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[25]澱み
-285-:…少し考えさせて下さい
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千年狐狸精とは。
『封神演義』と呼ばれる神経小説に登場する九尾狐狸精のこと。
九尾狐狸精は、その名の通り九本の尾を持つ霊獣である。多くの文献では狐の姿で登場しており、“妖狐”として取り分け最強妖怪の部類に属し恐れられている。
「最強最悪の妖怪だったの…?妲己って」
タツローから妲己の正体を聞いて、クレハとヒューゴ、二人して『封神演義』が架空の物語で良かったと胸を撫で下ろしていた。
架空でなければ、胡喜媚と王貴人なる手下どものオマケ付きだ。
ちなみに、胡喜媚は雉の妖怪(頭が九つある)で、王貴人は琵琶が化けた妖怪である。
「とんでもないヤツに好かれたものだな。オトギのヤツ」
妲己の魔性は、王を堕落させて国を滅ぼすほど。黒側に属する妲己も架空物語と同じく、見る者を魔性に取り込むほどに美しい。
「でも、本人は、イヤ、彼女は同じ名前なだけで苦労していると言っていましたよ」
彼女に改名という発想は無いのか?案外、その封神演義と呼ばれる架空物語のモデルかもしれない。
「ねえ、タツローくん。オトギちゃんに妲己のマスターを降りるよう説得してくれないかなぁ。そうでないと、彼女、人を殺してしまうよ」
妲己が言っていた“悪い気”と、コールブランドが言っていた“ドス黒い霊力”とを無理矢理繋ぎ合わせて、ようやくオトギに納得させたというのに、今度はマスターを降りるよう説得しなければならないとは。
タツローは頭を悩ませた。
口八丁手八丁を駆使して、ようやくマスター契約にこじつけたというのに…。
クレハたちの言う『人殺しをさせてはいけない』という理由は大いに理解できる。
だけど、当のオトギの心情を考えると、真犯人ではないにせよ、同じ組織の者を成敗する権利くらい、与えても良いのでは?と妥協してしまう。
「確かに僕も復讐は良くないと思います。だけど、彼女は大切なお爺様を奴らに殺害されているのですよ。誰にも彼女を止める権利なんて、無いと思います」
決して面倒な訳ではない。オトギの気が済むなら、そうさせても良いと考えてしまう。
だけど、ヒューゴの考えは違っていた。
「倫理としては考えられない事も無い。だけど、俺は盤上戦騎の特性を悪用して、間違った正義を振りかざすのは良くないと言っているんだ」
ヒューゴの言うディザスターの特性とは、レーダーや赤外線に探知されないばかりか、人の記憶からも消え去り、もたらした被害を自然災害によるものとする事。
「証拠さえ残らなければ、何をやっても構わないと、心のどこかで思っているから、復讐を果たそうと考えてしまうんだ」
心のタガが外れてしまう事を懸念していた。
「実際のところ、タツロー、お前だって、そう考えているんじゃないか?」
言われて、即座に否定できなかった。
心の中を見透かされているようで、タツローは自身の浅はかさを悔やんだ。
「だったら、直接ヒューゴさんがオトギさんを説得して下さいよ。すでに妲己との契約を勧めてしまった手前、僕には彼女に契約を解消するよう説得なんてできません」
本音を言えば、どう説得すれば良いのか?答えが導き出せないで苦しんでいた。
そんなタツローの両肩を、ヒューゴがガッシリと掴んだ。
「間違いを正さなければならないのはお前自身も同じなんだ。お前がアレは間違いだったと言えば、彼女も折れてくれる」
確かにそれは、彼女を独りにしない最善策だ。
だけど。
「…少し考えさせて下さい」
タツローは目を逸らせた。
宛がわれた言葉なんかではなく、自分の言葉でオトギを説得したい。
前回と言っている事は真逆だとしても。
タツローはスマホを取り出して、オトギに連絡した。
「もしもし、僕です。御手洗・達郎です。電話ではなく直接話したい事があるんです。今日、会ってもらえますか?」
喪中の相手には酷だとは思うけど。
「ええ。私も貴方に会いたいと思っていました」
もっと取り乱していると思っていたのに、意外にも落ち着いた様子だった。
そんな彼女に飲まれてはいけない。
何としてでも彼女を人殺しにしてはいけない。
『封神演義』と呼ばれる神経小説に登場する九尾狐狸精のこと。
九尾狐狸精は、その名の通り九本の尾を持つ霊獣である。多くの文献では狐の姿で登場しており、“妖狐”として取り分け最強妖怪の部類に属し恐れられている。
「最強最悪の妖怪だったの…?妲己って」
タツローから妲己の正体を聞いて、クレハとヒューゴ、二人して『封神演義』が架空の物語で良かったと胸を撫で下ろしていた。
架空でなければ、胡喜媚と王貴人なる手下どものオマケ付きだ。
ちなみに、胡喜媚は雉の妖怪(頭が九つある)で、王貴人は琵琶が化けた妖怪である。
「とんでもないヤツに好かれたものだな。オトギのヤツ」
妲己の魔性は、王を堕落させて国を滅ぼすほど。黒側に属する妲己も架空物語と同じく、見る者を魔性に取り込むほどに美しい。
「でも、本人は、イヤ、彼女は同じ名前なだけで苦労していると言っていましたよ」
彼女に改名という発想は無いのか?案外、その封神演義と呼ばれる架空物語のモデルかもしれない。
「ねえ、タツローくん。オトギちゃんに妲己のマスターを降りるよう説得してくれないかなぁ。そうでないと、彼女、人を殺してしまうよ」
妲己が言っていた“悪い気”と、コールブランドが言っていた“ドス黒い霊力”とを無理矢理繋ぎ合わせて、ようやくオトギに納得させたというのに、今度はマスターを降りるよう説得しなければならないとは。
タツローは頭を悩ませた。
口八丁手八丁を駆使して、ようやくマスター契約にこじつけたというのに…。
クレハたちの言う『人殺しをさせてはいけない』という理由は大いに理解できる。
だけど、当のオトギの心情を考えると、真犯人ではないにせよ、同じ組織の者を成敗する権利くらい、与えても良いのでは?と妥協してしまう。
「確かに僕も復讐は良くないと思います。だけど、彼女は大切なお爺様を奴らに殺害されているのですよ。誰にも彼女を止める権利なんて、無いと思います」
決して面倒な訳ではない。オトギの気が済むなら、そうさせても良いと考えてしまう。
だけど、ヒューゴの考えは違っていた。
「倫理としては考えられない事も無い。だけど、俺は盤上戦騎の特性を悪用して、間違った正義を振りかざすのは良くないと言っているんだ」
ヒューゴの言うディザスターの特性とは、レーダーや赤外線に探知されないばかりか、人の記憶からも消え去り、もたらした被害を自然災害によるものとする事。
「証拠さえ残らなければ、何をやっても構わないと、心のどこかで思っているから、復讐を果たそうと考えてしまうんだ」
心のタガが外れてしまう事を懸念していた。
「実際のところ、タツロー、お前だって、そう考えているんじゃないか?」
言われて、即座に否定できなかった。
心の中を見透かされているようで、タツローは自身の浅はかさを悔やんだ。
「だったら、直接ヒューゴさんがオトギさんを説得して下さいよ。すでに妲己との契約を勧めてしまった手前、僕には彼女に契約を解消するよう説得なんてできません」
本音を言えば、どう説得すれば良いのか?答えが導き出せないで苦しんでいた。
そんなタツローの両肩を、ヒューゴがガッシリと掴んだ。
「間違いを正さなければならないのはお前自身も同じなんだ。お前がアレは間違いだったと言えば、彼女も折れてくれる」
確かにそれは、彼女を独りにしない最善策だ。
だけど。
「…少し考えさせて下さい」
タツローは目を逸らせた。
宛がわれた言葉なんかではなく、自分の言葉でオトギを説得したい。
前回と言っている事は真逆だとしても。
タツローはスマホを取り出して、オトギに連絡した。
「もしもし、僕です。御手洗・達郎です。電話ではなく直接話したい事があるんです。今日、会ってもらえますか?」
喪中の相手には酷だとは思うけど。
「ええ。私も貴方に会いたいと思っていました」
もっと取り乱していると思っていたのに、意外にも落ち着いた様子だった。
そんな彼女に飲まれてはいけない。
何としてでも彼女を人殺しにしてはいけない。
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