346 / 351
[30]終焉~エンドゲーム~
-337-:正直、250年は長いのよ
しおりを挟む
全てが終わってしまえば、ココミたちの存在を全て忘れ去ってしまう。
魔者たちの事も、盤上戦騎での戦いの事も、全て綺麗サッパリと忘れ去ってしまうのだと。
ただ、彼らの残した膨大な被害という爪痕を残して。
「だから私たちには無報酬で参戦をお願いしてきたのね!」
裏を返せば、そういった見解に陥ってしまう。
クレハは激しくココミを非難した。
「いや、それは…。私はただ、お金で転がるような人間に協力を求めれば、いずれお金に転がって裏切ってしまうのではと警戒して…」
ココミの言い分は、全てが記憶から消え去ってしまう事実が知れ渡った時点で、何を言っても言い訳でしかない。
結局のところタダ働きをさせられただけに終わったが、今更どうこう言っても腹が立つだけ。蒸し返すのは止めておこう。
「で、ベルタ。結局アナタは、いずれ記憶から消え去ってしまうこの魔導書チェスの出来事に関わった人たちに、何らかの爪痕を残させたいという理由だけでジョーカーに加担したという訳ね」
まったくもってジョーカーの行動そのものが無駄に思えてならない。
いずれ記憶から消え去ってしまうというのに、これではただ単に暴れ回っただけではないか。
こんな事なら、魔導書チェスに関わる事無く、大人しく細々と生き永らえていたほうが、彼女にとって幸せだったのではないか?
「はぁー、やれやれだわ」
呆れるあまり、クレハは肩をすくめて溜息を漏らす。
次はジョーカーの番だ。
「ベルタ、貴女から聞きたい事は十分聞けたわ。だからジョーカーと代わって」
選手交代を願い出た。
「??ジョーカーと代われと言われても…」
どうしたものか迷っている。どうやらコントロールはジョーカーに握られているらしい。
「話は済んだかい?」
突然代わられると、こちらが困る。ベルタの態度が豹変した。
「あのね、代わるなら代わるって、前もって何かしらの信号を送ってちょうだいな。突然代わられると、ホラ、みんな警戒するでしょう?」
見渡せば、魔者たち皆が甲冑モードへと変身を遂げている。
クレハはジョーカーへと視線を戻した。
「ジョーカー。貴女がやらかした事は、結局のところ、ただ単に暴れ回っただけじゃない。いくら暴れ回ったところで自然災害扱いされてしまっているし、貴女が殺した人も遺体が出ていなければ行方不明扱い止まりよ。散々他人様に迷惑を掛けた挙句、あなたの生きた証なんて何も立てられていないじゃない」
消えゆく者に事実を突き付けてやるのは酷だと承知しているが、事実、ジョーカーは何ひとつこの世に残せてなどいない。
「くやしいけど、貴女が生み出した悲しみや憎しみとかのイヤな感情でさえ、みんなが帰ってしまったら、全て忘れちゃっているのよね」
この数週間、良い思い出だけではなかった。
思い返せば、むしろココミに振りまわされ放しだったような気さえする。
計上されていないだけで、実際のところ死者や負傷者が続出しているし、何よりも命が失われた理由そのものが後世に語られない事が悔やまれる。
それでもジョーカーが、“ボクは今まで、本当に生きていたかい?”なる問いに答えて欲しいと願うなら、あえて答えてやるならば。
「ジョーカー。貴女が死んでも遺体が残る訳でも無いし、皆の記憶にも残らない」
ジョーカーはクレハから事実を突き付けられ、納得したかのように、静かに目を閉じた。
「正直、250年は長いのよ。それまでの間に貴女が行ってきた悪行までもが無かった事にされちゃうんだから」
それは、この世に何一つ爪痕を残せていないという証。
「だけどね、突然音信不通になってしまった人がいたのは事実。ホラ、よく言うじゃない?
しばらくテレビで見なくなった人に対して湧いて起こる『○○死亡説』。アレってさ、生きているのに勝手に世間に殺されているって事だよ」
いきなり話が逸れてしまって、ジョーカーが困惑しているのは解る。それでもクレハは続ける。
「昔から語り継がれている都市伝説やおとぎ話なんかもきっと、魔者たちが関わってきたものだと私は思うのよね。だからさ、ジョーカー。貴女が生きてきた“ジョーカー”としての貴女の人生は誰も記憶する事はないだろうけど、きっとぼんやりとした貴女が犯した罪だけは後世に語り継がれるんじゃないかな」
その言葉に、ジョーカーはハッと顔を上げた。
その目には溢れるばかりの涙が溜まっていた。
「確かに、貴女は生きていた。私もきっと忘れてしまうだろうけれど、貴女は本当に生きていたと、どこか噂で耳にすると思うよ。ジョーカー」
クレハ自身、不思議でならなかった。
どうして、自身の両眼から涙が零れ落ちているのか?
こんな自分勝手なヤツに同情なんてしていないのに。
「ありがとう…クレハ。本当にありがとう」
正座をしたまま、ジョーカーは頭を項垂れ、さらにはお辞儀をした。
「まっ、せいぜい反省してこの世から消え去ってちょうだいな。残された私たちにはやらなきゃならない事が山ほどあるんだから」
うんうんと何度も頷いているベルタの身体中から光の粒が滲み出てきては空に舞い上がってゆく。
ジョーカーの魂がベルタから離れて昇天してゆくのだ。
これで本当に全てが終了したのだ。
大きく残した爪痕を、皆の力で埋めてゆく。
これからなのだ。
光の粒が上ってゆく教会の天井を眺めながらクレハは思った。
「さて、これでキミとの約束は果たしたぞ。ココミ・コロネ・ドラコット」
これで全てが終わったと思ったのに、突然、草間・涼馬がココミへと向いた。
魔者たちの事も、盤上戦騎での戦いの事も、全て綺麗サッパリと忘れ去ってしまうのだと。
ただ、彼らの残した膨大な被害という爪痕を残して。
「だから私たちには無報酬で参戦をお願いしてきたのね!」
裏を返せば、そういった見解に陥ってしまう。
クレハは激しくココミを非難した。
「いや、それは…。私はただ、お金で転がるような人間に協力を求めれば、いずれお金に転がって裏切ってしまうのではと警戒して…」
ココミの言い分は、全てが記憶から消え去ってしまう事実が知れ渡った時点で、何を言っても言い訳でしかない。
結局のところタダ働きをさせられただけに終わったが、今更どうこう言っても腹が立つだけ。蒸し返すのは止めておこう。
「で、ベルタ。結局アナタは、いずれ記憶から消え去ってしまうこの魔導書チェスの出来事に関わった人たちに、何らかの爪痕を残させたいという理由だけでジョーカーに加担したという訳ね」
まったくもってジョーカーの行動そのものが無駄に思えてならない。
いずれ記憶から消え去ってしまうというのに、これではただ単に暴れ回っただけではないか。
こんな事なら、魔導書チェスに関わる事無く、大人しく細々と生き永らえていたほうが、彼女にとって幸せだったのではないか?
「はぁー、やれやれだわ」
呆れるあまり、クレハは肩をすくめて溜息を漏らす。
次はジョーカーの番だ。
「ベルタ、貴女から聞きたい事は十分聞けたわ。だからジョーカーと代わって」
選手交代を願い出た。
「??ジョーカーと代われと言われても…」
どうしたものか迷っている。どうやらコントロールはジョーカーに握られているらしい。
「話は済んだかい?」
突然代わられると、こちらが困る。ベルタの態度が豹変した。
「あのね、代わるなら代わるって、前もって何かしらの信号を送ってちょうだいな。突然代わられると、ホラ、みんな警戒するでしょう?」
見渡せば、魔者たち皆が甲冑モードへと変身を遂げている。
クレハはジョーカーへと視線を戻した。
「ジョーカー。貴女がやらかした事は、結局のところ、ただ単に暴れ回っただけじゃない。いくら暴れ回ったところで自然災害扱いされてしまっているし、貴女が殺した人も遺体が出ていなければ行方不明扱い止まりよ。散々他人様に迷惑を掛けた挙句、あなたの生きた証なんて何も立てられていないじゃない」
消えゆく者に事実を突き付けてやるのは酷だと承知しているが、事実、ジョーカーは何ひとつこの世に残せてなどいない。
「くやしいけど、貴女が生み出した悲しみや憎しみとかのイヤな感情でさえ、みんなが帰ってしまったら、全て忘れちゃっているのよね」
この数週間、良い思い出だけではなかった。
思い返せば、むしろココミに振りまわされ放しだったような気さえする。
計上されていないだけで、実際のところ死者や負傷者が続出しているし、何よりも命が失われた理由そのものが後世に語られない事が悔やまれる。
それでもジョーカーが、“ボクは今まで、本当に生きていたかい?”なる問いに答えて欲しいと願うなら、あえて答えてやるならば。
「ジョーカー。貴女が死んでも遺体が残る訳でも無いし、皆の記憶にも残らない」
ジョーカーはクレハから事実を突き付けられ、納得したかのように、静かに目を閉じた。
「正直、250年は長いのよ。それまでの間に貴女が行ってきた悪行までもが無かった事にされちゃうんだから」
それは、この世に何一つ爪痕を残せていないという証。
「だけどね、突然音信不通になってしまった人がいたのは事実。ホラ、よく言うじゃない?
しばらくテレビで見なくなった人に対して湧いて起こる『○○死亡説』。アレってさ、生きているのに勝手に世間に殺されているって事だよ」
いきなり話が逸れてしまって、ジョーカーが困惑しているのは解る。それでもクレハは続ける。
「昔から語り継がれている都市伝説やおとぎ話なんかもきっと、魔者たちが関わってきたものだと私は思うのよね。だからさ、ジョーカー。貴女が生きてきた“ジョーカー”としての貴女の人生は誰も記憶する事はないだろうけど、きっとぼんやりとした貴女が犯した罪だけは後世に語り継がれるんじゃないかな」
その言葉に、ジョーカーはハッと顔を上げた。
その目には溢れるばかりの涙が溜まっていた。
「確かに、貴女は生きていた。私もきっと忘れてしまうだろうけれど、貴女は本当に生きていたと、どこか噂で耳にすると思うよ。ジョーカー」
クレハ自身、不思議でならなかった。
どうして、自身の両眼から涙が零れ落ちているのか?
こんな自分勝手なヤツに同情なんてしていないのに。
「ありがとう…クレハ。本当にありがとう」
正座をしたまま、ジョーカーは頭を項垂れ、さらにはお辞儀をした。
「まっ、せいぜい反省してこの世から消え去ってちょうだいな。残された私たちにはやらなきゃならない事が山ほどあるんだから」
うんうんと何度も頷いているベルタの身体中から光の粒が滲み出てきては空に舞い上がってゆく。
ジョーカーの魂がベルタから離れて昇天してゆくのだ。
これで本当に全てが終了したのだ。
大きく残した爪痕を、皆の力で埋めてゆく。
これからなのだ。
光の粒が上ってゆく教会の天井を眺めながらクレハは思った。
「さて、これでキミとの約束は果たしたぞ。ココミ・コロネ・ドラコット」
これで全てが終わったと思ったのに、突然、草間・涼馬がココミへと向いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
38
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる