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ep.16:人間の価値(レイヴン)

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攻城弩弓バリスタを迎撃に用いたり、アルミュール戦でいきなりで私の背後を取ったりと、シルフハイム家の連中ときたら、つくづく常軌を逸した事をしでかしてくれる!」
 常軌を逸しているのは、シルフハイム家の人間だけに非ず。

 今現在相対する敵の機巧甲胄アルミュール、”鉄塊のフリューネイエス・・・。

 この騎体も通常のアルミュールからすれば、常軌を逸している。

 本来人間には無い関節を増設して、アルミュールに、人間とさほど変わらぬ動きを再現させている。

 先程見せた跳躍も横移動も、人間と変わらぬ動きが出来なければ不可能なものだった。

 何とも厄介極まりない相手だろう。

 だが!

 フリューネイエスの首を刎ねようと、ペイヴォーが剣を水平に走らせる。

 ガァァン!
 またもや小盾バックラーで弾き返されてしまった。

「くっ!またもやパリィを!しかし!」
 即座に、自らが駆るペイヴォーと、アムリエッタのフリューネイエスとの間に石の蛇を割り込ませて、ピックの一撃を妨害する。

 ペイヴォーは、失った左腕の代わりに石の蛇を左肩から繋いで使用。

「またぁコレ!」
 アムリエッタは、またもやペイヴォーを仕留め損なった。

 金属の塊と塊が激しくぶつかり合う。

 ・・・。
 

 ここしばらく、そんなやり取りが何度も繰り返されていた。

「あやつら学習能力というものが無いのか?さっきから何度同じ事を繰り返えば気が済むのだ?」
 立会人のごとく戦いを眺めるエレイネも呆れてため息をついた。

 数回に一度はフリューネイエスがペイヴォーにピックによる打撃を与えている。

 事実、ペイヴォーの頭部はボコボコに凹んでいる。

 しかし、それは振り幅の小さな打撃であって、決定打には至らない。

 でも、一度に数回叩き付けるおかげで、ペイヴォーの頭部は見るも無残に凸凹。

 中の魔術師が無事でいられるのが不思議でならないくらいに。

 あたかもアルミュールという機巧甲冑が、超技術で造られているのだと、まざまざと見せつけられているようだ。

「いい加減しつこいですよ、レイヴン殿。アルミュールの姿を見比べてみれば、どちらが勝っているのか一目瞭然ではありませんか。潔く敗北を認められよ」
 息を切らせながら、アムリエッタはレイヴンに敗北を認めるよう迫る。

 しかし!

「何を寝ぼけた事を!アルミュール同士の戦いは、敵を倒してこそ勝敗を決するもの。たかが左腕を落としたくらいで勝った気でいるなよッ!第三王女!」
 威勢よく言い放つも、ボコボコに殴られた者が『今日はこのくらいにしておいてやる』と吠えているように、傍から見ていて滑稽としか言いようがない。

「もはや泥仕合だな・・・」
 アルミュール同士の戦いを、もっと優雅なものだと想像していたエレイネにとって、2人の戦いぶりは期待外れで実に見苦しいものに映った。

 それよりも気になるのが、あれほどの動きを見せるフリューネイエスでありながら、敵を仕留める好機を何度も逃している。

 もしかして、アムリエッタは、敵を叩き潰す事に躊躇しているのではないだろうか?

 そう思えるほどに、ペイヴォーは急所にダメージを負っていない。

 そんな疑惑が拭えぬ中。

 重い金属音を鳴らして両騎が互いに踏み込むも、同事に体の隙間という隙間から蒸気を噴き出して停止してしまった。

「何をやっているクラン!敵の前で停止など―」「熱放射に入りました。循環器が過熱状態になってしまったようです」
 アルミュールは出力の大半を自重を支えるのに割り当てている。

 絶え間ない出力は、循環器に熱を蓄える要因となるため、限界に達すると自動的に強制冷却を開始し、熱放射を始めてしまう。
 
 魔力の消費と共に、アルミュールの稼働時間が短い原因の一つでもある。

「どうなっているの?キュレイ。いきなり敵の前で動かなくなってしまうなんて」
 アムリエッタも不安を隠せず慌てふためいている。

「心配は要りません。熱放射が済めば、すぐにでも動き出せます」

「その熱放射というのは、あとどのくらいで収まるの?」
 慌てるあまり、アムリエッタは早口で問いかける。

「すぐですよ。私の魔法をお忘れですか?」
 言っている最中、フリューネイエスの頭上に水の玉が出来上がり、みるみる大きくなってゆくではないか。

 キュレイは魔法を用いて、堀から水を引いてきたのだ。

「レイヴン様、さすがにアレは反則です」
 諦め口調で、クランがポツリと呟いた。矢先。

 バッシャーン!とフリューネイエスは頭から水を被ると、体のあちこちから湯気を立ち上らせた。

 ギギギとゆっくりと動き出すフリューネイエス。

「な、な、何とぉーッ!クラン!ペイヴォーはまだ動かぬか!?クラン!」
 一方的に叩きのめされる恐怖におののき、レイヴンは無様にも騒ぎ出し始めた。


 フリューネイエスの手にするピックが高々と掲げられる。

 石の蛇がペイヴォーの頭上でとぐろを巻くも、果たして、どのくらい持ちこたえられるか?

 防御どころか、全く動く事の出来ないレイヴンは、恥も外聞も無く、「参りました」を数え切れないほど唱えた。

 こうしてダノイ軍の侵攻は失敗に終わった。



 シルフハイム城の工房には、3機の機巧甲冑アルミュールが肩を並べる事となった。

 ”大盾のジョアン”と"虹のペイヴォー”を鹵獲ろかくしたのだ。

 動かす事が出来るのであれば、これほどの戦利品はない。

 しかし。

 パンドラは、捕虜となったアルミュールを駆る騎士と魔術師たちを前に、困ったと言わんばかりに髪をグシャグシャと掻いた。

「敵のアルミュールを鹵獲ろかくしたとはいえ、あー!!もう!!コイツらアルミュールときたら、とんだ金食い虫ねぇッ!!維持費で国の財政が傾いてしまうわ」
 ジョアンはまだしも、元から不必要な箇所に金をかけている"虹のペイヴォー”は戦利品とは言えず、単なるお荷物。

 わざわざ修理してやる義理は無い。

 だからと、このまま放っておく訳にもいかない。

 アルミュール略奪のために、周辺国家が戦争をしかけてくるかもしれない。

 とにかく、動かないアルミュールは災いの種でしかないのだ。

 それに。

 パンドラの鋭い眼差しが、後ろ手に縛られたレイヴン・ダク・フォーゲルセンへと向けられた。

「非常に面倒くさい事になったわね・・・。さっさと負けを認めて尻尾を巻いて国へ帰ってくれればよいものを、逃げ足を失って捕虜になってしまうなんて」
 アムリエッタもアムリエッタだ。

コイツレイヴンのペイヴォーが動けるようになるまで待ってやれなかったのかねぇ・・・)
 そうすれば、レイヴンが退き下がる猶予も与えられたはず。

 肝心のアルミュールが動かなければ、こちらとしては彼を捕らえるしかない。

 正直、一国の第三王子を捕虜にする気なんてサラサラ無かった。

 攻め入っていたならいざ知らず、攻め入られた側では捕虜を得ても何ら利益を得る事は無い。

 まず、国盗りに送り込んだ者に、君主は賠償金を払ってまで取り戻そうとするだろうか?しかも第三王子をだ。

 第三王子の立場なんて、戦を仕掛けるにあたり、君主の血族であり神輿としても申し分無い以外に使い道が見当たらない。

 要は使い捨ての効く王の代理人扱いという事。

 あくまでも代理人であるため、トカゲの尻尾切りのごとく、捕まったところで君主は賠償金を払ってまで彼を取り戻そうとはしないだろう。

 さて、そんな彼の処遇はどうしたものか?
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