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猫
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あたしはペルシャ
ここん家の鼻垂れ娘が毛の長いあたしをペルシャ猫と勘違いしてこの名前がついた
私は人間なんか大嫌いだった
アトムとかって名付けられた白に黒い斑のある猫と一緒にこの家に貰われてきた
保護猫とかいうやつだったんさね
最初は人間が嫌で嫌で、しかたなかったさ
家出してやって7日帰ってやらないこともあった
鼻垂れ娘が、あたしを風呂に入れた時なんか、ひと月は家出してやった
腹が減って仕方なかったから、飯を食いに戻ったが…
この家には生まれたばかりのちっこい赤ん坊がいたんだが、
四六時中ぴぃぴぃぎゃーぎゃー泣いてうるさくて昼寝もできやしない
大人たちがあっちへうろうろこっちへうろうろしてんのは、見てて面白くもあったがね
あの泣き虫娘ももう大人になって、社会人とやらになったらしい
毎日毎日うっとおしいくらい触りにきて、あたしに引っ掻かれても噛みつかれても、へこたれなかったあの娘が、
大きくなったもんさね
触られるのが嫌で、引っ掻くと、ぎゃーぎゃー泣き出して、うるさいったら
でもま、あの娘の毛繕いはまぁまぁだったね
くしを何種類もとっかえひっかえしてさ
あたしゃ毛が長いから、からまって毛玉になっちまうんだ
それを、ハサミで地味にちょきちょきされんのも、まぁ悪くなかったねぇ
一回だけ毛と間違って肌を挟まれたときは思いっきり噛みついてやったさ…ふん…
だがしかし、あたしのこと忘れてんじゃないーのってくらいかまいにこないのは、なんか癪に触る
あたしはもう歳なんだ…
休みとやらだけじゃなくて、もっとかまいにきなさいよ
あたしは、ここんとこ、調子が悪くてね
水も飯も食いたくない日がくるとは…
歳はとりたくないが…
もう十分生きたと思うのさね
野良猫と喧嘩して、縄張りを守って…
耳をちょいとかじり取られたり、爪を引っこ抜かれたり…
散々な猫生だったさね…
そのたびに、あの娘が、青ざめた顔で走り寄って、どうしたの?!って泣くのさね
痛いから触るなって暴れてやったがね
さて、外は土砂降りだか…
もう、あたしゃ長くないっての…
仕事で帰ってこないあの娘に…
最期に会いに行ってやろうじゃないの…
あたしは、今ねぐらにしていた、籾殻ハウスとやらからちょいと離れたとこにある
あの娘が住んでる家に、
冷たい雨が降る中…
よろよろ、ずりずりと身体を引きずって…
目にゴミが入っても、脚が動かなくても…
最期にあの鼻垂れ娘の顔を見たくて…
最期にあたしは最後まで逞しく生きたってことを見せたくて…
びしょぬれの泥まみれになって、…
あの娘のとこに行ったさね…
あたしがいつものハウスの中にいないからって、…
うろうろと歩き回ってんじゃないよっ…
あたしはここだよ…
こら、泣くんじゃないよ…
もう立派な大人なんだから…
ぼたぼたと涙を垂らすんじゃないよ
鼻水までびろーんってして、
あたしの毛に付けんじゃないよ
最期の最後まであんたは泣き虫の鼻垂れ娘なんだから…
しょうがないねぇ
ほらっ…
最期にあんたに会いにきたんだから、
もっと褒めて…なででおくれよ
『ありがどうっ』
とあの娘は言った
先にむこうで昼寝でもしてるさね
あんたが、あたしみたいな年寄りになって…
ちっこい子供に囲まれて…
大往生したら、
また、あたしのことを膝にのっけて…
他愛のない話をきかせておくれ…
日向の暖かいところで、
またなでておくんなし
《終》
《追記》
4/19
昨日の土砂降りとは打って変わって、暖かい快晴の朝
ペルシャは虹の橋を渡りました。
これは私のエゴの小説ですが、
朝、電車で泣きながら書きました。
弱っていく、老いていくものを看取るのは、
毎度毎度、生きてるかな…
これで最期かな…と会うたびに泣きました。
雨の中歩いて私のとこまで来たときは、あぁ今夜が最期なんだと思いました。
雨が上がり晴れ渡って、虹がかかるような朝、
ペルシャは虹の橋を渡りました。
本当に立派な生涯でした。
本当に、うちに来てくれてありがとう。
また、会う時まで、ゆっくり休んでね。
ここん家の鼻垂れ娘が毛の長いあたしをペルシャ猫と勘違いしてこの名前がついた
私は人間なんか大嫌いだった
アトムとかって名付けられた白に黒い斑のある猫と一緒にこの家に貰われてきた
保護猫とかいうやつだったんさね
最初は人間が嫌で嫌で、しかたなかったさ
家出してやって7日帰ってやらないこともあった
鼻垂れ娘が、あたしを風呂に入れた時なんか、ひと月は家出してやった
腹が減って仕方なかったから、飯を食いに戻ったが…
この家には生まれたばかりのちっこい赤ん坊がいたんだが、
四六時中ぴぃぴぃぎゃーぎゃー泣いてうるさくて昼寝もできやしない
大人たちがあっちへうろうろこっちへうろうろしてんのは、見てて面白くもあったがね
あの泣き虫娘ももう大人になって、社会人とやらになったらしい
毎日毎日うっとおしいくらい触りにきて、あたしに引っ掻かれても噛みつかれても、へこたれなかったあの娘が、
大きくなったもんさね
触られるのが嫌で、引っ掻くと、ぎゃーぎゃー泣き出して、うるさいったら
でもま、あの娘の毛繕いはまぁまぁだったね
くしを何種類もとっかえひっかえしてさ
あたしゃ毛が長いから、からまって毛玉になっちまうんだ
それを、ハサミで地味にちょきちょきされんのも、まぁ悪くなかったねぇ
一回だけ毛と間違って肌を挟まれたときは思いっきり噛みついてやったさ…ふん…
だがしかし、あたしのこと忘れてんじゃないーのってくらいかまいにこないのは、なんか癪に触る
あたしはもう歳なんだ…
休みとやらだけじゃなくて、もっとかまいにきなさいよ
あたしは、ここんとこ、調子が悪くてね
水も飯も食いたくない日がくるとは…
歳はとりたくないが…
もう十分生きたと思うのさね
野良猫と喧嘩して、縄張りを守って…
耳をちょいとかじり取られたり、爪を引っこ抜かれたり…
散々な猫生だったさね…
そのたびに、あの娘が、青ざめた顔で走り寄って、どうしたの?!って泣くのさね
痛いから触るなって暴れてやったがね
さて、外は土砂降りだか…
もう、あたしゃ長くないっての…
仕事で帰ってこないあの娘に…
最期に会いに行ってやろうじゃないの…
あたしは、今ねぐらにしていた、籾殻ハウスとやらからちょいと離れたとこにある
あの娘が住んでる家に、
冷たい雨が降る中…
よろよろ、ずりずりと身体を引きずって…
目にゴミが入っても、脚が動かなくても…
最期にあの鼻垂れ娘の顔を見たくて…
最期にあたしは最後まで逞しく生きたってことを見せたくて…
びしょぬれの泥まみれになって、…
あの娘のとこに行ったさね…
あたしがいつものハウスの中にいないからって、…
うろうろと歩き回ってんじゃないよっ…
あたしはここだよ…
こら、泣くんじゃないよ…
もう立派な大人なんだから…
ぼたぼたと涙を垂らすんじゃないよ
鼻水までびろーんってして、
あたしの毛に付けんじゃないよ
最期の最後まであんたは泣き虫の鼻垂れ娘なんだから…
しょうがないねぇ
ほらっ…
最期にあんたに会いにきたんだから、
もっと褒めて…なででおくれよ
『ありがどうっ』
とあの娘は言った
先にむこうで昼寝でもしてるさね
あんたが、あたしみたいな年寄りになって…
ちっこい子供に囲まれて…
大往生したら、
また、あたしのことを膝にのっけて…
他愛のない話をきかせておくれ…
日向の暖かいところで、
またなでておくんなし
《終》
《追記》
4/19
昨日の土砂降りとは打って変わって、暖かい快晴の朝
ペルシャは虹の橋を渡りました。
これは私のエゴの小説ですが、
朝、電車で泣きながら書きました。
弱っていく、老いていくものを看取るのは、
毎度毎度、生きてるかな…
これで最期かな…と会うたびに泣きました。
雨の中歩いて私のとこまで来たときは、あぁ今夜が最期なんだと思いました。
雨が上がり晴れ渡って、虹がかかるような朝、
ペルシャは虹の橋を渡りました。
本当に立派な生涯でした。
本当に、うちに来てくれてありがとう。
また、会う時まで、ゆっくり休んでね。
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