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[31]剣で語る
-340-:始めッ!
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ヒューゴの心配は見事に的中。
聞けば、ココミは未だアマチュアから脱していない霜月・玲音神父ごときに未だ勝つことができていないと言う。
この際、神父サマのレーティングなんかどうでもいい。
世界の命運を掛けたチェスゲームを、素人が挑むというのは、まさに無謀としか言い様が無い。
そもそも、ライクとの対戦でも、ココミはまともにルールすら把握せずに臨んでいた。
アンデスィデという特別ルールがあったにせよ、中盤に差し掛かる時点で“アンパッサン”を受け、危うくクィーンズサイドの駒を全滅させてしまうところだった。
「あのな、ココミ。やるからには、しっかりと準備しておくものだぞ」
今さらながらの忠告。
「でも、AI相手の初級編でも未だに勝てないのです」
AI戦でも、しっかりと復習していれば、何が悪かったとか反省点が見えてくるというもの。
行き当たりばったりでやっていると、クレハのように、日にちが経てば、再びフールズメイトを食らうような結果を招いてしまう。
「練習というのは、ただ数をこなせば良いというものじゃない。何が悪かったか?先を読むのは無理でも、理屈を拾い出して反省点を見出すものなんだ」
何事も常に考えなくては、一歩も先へは進めない。
「今からでも間に合いますか?」
何を言っているのだ?このお姫様は!
できるか?じゃなくて、やるんだよ!
言っても無駄に終わりそうなので、喉から先へは意地でも出さない。
「ハッキリと言わせてもらうが、ココミ。お前には“覚悟”が足りない」
まさかギリギリになってから、このような助言をするとは夢にも思わなかった。
確かに彼女は覚悟を決めている。
だが、それは世界の行く末に対してであって、その過程にあるグリモワールチェスのものではない。
負けたらお終いなどと、背水の陣で挑んでもらう覚悟ではなく、とにかく自身が持てるもの全てを出し切る覚悟を持ってもらいたい。
「ダメでも良いなんて、お気楽な言わない。でも、ココミ。俺はお前に持てる全てを出し切って戦い抜いてもらいたい」
言ったは良いが、当の言われたココミは困惑したまま。
ミュッセが勝者となった場合の事など、聞いたかどうかなど覚えてもいない。
だから、ココミが負けたら、世界がどうなってしまうのかも分からない。
世界をココミに委ねる。
もう、それで良いと思う。
決して丸投げなどでは無い。
世の中というものは、様々な人間の判断の上で成り立っている。
今さら、ココミが負けてしまおうが、それは世の流れとして受け止めよう。
だから。
「全てを出し切るという事をお前に教えてやる」
それが、高砂・飛遊午が草間・涼馬に真剣勝負を挑んだ理由だ。
「放せば長くなるので説明はナシだ。じゃあ、始めるぞ。クサマ」
「ああ。こちらの準備はとうに整っている」
今さら理由など、どうでもいい。
リョーマにとって、ヒューゴと全力を出し切る戦いが出来ればそれで良い。
願いが叶った以上、彼もまた全力でヒューゴに挑む。
二人が立ち上がった。
彼らがスポーツ剣道と揶揄している正規の剣道とは異なり、始める間合いは非常に広い。
しかも得物は共に木刀。
ヒューゴは脇差し丈の木刀を2振り。
リョーマは5尺丈と尋常じゃない長い刀身の木刀を。
そして審判は。
鶏冠井道場の道場主にしてヒューゴの剣の師匠である鶏冠井・未散が務める。
しかし。
審判の役目など、この際、有って無いようなもの。
両者共に防具を一切身に着けていないので、当たり所が悪ければ死に直結しかねない。
そういった意味でも、まさに真剣勝負。
勝敗は、どちらかが“戦闘不能に陥るまで”と同意の下で行われるものの、タダで澄まない結末が目に見えている。
「両者、良いかな?」
お互いに準備の確認を行い、両者構えに入った。
リョーマは正眼に構え。
ヒューゴは両手の剣を前へと突き出し、左の剣の握り手を頬の位置まで引き下げる。
観客として、立会人として集ったのは。
北にココミ、ベルタ、ダナ、ルーティ。
東にクレハ、キョウコ、フラウ、オトギ、タツロー。
南にアーマーテイカー、ドウカ、クィクフォワード、イオリ。
そして西にライク、ウォーフィールド、シンジュ、ロボ、ゲンナイ(誰だ?お前と皆は思っている)。
それぞれが固唾を飲んで見守る中。
「始めッ!」
審判のミチルが声を上げると共に右手を挙げた。
両者一斉に前へと出て踏み込む!
やはり得物のリーチで優位に立つリョーマが先に仕掛けてきた。
まだ距離はあるが、早速必殺剣の“冬の一発雷”を放つつもりでいる。
リョーマの一歩が出る前に、ヒューゴは後方へと跳ねて間合いを広げた。と同時にドォォォンッ!と雷が落ちるような音が道場に鳴り響いた。
一歩退かれてしまったがために、最強最速の剣は音速の壁を突き破る事無く、踏込みだけの“不発”に終わってしまった。
それでも、二人の試合を見守る皆の身体が一瞬波打った。
(不発でこれかよ…)
それは、まるで和太鼓のような響きで、身体全身に衝撃を走らせた。
驚いている間は無い。
第二の剣がヒューゴに迫る。
リョーマは、必殺剣の不発の状態から、即座に手数に優れる“巌流ツバメ返し”へと切り替えてきたのだ。
下段から放たれる斬り上げの剣を、左手の剣で弾く。が。
(コイツ!!)
さすがは両手で繰り出される剣。
片手の剣では弾くどころか、バシィッ!と大きく音を立てて、逆に弾き返されてしまった。
完全に胴がガラ空きの状態となってしまった。
だが、すでにリョーマの第3の剣が迫っている。
ツバメ返しの返しが上段からの袈裟切りとなって戻ってくる!
巌流ツバメ返しの逆バージョンが、これほどまでに厄介だとは。
聞けば、ココミは未だアマチュアから脱していない霜月・玲音神父ごときに未だ勝つことができていないと言う。
この際、神父サマのレーティングなんかどうでもいい。
世界の命運を掛けたチェスゲームを、素人が挑むというのは、まさに無謀としか言い様が無い。
そもそも、ライクとの対戦でも、ココミはまともにルールすら把握せずに臨んでいた。
アンデスィデという特別ルールがあったにせよ、中盤に差し掛かる時点で“アンパッサン”を受け、危うくクィーンズサイドの駒を全滅させてしまうところだった。
「あのな、ココミ。やるからには、しっかりと準備しておくものだぞ」
今さらながらの忠告。
「でも、AI相手の初級編でも未だに勝てないのです」
AI戦でも、しっかりと復習していれば、何が悪かったとか反省点が見えてくるというもの。
行き当たりばったりでやっていると、クレハのように、日にちが経てば、再びフールズメイトを食らうような結果を招いてしまう。
「練習というのは、ただ数をこなせば良いというものじゃない。何が悪かったか?先を読むのは無理でも、理屈を拾い出して反省点を見出すものなんだ」
何事も常に考えなくては、一歩も先へは進めない。
「今からでも間に合いますか?」
何を言っているのだ?このお姫様は!
できるか?じゃなくて、やるんだよ!
言っても無駄に終わりそうなので、喉から先へは意地でも出さない。
「ハッキリと言わせてもらうが、ココミ。お前には“覚悟”が足りない」
まさかギリギリになってから、このような助言をするとは夢にも思わなかった。
確かに彼女は覚悟を決めている。
だが、それは世界の行く末に対してであって、その過程にあるグリモワールチェスのものではない。
負けたらお終いなどと、背水の陣で挑んでもらう覚悟ではなく、とにかく自身が持てるもの全てを出し切る覚悟を持ってもらいたい。
「ダメでも良いなんて、お気楽な言わない。でも、ココミ。俺はお前に持てる全てを出し切って戦い抜いてもらいたい」
言ったは良いが、当の言われたココミは困惑したまま。
ミュッセが勝者となった場合の事など、聞いたかどうかなど覚えてもいない。
だから、ココミが負けたら、世界がどうなってしまうのかも分からない。
世界をココミに委ねる。
もう、それで良いと思う。
決して丸投げなどでは無い。
世の中というものは、様々な人間の判断の上で成り立っている。
今さら、ココミが負けてしまおうが、それは世の流れとして受け止めよう。
だから。
「全てを出し切るという事をお前に教えてやる」
それが、高砂・飛遊午が草間・涼馬に真剣勝負を挑んだ理由だ。
「放せば長くなるので説明はナシだ。じゃあ、始めるぞ。クサマ」
「ああ。こちらの準備はとうに整っている」
今さら理由など、どうでもいい。
リョーマにとって、ヒューゴと全力を出し切る戦いが出来ればそれで良い。
願いが叶った以上、彼もまた全力でヒューゴに挑む。
二人が立ち上がった。
彼らがスポーツ剣道と揶揄している正規の剣道とは異なり、始める間合いは非常に広い。
しかも得物は共に木刀。
ヒューゴは脇差し丈の木刀を2振り。
リョーマは5尺丈と尋常じゃない長い刀身の木刀を。
そして審判は。
鶏冠井道場の道場主にしてヒューゴの剣の師匠である鶏冠井・未散が務める。
しかし。
審判の役目など、この際、有って無いようなもの。
両者共に防具を一切身に着けていないので、当たり所が悪ければ死に直結しかねない。
そういった意味でも、まさに真剣勝負。
勝敗は、どちらかが“戦闘不能に陥るまで”と同意の下で行われるものの、タダで澄まない結末が目に見えている。
「両者、良いかな?」
お互いに準備の確認を行い、両者構えに入った。
リョーマは正眼に構え。
ヒューゴは両手の剣を前へと突き出し、左の剣の握り手を頬の位置まで引き下げる。
観客として、立会人として集ったのは。
北にココミ、ベルタ、ダナ、ルーティ。
東にクレハ、キョウコ、フラウ、オトギ、タツロー。
南にアーマーテイカー、ドウカ、クィクフォワード、イオリ。
そして西にライク、ウォーフィールド、シンジュ、ロボ、ゲンナイ(誰だ?お前と皆は思っている)。
それぞれが固唾を飲んで見守る中。
「始めッ!」
審判のミチルが声を上げると共に右手を挙げた。
両者一斉に前へと出て踏み込む!
やはり得物のリーチで優位に立つリョーマが先に仕掛けてきた。
まだ距離はあるが、早速必殺剣の“冬の一発雷”を放つつもりでいる。
リョーマの一歩が出る前に、ヒューゴは後方へと跳ねて間合いを広げた。と同時にドォォォンッ!と雷が落ちるような音が道場に鳴り響いた。
一歩退かれてしまったがために、最強最速の剣は音速の壁を突き破る事無く、踏込みだけの“不発”に終わってしまった。
それでも、二人の試合を見守る皆の身体が一瞬波打った。
(不発でこれかよ…)
それは、まるで和太鼓のような響きで、身体全身に衝撃を走らせた。
驚いている間は無い。
第二の剣がヒューゴに迫る。
リョーマは、必殺剣の不発の状態から、即座に手数に優れる“巌流ツバメ返し”へと切り替えてきたのだ。
下段から放たれる斬り上げの剣を、左手の剣で弾く。が。
(コイツ!!)
さすがは両手で繰り出される剣。
片手の剣では弾くどころか、バシィッ!と大きく音を立てて、逆に弾き返されてしまった。
完全に胴がガラ空きの状態となってしまった。
だが、すでにリョーマの第3の剣が迫っている。
ツバメ返しの返しが上段からの袈裟切りとなって戻ってくる!
巌流ツバメ返しの逆バージョンが、これほどまでに厄介だとは。
応援ありがとうございます!
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