古代兵器ミカエル

綾瀬 りょう

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「いか、ないで」

 心の奥底にしまい込んでいた感情。

 大切だから、守りたいから私は私の持てる全てを屈指したのに。

 どうして守らせてくれないの?

 初めて会ったのは五歳の時。

 私の研究者としての才能を見出した両親がハーツに連れて来たのだ。

 同じハーツ組員だった丞太郎の両親は年齢が同じ子どもということで私の両親と意気投合したのが交流の始まり。

 研究ばかりに興味が傾いていく私を心配した両親が丞太郎の両親との会話で許嫁として結ばれた。

 悪魔に攻められていたため、人類の存続も絶対条件となっていたため、自然の成り行きだったかもしれない。

 私が専門書を読んでいる隣で彼は過去の人々が残したおもちゃで遊んでいた。

 太陽の光が無ければ人は生きていけないから、地下に潜ってばかりは居られない。

 いつか悪魔が倒された時に巨大化した生物や自然といかに共存していくかも今後の人類の課題となっているから。

 未来を担う私は無邪気な子ども時代よりも勉強に時間を費やす時間の方が重要だったの。

 丞太郎が笑って未来を生きて行けるのなら私には他に何もいらないの。

 大切だと、いつの間にか感情が動いていたのは分からない。

 それでも私には丞太郎しかいないから。

 彼が存在しない世界なんて生きている価値なんて存在しないから。

 ガラス越しのモモの手がピクリと動く。

 先ほどまでの緩やかな心拍数がしっかりとしたものへと変わっていく。

 起き上がり、全身についていた管を抜くとスゥっとガラスをすり抜ける。

 光と共に丞太郎は消えていた。

 時の天使の力で干渉しようとしたが、はじかれた。

 恐らく行先はモモが代わりに操縦席に乗ろうとしていたとき。

 あの場が世界の分岐点。

 ミカエルが戦わなければ人類は滅ぶ。

 ミカエルが戦えば人類は助かるが、操縦者は命を落とす。

 何度も私が見てきた時間。

 時の天使の力の執行をもってしても変えられない分岐点。

 神の采配。

 越えるためにモモを生み出したのに。

 モモはガラスをすり抜けてきて、私のことを見下ろしている。

 丞太郎によく似た瞳。

 普段は化粧で誤魔化しているが、モモの顔立ちは丞太郎によく似ていた。

「行かれたのですか」

 モモの瞳はミカエルに乗った反動からか紅く光っている。

 髪色は根元の方から私と同じ緑色へと変化していく。

「何度繰り返しても、変わらない」

 丞太郎がミカエルの操縦者だと知ったのは私の能力が目覚める前。

 そして彼が初めて命を落としたときに自らの力が目覚めたの。

「アタシは何度死ねばいい」

 モモがしゃがみ込む。

 私は貴女が何度も死ぬよりも多く、丞太郎が死んでいくのを見てきたの。

 繰り返す打ちに敵を倒すには相打ちしかないと分かった。

 私がミカエルに乗ることは出来ないからこっそりと丞太郎から精子を奪いクローンを作り出した。

 時の影響も受けず尚且つミカエルに乗る資質を兼ね備えた子を作るために。

 丞太郎がモモに会うたびに特別な感情を抱いているのを知っている。

 己の子だからか、ミカエルの操縦者同士だからか分からないけど。

「次は、次こそは必ず」

 今回は何が悪かった。

 それを踏まえてまた時間をやり直せばいい。

 戻せるのは私が生れたときのみ。

 それ以上の移動は魂を削ることになる。

 いつか消えてなくなるとは分かりながらもそれ以上は前に進まなくては。

「弥生様、どうして時の天使の情報が残っていないか知っていますか」

「何を、言っているの」

 どちらかと言えば丞太郎に似ている容姿。二重の切込みも鼻筋も似ている。

 私が愛したただ一人の男の人。
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