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[27]~幕間~ 決戦に至るまで

-301-:どうやって、あのお嬢様を虐めてやろうかしら

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 第34手終了時点でココミが担当する白側は、ライクが担当する黒側を数の上で逆転した事になる。

 マテリアルアドバンテージを計算してみよう。

 キングは獲られてしまえば終了なので無限大となる。

 なので、計算から除外される。


 白側

  女王クィーン×1=9点

  僧正ビショップ×2=4点×2=計8点

  騎士ナイト×1=3点

  兵士ポーン×4=1点×4=計4点

  合計/8騎/ 24点


 黒側

  女王×1=9点

  城砦ルーク×1=5点

  僧正×2=4点×2=計8点

  騎士×1=3点

  兵士×1=1点

  合計/6騎/ 26点


 結果、白側の残り駒数9個に対して黒側残り駒数7個(駒の数ではキングも勘定に入れる)。

 白側は駒の数では勝ってはいるものの、マテリアルアドバンテージは依然黒側が優位となっている。

 位置的な優位性、つまりポジショナルアドバンテージは、実のところどちらが優位とも言い切れない。

 それは、“アンデスィデ”と呼ばれる、通常のチェスにはない、獲ったテイク駒が返り討ちに遭い盤上から排除されるルールがあるためである。

 通常悪手とされる、自軍の駒の密集は、アンデスィデにおいて、参戦する駒を増やす事に繋がるので有効となる。いわゆる数の暴力である。

 これは、最強の駒である女王に対抗する手段ともなる。

 元々、最強を誇るドラゴン種に対抗する救護策として設けられていたルールであったが、マスターの霊力・騎体構成・マスターの身体能力によって戦局が左右されてしまうため、あまり意味を成していない。

 事実、魔者たちの中でも、人間や動物から変貌を遂げた“百鬼夜行”の魔者たちでさえ、ココミ率いるドラゴンたちを圧倒し、一時はその数を半減させるほどに圧倒していた。




 では、手短に御陵・御伽が駆る千年狐狸精せんねんこりせいの妲己が、神楽・いおり駆る九頭龍ナインヘッドのオロチを倒すまでの棋譜を表記する。


 第35手
  白側:Bd7+
   f5ビショップをd7へ移動、e8黒のキングをチェック!

 *チェックとは、王手とまでいかないが、王に対して攻撃が通っている事。なので、次の手では、王はチェックを回避する必要がある(最期尾に表記されている+マークがチェックを意味する)。


  黒側:f8
   白のビショップにチェックされたので、キングをf8へと退避。



 第36手
  白側:Qb1
   c1クィーンをb1へと移動。共闘アンデスィデの準備に入る。


  黒側:Qb8
   d8クィーンをb8へと移動。同じく共闘アンデスィデの準備に入る。



 第37手
  白側:Q×b8
   b1クィーンでb8クィーンをテイク!共闘アンデスィデ開始。

 しかし本来ならば、テイクした白側のオロチが戦線離脱をして、駒は動いていない状態になるはずだったのが、妲己がオロチを倒してしまったために、結果、Q×b8は赤文字で棋譜に表記された。

 つまり、返り討に遭った。


 7月7日の出来事である。



 第34手黒側により、鈴木くれはが初参戦したアンデスィデが行われたのが6月27日の時点だったのに対し、随分と日が経っており計算が合わないと思われるであろう。

 だが、思い出して欲しい。

 翌日の6月28日、白側が駒を動かした時点で、ミュッセの要望により、ココミとライクとの間に休戦協定が結ばれていた事を。

 共闘アンデスィデの準備や調整を行うため、1週間の間、共に駒をまったく動かす事はしなかったのだ。

 その間にパーティーを催したり、オトギがジョーカーに接触したりと色々あって、7月7日に共闘アンデスィデが発生、オトギがイオリを殺害してしまう不測の事態が発生してしまう。

 …と、いうのは、これまでの見解。


 だけど、イオリはしたたかにも生きていた。

 そしていま、水面下で逆襲の時を待つ。

 と、その前に、オトギが悔しがる姿が思い浮かぶという理由だけで、タツローからキスを奪う暴挙に出ていた。

「さてさて、どうやって、あのお嬢様を虐めてやろうかしら。ふふふ」
 最終アンデスィデが待ち切れなくて、気持ちが抑え切れないイオリであった。

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