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ep.30:ヨーレイ迂回ルート(アパルタパル)
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直接会話が成立しないクトラとの会話の中で、ジルコーネがようやく彼らから得た回答が、『あとどれくらいの日数で”黒曜のイクリプス”の修理が完了するのか?』に尽きた。
所要時間は2日。
「まあ、確かに今回は派手にやり過ぎた。何せ、ヨーレイのアパルタパルを何騎食ったことか・・・」
意外にも、ジルコーネは苛立ちを見せる事なく反省している。
そんな彼女の姿を見て、魔術師サフィールも思わず苦笑い。
とにかく連戦に続く連戦だった。
サフィール自身も、当初ジルコーネの発想には大いに反対であった。
夜通しでアイロンケイヴの西方に位置するダノイ:フォーゲルセン侯爵領を縦断し、少しばかりの休憩を挟んでヨーレイ:エリダリス伯爵領領内を横断し、さらにガルガンチュア経由でアイロンケイヴへ侵攻するというのだ。
いくらジルコーネが、騎体冷却ができる氷魔術を使えるにしても、2つの領国そしてガルガンチュアの地を横切るなんて無茶が過ぎると感じた。
事実は予想を遙かに超える無茶だったが・・・。
機巧甲胄に隠密性は皆無であり、動くだけで装甲が揺れて大きな音を立てる。
鎖状装甲ならまだしも、打撃耐性に特化した積層装甲をまとうイクリプスの歩行音は、それはそれは、鼓笛隊の行進よりも賑やかなものだ。
それは、戦から遠ざかっている腑抜けた国境警備の兵たちの昼寝を妨げるに十分な目覚ましとなった。
ダノイ:フォーゲルセン侯爵領にて。
相手がアルミュールとあって、さらに最強最悪と名高き"黒曜のイクリプス”とあっては、大獣をけしかける事すら出来ずに、ただ傍観しているだけだった。
”大盾のジョアン”を所有する騎士ブラグ・ダイがダノイに滞在してはいたが、彼はすでに契約を解かれていたために動く事は無かった。
流浪の騎士である彼は、かつて雇われていた恩義など持ち合わせてはいない。
すでに他人事だと、見て見ぬフリ。
それでも。
「あんな重量級のアルミュールを、よくもあれほど元気に走らせるものだ」
遠くから眺めては感心すらしていた。
明け方にダノイを抜けて一旦アイロンケイヴ:シルフハイム辺境伯領へと侵入。
しかし、侵攻のための侵入ではなく、ヨーレイへと抜ける交易路が、直接ダノイからは続いておらず、一旦アイロンケイヴへと足を踏み入れざるを得なかったに過ぎない。
けたたましい音を立てての単騎行軍ではあったが、薄闇に紛れてヨーレイへと侵入を果たした。
さあ、追跡を余儀なくされる随伴の騎兵共は、果たして、ちゃんと付いて来れるかな?
その時、ジルコーネは紛れもなく剣を交える事となるヨーレイのアルミュールに対する危惧よりも、カノンより与えられたヴァルガンの騎兵たちの心配をしていた。
そんな中、国境警備に着いていたアパルタパルと遭遇。
アパルタパルとは、ヨーレイ:エリダリス伯爵領が製造・所有する量産型アルミュールである。
名騎と名高く、他国へ貸与される場合は"ハダルード”と名を変え、フリーの騎士に売却した場合は”レッツラッカ”と名を変更する。
ジルコーネが最も目にしているアルミュールであった。
アパルタパルに随伴する弓兵たちが、イクリプスの随伴兵を迎え撃たんと散開した。が。
何やら兵士たちが走り回っては、隊長と思われる騎兵に報告に回っている。
「私たちが単騎であることに動揺しているようですね」
サフィールが分析を述べてくれた。
制止を求める騎兵や、実力行使に走る弓兵の放った矢を物ともせずに、イクリプスはゆっくりと前進を始めた。
いかにも量産型。いかにも貧弱な関節をカバーするかのごとく振り下ろされる、アパルタパルの短槍斧!!
ジルコーネは杵の岩ハンマーで受け止めると、そのまま騎体を押し進める。
もはやイクリプスの足を止める事すら困難。
「ほらほら、どうした?押し返せぬか?この軟弱者めが!!」
相手を罵り、さらにイクリプスに挑んできたアパルタパルを圧倒する。
これが相撲ならば、とっくに"押し出し”で決着している。
それでも押し返そうともがくアパルタパル。
しかし、前へと踏み込む足が、そのまま後ろへと押し戻されてしまう。
最大出力を続けた結果、アパルタパルはオーバーヒートを引き起こして、体中の関節という関節から蒸気を噴き出した。
火が消えたように、グッタリとなったアパルタパルは崩れるようにして倒れた。
「まずは1騎。つまらぬな。まるで張り合いが無い」
ため息混じりに呟くと、氷の魔術を展開させてイクリプスを内部から冷却した。
(うわぁ・・・)
頭部コクピットに座しているサフィールは、ジルコーネが発動させた氷の魔術によって真冬のような寒気に襲われた。
一応は、座席に毛皮のシートを被せてはいるのだが、それでも気休めでしかない。
動きを止めたアパルタパルから魔術師と騎士が転げるようにしてコクピットから脱出した。
ズカァッ!!
容赦無くハンマーの一撃でアパルタパルを粉砕。
これで追撃は不可能となった。
一方で、アルミュールを失った部隊に、もはや太刀打ちは不可能。
騎士と魔術師を伴って、騎馬兵や弓兵たちが一目散に退散していった。
「せいぜい他の甲胄乗り共に、我がイクリプスの力を申し伝えるが良い。我は歓迎するぞ。向かう敵は全てこのジルコーネが粉砕してくれる。フフハハハハ」
ジルコーネの高笑いが木霊する。
以降、ジルコーネが求めた通りに、幾度となくヨーレイのアパルタパルが行く手を阻まんと戦いを挑んでくるものの、惜しい甲胄乗りは現れど、イクリプスとまともにやり合える者は、遂に現れる事は無かった。
あまりの退屈さに、ジルコーネはため息を漏らした。
せめてアイロンケイヴのアルミュールと甲胄乗りが、満足できる相手である事を祈ろうか・・・。
所要時間は2日。
「まあ、確かに今回は派手にやり過ぎた。何せ、ヨーレイのアパルタパルを何騎食ったことか・・・」
意外にも、ジルコーネは苛立ちを見せる事なく反省している。
そんな彼女の姿を見て、魔術師サフィールも思わず苦笑い。
とにかく連戦に続く連戦だった。
サフィール自身も、当初ジルコーネの発想には大いに反対であった。
夜通しでアイロンケイヴの西方に位置するダノイ:フォーゲルセン侯爵領を縦断し、少しばかりの休憩を挟んでヨーレイ:エリダリス伯爵領領内を横断し、さらにガルガンチュア経由でアイロンケイヴへ侵攻するというのだ。
いくらジルコーネが、騎体冷却ができる氷魔術を使えるにしても、2つの領国そしてガルガンチュアの地を横切るなんて無茶が過ぎると感じた。
事実は予想を遙かに超える無茶だったが・・・。
機巧甲胄に隠密性は皆無であり、動くだけで装甲が揺れて大きな音を立てる。
鎖状装甲ならまだしも、打撃耐性に特化した積層装甲をまとうイクリプスの歩行音は、それはそれは、鼓笛隊の行進よりも賑やかなものだ。
それは、戦から遠ざかっている腑抜けた国境警備の兵たちの昼寝を妨げるに十分な目覚ましとなった。
ダノイ:フォーゲルセン侯爵領にて。
相手がアルミュールとあって、さらに最強最悪と名高き"黒曜のイクリプス”とあっては、大獣をけしかける事すら出来ずに、ただ傍観しているだけだった。
”大盾のジョアン”を所有する騎士ブラグ・ダイがダノイに滞在してはいたが、彼はすでに契約を解かれていたために動く事は無かった。
流浪の騎士である彼は、かつて雇われていた恩義など持ち合わせてはいない。
すでに他人事だと、見て見ぬフリ。
それでも。
「あんな重量級のアルミュールを、よくもあれほど元気に走らせるものだ」
遠くから眺めては感心すらしていた。
明け方にダノイを抜けて一旦アイロンケイヴ:シルフハイム辺境伯領へと侵入。
しかし、侵攻のための侵入ではなく、ヨーレイへと抜ける交易路が、直接ダノイからは続いておらず、一旦アイロンケイヴへと足を踏み入れざるを得なかったに過ぎない。
けたたましい音を立てての単騎行軍ではあったが、薄闇に紛れてヨーレイへと侵入を果たした。
さあ、追跡を余儀なくされる随伴の騎兵共は、果たして、ちゃんと付いて来れるかな?
その時、ジルコーネは紛れもなく剣を交える事となるヨーレイのアルミュールに対する危惧よりも、カノンより与えられたヴァルガンの騎兵たちの心配をしていた。
そんな中、国境警備に着いていたアパルタパルと遭遇。
アパルタパルとは、ヨーレイ:エリダリス伯爵領が製造・所有する量産型アルミュールである。
名騎と名高く、他国へ貸与される場合は"ハダルード”と名を変え、フリーの騎士に売却した場合は”レッツラッカ”と名を変更する。
ジルコーネが最も目にしているアルミュールであった。
アパルタパルに随伴する弓兵たちが、イクリプスの随伴兵を迎え撃たんと散開した。が。
何やら兵士たちが走り回っては、隊長と思われる騎兵に報告に回っている。
「私たちが単騎であることに動揺しているようですね」
サフィールが分析を述べてくれた。
制止を求める騎兵や、実力行使に走る弓兵の放った矢を物ともせずに、イクリプスはゆっくりと前進を始めた。
いかにも量産型。いかにも貧弱な関節をカバーするかのごとく振り下ろされる、アパルタパルの短槍斧!!
ジルコーネは杵の岩ハンマーで受け止めると、そのまま騎体を押し進める。
もはやイクリプスの足を止める事すら困難。
「ほらほら、どうした?押し返せぬか?この軟弱者めが!!」
相手を罵り、さらにイクリプスに挑んできたアパルタパルを圧倒する。
これが相撲ならば、とっくに"押し出し”で決着している。
それでも押し返そうともがくアパルタパル。
しかし、前へと踏み込む足が、そのまま後ろへと押し戻されてしまう。
最大出力を続けた結果、アパルタパルはオーバーヒートを引き起こして、体中の関節という関節から蒸気を噴き出した。
火が消えたように、グッタリとなったアパルタパルは崩れるようにして倒れた。
「まずは1騎。つまらぬな。まるで張り合いが無い」
ため息混じりに呟くと、氷の魔術を展開させてイクリプスを内部から冷却した。
(うわぁ・・・)
頭部コクピットに座しているサフィールは、ジルコーネが発動させた氷の魔術によって真冬のような寒気に襲われた。
一応は、座席に毛皮のシートを被せてはいるのだが、それでも気休めでしかない。
動きを止めたアパルタパルから魔術師と騎士が転げるようにしてコクピットから脱出した。
ズカァッ!!
容赦無くハンマーの一撃でアパルタパルを粉砕。
これで追撃は不可能となった。
一方で、アルミュールを失った部隊に、もはや太刀打ちは不可能。
騎士と魔術師を伴って、騎馬兵や弓兵たちが一目散に退散していった。
「せいぜい他の甲胄乗り共に、我がイクリプスの力を申し伝えるが良い。我は歓迎するぞ。向かう敵は全てこのジルコーネが粉砕してくれる。フフハハハハ」
ジルコーネの高笑いが木霊する。
以降、ジルコーネが求めた通りに、幾度となくヨーレイのアパルタパルが行く手を阻まんと戦いを挑んでくるものの、惜しい甲胄乗りは現れど、イクリプスとまともにやり合える者は、遂に現れる事は無かった。
あまりの退屈さに、ジルコーネはため息を漏らした。
せめてアイロンケイヴのアルミュールと甲胄乗りが、満足できる相手である事を祈ろうか・・・。
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