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ep.13:家族と恋人の思い(クオーレ)
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不愉快極まりない・・・。
精神的、物理的同事に頭が痛くなるような激しい金属音を鳴らして”大盾のジョアン”が工房へとやって来た。
ブシュゥゥ!と蒸気が噴き出して胸部ハッチの中からエレイネが姿を現した。
降り立つなり。
「よくもまぁ、これほどまでに難儀なモノに乗れるものだな。いや、まとえるものだ」
グチをこぼす。
アルミュールの操作系統は”乗る”よりも"まとう”と表現した方が妥当だ。
全身に、常に重装甲冑をまとっているような負担を強いられるからだ。
加えて、アルミュールの関節可動域は、人間の関節可動域に比べればごく限られたものとなる。
搭乗者がアルミュールの関節機構を理解した上で操作しなければならない。
"まとう”と表現するにも、かなりの妥協点を求められる。
エレイネは、先に降り立ったアムリエッタとキュレイたちを改めて労う。
「よくぞアレ(ジョアン)を打ち倒してくれたな。礼を言う。それよりも、アルミュールというものが、これほどまで扱い辛いモノだとは思いもしなかった。願わくば、今後、私はご免被りたいものだ」
体中の関節を鳴らしつつアムリエッタに目をくれる。
すると、ジョアンの側頭部から、リトが転がるようにして降り立った。
顔色が悪い。どうやらエレイネの操作に酔ったようだ。
そんな気の毒なリトにアムリエッタとキュレイは苦笑い。
「協力感謝するぞ。ジョアンの魔術師。と、いう訳でアルミュールの乗り手はお前に任せる、アムリエッタ」
ポンと肩を叩くと、エレイネは早々に工房を後にした。と、立ち止まり。
「そうそう、お前に任せるのだ。コイツに何か良い名前を付けてやってくれ。頼むぞ」
何かとお忙しい領主様は、後に控える仕事の山にため息を漏らしつつ、アムリエッタにアルミュール関連全てを丸投げして去ってしまった。
「何だか、全部押しつけられてしまった・・・ようね」
キュレイに向かうと笑みがこぼれた。
そんなアムリエッタにキュレイも思わず笑みを返してしまう。
「こちらこそよろしくです。アムリエッタ様」
「アムでいいよ。キュレイ」
正式なパートナーを得た。
「さて、名前ねぇ・・・」
アルミュールの頭部を眺めつつ思案するも、良い名前は浮かばない。
「名前なんて考えなくても良いぞ、アムリエッタ」
パンドラの方へと向いた。
「コイツは欠陥品だ。今後一切動かしてはならない。どうしてもアルミュールに乗ると言うのなら、奪ってやったジョアンに乗れ。良いな」
釘を刺すとアムリエッタとキュレイ、リトを工房から追い払ってしまった。
二人が去った後・・・。
「陛下のご命令を勝手に取り下げられては」「構わぬ!コイツは戦わせてはならんのだ。分かってくれるな?魔術師」
パンドラの、姉としての優しさが痛いほど感じられるも、ケインの最後の思いを聞き届けた以上、彼の意思も貫かせてやりたいとの気持ちも拭いきれない。
クオーレはジレンマにとらわれた。
* * * * *
シルフハイム軍が反撃に出ない事を良いことに、ダノイ軍は平原を突き進み城下の街を眺められる距離にまで接近を果たしていた。
「まさか、総掛かりで来るとは・・・」
シルフハイム軍も、ダノイの進行をただ指をくわえて見ていた訳では無い。
ダノイ軍は、前衛の兵士たちに大盾(タワーシールド)で防御を固めさせ、絶えず後続の兵士と交代、しかも後方に下がれば次に前へと出る兵士に大盾を手渡して、まるでバケツリレーをしているかのような行軍で迫っていた。
しかも、弓矢の曲射射撃を行ってくるものだから、迂闊に近付く事すらできない。
「まるでダンゴムシの大軍だな・・・。我が軍の弓矢隊もヤツらと同様に曲射射撃を行って蹴散らせないものかな」
エレイネが兵士長に訊ねた。
「両軍共に弓矢隊の数が少な過ぎます。お互いにまばらに撃っては牽制している状況なので、どちらにもさほど被害は及んでおりませぬ」
大軍同士の戦ならまだしも、どちらも少数の弓兵しか編成していない。
戦と呼ぶには、あまりにものどかな光景であった。
「やはり弓騎兵を出さないと、敵を蹴散らすには至らないか・・・」
虎の子の弓騎兵は、馬を休ませている状態なため出るに出られない。
一方のダノイ軍の中央には煌々ときらめく"虹のペイヴォー”が歩を進め、一定の時間歩き、休んでは、また歩きを繰り返している。
あまりにも滑稽な光景ではあるが、アルミュールを投入する戦というものは、長時間活動できないアルミュールに合わせてのものに、どうしてもなってしまう。
そのためアルミュールを戦闘に参加させるまでは、このように歩兵たちがアルミュールに合わせて歩を進めなくてはならない。
「あの調子だと、あと3時くらいでヤツら、攻城に取り掛かるだろう。その頃には我が軍のアルミュールも稼働出来るだろうし、兵たちにはこのまま牽制だけ続けさせて足止めをしてもらおう」
双方にアルミュールがある場合、自ずと戦略は限られたものとなってしまうものだ。
歩兵や弓騎兵の武器では、アルミュール相手に全く歯が立たないため仕方の無い事なのである。
さほど切羽詰まった状況でないので、アムリエッタはケインの亡骸に別れを告げに、霊安室を訪れていた。
ペイヴォーの進撃の報せを受けると同事に、ケインの訃報を受け、悲しみに打ちひしがれている間もなく出撃を余儀なくされて、遺体に別れを告げる事すら出来なかった。
後回しにしてしまって大変申し訳なく思う。
それどころではなかったと言い訳はしない。
ただ、彼に謝りたい。
自分が呆けていたせいで、彼が命を落としてしまった事を、ただ謝りたい。
顔を落とすアムリエッタの思いが、同行しているキュレイには痛いほど伝わってきた。
一緒に連れ回されているリトはただ、不思議そうに、そんな二人の顔を下から眺めていた。
精神的、物理的同事に頭が痛くなるような激しい金属音を鳴らして”大盾のジョアン”が工房へとやって来た。
ブシュゥゥ!と蒸気が噴き出して胸部ハッチの中からエレイネが姿を現した。
降り立つなり。
「よくもまぁ、これほどまでに難儀なモノに乗れるものだな。いや、まとえるものだ」
グチをこぼす。
アルミュールの操作系統は”乗る”よりも"まとう”と表現した方が妥当だ。
全身に、常に重装甲冑をまとっているような負担を強いられるからだ。
加えて、アルミュールの関節可動域は、人間の関節可動域に比べればごく限られたものとなる。
搭乗者がアルミュールの関節機構を理解した上で操作しなければならない。
"まとう”と表現するにも、かなりの妥協点を求められる。
エレイネは、先に降り立ったアムリエッタとキュレイたちを改めて労う。
「よくぞアレ(ジョアン)を打ち倒してくれたな。礼を言う。それよりも、アルミュールというものが、これほどまで扱い辛いモノだとは思いもしなかった。願わくば、今後、私はご免被りたいものだ」
体中の関節を鳴らしつつアムリエッタに目をくれる。
すると、ジョアンの側頭部から、リトが転がるようにして降り立った。
顔色が悪い。どうやらエレイネの操作に酔ったようだ。
そんな気の毒なリトにアムリエッタとキュレイは苦笑い。
「協力感謝するぞ。ジョアンの魔術師。と、いう訳でアルミュールの乗り手はお前に任せる、アムリエッタ」
ポンと肩を叩くと、エレイネは早々に工房を後にした。と、立ち止まり。
「そうそう、お前に任せるのだ。コイツに何か良い名前を付けてやってくれ。頼むぞ」
何かとお忙しい領主様は、後に控える仕事の山にため息を漏らしつつ、アムリエッタにアルミュール関連全てを丸投げして去ってしまった。
「何だか、全部押しつけられてしまった・・・ようね」
キュレイに向かうと笑みがこぼれた。
そんなアムリエッタにキュレイも思わず笑みを返してしまう。
「こちらこそよろしくです。アムリエッタ様」
「アムでいいよ。キュレイ」
正式なパートナーを得た。
「さて、名前ねぇ・・・」
アルミュールの頭部を眺めつつ思案するも、良い名前は浮かばない。
「名前なんて考えなくても良いぞ、アムリエッタ」
パンドラの方へと向いた。
「コイツは欠陥品だ。今後一切動かしてはならない。どうしてもアルミュールに乗ると言うのなら、奪ってやったジョアンに乗れ。良いな」
釘を刺すとアムリエッタとキュレイ、リトを工房から追い払ってしまった。
二人が去った後・・・。
「陛下のご命令を勝手に取り下げられては」「構わぬ!コイツは戦わせてはならんのだ。分かってくれるな?魔術師」
パンドラの、姉としての優しさが痛いほど感じられるも、ケインの最後の思いを聞き届けた以上、彼の意思も貫かせてやりたいとの気持ちも拭いきれない。
クオーレはジレンマにとらわれた。
* * * * *
シルフハイム軍が反撃に出ない事を良いことに、ダノイ軍は平原を突き進み城下の街を眺められる距離にまで接近を果たしていた。
「まさか、総掛かりで来るとは・・・」
シルフハイム軍も、ダノイの進行をただ指をくわえて見ていた訳では無い。
ダノイ軍は、前衛の兵士たちに大盾(タワーシールド)で防御を固めさせ、絶えず後続の兵士と交代、しかも後方に下がれば次に前へと出る兵士に大盾を手渡して、まるでバケツリレーをしているかのような行軍で迫っていた。
しかも、弓矢の曲射射撃を行ってくるものだから、迂闊に近付く事すらできない。
「まるでダンゴムシの大軍だな・・・。我が軍の弓矢隊もヤツらと同様に曲射射撃を行って蹴散らせないものかな」
エレイネが兵士長に訊ねた。
「両軍共に弓矢隊の数が少な過ぎます。お互いにまばらに撃っては牽制している状況なので、どちらにもさほど被害は及んでおりませぬ」
大軍同士の戦ならまだしも、どちらも少数の弓兵しか編成していない。
戦と呼ぶには、あまりにものどかな光景であった。
「やはり弓騎兵を出さないと、敵を蹴散らすには至らないか・・・」
虎の子の弓騎兵は、馬を休ませている状態なため出るに出られない。
一方のダノイ軍の中央には煌々ときらめく"虹のペイヴォー”が歩を進め、一定の時間歩き、休んでは、また歩きを繰り返している。
あまりにも滑稽な光景ではあるが、アルミュールを投入する戦というものは、長時間活動できないアルミュールに合わせてのものに、どうしてもなってしまう。
そのためアルミュールを戦闘に参加させるまでは、このように歩兵たちがアルミュールに合わせて歩を進めなくてはならない。
「あの調子だと、あと3時くらいでヤツら、攻城に取り掛かるだろう。その頃には我が軍のアルミュールも稼働出来るだろうし、兵たちにはこのまま牽制だけ続けさせて足止めをしてもらおう」
双方にアルミュールがある場合、自ずと戦略は限られたものとなってしまうものだ。
歩兵や弓騎兵の武器では、アルミュール相手に全く歯が立たないため仕方の無い事なのである。
さほど切羽詰まった状況でないので、アムリエッタはケインの亡骸に別れを告げに、霊安室を訪れていた。
ペイヴォーの進撃の報せを受けると同事に、ケインの訃報を受け、悲しみに打ちひしがれている間もなく出撃を余儀なくされて、遺体に別れを告げる事すら出来なかった。
後回しにしてしまって大変申し訳なく思う。
それどころではなかったと言い訳はしない。
ただ、彼に謝りたい。
自分が呆けていたせいで、彼が命を落としてしまった事を、ただ謝りたい。
顔を落とすアムリエッタの思いが、同行しているキュレイには痛いほど伝わってきた。
一緒に連れ回されているリトはただ、不思議そうに、そんな二人の顔を下から眺めていた。
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