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[29]そして独り

-315-:ホントくそ野郎だな

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「ええ!望むところよ!」
 もう、この少女ジョーカーの思い通りにはさせない!

 オトギは強い決意を胸にジョーカーを睨み付けた。

「ふふふ。それでこそ御陵・御伽。キミの憎悪は僕にとって大好物なのさ」

 ところが、ジョーカーは余裕を崩さない。

 この状況、追いつめているはずなのに、詰めチェックをされているような感覚だ。

「まだ気付かないのかい?オトギ」

「何・・を?」
 一体、何に気付けと言うのか?




「動きませんねぇ…」
 妲己が沈黙してから、さらに2分が過ぎようとしていた。

 妲己はおろか、後方に待機する盤上戦騎たちも、依然動きを見せない。

 ピピッ!

 レーダーに反応あり。

 真下から接近する影!?

 何が来る!?

 ダナとコントラスト、両騎共に下方へと向いた。

 盾のえぐれた部分に馬上槍ランスを番えてもう突進してくる騎体。

 そして、盾から薄っすらと映る影。

 あれは!

 あれは、まさしく骸骨亡者スケルトンのキャサリン。

 でも、どうして?

「耳翼吸血鬼《チョンチョン》のスグルと共にマイクロミサイルの餌食にしてやったはずなのに、どうして生きている?」
 驚くリョーマに。

「その表現は適切ではありません。あの騎体はシャドー。元から生きてはおりません」
 ダナが冷静な口調で訂正を入れてくれる。

「先輩ったら、こんなスゲー騎体に乗っていたくせに、あんなクソみたいな戦いしかできなかったなんて、エラそうぶるだけの、ホントくそ野郎だな」
 この声には聴き覚えがある!

「何でお前が!?ミツナリ!!」

「おやおや?ベルタが来るって聞いたから参戦させてもらったのに、どうして女の子がベルタに乗っているんだよォ!」
 ミツナリは事情を知らないようだ。

 そんなミツナリに驚きを隠せない人物がいる。

 黒玉門前教会で、このアンデスィデを見守っているライク・スティール・ドラコーンだ。

「ミツナリ…皇・令恵スメラギ・ノリエだと!?ウォーフィールド!」
 早速ウォーフィールドに事情説明を求めた。

 そのウォーフィールドも、驚いた表情で魔導書を眺めている。

「皇・令恵、確かに彼の死は自殺したと聞き及んでいます」
 報告するも、状況を把握できずにいた。

 そんな彼らのやりとりを見て、ココミはクレハたちに、ライクたちのやり取りをおおまかに伝えた。

「皇・令恵だと?あのSNSでバカッター映像を流して炎上。それを苦にして自殺した、あの皇・令恵か」
 細かな情報を持つリョーマに、ただただ感心するクレハであった。

「そんなニュース、初めて聞いたわ」
 同じ高校生なのに、随分とご立派なこと。

「ヤツが突っ込んできます!」
 タツローが皆に報せた。

 回避行動に入るタツローをクレハは「まだよ!」動くのは早い。

 この敵の間抜けなところは、盾そのものが半透明なおかげで次の一手が丸分かりな点。

 薄っすらと映るランスのガングリップに手が届いていない。

 このキャサリンは、このまま突進を続けるつもりだ。

「タツローくん、このまま引付けてからギリギリで躱して」
 作戦の指示を行う。リョーマには一旦距離を置いて、続けて妲己の動向を監視してもらおう。

 クレハは、攻撃ビットの照準をキャサリンに固定、追尾させた。

(通り過ぎた瞬間を狙って足を蜂の巣にしてやるわ)

「クロックアップ、行きます!」
 タツローが宣言。

 世界が10分の1の速度へと鈍化する。

 当然、移動速度も落ちて…キャサリンの動きが手に取るように分かる。

 スローモーション映像のようにゆっくりと通り過ぎてゆくキャサリン。

 ここだ!

 狙うはキャサリンの両脚。

 シャドーとはいえ、生死が定かではない人が乗っている以上、撃ち落とすなんてマネは出来ない。

「え?ウソ!?」
 なのに、あるはずべきものが無い!これはどういう事?

 蜂の巣にしてやるはずの、キャサリンの両脚が、膝から先が無くなっている!?

「どうして足が無い!?へへっ。代わりに言ってやったぜ。ククク」
 ミツナリのあざ笑う声が耳に入ったかと思えば。

 ガンッ!!ガンッ!!

 背中から、そして真上から、それぞれ膝下からの足によるキックを食らわされた。

「これはサービスだぜ」
 ブン投げられたランスを薙刀で払う。と、眼前に迫ったキャサリンのロングソードの一閃がコントラストを襲った。

 咄嗟に左腕で受けるも、斬撃が強力だったせいか、ソードストッパーは破砕されてしまった。


「キャサリン…強い…」
 怒涛のような攻めに、思わずダメージを受けてしまったコントラストを見て、ココミはつい口から漏らしてしまった。

 パイロットの腕によって、これほどまでに盤上戦騎は性能に開きがでてしまうものなのか。

 高砂・飛遊午の戦いぶりを見ていて感じた事ではあるが、いざ敵がやって見せると、驚きたまげるものだ。

 固有能力である分解能力をこうまでも的確に使ってくるとは。

 皇・令恵!侮り難し。
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