたのは、姫だったのか。己が傷を負い寝込んでいるときに聞いた歌声は幻ではなく彼女のもの。
「あいつがいなくなったなら、まずはお前から殺してやる」
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