盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)

文字の大きさ
上 下
289 / 351
[25]澱み

-280-:あんなの食らったら全身複雑骨折確実じゃん!

しおりを挟む
 ジェレミーアは凶馬ドナテルロを召喚した。

「何なのよ?コイツ!」
 ブルブルゥゥゥと鼻を鳴らすドナテルロを前に、クレハは咄嗟にジェレミーアの体を盾にして防御に入った。

 やたらと図体のデカイ馬のくせに、牙まで生やしている。

 ドナテルロが上体を起こす。

(コイツ!ジェレミーアの体ごと私を踏み潰すつもり!?)

 ロデオのように蹴り飛ばす動きは一切見せず、ゾウが敵を踏み潰すように上体を起こしては地面目がけて前足を打ち下ろす。

「ヤバっ!」
 ジェレミーアの体ごと、後ろへと引き下がる。


 とたん、地震かと思うくらいに大きく地面が揺れた。


 ドナテルロが頭をもたげる中、クレハはジェレミーア越しにドナテルロの足元を見やる。

 !?

 驚いた事に、ドナテルロはアスファルト道路を陥没させていた。

「うっ、あんなの食らったら全身複雑骨折確実じゃん!」
 凄まじい破壊力に、ただ怖気付くばかり。

 とはいえ、ジェレミーアの体など、盾も代わりにもなりはしない。ハッキリ言ってお荷物だ。

 だったら、ジェレミーアの体を放り出して、一目散に逃げるか?

 その選択は100パーセント自殺行為に他ならない。

 人間の脚で馬の俊足から逃げられるはずが無い。それに加えて、このドナテルロもれっきとした魔者だ。追い付かれて踏み潰されるか、食い殺されるのがオチだ。

 ならば!

 いっその事、マスターのケイジロウをブッ殺して、彼らの霊力の元を断ち切るか?

 クレハは生き残る為に、極論に達した。

 が。

 その極論は、彼女に大いなるヒントを与えた。

 ドナテルロが後ろ脚で地面を何度も蹴る。

 どうやら踏み潰すのは諦めて、突撃を食らわせて全身の骨を粉々にするつもりだ。

 来るなら来い!腹を括った。



 ドナテルロが一気に駆け出した。

 馬がトップスピードに達するまで、どのくらいの距離を必要とするのか?そんな事は一切考えもしない。

 ただ、クレハはジェレミーアの体を置いて前へと飛び出し、その際にジェレミーアの腰から剣を拝借、向かい来るドナテルロの丸太のような首めがけて横一閃に剣を走らせる。

 クレハは抜き取った剣を、全身の力を込めて振り切る。

 と、過ぎ去ったドナテルロの首から上がドサッ!と大きな音を立てて落下、間を置かずして巨体も横倒しとなった。

 少し間を置いて、ジェレミーアの体もうつ伏せに倒れる。

 その股間からはモクモクと大量の白い煙を噴き上げて。

「ヒィッ!ヒィィ!」
 剣を手にクレハが向くと、ケイジロウは恐れをなして腰を抜かしていた。

 クレハが、手にする剣の刀身を眺める。
「スッゴイ斬れ味。まるでバターを切っているような感覚だったわ…」
 それはクレハの強力な霊力の成せる業。

 ドナテルロの丸太のような首を、あっさりと斬り落とし、さらに出血もさせていない。霊力の熱で完全に焼き斬ったのである。

「さて」
 クレハがケイジロウの首筋に、手にする剣の刃を突き付けた。

「固有結界を解く前に、ライクにアークマスター権限を使って、お前の魔者たちを召喚してもらってよ。じゃないと、私、銃刀法違反の現行犯で逮捕されちゃうんだよね」
 要求を伝えるクレハの眼は、まるで刃のように冷たい光を宿している。

 実際のところ、ジェレミーアにとどめを刺せば、手にしている剣も消滅するのだが、結界の外にある頭部が本体なら、剣は手の中に残ってしまう。

 どっちか分からない状況なので、とりあえずは逃げてもらう事にした。

「ハッ!ハイッ!!」
 ケイジロウは怯えるあまり、おぼつかない手つきでスマホを操作、ライクに電話を掛けた。

「も、もしもし!ライク・ス、スティール・ドラコーンか?は、早くジェレミーアを召喚してくれ。頼む!早くだ!」
 ガタガタと唇を震わせて召喚を願うも。

「理由!?頼むよ。ジェレミーアが死にかけているんだよォ。頼むから、早く召喚してやってくれ。さもないと、俺も鈴木・くれはに!」
 どうやら素直に応じてもらえないらしい。

 仕方なく、クレハはケイジロウからスマホを取り上げると、代わりに電話に出た。

「あ、ライクくん?私、鈴木・くれはだよ。ジェレミーアの体を掴んだらさぁ、何か変な煙を上げて苦しみ始めたの。このまま消滅してくれた方が私たちは良いんだけど、そんなつまらない事で手駒を失いたくないでしょう?だから、説教もかねて一度呼び戻してあげてよ」
 後はジェレミーアが召喚に応えるかどうかだが…。

 電話に出なくとも拒否できるとはいえ、身体に大きなダメージを追っている以上、ジェレミーアが召喚に応じないとは思えない。
 
 倒れ伏すジェレミーアへと目線を移す。

 霊力による延焼が早く、ジェレミーアの下半身が失われつつある。
(あんなになって、回復とか出来るのかな?)

 まあ良いやと、再びケイジロウに目線を戻すと、情けない事に、彼は失禁していた。

「アンタなんか、殺しはしないよ。さっさと立ち去って。それと、二度とキョウコちゃんにはちょっかいを出さないでね!」
 ジェレミーアの体と頭部を失ったドナテルロの体の下に魔法陣が展開され、二体は召喚され姿を消した。

 本人の承諾など無視して召喚できる、アークマスター権限。

 クレハの手から剣が光の粒となって消えてゆく。

 と、ダンプカーが地面を鳴らして走り去る音、そしてバス停付近を通り過ぎてゆく自転車に乗った野球少年の集団…結界が解かれて日常が戻った。

 野球少年の一人が、地べたに座り込むケイジロウの股間を見てニヤニヤしながら走り去っていった。
「ちびってたぜ」
 思いっきり陰口が耳に届いていた。

「こ、これで済むと思うなよ!」
 強く出たところで、股間はビショビショ。全然サマになっていないどころか、下っ端雑魚キャラの逃げ台詞そのままなので、クレハは思わず苦笑した。

 逃げ去るケイジロウの背を目で追って。

 溜息が漏れた。

「ベルタに悪いコトしちゃったな…」
 何だか、本来ベルタが倒すべき相手を奪ってしまったみたいで、とても申し訳なく思う。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

あの夕方を、もう一度

秋澤えで
ファンタジー
海洋に浮かび隔絶された島国、メタンプシコーズ王国。かつて豊かで恵まれた国であった。しかし天災に見舞われ太平は乱れ始める。この国では二度、革命戦争が起こった。 二度目の革命戦争、革命軍総長メンテ・エスペランサの公開処刑が行われることに。革命軍は王都へなだれ込み、総長の奪還に向かう。しかし奮闘するも敵わず、革命軍副長アルマ・ベルネットの前でメンテは首を落とされてしまう。そしてアルマもまた、王国軍大将によって斬首される。 だがアルマが気が付くと何故か自身の故郷にいた。わけもわからず茫然とするが、海面に映る自分の姿を見て自身が革命戦争の18年前にいることに気が付く。 友人であり、恩人であったメンテを助け出すために、アルマは王国軍軍人として二度目の人生を歩み始める。 全てはあの日の、あの一瞬のために 元革命軍アルマ・ベルネットのやり直しファンタジー戦記 小説家になろうにて「あの夕方を、もう一度」として投稿した物を一人称に書き換えたものです。 9月末まで毎日投稿になります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

【本格ハードSF】人類は孤独ではなかった――タイタン探査が明らかにした新たな知性との邂逅

シャーロット
SF
土星の謎めいた衛星タイタン。その氷と液体メタンに覆われた湖の底で、独自の知性体「エリディアン」が進化を遂げていた。透き通った体を持つ彼らは、精緻な振動を通じてコミュニケーションを取り、環境を形作ることで「共鳴」という文化を育んできた。しかし、その平穏な世界に、人類の探査機が到着したことで大きな転機が訪れる。 探査機が発するリズミカルな振動はエリディアンたちの関心を引き、慎重なやり取りが始まる。これが、異なる文明同士の架け橋となる最初の一歩だった。「エンデュランスII号」の探査チームはエリディアンの振動信号を解読し、応答を送り返すことで対話を試みる。エリディアンたちは興味を抱きつつも警戒を続けながら、人類との画期的な知識交換を進める。 その後、人類は振動を光のパターンに変換できる「光の道具」をエリディアンに提供する。この装置は、彼らのコミュニケーション方法を再定義し、文化の可能性を飛躍的に拡大させるものだった。エリディアンたちはこの道具を受け入れ、新たな形でネットワークを調和させながら、光と振動の新しい次元を発見していく。 エリディアンがこうした革新を適応し、統合していく中で、人類はその変化を見守り、知識の共有がもたらす可能性の大きさに驚嘆する。同時に、彼らが自然現象を調和させる能力、たとえばタイタン地震を振動によって抑える力は、人類の理解を超えた生物学的・文化的な深みを示している。 この「ファーストコンタクト」の物語は、共存や進化、そして異なる知性体がもたらす無限の可能性を探るものだ。光と振動の共鳴が、2つの文明が未知へ挑む新たな時代の幕開けを象徴し、互いの好奇心と尊敬、希望に満ちた未来を切り開いていく。 -- プロモーション用の動画を作成しました。 オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。 https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ

処理中です...