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[26]闇を貪る者
-288-:まるで拷問器具ね
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その光景は、まさに天使たちの降臨。
次々と天使たちが舞い降りてくる。そして。
大多数同士が向かい合う光景を目の当たりにして、ココミは、これこそが真の王位継承戦だと感じた。
これまでの戦いが、単なる小競り合いだったと思い知らされた。
シャドーという軍勢を率いる能力を有する女王が参戦すれば、アンデスィデは、たちまちのうちに戦争と化す。
名乗りを上げる者は誰ひとりなく、一斉に盤上戦騎たちが火線を敷き、剣を交える。
軍勢対軍勢の戦いの幕が切って落とされた。
ココミの魔導書には、次々と敵騎のデータが集まってくる。
ラーナ・ファント・ドラコット率いるオリンピアの天使たち、通称アルマンダルの天使たちのデータが流れるように表記されてゆく。
女王は太陽のオク。城砦は木星のベトール。
そして僧正は、以前、ライフの姿でヒューゴたちを襲った金星のハギト。
それぞれが、白金色と金色、そして銀色の煌びやかな色彩を放ち、天使のような羽を背にしながらも、見た目からして残虐極まりない武器を手に戦場で暴れ回っている。
コンソールタブレットに映し出された敵データをチェックしながら、御陵・御伽は彼らの天使とは程遠いシルエットと武器を心から嫌悪した。
「まるで拷問器具ね」
見ているだけで吐き気をもよおす、その姿は。
太陽のオクは、天使と呼ぶよりも、むしろ悪魔と呼んだ方が妥当な、山羊の頭と、携える大鎌は血を浴びて錆びたような茶褐色。
訂正を入れるなら、悪魔よりも、むしろ死神を彷彿とさせる。
木星のベトールはパワータイプ丸出しの巨体を誇り、立派な角を頂く水牛の頭に、巨大な杵のような打撃武器で、オロチが召喚したシャドーのベルタを一撃で地面に埋没させ破壊ししてしまった。
金星のハギトは、まるで怪談に登場する“ろくろ首”のように、長い首をもたげる蛇の頭から炎を吐き、手には鎖を巻き付けたエクスキューショナーズソードを携える。
元々は死刑執行人が斬首に用いたとされる刀剣ではあるが、ハギトの持つそれは、斬るというよりも、打撃武に近い。
そんな中、ミュッセ軍のムルムルが、天使たちに囲まれ無残にも八つ裂きにされて屠られてしまった。
それでもシャドーを2騎を倒しているので、兵士の駒としては善戦した方だと言える。
「フェネクス!其方は下がっていろ!」
彼を倒されてしまえば、アンデスィデは終了してしまう。
ムルムルが抜けた穴を、妲己が埋めるべく前線へと躍り出た。
「行けるの?」
訊ねるオトギの心配は、間を置かずして取り越し苦労に終わった。
敵のシャドーのベトールを、瞬く間に蛇鉾の錆としてくれた。
まるで舞うかのような華麗な槍さばき。
映画の殺陣を間近で見ているようで心が躍る。オトギは思わず見とれてしまい、心奪われてしまった。
!?
「妲己!ベトールが!」
敵騎の接近に気づき、オトギが危機を報せるも。
「奴ならさっき屠ってやったぞ」
「違う!本物が右から、あぁッ!」
ベトールのシールドバッシュが妲己の頭部を直撃。
強烈な衝撃がコクピット内のオトギの体を揺らす。
幸い、頭を飛ばされる事は無かったものの、ダメージは大きく、頭部は半壊。
クロックアップが不可能となった。
「もらったぁ!」
ベトールの頭頂部に浮いている光の輪が、大きく波打った。クロックアップを開始したのだ。
オトギは戦慄した。
10倍速の世界が襲ってくる!
ベトールの巨大な杵が振りかざされる。叩き潰される!
恐怖におののくオトギの口元に、突然×印の入ったマスクが現れた。
「!?」
全ては、瞬く間に行われた。
「妾を見くびるなよ」
ベトールの巨体が大きく跳ねた。そして、その頭部は、胴体から離れて蛇鉾の先に突き刺さっていた。
「そんな…バカな」
体勢を崩すベトールに損傷回復を使う間すら与えず、妲己は六芒星を描くように刃を走らせて敵の四肢を分断した。
光の粒となって消滅してゆくベトール。
「妲己…貴女…」
驚くあまり、言葉が出ない。
「あの程度のダメージでは、妾は仕留められぬよ」
オトギが震えた。
一瞬にしてダメージを回復する能力。
これが敵ならば、これ以上恐ろしい相手はいない。
しかし、今。
これほどまでに頼もしい能力があるだろうか。
オトギは絶対的な強さに、震えを抑えられない。
またもやシャドーが迫ってくる。
この敵は知っている。
水星のオフィエル。草間・涼馬が仕留め損なった相手だ。
胸躍るあまり、オトギは無意識のうちに。
「死ねぇ!」
自らが叫んでいる事にさえ気づいていない。
敵騎を破壊する妲己は、そんなオトギを不安に感じた。
「どうした?オトギ」
訊ねずにはいられない。
「え?私が、どうかしましたか?」
質問に質問で返すオトギ。
彼女は何を訊ねられているのか?まるで自覚していないようだ。
「もしやと思うが、其方、戦を楽しんでおるのではなかろうな」
思いも寄らぬ妲己の問いに、オトギは驚きを隠せない。
無意識の事を問われているため、何を言っているのか?まるで理解できない。
それでも、“戦いを楽しんでいる”と言われてしまえば、自身の変化に戸惑いを感じずにはいられなかった。
「わ、私…今、何を…」
誰に問うでもなく、思わず呟いてしまう。
と、その時。
「オトギは思うようにすれば良いんだよ」
ジョーカーの声を耳にした。
咄嗟に耳に手を宛ててみる。今のは、心に聞こえる声?
しかし。
「今のは誰の声じゃ?」
妲己が訊ねているではないか!?
そんな…。
それは心の声なんかではなく、事実、音声として聞こえる声。
「オトギの声では無いな。答よ。誰がオトギに語りかける?」
妲己が問われ、オトギはコクピット内を隅々と見渡すも、誰の姿も見当たらない。
「シャドー!?」
その最中、オトギの視界にシャドーが入った。
ブゥンッ!
咄嗟の出来事だった。
何故かしら、妲己の騎体はオトギの思うままに敵シャドーを一閃に斬り伏せていた。
「何じゃと!?」
驚く妲己の声を聞き、今の挙動が彼女のものでは無いと、オトギは察した。
と、同時に、生まれて初めて胸の中に風が駆け抜けてゆくような爽快感を味わった。
次々と天使たちが舞い降りてくる。そして。
大多数同士が向かい合う光景を目の当たりにして、ココミは、これこそが真の王位継承戦だと感じた。
これまでの戦いが、単なる小競り合いだったと思い知らされた。
シャドーという軍勢を率いる能力を有する女王が参戦すれば、アンデスィデは、たちまちのうちに戦争と化す。
名乗りを上げる者は誰ひとりなく、一斉に盤上戦騎たちが火線を敷き、剣を交える。
軍勢対軍勢の戦いの幕が切って落とされた。
ココミの魔導書には、次々と敵騎のデータが集まってくる。
ラーナ・ファント・ドラコット率いるオリンピアの天使たち、通称アルマンダルの天使たちのデータが流れるように表記されてゆく。
女王は太陽のオク。城砦は木星のベトール。
そして僧正は、以前、ライフの姿でヒューゴたちを襲った金星のハギト。
それぞれが、白金色と金色、そして銀色の煌びやかな色彩を放ち、天使のような羽を背にしながらも、見た目からして残虐極まりない武器を手に戦場で暴れ回っている。
コンソールタブレットに映し出された敵データをチェックしながら、御陵・御伽は彼らの天使とは程遠いシルエットと武器を心から嫌悪した。
「まるで拷問器具ね」
見ているだけで吐き気をもよおす、その姿は。
太陽のオクは、天使と呼ぶよりも、むしろ悪魔と呼んだ方が妥当な、山羊の頭と、携える大鎌は血を浴びて錆びたような茶褐色。
訂正を入れるなら、悪魔よりも、むしろ死神を彷彿とさせる。
木星のベトールはパワータイプ丸出しの巨体を誇り、立派な角を頂く水牛の頭に、巨大な杵のような打撃武器で、オロチが召喚したシャドーのベルタを一撃で地面に埋没させ破壊ししてしまった。
金星のハギトは、まるで怪談に登場する“ろくろ首”のように、長い首をもたげる蛇の頭から炎を吐き、手には鎖を巻き付けたエクスキューショナーズソードを携える。
元々は死刑執行人が斬首に用いたとされる刀剣ではあるが、ハギトの持つそれは、斬るというよりも、打撃武に近い。
そんな中、ミュッセ軍のムルムルが、天使たちに囲まれ無残にも八つ裂きにされて屠られてしまった。
それでもシャドーを2騎を倒しているので、兵士の駒としては善戦した方だと言える。
「フェネクス!其方は下がっていろ!」
彼を倒されてしまえば、アンデスィデは終了してしまう。
ムルムルが抜けた穴を、妲己が埋めるべく前線へと躍り出た。
「行けるの?」
訊ねるオトギの心配は、間を置かずして取り越し苦労に終わった。
敵のシャドーのベトールを、瞬く間に蛇鉾の錆としてくれた。
まるで舞うかのような華麗な槍さばき。
映画の殺陣を間近で見ているようで心が躍る。オトギは思わず見とれてしまい、心奪われてしまった。
!?
「妲己!ベトールが!」
敵騎の接近に気づき、オトギが危機を報せるも。
「奴ならさっき屠ってやったぞ」
「違う!本物が右から、あぁッ!」
ベトールのシールドバッシュが妲己の頭部を直撃。
強烈な衝撃がコクピット内のオトギの体を揺らす。
幸い、頭を飛ばされる事は無かったものの、ダメージは大きく、頭部は半壊。
クロックアップが不可能となった。
「もらったぁ!」
ベトールの頭頂部に浮いている光の輪が、大きく波打った。クロックアップを開始したのだ。
オトギは戦慄した。
10倍速の世界が襲ってくる!
ベトールの巨大な杵が振りかざされる。叩き潰される!
恐怖におののくオトギの口元に、突然×印の入ったマスクが現れた。
「!?」
全ては、瞬く間に行われた。
「妾を見くびるなよ」
ベトールの巨体が大きく跳ねた。そして、その頭部は、胴体から離れて蛇鉾の先に突き刺さっていた。
「そんな…バカな」
体勢を崩すベトールに損傷回復を使う間すら与えず、妲己は六芒星を描くように刃を走らせて敵の四肢を分断した。
光の粒となって消滅してゆくベトール。
「妲己…貴女…」
驚くあまり、言葉が出ない。
「あの程度のダメージでは、妾は仕留められぬよ」
オトギが震えた。
一瞬にしてダメージを回復する能力。
これが敵ならば、これ以上恐ろしい相手はいない。
しかし、今。
これほどまでに頼もしい能力があるだろうか。
オトギは絶対的な強さに、震えを抑えられない。
またもやシャドーが迫ってくる。
この敵は知っている。
水星のオフィエル。草間・涼馬が仕留め損なった相手だ。
胸躍るあまり、オトギは無意識のうちに。
「死ねぇ!」
自らが叫んでいる事にさえ気づいていない。
敵騎を破壊する妲己は、そんなオトギを不安に感じた。
「どうした?オトギ」
訊ねずにはいられない。
「え?私が、どうかしましたか?」
質問に質問で返すオトギ。
彼女は何を訊ねられているのか?まるで自覚していないようだ。
「もしやと思うが、其方、戦を楽しんでおるのではなかろうな」
思いも寄らぬ妲己の問いに、オトギは驚きを隠せない。
無意識の事を問われているため、何を言っているのか?まるで理解できない。
それでも、“戦いを楽しんでいる”と言われてしまえば、自身の変化に戸惑いを感じずにはいられなかった。
「わ、私…今、何を…」
誰に問うでもなく、思わず呟いてしまう。
と、その時。
「オトギは思うようにすれば良いんだよ」
ジョーカーの声を耳にした。
咄嗟に耳に手を宛ててみる。今のは、心に聞こえる声?
しかし。
「今のは誰の声じゃ?」
妲己が訊ねているではないか!?
そんな…。
それは心の声なんかではなく、事実、音声として聞こえる声。
「オトギの声では無いな。答よ。誰がオトギに語りかける?」
妲己が問われ、オトギはコクピット内を隅々と見渡すも、誰の姿も見当たらない。
「シャドー!?」
その最中、オトギの視界にシャドーが入った。
ブゥンッ!
咄嗟の出来事だった。
何故かしら、妲己の騎体はオトギの思うままに敵シャドーを一閃に斬り伏せていた。
「何じゃと!?」
驚く妲己の声を聞き、今の挙動が彼女のものでは無いと、オトギは察した。
と、同時に、生まれて初めて胸の中に風が駆け抜けてゆくような爽快感を味わった。
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